紬は一人で公園に来ていた
ベンチに座ったまま、出てくるのは大きな溜息ばかり
紬(私…どうしてあんな事を……思いっきり馬鹿なんて言っちゃって…)
紬(りっちゃん怒ったかな…でも…りっちゃんも酷いよ、あんな事言うなんて)
紬(…ううん違うわ…りっちゃんがああ言ったのは、あんな風に無理やり言わせたのは…私じゃない…)
紬「…………」
ポロポロ
紬(なのに…何でこんなに胸が痛いの……あんな言葉聞きたくなかったって、私…)
紬(りっちゃんに幸せになって欲しいなんて言ったくせに…私は…私はりっちゃんが…)
律「―――-むぎっ!!」
遠くから声が聞こえた
びっくりして立ち上がると向こうから律が駆けて来るのが見えた
紬(えっ…!?ど、どうして…)
律「はぁ、はぁ…やっと見つけたーっ」
紬「り、りっちゃん…」
紬(やっと、って…?それじゃりっちゃん今まで私の事を…?)
紬「ど、どうして……澪ちゃんは?」
律「澪なら帰ったよ」
紬「えっ……」
紬(え…?何で?どうして……りっちゃんは澪ちゃんに告白したのに…)
律「何か…むぎは分かってないだろうから言うけど、私が好きなのは澪じゃないから」
紬「え!?」
律「正確にいうと、それはもう過去の事で……今は別のやつが好きなんだよ私は」
紬「えぇ!?」
律「……」
律(これ絶対自分の事って分かってないよな…)
紬「そ…そんな…」
紬(じゃあ、じゃあ私が今までりっちゃんにしてきたのは…全部、迷惑なことだったの……?)
紬(一人で勝手に思い込んで…勝手に押し付けて……)
紬(私がしてたことは…全部りっちゃんを傷つけてたの……?)
律「むぎ、私は…」
紬「ごめん……なさい…」
律「え?」
紬「私…りっちゃんの気も知らないで澪ちゃん澪ちゃんて…いつもそればっかりで」
律「いや、あのさ」
紬「きっと知らずにりっちゃんを傷つけてたんだよね?…りっちゃんが好きな人…にも……悪い事してたのね…」
律「あのなむぎ…」
紬「本当にごめんなさい。おまけにさっきは馬鹿なんて言っちゃって…いくら謝っても足りな」
律「だーー!もう良いから黙って聞けよ!」ガシッ
紬「!??」
ギュウッ
紬(えっ……)
紬「り…りっちゃん…?」
律「何で他人の事には鋭いくせに自分の事だとそんなに鈍いんだよ…ずるいだろ、そんなの…」
紬「え……えっ…!?ど…どういう事なのりっちゃん…」
律「…こうやって抱き締めてんだから分かるだろ。これで分かんないとか言うなよなっ」
紬(うそ……そ…それって…)
律「――ってちゃんと言わなきゃ私もずるいよな……なぁ、むぎ」スッ
紬「えっ…?」
一度体を離した律は少し深呼吸をして、そして言った
律「私はむぎが好きだよ」
紬(………!!)
律の告白に息をのんで口元を押さえた紬は、そのまま真っ赤な顔で瞳を潤ませた
紬「り、りっちゃん……それ本当?本当に……私なんか…」
律「なんかって言うなよ」
律「私はさ…私が辛い時や落ちてる時に気持ちを察してくれて、傍にいてくれて話を聞いてくれたむぎが…大好きになったんだ」
紬(……っ)
紬「わっ私も…」
紬「私もりっちゃんが好き…ずっと好きだったの…でもっ…りっちゃんを幸せにできるのは私じゃないって…ずっと…」
律「むぎはいつも私を支えててくれたじゃないか。私は隣にむぎにいて欲しい…いてくれなきゃ嫌だよ」
紬(りっちゃん……)
紬「――うんっ!」
律「……///と、そうだ…むぎ、これ」
紬「…?…え…これ…」
紬(あの時澪ちゃんに買ったストラップ……じゃないわ、これはピンク色…)
紬「りっちゃんこれは…?」
律「こっ、これは私とむぎの分だ!せっかく恋人になったんだからお揃いで付けようぜ!」
紬「恋人……そうね、そうだね…!」
律「……ああ///」
紬「有難うりっちゃん……ねぇ、私からもひとつ良い?」
律「ん?何だ…」
ギュッ…
紬「ふふ……私からも抱き締めてみたかったの…大好きなりっちゃんを…」
律「なっ何だよそれ……///」
紬「うふふっ…///」
律はそれ以上何も言わずに、同じように紬を抱き締め返す
夕陽の中で抱き合う二人の影はゆっくり伸びていった
同じ頃、学校の屋上
澪「………」
澪(メールで呼び出しちゃったけど…和、来てくれるかなぁ)
澪(もし来なかったら……ううん、きっと来てくれるよ、和は…信じなきゃ)
澪「………」
キィ
ぎゅっと両手を握り締めた時、背後で物音がした
振り返ると待ち侘びた相手――和が立っているのが見えた
澪「和…」
和「澪、どうしたの?何か用事?」
澪「あっ…えっと…わ、私…」
いつもと全く変わらない様子の和に澪は逆に戸惑ってしまう
そんな澪に和は優しく笑いかける
和「もしかして…この間の事…かしら?」
澪(!!)ドキッ
澪「う…うん、実はそうなんだ。その事で言いたいことがあって」
和「………」
和は無言のまま歩み寄り澪の隣に立ち止まった
澪「…あ、あのさ、私……」
和「待って」
澪「えっ?」
和「澪の言いたい事は何となく分かるわ…」
澪「えっ」
澪(和…分かってくれてるのか…でも…)
澪「う、うん…でも私ちゃんと自分の口から」
和「駄目」
澪「えっ」
和「ごめん、聞かせないで…澪の気持ちはちゃんと分かってるから、だから言わなくていいわ」
澪(え………)
澪(ちょっと待って、何かおかしくないか…?)
澪(私の気持ち分かってるなら、何で…そんな悲しそうな顔をするんだよ…)
澪「なぁ、和…?」
和「もういいのよ。澪の気持ちが私に無い事なんて分かってるもの…」
澪(な………)
澪「ち、違うよ和!!私はっ」
和「ううん無理しないで…私は友達でいてくれるならそれで十分――」
澪(!!そんなの…)
澪「そんなの!私が嫌なんだよ……っ」
グイッ
和「…!?」
チュッ
顔を逸らそうとする和の腕を掴み澪は精一杯のキスをした
すぐに顔は離したが、澪は真っ赤な顔で和を見つめる
澪「だって私も…私は和が好きなんだ」
澪「だから友達でいいなんて言わないで……私と…恋人として一緒にいてほしい」
和「澪……」
澪「…和が好きだよ……!!」
ギュウ
涙声で言ったのと同時に、澪は和に抱き締められた
すぐに抱き締め返すとそのまま和は澪の頭を優しく撫でた
和「私も澪が好きだよ」
澪「……!」
澪(和……)
和「だから……」
澪「…?」
和「…ごめんね、からかったりして」
澪(………)
澪「から、かう…って…?」
和の言葉に澪はポカンとする
和は少し間を置いた後、こう言った
和「実は……さっきここに来て澪の表情見て分かってたのよ、澪の返事が」
澪「……?私が和を…好きって事…がか?」
和「そう。澪は結構顔に出やすいから、すぐ分かったわ」
澪「は……」
澪「じゃ、じゃあ何であんな事言ってたんだ?友達で良いとかなんとか」
和「……ごめんね、ちょっと意地悪したくなっちゃったの」
澪「えっ」
和「澪、この間私が告白した時…私が梓の事気にするとでも思ってたんじゃない?」
澪「えっ…そ、それは」
和「私がそんなの気にするわけないのに。信じて貰えなくてちょっぴり悔しかったから」
澪「………」
和「でもまさか、キスまでして貰えるとは思わなかったから…」
和「ふふっ、ラッキーだったわ」
澪(ラッキーじゃないいいいぃぃぃっ!!)
澪(わた、私の涙は一体…)
嬉しそうに微笑む和に澪はがっくりと脱力する
和は笑顔のまま隣にしゃがみ澪の背中を撫でた
和「ごめんね澪、怒った?」
澪「……」ムッ
和「そんな顔しないで…許して」
澪「やだ……」
和「……」
和は澪の顔を覗き込む
澪の顔は真っ赤で、膨れたまま上目遣いに和を見つめて呟いた
澪「キスしてくれなきゃやだ…」
和は嬉しそうに笑うと澪の頬に手を添えた
そして二人はお互いの気持ちを確かめ合うようにゆっくりと唇を重ねた
おわり
最終更新:2010年01月02日 14:01