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:【もう戻れない・戻らない】 - (2009/07/08 (水) 04:23:54) のソース

【もう戻れない・戻らない】 
  
  
「……んくっ、んっ、んぅっ、んっ、くぅっ、んんっ……!」 
 ──ちゅぱっ、ちゅぷっ、ちゅく、ちゅぱ…… 
 荒い息遣いと湿った音。 
 季節外れのプールの更衣室に部外者が訪ねて来る心配はない。 
 昼休みいっぱい時間もある。 
 だから、真砂綺(まさき)は無心で奉仕する。 
 同級生の少年の前に膝をつき、彼とは違う制服──女子のもの──に身を包んで。 
 雄々しく猛った相手の逸物を口腔全体で舐(ねぶ)り上げる。 
 真砂綺は繊細に整った美貌の主で、しかしいまは躊躇(ためら)いなく「娼婦」として振る舞っていた。 
 丈を詰めたスカートから伸びる素脚を埃の積もった床につき、口から溢れた唾液で制服のリボンを汚して。 
「……ぐっ……!」 
 口舌奉仕の相手である少年──幾夜(いくや)──が、低く呻いた。 
 びくっと一瞬、身を強ばらせるや、真砂綺の口腔内に熱情を迸(ほとばし)らせる。 
「……んぉっ!? んぐっ、んぐぅっ……!」 
 真砂綺は夢中でそれを呑み下した。噎(む)せ返りそうになるのを堪(こら)えて呑み込んだ。 
「……ぷはぁっ……!」 
 幾夜のモノから口を離して息をつく。 
 唾液と精液の混じり合った代物(もの)が口の端から垂れたのを手の甲で拭う。 
 そして相手の顔を見上げ、にっこりとした。 
「……ありがと」 
「何でオマエが礼を言うんだよ、オレがオマエで『抜いた』んじゃねーか」 
 憮然とした様子で幾夜が言う。 
 この中学の水泳部の主将を務める彼は、逆三角形の引き締まった体躯に涼しげな眼をした美形である。 
 更衣室の扉は彼が合鍵を使って開けた。 
 真砂綺は、くすくすと笑って、 
「だから、ありがとうなんだよ。いっぱい出してくれて、飲みきるのが大変だった」 
「ばぁか」 
 幾夜は真砂綺の肩を軽く小突いた。 
 笑いながら真砂綺は、「いてっ」と尻餅をつき、短いスカートの太腿の間が覗きそうになる。 
 それを、さっと両手でスカートを押さえて隠すと、また真砂綺は笑って、 
「ああでも、ボクの『こんな趣味』……バレた相手が幾夜で、ホントよかった」 
「何がよかったんだよ。昼休みのたびに口止め料代わりにフェラさせられてんのに」 
 呆れたように幾夜が言って、真砂綺は、くすくすと笑い、 
「それもボクが好きでやってるんだってば。だから『ありがとう』って言ってるのに」 
「……オマエさ」 
「え……?」 
 くすくすと笑い続けながら訊き返す真砂綺に、幾夜は真顔で、 
「オマエはいつも、しゃぶるだけで満足なわけ?」 
「えっ……?」 
 真砂綺は眼を丸くしたが、すぐに冗談めかして笑い出し、 
「そりゃ幾夜、まだ堅いみたいだけど……ボクがクチでしかできないの、わかってるだろ?」 
「だから、それでオマエ自身は満足かっての?」 
 幾夜は腰をかがめて真砂綺の腕をつかみ、相手の身体を乱暴に引き起こした。 
「……きゃっ!?」 
 悲鳴を上げたところを抱き止めてやり、そのまま耳元に囁きかける。 
「きゃあ、とかオンナみてーに鳴きやがってよ。ホントはオンナみてーに『され』てーんだろ?」 
「な……なに言ってんだよ、幾夜ふざけすぎ!」 
 真砂綺は苦笑いで幾夜を押しのけようとしたが、幾夜はしっかりと真砂綺を抱きしめたまま―― 
 ちゅっ、と、その首筋にキスをした。 
「…………!?」 
 びくんっと、真砂綺は身を震わせた。抵抗の力が一瞬にして抜けてしまう。 
 幾夜が再び耳元で囁いた。 
「悪(わり)ぃけどザーメン飲んだ口にキスする気にならねーから、これで勘弁」 
「キスって、な……なに言って!?」 
「ヤらせろよ、ちゃんとオンナみてーに可愛がってやるから」 
 言うなり幾夜は、真砂綺を押し倒した。 
「ちょっ……やめ……イヤぁぁぁっ!!」 
 悲鳴を上げるのに構わず、スカートをめくり上げてやる。 
「やっ……やだっ!! 見ないで……っ……!」 
 叫ぶ声は、尻すぼみに小さくなった。 
 スカートをめくられて露わになった真砂綺の下半身は、華奢で色白で少女そのものだった。 
 ただ一点――レースで飾られた白いショーツを内側から押し上げる、股間の逸物を除いては。 
 キッと、気丈に真砂綺は、幾夜を睨み上げた。 
「……何度も見て、わかってるだろ? ボクはオトコだよ、どうしようもなく」 
「それがどーした?」 
 言いながら幾夜は、真砂綺のすらりとした白い太腿に手を這わせる。 
 びくりっ、と身を震わせた真砂綺に、にやりと幾夜は笑いかけ、 
「こんなスベスベのキレーな脚、オンナでもなかなかいねーよ、なあ?」 
「なっ、なに言って……!?」 
「オマエ、自分をオンナの代用品と思ってる? だったら随分な安売りだよな」 
「えっ……?」 
 幾夜の意図がわからず、真砂綺は彼の顔を見つめる。 
 真顔になって、幾夜は言った。 
「姉貴のお古だか知らねーけどオンナの制服着てさ、確かに似合ってってけど、オマエやっぱオトコだよ」 
「…………っ!? だから『見ないで』って言ったんだろっ! わざわざスカートめくったりして……変態っ!!」 
 声を裏返らせて叫ぶ真砂綺に、ずいっと幾夜は顔を近づけて、 
「チンポの話をしてるんじゃねーよ。いつも教室でオマエが野郎の制服着てるトコ、オレ見てるわけじゃん?」 
「そ……、それが……?」 
 ますます幾夜の意図がわからず、真砂綺は整った眉をしかめる。 
 吐息がかかるほど間近で、まっすぐに真砂綺を見つめて、幾夜は言った。 
「オトコだとわかってるオマエに、どうしてオレがチンポしゃぶらせてると思う?」 
「それは……、か……顔だけなら充分、ボクがオンナに見えるからだろ……?」 
 視線を逸らすように眼を伏せて、真砂綺は答える。 
 どきどきと心臓が高鳴るのは、幾夜が脅迫みたいに凄んでいるからだ。そうに違いない。 
「ばぁか。オマエがオトコだと知ってんだって言ったろ? 普通は萎えるじゃん、オトコとスケベするなんて」 
 幾夜は真砂綺の顎に手をかけ、ぐいっと顔を上げさせた。 
「…………っ!?」 
 慌てて眼を逸らす真砂綺を、じっと見据えて幾夜は言う。 
「ほら、こっち見ろよ」 
「……な、なんだよ……?」 
 口をとがらせながら、のろのろと真砂綺は視線を幾夜に向けた。 
 幾夜は言った。 
「オレは、オマエがオトコだろうが関係ねーよ。オマエ……真砂綺だからチンポしゃぶらせてんだよ」 
「な……なんだよ、それ……」 
 呆れ顔をしてみせながら、しかし真砂綺は視線を彷徨わせる。眼を伏せてみたり、そっぽを見ようとしたり、 
 幾夜と眼を合わせていられないのだ。かーっと頬が熱くなってしまって。 
 何故なら、彼の言葉はまるで…… 
「オレ……マジ、オマエが好きなんだと思うわ」 
 幾夜は、はっきりと言った。 
 語尾は「だと思う」と濁していたが、はっきり「好き」という言葉を口にした。 
 ずきりと、心臓に何かを打ち込まれたように真砂綺は感じた。 
 真砂綺は眼を合わさずに言い返した。 
「へ……変態だろ、そんなの……ボクたち、オトコ同士じゃん……」 
「オトコがオトコにチンポしゃぶらせてるんだ、とっくに変態だっつーの」 
 幾夜は真砂綺の下半身に手を伸ばし――ショーツの上からその逸物を、ぐっと掴んだ。 
「……ひぐっ!?」 
 まじまじと眼を見開いて真砂綺は幾夜を見た。 
 幾夜は、にやりとしてみせて、 
「オマエはどーなんだよ? 好きでもないオトコのチンポしゃぶって歓ぶ真性のマゾってわけでもねーだろ?」 
 言いながら、さわさわとショーツ越しに真砂綺のモノを揉みほぐす。 
「やっ、やめっ……!?」 
 身をよじる真砂綺を抑え込むように、幾夜はぎりぎりまで顔を近づけて、 
「オレのチンポしゃぶっただけで、ちょっとは堅くしちまったんだろ? それともオレが自意識過剰?」 
「や……やだって、こんなのっ……幾夜っ! 頼むからっ……!」 
 真砂綺は、ぎゅっと眼をつむって叫ぶ。 
 望んでいなかった成り行きではない。それでも真砂綺には受け入れるわけにいかない。 
 自分はオトコで、オンナではないから。 
 オンナであれば歓んで幾夜を受け入れていただろう。彼に全てを捧げていただろう。 
 彼が――幾夜が好きだから。 
 愛という言葉を使ってもいいくらい。 
 でも、悲しいかな自分はオトコなのだ。 
 オンナであれば許される感情を、オトコの自分が幾夜に対して抱いてはならないのだ。 
 好きだと。愛していると。 
 愛されたいと。身も心も何もかも投げ打ち、捧げ尽くしてしまいたいと。 
「頼むぜ、真砂綺……」 
 幾夜が言った。 
 さわさわと真砂綺のモノを弄び続けながら。 
「フェラだけで寸止め? それってオレ、悲しすぎない?」 
「な……なに言って、だってそんな……」 
「オマエがオンナになりたがってるっつーか、オンナに生まれていればよかったと思ってるのは、知ってるぜ」 
 大人びて深みのある幾夜の声が耳元で響き、ぞくぞくと背筋に痺れが走るのを真砂綺は感じた。 
 悲しいけれど生まれつき備わってしまった牡(オス)器官に加えられる優しげな刺激との相乗効果で。 
「……やっ、やだっ……!」 
 ぎゅっとつむった眼から、涙がこぼれる。 
 オトコの部分を弄ばれるのは、自分がオトコだと思い知らされるようで耐えられない。 
 愛する幾夜に、それをされるのは…… 
 幾夜が言葉を続けた。 
「だけどさ、何度も言うけどオレは、オマエがオンナじゃなくても好きなんだよ。オレは、真砂綺が好きだ」 
「そっ……そんなの、だけど……」 
 ぼろぼろと涙がこぼれてしまい、真砂綺には止めることができない。 
 受け入れてしまいたい。受け入れてしまえばいい。 
 それをしないのは、もはや自分の我がままだ。 
 幾夜が、愛する幾夜が、ここまで言ってくれているのに…… 
「……わかったよ、じゃあさ」 
 幾夜が言って、真砂綺は「え……?」と彼の顔を見上げた。 
 弄んでいた真砂綺の男性器から手を放して、幾夜は、 
「最初に言った通り、オンナみてーに『して』やるから、オマエもオンナになったつもりで鳴いてろよ」 
「な……なったつもりって……!?」 
 反論は封じ込められた。 
 ぎりぎり間近まで顔を近づけていた幾夜が、そのまま唇を重ねてきたのだ。 
「んぐっ……!?」 
 真砂綺は眼を白黒させたが、しっかりと身体を抱きしめられて、逃れることができない。 
 幾夜の舌が唇をなぞってきたが、真砂綺が口を閉じたままその侵入を拒んだのは最後の矜持というべきか。 
「……ぷはっ」 
 幾夜が唇を離し、にやりと笑った。 
「ザーメン、ゲロまず。オマエ、よくこんなの飲めるな。っつーか、コレってオレたちのファーストキス?」 
「な……、なに言ってんだよ……」 
 真砂綺は口をとがらせながら、つい顔が赤くなってしまう。 
 怒るべきだろう。無理やりのキスだ。 
 それもオトコに奪われたのだ。 
 だが、そのオトコを真砂綺が愛していることも紛れもない事実だ。 
 精一杯の虚勢で乱暴に口を拭いながら、真砂綺は言った。 
「……キスする気にならないんじゃ、なかったのかよ……」 
「チンポしゃぶらせるだけのオモチャならな。だけど、オレにとってオマエは、そうじゃねーから本当は」 
 幾夜は、じっと真砂綺の眼を覗き込むようにして、 
「ザーメンの味がしても構わねーよ。そのくらい好きで、だからキスもできるってことだよ」 
「お……オトコ同士なのに? 変態じゃん、そんなの……」 
 眼を逸らして真砂綺は言う。 
 心にもない自虐の台詞。幾夜がそれを全面否定するであろうことを、わかっていながら。 
 そして真砂綺の予想通りあるいは期待通りに、幾夜は言った。 
「オマエはオンナになったつもりでオレにフェラしてるんだろ? だったら、そのつもりでキスもさせろよ」 
「…………、それは……」 
「何度も言うけど、オレはオマエがオトコで全く構わない。でもオマエが嫌なら、キスとフェラだけでいい」 
「…………」 
 真砂綺は幾夜の顔を見た。再び涙がこみ上げた。 
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、しかしもう眼を逸らさずに真砂綺は、まっすぐ幾夜を見つめて―― 
 思いのたけを込めて、彼に抱きついた。 
「……幾夜ぁ!」 
 自分から唇を重ねた。強く押しつけるようにキスをした。 
 舌で相手の唇をなぞり、力の緩んだそこに、こじ入れた。舌と舌を絡め合った。 
 堰を切ったように溢れ出す恋慕の情は押し留めようもなかった。 
 好き! 好きだよ! 愛してる……幾夜! 
 果たして――自分がオンナとして生まれていたとして。 
 オンナとしてではなく自分自身という存在を、ここまで誰かに求められることがあり得ただろうか。 
 幾夜の手が背中に回り、しっかりと抱き返される。 
 無我夢中のキスを続けて、そして―― 
 真砂綺は身体を離し、泣き濡れた眼で幾夜を見た。 
「……幾夜は、ボクがオトコでもいいの?」 
「何度も言ってるじゃん、オマエが……真砂綺が好きなんだって」 
 幾夜が答えると、真砂綺は眼を伏せ、ためらうように唇を噛み…… 
 しかしすぐに決意を込めて、幾夜に視線を戻し、告げた。 
「だったら、ボクを幾夜の好きなようにしてほしい。キスやフェラだけじゃなくて、どんなことでも」 
「……いいのかよ?」 
 幾夜は訊き返す。口調だけは冗談めかしながら、しかし真顔のまま、 
「遠慮しねーぞ、マジで」 
「…………、え……えっと……」 
 真砂綺は苦笑いした。 
「その……痛いのは、ちょっと勘弁だけど……」 
「最初だけは痛いかも」 
「何する気? いや、その……何となくわかるけど。ボクだって、何も知らないわけじゃないから……」 
「オマエが嫌なら、やめておく」 
 じっと幾夜に見据えられ、真砂綺は、頬を赤らめながら眼を伏せた。 
「その……優しく、して……」 
「……任せろ」 
 幾夜は真砂綺を抱き締め、唇を重ねた。 
 そうしながら、片手で真砂綺の制服のブレザーのボタンを一つずつ、外しにかかった。 
 脱がされ、ちゃうんだ…… 
 オンナの服を脱がされて、オトコのボクの姿で、エッチされちゃうんだ…… 
 眼を閉じて幾夜のキスを受け入れている真砂綺は、どくどくと胸が高鳴るのを感じる。 
 袖から腕を抜くときは真砂綺自身も姿勢を変えて協力した。脱いだ服は更衣用の棚に置かれた。 
 埃が溜まっているだろうけど、床に脱ぎ捨てるよりマシだろう。 
 ブラウスのボタンも外されて、前を割り広げられた。 
「可愛いブラしてるじゃん♪」 
 幾夜が愉しそうに言って、ブラジャーのカップを、ぐっと掴まれた。 
 ショーツと揃いの、レースで飾られた白いブラだ。 
「やぁっ……!」 
 真砂綺は思わず声を上げてしまう。 
 掴まれたのはブラを膨らませているパットで、真砂綺自身の胸ではないのに。 
「でもオレ、興味あるのは中身のほうなんだよね♪」 
 ブラジャーをまくり上げるようにずらされて、乳首を晒させられた。 
 体育の授業で着替えるときは、いつも幾夜や他の男子の前で上半身裸にはなる。 
 しかし、いまはエッチというシチュエーションで、敏感な身体の部分を露わにさせられたのだ。 
「前から思ってたけど、オマエの乳首、オトコと思えないほど綺麗な色だよな」 
 幾夜が言って、右の乳首に吸いついてきた。 
「……ひゃうっ!?」 
 ぶるりと、真砂綺は身震いする。 
 もともと色白な彼の乳首は色素の沈着が薄く、淡い紅色をしていた。 
「やっ、やだぁ……幾夜ぁ、そんな風にされたら……」 
 普段の体育で着替えるときでさえキスの感触を思い出し、幾夜の前で胸を晒すことができなくなるだろう。 
 左の乳首も、ちゅっと音を立てて吸われてしまい、右の乳首は指でつままれ、こりこりと揉みほぐされた。 
 さらに左右の乳首を交互に、れろれろと舌で転がすように舐め上げられた。 
「ああっ……幾夜ぁ、だめ……だめだったらぁ……」 
 オトコである自分の胸が性感帯になり得るとは、真砂綺は考えもしなかった。 
 真砂綺は一人きりでオンナの服を着て自慰行為をすることもある。 
 そうしたときはオンナになったつもりで自分の胸も弄ぶが、それはシチュエーションへの耽溺だ。 
 膨らみもないオトコの胸からは肉体的な快感は得られない。 
 さすがに乳首の感覚は鋭敏だが、自分で弄んでも、こそばゆいばかりで快感はない。 
 そう結論づけていた筈なのに、幾夜の舌と指で責められるのは、 
「やぁっ……、おかしく、なっちゃうよぉ……」 
 ぼーっとした頭は幾夜への愛情以外、空っぽになって、すっかり蕩(とろ)けそうな感覚だった。 
「……ひゃあっ!?」 
 ショーツ越しにペニスを握られた。 
 すっかり堅く、大きくなっているのが自分でもわかった。 
「すっげーオマエ、可愛い顔して、可愛い乳首もしてるのに、チンポは随分立派だよな」 
 幾夜に耳元で囁かれ、いやいやと真砂綺は首を振る。 
「……言わない、でっ……!」 
「先っぽ、濡れてんじゃん? もうちょっと絞ってみよっか?」 
 ショーツの薄い生地ごとペニスをしごき立てられて、 
「やっ……らめっ、らめぇぇぇ……っ!」 
 ――びゅるるるるるっ! 
 音を立てそうなほどの勢いで、真砂綺のペニスから精が迸った。 
 それはショーツの生地すら貫き、幾夜に撥ねかかる。 
「おっ……すっげ♪」 
 幾夜が声を上げ、真砂綺は羞恥で悶絶しそうだった。 
「あぁぁぁっ……!」 
 膝ががくがくと震えて立っていられなくなったところを、幾夜に抱き支えられる。 
「おっと……もうちょっと頑張ろうぜ♪」 
「え……?」 
 射精までさせられて、この上、何を要求されるのか。 
 しかし考えれば、自分はイッてしまったけど、幾夜への奉仕は足りていない。 
 最初の口舌奉仕による発射からすでに回復して、幾夜の逸物は雄々しく屹立(きつりつ)していた。 
 やっぱり……最初は痛いことって、「お尻」でされちゃうのかな……? 
 真砂綺は思う。 
 少しばかり不安だけど、嫌悪感は、ない。 
 幾夜にされることならば…… 
「そっちに手をついて」 
 幾夜に背を向けさせられて、いくらか前屈みの姿勢で、棚に手をついた。 
 ショーツに手がかかり、引き下ろされる。 
 まだ堅いままの真砂綺のペニスは、ショーツのウエストのゴムで弾かれ、撥ね返って彼の下腹部に当たった。 
 黒々とした幾夜の牡器官と違い、真砂綺のそれは、赤く照り光っている。 
「まだ大きいじゃん、立派立派♪」 
 幾夜が言って、ペニスの先から精液の残滓(ざんし)を指で掬(すく)いとる。 
 そしてそれを真砂綺の白くて小さく引き締まった尻の谷間へ――アナルへと塗りたくった。 
「ひっ……!」 
 他人に尻穴を弄られるなど、真砂綺にとって生まれて初めての経験だった。 
 嫌悪というより背徳感で背筋がざわついた。 
「もっと脚、広げてくんね?」 
 幾夜に言われて、素直に従う。 
 白い尻の谷間が広げられ、真砂綺の秘所が、幾夜の眼前に曝け出されることになった。 
 それは本来は排泄孔であるとは信じがたい清楚な印象の肉器官だった。 
 ほんの僅かに赤みがかり、小さく口をすぼめている。 
 しかし真砂綺自身の精液で濡らした指で触れると、素直にその部分は、指を呑み込んだ。 
 一本は大丈夫。二本ならどうだ? 
 幾夜は右手の人差し指と中指を合わせて、真砂綺のアヌスに突き当てた。 
「力を抜いて……息を吐いてな」 
「あっ、うん……はあっ」 
 真砂綺の緊張が解れたところで、指を押し入れる。 
「ひゃうっ……!?」 
 意外と抵抗がなく入った。 
 そこで幾夜は、ピストン運動のように指を出し入れした。 
「あっ……ああっ、幾夜ぁ……!」 
 びくっ、びくっと、真砂綺は身体を震わせる。 
 これならいけるだろうか。 
 念のため、もう一度精液の残りを指に掬いとってから、今度は三本の指を真砂綺に挿入した。 
「ひゃあっ……幾夜ぁっ……!」 
 真砂綺は切なげに声を上げ、幾夜を振り返る。 
「もうっ、もう……大丈夫だからぁ、来ていいから、幾夜ぁ……!」 
 これ以上、指で弄ばれたら二度目の射精をしてしまうだろう。 
 幾夜自身を受け入れる前に、それは避けたい。真砂綺は限界寸前まで達していた。 
「お……おう!」 
 ごくりと唾を呑み込んで、幾夜は、左手で真砂綺の腰を抱いた。 
 そして右手を自分の怒張に添えながら、真砂綺の秘器官に狙いを定めて―― 
 突き上げた! 
「ひっ……あああああっ!」 
 真砂綺は悲鳴のように叫んだ。肉茎の半ばまでが一気にアヌスに突き立っていた。 
 さらに、ぐいっと腰を引っぱられ、幾夜の男性自身が根元まで真砂綺の中に突き入れられた。 
 そうしておいてから、幾夜が問いかけた。途中でやめるつもりは最初からなかったから。 
「……動いていいか?」 
「う……うん、来て……幾夜」 
 真砂綺は幾夜を振り返り、にっこりと笑ってみせる。 
 正直なところ、つらい。 
 小さな肉器官を無理やり押し広げられているのだ。引きちぎられてしまいそう。 
 でも……いま自分は、幾夜と一つに繋がっている。 
 オンナに生まれていなければ、できない筈だったことを。 
 オトコの自分ができているのだ。 
 だから、耐えられる。幾夜を愛しているから。 
 幾夜が、ゆっくりと動き始めた。 
「んっ……んぐっ……!」 
 声を噛み殺す。幾夜に余計な気遣いをさせたくない。 
 でも痛いのは最初だけなんて嘘じゃないのか? 
 我慢していれば、そのうち…… 
 ……………………………… 
 …………………… 
 ………… 
「……あっ、あぁぁぁっ……」 
 思わず声が漏れてしまう。 
 幾夜の怒張でアヌスを突き上げられ、再び堅くなった真砂綺のペニスは、ぺちぺちと彼自身の下腹に当たる。 
 しっかりと棚をつかみ、幾夜に腰を抱きかかえられていなければ、その場に膝から崩折れてしまいそう。 
 幾夜に……愛する相手に尻穴を捧げることが、これほどの快感だったなんて。 
「やっ、やぁっ、幾夜ぁ、ボクッ、ボクもうっ……ら、らめぇぇぇっ……!」 
「ま……真砂綺ぃっ……!」 
 愛し合う二人は、ほぼ同時に達した。 
 幾夜の精は真砂綺の腸孔内に注ぎ込まれ、真砂綺の精は更衣棚と床とに撒き散らされた。 
 だが、しっかりと真砂綺の腰を抱えたまま、幾夜はしばらく身体を離そうとしなかった。 
 真砂綺もそれを求めなかった。 
 繋がり合ったお互いの体温を、もうしばらく感じていたかった―― 
  
  
    *    *    * 
  
  
 真砂綺はシャワーで身体を清め、男子の制服に着替えた。 
 元のオトコの自分に戻ったわけだが……何もかも元通りに戻るわけでもなかった。 
 幾夜と二人で更衣室を出る。幾夜が扉に鍵をかける。 
 そして教室へ向かって歩き出す。 
 幾夜が先に立って、真砂綺があとについて…… 
 不意に足を止め、幾夜が真砂綺を振り返り、言った。 
「オマエ、なんで後ろ歩いてるの? それじゃ話しかけづらいじゃん?」 
「えっ……話って、だって……」 
「いつも昼休み終わって帰るときは普通にバカ話、してるだろ? オマエにクチで抜いてもらったあとはさ?」 
「それは……」 
 真砂綺は赤くなって眼を伏せ、 
「クチでするだけなのと、その……ホントにエッチしちゃうのは違うよ」 
「……オマエ、さ」 
 幾夜は真砂綺に大股に近づき、彼の肩に腕を回して引き寄せた。 
 普通に仲のいい男子が、じゃれ合っているみたいに。 
「変に意識しすぎ」 
「い……意識しないでいられるわけ、ないだろっ! ボクたち、あんなコトになって……!」 
「あんなって、そんなにマズいコトかよ? そりゃ他人に知られるわけにいかねーとは思うけど……」 
 幾夜は真砂綺を、さらに引き寄せると―― 
 ちゅっ、と、相手の頬にキスをした。 
 もちろん周囲に他人の眼がないことを確かめた上でのことだ。 
「えっ……?」 
 眼を丸くする真砂綺に、くくっと幾夜はほくそ笑み、 
「オマエが意識しすぎる態度だと、オレもオマエを意識しちまうわ。キスしたり抱きつかない自信がねーよ」 
「……もうっ! 幾夜ぁ!」 
 苦笑いする真砂綺の肩を、幾夜も笑いながら離そうとせず。 
 じゃれ合う友人同士を演じながら、愛し合う恋人同士は教室へと戻った。 
  
【終わり】 
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