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寺生まれはスゴかった - (2012/11/13 (火) 23:53:14) のソース

*寺生まれはスゴかった ◆i7XcZU0oTM

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 あの変な生物を破ァ!!してから、どれだけ経っただろうか。
 未だ残る邪気の発生源と、ついでに何か役に立つ物がないか、探し回ったものの、収穫はゼロだった。
 役に立つ物も見つからず、邪気の発生源も、はっきりしないまま。
 結局、時間を消費しただけだった。
 今も、一軒の民家の中を探し回っていたが、特に役に立つようなものは、見当たらなかった。

「……」

 その民家の中。
 リビングのソファーに腰かけ、考えを巡らせる。

「……そう言えば、お前、名前は何と言うんだ」
「ぽぽぽ、ぽ、ぽっぽ……」
「…………むむ」

 何て言っているのか、良く分からない。
 だが、この声はどこかで聞いたことがある。
 一体、どこだったか……。
 確かに、聞いたことがあるんだが。

「……とりあえず、座ったらどうだ? 立ったままじゃあ、何だしな」
「ぽぽぽ……」

 言われるがまま、相手は地面に座る。
 ……まあ、とりあえずこいつの事は後回しだ。
 今は、他に考える事がある。
 ――――ひろゆきと名乗った、あの男。
 あいつからは……今まで出会った霊とはまた違う、邪気を感じた。
 そうだな……"吐き気を催す邪気"とでも言おうか……。
 そんな、ドス黒い邪気を、俺は確かに感じた。
 あの時、確実に破ァ!!できていれば、こんなことにはならなかったってのに……。
 初めて味わう"邪気"に、(情けない事だが)俺は気圧されて何もできなかった。
 我ながら、情けない……。
 しかし、俺がここでいくら悔やんだ所で、あの3人の命が戻って来る訳じゃない。
 自分で自分が憎い。あれほどの邪気を前に、動けなくなるような自分が……。

「クソッ……」
「ぽぽぽ、ぽぽ……」
「何だ、慰めてくれるのか……?」

 結構、優しい面もあるのか?
 ……やっぱり、こいつは良く分からないな。

「悪いな、気を遣わせて」
「ぽぽ、ぽっぽぽ……」

 ……そうだ、くよくよしてばかリじゃいけない。
 いつまでもウジウジ腐ったままなんて、俺らしくないな。
 失われた命の分も、生きなきゃならない。
 悪霊を祓い、邪気を浄化する、寺生まれとして。

「…………そう言えば。今、何時だ?」

 ふと、疑問が浮かぶ。
 そういえば、今までの民家で、時計を見かけた事がない。
 一体、何故だろうか?壁掛け時計くらいなら、どこの家にでもありそうな物だが。
 だが、現に俺が見て回った民家(だいたい5~6軒か)には、見当たらなかった。
 何か理由でもあるのか、それとも特に意味はなく、たまたまなのか。
 ……時間を確認するなら、俺に支給されている時計を見ればいいだけなのだが。
 時計が置かれてないのは、もしかしたら、全員が時計を持たされているからなのかもしれないな。

「……暗くて良く分からんな。済まないが、電気をつけてくれ」
「ぽ」
「ありがとう」

 はっきりと、時計が見えるようになった。
 ――――2時を、少し過ぎている。
 そうか、もう2時間も経っているのか。
 だとしたら……中には、殺された人も、いるかもしれないな……。
 できれば、その命が失われる前に、助けたかったよ。
 だが、これほど広い街の中で、探し出せるとは、思えない……。
 時間を確認したこと。
 それで、俺はまた己の無力さをひしひしと痛感させられる。

「…………」

 心が乱れる。
 これほど動揺していては、思考もまとまらない。
 落ち付け、落ち着くんだ……。
 バッグから水を取り出し、一口。
 冷たい水の感触が、俺に落ち着きを取り戻させてくれる……。

「ふぅ……」

 少し、落ち着いたか。
 だが、まだ心は少し乱れている。
 ……このままでは、何かあった時に危険だな。

「ぽっぽぽ、ぽっぽっぽ……」

 妙な奴は、ずっと窓を見つめている。
 邪気や気配を感じないから、誰かがいる訳じゃなさそうだが。
 俺も外を覗いてみるが、特に誰もいない。

「誰もいないな……何か見つけたのか?」
「ぽぽ、ぽっぽ」
「せめて、意思疎通ができればな……何か方法は無い物か……俺の言ってる事は、理解出来てるのか?」

 ぽ、と短く呟いてから頷く。
 どうやら、言葉は理解できているようだ。
 さて、どうやって意思疎通を図った物か。

「そうだ、書くものがあったな……文字は、書けるのか? 書けるんなら、筆談で話せるが」

 今度は何処と無く悲しげに、ぽっ、と呟いた。
 ……駄目か。

「……まあ、俺の言葉が分かるだけでもいいさ。それが出来れば、身振り手振りで答えられるしな」

 そうだろ?……そう呼びかけると、奴は親指を立てて答えた。
 やっぱ、悪い奴じゃなさそうだな。




◆




(ハァハァ……こ、ここまで逃げれば、もう大丈夫なはずだお)

 ずっと全力だったせいか、息が上がって息苦しい。
 そのまま、ぺたりと地面に座り込む。
 ……散々だ。
 まさか、一番最初に出会ったのが、あんな熊なんて……。
 もしあの時逃げ切れなかったら、自分も頭からバリバリと……。

「……そ、そんなの嫌すぎるお! あんなのに喰われて、死にたくないお!!」

 もしかしたら、他にも危ない奴はいるかもしれない。
 ……今度は、逃げられるかどうか分からない。
 身を守ろうとしても、今、自分は何も持ってない……!
 さっき、逃げる時に落として行ったんだった!
 こんな状況で丸腰とか……とてつもなく、ヤバい。

「も、もうダメだお……お先真っ暗だお……」

 もうだめだぁ……。
 がっくりと地面に手をついて泣く。
 こんな所で死んじゃうなんて、そんなの考慮してないよ……。

(死にたくないお……)

 完全に諦めそうになった時。

「……お?」

 涙で歪む視界が、光を捉えた。
 沢山の家の中の、1つに、明かりが灯っている。
 ……誰か、いるんだ。

(一体、誰がいるんだお……?)

 気が付けば、立ち上がって歩き出していた。
 あの光に釣られるように。
 もしかしたら……自分を、助けてくれるかもしれない。
 根拠も確信も無いけど、そんな気がした。

「と、とにかく行ってみるお……」

 何か、あるかもしれない。
 それだけでも、行く理由にはなるはずだ。
 とぼとぼと、おぼつかない足取りで、歩き出した。




 呼び鈴を、グッと押す。
 ピンポーン……と、電子音が家の中に響いて行く。

「……だ、誰かいるのかお」

 震える声で、呼びかける。
 それとほぼ同時に、奥から歩いてくる音が聞こえる。

「誰だ?」
「あ、あの……近くを通ったら、ここの明かりが見えたんだお。だから、思わず……」
「そうか、入っていいぞ。今、開けてやる」

 カラカラっ、と扉を開ける音が、小さく響く。
 その向こうに立っていたのは……ナイスガイの、いい男が立っていた。

「ここじゃ何だから、こっちに来てくれ」
「わ、分かったお」

 促されるがまま、民家に入っていく。
 ……良かった、危ない人じゃなかったんだ。
 心底、ホッとする。
 何だか、急に希望が見えて来た気がするよ……。

「適当な所に座ってくれ」
「…………この大きい人は誰なんだお」

 部屋の一方に目をやると……身長が軽く2mを超えそうな人が、座っていた!
 ……何で、こんな所に。

「ああ、こいつは……名前は良く分からんが、敵じゃないから安心していいぞ」
「そ、そうなのかお?」
「そうだろ?」
「ぽ」

 ……良く分からないけれど、敵意は感じないから、別にいいや。

「さて……ちょっと、知ってる事を教えてくれないか?」
「分かったお――――」




◆




「そうか……そんな奴までいるのか」
「……すごく、恐ろしかったお……目の前で、女の人が、食べられちゃったんだお……」

 まさか、熊までいるとは。話を聞く限り、とんでもなく獰猛なヤツのようだ。
 その上、人喰い熊とは……放ってはおけないな。
 他に被害が出る前に、何とか倒しておかなければ……。
 だが、何処にいるのか良く分からない以上、今は何の対処もできない。

「それで、無我夢中でこの辺りまで走って逃げたんだお……その時、ここを見つけたんだお」
「そいつは災難だったな……ほれ、これでも飲んで落ち付け。この家にあったお茶だ」
「ありがとうだお……」

 コップを持つ手が、震えている。
 よほど、恐ろしかったのだろう。まあ、無理もない。
 いきなり目の前で人が食い殺されたら、当然、心の底から恐怖するだろう。

「荷物はどうした。俺と同じようなバッグを、持っているはずだが」
「逃げるのに夢中で、落として来ちゃったお……拾って行く余裕なんて、なかったお」
「まあ、無理もないな……仕方無い。俺に支給されていた物だが、使ってくれ」

 そう言って、俺はバッグから俺の支給品だった武器……木刀を取り出す。
 役に立つかは分からないが、何もないよりはマシだろう。

「え……いいのかお!?」
「ああ。丸腰じゃ、危険すぎるからな」
「でも、そうすると、Tさんが危ないお」
「俺の心配より、自分の心配をするべきだぜ」

 なにせ、今の今まで丸腰だったんだからな。
 そんな状態でも、命は助かってるんだから、案外運はいいのかもな……。

「さて……これからどうするか……」
「もう、怖いのは嫌だお……」

 出来れば、こいつをなるべく安全な所に隠しておきたいが、何処か無いものか。
 ……流石に、連れて歩くのは危険だろうしな。
 これほどビビっていては、戦う訳にもいかないし。
 どうすれば、一番いいのか……。
 常に、一番いい選択肢があるとは限らないことくらい、理解している。
 だが、それでも、一番いい選択を求めたくなるのが、人間ってもんだ……。
 そんな事を、少し考えていた時。

「……どうするかな――――!?」




 少しばかりの静寂を、けたたましい音が打ち消した。




◆




「な、何だお!?」
「玄関の方だ! ちょっと見てくるから、ここから動くなよ!!」

 返事も聞かず、俺は玄関に走る。
 ……狭い民家だ、すぐに到着した。
 そこには、半ば予想通りの光景が広がっていた。

「クマー」
「……こりゃ、マズい事になったな」

 あいつの話通り、獰猛そうな熊が玄関をブチ破って、玄関前に仁王立ちしている!
 まさか、こんなところで出会うとはな。
 しかし、何故ここが分かったんだ?
 ……少し考えた所で、俺は、ようやく自分のしていたことの愚かさを悟った。
 
 
 
 ――――リビングの電気を、点けたままだったんだ……!
 
 
 
 俺としたことが、こんな初歩的なミスを犯すとは。
 暗い中、明かりが付いてれば嫌でも目立つ……。
 こんな、下らないミスをするとはな。

(……ここじゃマズい。何とかして、奴を誘導しないと)

 とは言え、どうしたものか。
 この巨体では、横をすり抜けて誘導……はできそうにない。
 ならば、どうするか?

「……破ァ!!」

 ――――相手に、無理矢理移動させる!!
 少々力を込めて、光弾を腹にブチ込むッ!!
 ……流石にこれは効いたのか、今まで仁王立ちだった熊も、表情を崩して後ろに吹き飛ぶ。
 いかんせん体重が重いのか、あまり吹き飛びはしなかったが。

「お前ら、裏から出ろ! 出たら、一目散に逃げるんだ!!」

 大声で呼びかけた後、外に飛び出す。
 ……やはり、暗いな。

「クマァァ――――!」
「うおおっ!!」

 熊の鋭利な爪を間一髪でかわした後、体勢を整える。
 ……どうやら、あの光弾が予想以上に効いたようだな。
 さっきまでの表情とは打って変って、怒りを剥き出しにしている。
 その表情からは、野生の獣特有の殺気が漲り、今にも溢れそうだ。

「痛みに懲りて、大人しく引き下がる……気はなさそうだな」
「……クマー」
「こいつとは、意思疎通は図れ無さそうだな!――――破ァ!!」

 再び、光弾をブチ込むッ!
 ……流石に奴も学習したか、回避を図る。
 だが、予想以上のスピードに体が追いつかないのか、脇腹あたりにブチ当たる。
 それと同時に……苦悶の表情を浮かべる。
 やはり、効いている。このまま行けば倒せるか……?
 しかし……何か、おかしい。
 何だか調子が悪いせいで、前からずっといつもの力が発揮出来ていない。
 一発目も二発目も、いつもに比べれば、かなり弱かった。
 これはどういうことなんだ?
 この騒動で、少し体力は消費してはいるが、この程度の疲労で光弾の威力は落ちない。
 なら、何が原因なのか?

「クマー!!」
「うぐっ……!?」

 ――――思考に、意識を集中させ過ぎたか。
 強い衝撃を受け、今度は俺が吹き飛ばされていた。
 勢いのまま、ブロック塀に叩き付けられる。
 ……それと同時に、みしり、と体の軋む厭な音も聞こえて来てしまった。
 思わず、呻き声が口から漏れてしまう。
 ……痛みからして、折れたのは腕か。折れたのが、一本だけで良かった。

「……やはり野生の力ってのは恐ろしいな。恐ろしくなるほど強い……だが……」

 埃を払い、立ち上がる。

「――――負ける訳には、いかねぇな」
「……クマ――――!!」

 襲い掛かる熊をかわし、渾身の蹴りをブチ込む。
 しかし、奴の肉体にはあまり効果が無い。
 大きく体勢を崩した隙を、奴は見逃さなかった。
 ……ガシッ、と胸倉を掴まれ、地面に叩き付けられる。
 しかし、俺もただでやられる訳にはいかない。

「ガッ……! 破ァ!!」

 体に掌を密着させ、そのまま光弾を放つ!!
 ……怒りの籠った、一撃だ。
 こいつは、効くぜ。

「ク……クマー……」

 流石に痛い一撃だったのか、苦しそうな表情を浮かべて倒れこむ。
 その隙に、何とか立ち上がって間合いを開ける。
 ……下手に近づけば、さっきの様に引き倒されるか、爪でやられる。
 俺の読みが正しいなら、奴も体力をかなり消費しているはずだ。
 あれだけ激しく動き回って、なおかつ俺の攻撃も食らっている。
 消耗しない、はずがない……。いくら野生で鍛えられているとは言え、無限に体力がある訳じゃない。

「ハァ……ハァ……くっ、腕が……」

 折れた状態で動き回ったせいか、骨の折れた部分は、熱を帯びてきている。
 …………下手に気を抜けば、このままぶっ倒れそうだ。
 ここで気を失えば、間違い無く、奴に殺られる。
 ……負ける訳には、いかねえ!

「……クマー……」

 予想通り、奴もかなり消耗している。
 ……それは、俺も同じだ。
 もう、何度も攻撃する余裕なんてない。

「……クマー!!」

 雄叫びを上げて、熊が襲い掛かってくる。
 ……腕が痛まない訳じゃない。間違い無く、重度の骨折だろう。
 気の狂いそうな痛みと吐き気が、俺の頭を何度も刺激している。
 まるで、頭の中で得体の知れない化け物が暴れているように。
 だが、俺は引き下がるわけにはいかない。
 こいつは、必ず、倒さなきゃならねえ!!
 誰かのために。
 寺生まれの誇りにかけて、"斃"す!!

「おら、どうした!! お前の力はこの程度か!? 俺はまだやれるぜ!?」

 俺に、襲い掛かる爪。……もう、避けきれないだろう。
 それでも、必死にかわす努力はした。が、努力は報われない。
 爪は、俺の服を軽く通り抜け、その下の肉体に直接当たる。
 ――――肉を裂く感覚と共に、右肩に鋭い痛み。
 クソッ、骨折の痛みだけでもキツいってのに、その上こんな痛みまで来ちゃあ……。
 ――――やってらんねえよな!!

「オラっ!!」

 渾身の右ストレート。
 拳が当たるとともに、稲妻のような痛みが傷口と脳を刺激する……!
 そんな状態の攻撃が大して効く訳もなく、熊は更に俺に攻撃を仕掛けて来る。
 この爪の動きからすると、狙いは――――!
 俺の……目か!!

「――――クマー!!」
「……!」

 ……今までの疲労が仇になったようだ。
 ギリギリ、かわしきれなかった。
 目を、やられた。軽く、切り裂かれた。
 血やら、何やら分からん体液やらが、だらだらと溢れてくる。
 ……このままじゃあ、マジで……。

「……うおらぁぁッ!!」

 勢いをつけて、腹に蹴りを食らわせる。
 その反動を利用して、一気に間合いを広げる。

(……くそっ、このままじゃ、俺は……なら、何もしないで死ぬよりは……)

 ……まだ動かせる右腕で、構える。
 もう、これしかない。
 俺が死ぬか、奴が倒れるか。
 ……俺の全てを、これに賭ける!!




「…………破ァ――――――ッ!!!」




◆




「お前ら、裏から出ろ! 出たら、一目散に逃げるんだ!!」

 勝手に、体が縮みあがる。
 ……有無を言わせない強さが、それにはあった。

「は……早く逃げるお!」
「ぽぽぽ、ぽっぽぽぽ……!」
「ぽぽぽ言ってる場合じゃないお、逃げなきゃヤバいお!」

 きっと、あの熊が来たんだ!
 自分を追ってきたのか、それとも別の方法でここを見つけたのか。
 どっちかなんて分からないし、どっちなのか確認する余裕もない。

「ぽぽぽ、ぽっぽぽ……!」
「さあ、早く逃げるお!!」

 無我夢中で家の中を走り、裏口から転がるように飛び出す。
 また、こうやって逃げる事になるなんて、思ってなかったよ……。
 でも、逃げなきゃ殺されるかもしれない。
 その怖さが、自分の足を、勝手に動かして行く。
 ……もう、怖いのはこりごりだ。恐ろしいのも、もう嫌だ。
 今度逃げる先は……危なくない、場所だといいな。

「……まだまだ、死にたくないお――――ッ!!」

 疲れていたはずなのに、スピードは増して行く。
 これが、火事場のバカ力?
 とにかく、速く走れているのは、間違い無い!
 ……けど、やっぱり体は正直。
 疲れた体で走っても、そんなに長く走れる訳がない……。
 でも、走らなきゃ……。
 走って、逃げなきゃ……。




「……結構走ったお……ここまで来れば、きっと大丈夫だお……」
「ぽぽぽ……」
「あれだけ走って、息切れ1つしてないのかお……? 一体、何なんだお……」

 ……とにかく、少し休まないと……。
 いくら何でも、もう走れそうにない。
 少し、少し休むだけ。
 そんな気の緩みが、睡魔を呼び寄せる。
 …………いけない、眠たくなってきた。
 こんな所で、眠る訳にはいかない。
 と言うか、いつ襲われるか分からないのに、眠れる訳がない……。
 そんな自分の意思とはお構い無しに、眠気は襲って来る。
 せ、せめて身を隠せる場所にいかないと……。

「だ、駄目だお……体が、言う事、聞かない、お……」

 その場にバタリと倒れると、自分の意識はスウッと遠のいた。





 突然倒れたこの人を、私が背負ってから少し経った。
 いきなりその場に倒れたかと思ったら、すぐに寝息を立てたんだから、驚きました。
 でも、仕方無いですよね……。
 あれだけ怯えて、あれだけ走っていたんですから。
 相当、疲れていたんでしょう。
 今は、そっとしておきましょう。
 ……それにしても、Tさんは大丈夫なのだろうか?
 あの時、返事をする間もなく飛び出して行ってしまったから……。
 でも、きっと大丈夫ですよね。
 Tさんが、簡単に負けるはずがありませんから。
 あれほどスゴい人が、そんな簡単に、負けるはずがありませんよ。

「…………まだまだだお…………」

 そう言えば、この人の名前を、聞いてなかったですね。
 でも、別に問題はありません。目が覚めたときに、聞けばいいんですから。
 今は、ゆっくり、眠らせてあげましょう。
 ……せめて、夢の中では。
 幸せな事に、出会えるといいですね。
 そんな事を、考えていた時でした。




「破ァ――――――ッ!!!」




 Tさんの大声が、突然聞こえてきました。
 きっと、襲ってきた人と戦っているんですね。
 Tさんの事は心配だけど、ここで戻っては、好意をムダにしてしまう……。
 ……結局、私は、この人と共に、ここから離れることにしました。
 Tさんの身を、案じながら――――。



【D-1路上/一日目・黎明】
【内藤ホライゾン@AA】
[状態]:健康、クマーに対する強い恐怖、疲労(大)、睡眠中
[装備]:木刀@現実
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:……(睡眠中)
※数多くのSSに参加した経験が有ります
※荷物を全て落としました


【八尺様@オカルト】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本: ぽっぽぽ……
1:今はこの人(内藤ホライゾン)を眠らせてあげる
2:Tさんが心配、だけれど逃げる……
※2人がどこに逃げたかは後の書き手さんに任せます




◆




 ヒビの入ったブロック塀。
 辺りに残る血痕。
 それらは全て、ここで行われた激戦の証だ。
 寺生まれの力と、野生の力……お互いに、常軌を逸脱した、力だ。
 それらがぶつかり合った。
 お互い、一歩も引けを取らない程の、激戦だった。
 そして、最後に放たれた、至高の一撃。
 ――――万全の状態であれば、このバトルロワイアル中でも、参加者を葬りかねない程の威力。
 だが、今は違った。
 骨折、右肩負傷、片目損傷、その他細かなダメージと、そんな状態では……。
 当然、出せる力も限られる。
 それでも……絶大な威力があったのは、事実だ。

「ク…………マー…………」

 クマーが、がくりと項垂れる。
 光弾が直撃し、吹き飛ばされた勢いで、ブロック塀に叩き付けられたのだ。
 だが……Tさんの予想とは違い、完全に倒せはしなかった。
 それでも、光弾のダメージ+壁に叩き付けられたダメージが合わさり、結果的に大ダメージを与える結果となった。
 おそらく、骨の1本や2本は軽く折れているだろう。
 いくら自然と言う厳しい環境で鍛えられたからと言って、無敵では、ない。
 攻撃を食らえばダメージは、当然負う。手痛い打撃を食らえば、骨も折れるだろう。
 Tさんとの交戦で受けたダメージ。
 その途中で、消費した体力。鍛え抜かれた肉体も、限界だった。
 かくして、Tさんはクマーに、大打撃を与える事が出来たのだ。



【D-2・市街地/一日目・黎明】
【クマー@AA】
[状態]:気絶中、全身にダメージ(中)、右腕骨折
[装備]:鍛えぬかれた肉体
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:野生の本能に従うクマー
1:気
2:絶
3:中
※D-2市街地のブロック塀のいくつかに、ヒビが入っています
※クマーがどれほど経てば目覚めるかは、後の書き手さんに任せますが、少なくとも30分は目覚めないでしょう






 だが、その代償は……あまりにも、大きかった。




 地面に倒れ、身動き1つしない、Tさん、
 肩の傷口から、夥しい量の出血をしている。
 身動きも取れない程の疲労と、出血多量の危険な状態が、同時に体に襲い掛かっている。
 もう、意識はない。もう、手の施しようがない。
 しかし、顔は……何故か、笑みを、浮かべていた。
 ――――俺のやったことは、無駄じゃなかった。そう言いたげな、笑顔だった――――。




&color(red){【寺生まれのTさん@オカルト 死亡】}
※Tさんの支給品(基本支給品一式、PDA、不明支給品×1~2)は、遺体近くの民家内に放置されています
※辺りにTさんの「破ァ――――――!!!」の声が響きました





≪支給品紹介≫
【木刀@現実】
刀の形を模した、木製の物。斬ると言うより、殴る物か。
また、何故かおみやげ屋に多く置いてある。



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|sm25:[[かなりやばい資料見つけました]]|[[投下順>00~50]]|sm:[[]]|
|sm02:[[バトロワでも寺生まれはスゴイ!]]|八尺様|sm:|
|sm02:[[バトロワでも寺生まれはスゴイ!]]|寺生まれのTさん|&color(red){死亡}|
|sm20:[[( ^ω^)と嵐を呼ぶクマーのようです]]|内藤ホライゾン|sm:|
|sm20:[[( ^ω^)と嵐を呼ぶクマーのようです]]|クマー|sm:|
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