調音音声学は
音声学の一分野。言語音を、ヒトがどのように発しているのかというのに注目した分野。
ヒトは、どのように言語音を口から出しているのだろうか。
※自然と「口から」と言ってしまったが、ヒトは基本的には口、せいぜい鼻から音を出し、それ以外のところから出る音を言語に使うということは、まあ、まず無いだろう。「口から」出した音が何より聞こえやすいのが理由だと思う。
試しに、「ぱ」「た」「ちゃ」「か」を読んでみよう。口の中がどうなっているのか、意識しながら読んでみると、それぞれ「触れるところ」が異なっている。
分かりやすいのは、「ぱ」だ。唇が触れあう。他の「た」「ちゃ」「か」は、唇が触れあわない。その代わり、舌が上あご(口の中の、上の部分)に触れているのがわかる。よくよく意識しながら再び読んでみると、「た」は割と口の中でも前の方(歯に近い方)であり、「か」は奥の方(喉に近い方)であることがわかる。
口の中で、何が起こっているのか。これを観察するのが、調音音声学である。
調音位置と調音方法
上で、「ぱ」は唇、「た」は歯茎のちょっと奥側、「ちゃ」はさらにその奥側、「か」はさらにその奥、喉に近い側だ、とわかった。この「どこ」というのが、調音(=音を作りだす)するところということで調音位置と呼ばれる。
それでは、「た」「さ」「つぁ」「な」「ら」を読んでみてもらいたい。
今度は、調音位置があまり違うようには感じないはずだ。それでは、どうして違う音色が出ているのか?
実はこれ、調音位置は同じだが、調音方法が異なるのである。調音方法とは何だろうか。
調音方法には、次のようなものがある(一例)。
破裂音…舌を、調音位置につける。そこで内側に空気を一瞬溜めて、それをあたかも破裂させるかのように、空気を一気に出す。例えば、「た」である。
摩擦音…舌を、長音位置につける…が、若干弱めに。内側に空気を溜め込まず、その舌が触れている隙間から無理に空気を押し出す。空気は舌と調音位置に抑えられ、摩擦しながら音を出す。例えば、「さ」。
鼻音…舌を調音位置につけて、空気を開放する。これは破裂音と同じだが、同時に鼻からも空気を抜く。例えば「な」。
言語音の中でもとくに「
子音」と呼ばれる音は、こうした調音位置と調音方法が組み合わさって、調音されているのである。その音の出所を知りたい場合は、この二つの概念を忘れてはならない。
その他の大切な概念
上述の、調音位置と調音方法とは、基本的に
子音について述べたものである。
他方、子音のように口の中で邪魔され(破裂したり摩擦したりetc...)ることなく、開いたままの口から出てくる、聞こえやすい音がある。それが母音である。母音は発しやすく、聞こえやすい、言語音の基本である。だから、母と呼ばれる。母音がなければ、全然聞こえにくいだろう。
そんな母音も、実際まったく口の中で操作されていないわけではない。母音の音の感じは、次のような要素によって決まってくる。
- 口の開き具合(あるいは、舌の下げ具合)
- 舌の前後(一番高くなる部分が、前よりか奥よりか)
- 唇の丸め具合(あるいは唇に力が入っているかどうか)
これらの要素で「あ」とか「い」とかの音が決まってくるのである。これは子音とは全然違うので、子音とは区別して考えるのが普通である。
上で、子音の調音位置と調音方法について述べたが、実際には他の要素も組み合わさる。
とくに日本語の場合は、「有声」か「無声」か、が大切だ。喉の奥に、声門と呼ばれる器官がある。「声」の「門」と呼ばれるくらいで、この言語音を生み出すのに重要な役割を果たしている。
肺から出てくる空気は、この声門が開いていれば自然にすうすう出入りするだろう。
この声門が閉じていれば、隙間から無理やりでるときに声門が震える。そして音が出る。
こうして、聞こえやすい音が出てくるのが「有声音」である。
実は母音が聞こえやすいのは、普通の母音がみんな有声音だからである。この母音無しで、
s
とでも発してもらいたい。全然聞こえにくいはずだ。「スー…」と音は出るが、遠くに聞こえるような音ではない。これは、この音が「無声音」だからであると言える。
単に日本語「さ」とか「か」とか言ったら聞こえやすいが、これらは皆母音がくっついているからである。母音無しで s とか k とか言っても、聞こえにくい。そして子音の中でも、発する時に有声(=声門が震える)ものがたくさんある。
s に対して z であるとか
k に対して g であるとか
である。母音には及ばないが、無声音よりはよっぽど聞こえやすくなったはずだ。
こういうわけで、多くの子音は、
「調音位置がどこか」「調音方法は何か」「有声かどうか」
で定義されるのである。
ただし、言語によっては他にもまだいろいろな可能性がある。
通称IPA(インターナショナル・フォネティック・アルファベット)である。音声を下記表わすために開発されたもので、私たちには「発音記号」としてお馴染みだ。英語とかの教科書に乗っていた、謎の発音記号を思い出されたい。
あれは、この国際音声字母に従って正確な読み方を示したものなのである。英語なんかは、綴りを見ても読み方がわからないので、こうした国際音声字母で目安となる読み方を示さなければならない。
世界には、文字も無い、誰も研究したことのない言語がある。こうした言語を初めて聞く人なら、こうした国際音声字母を使って、それがどんな音なのか正確に記録しておきたいところ。
※ただし、現在では録音の技術も向上した。素人でも、録音するだけなら誰でもできる。わざわざこういう文字を使わなくても、直接音源を聞けばいいじゃないか…とも思えるが、やっぱり紙の上に記録したいと思ってしまうのが性なのかもしれない。あくまで、目安となる記号であると考えたい。
最終更新:2012年12月01日 01:54