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唯「和ちゃんってさ、意外とやきもちやきだよね」

和「そんなことないわよ」

唯「さっきより否定の仕方が強いよ。図星でしょ」

和「私はそんなに乙女じゃないわよ」

唯「うそつき」

和「嘘じゃない」

唯「じゃあ、私が他の人に抱きつきまくっても何とも思わない?」

和「……別に、気にしないわ」

唯「目が泳いでるよ」

和「だからなによ」

唯「……ま、いいけどさ。可愛いから」

和「そういうあなたこそ、意外といじわるね」

唯「そうかなあ?」

和「そうよ。これ見よがしに梓ちゃんに抱きついたりして」

唯「だって、あずにゃん可愛いんだもん」

和「……可愛くなくてごめんなさいね」

唯「和ちゃんが拗ねちゃった」

和「私は可愛くない女だから、拗ねたって問題ないでしょう」

唯「……ま、いいけどさ。可愛いから」

唯「ねえ和ちゃん、実は私、ちょっとロミオとジュリエットやってみたかったんだ」

和「やったじゃない。木G」

唯「そーうーじゃーなーいー。私がロミオで、和ちゃんがジュリエット」

和「あなたがロミオ?ずいぶんしまらないわね」

唯「そんなことないもん」

和「私だってジュリエットって柄じゃないわ」

唯「和ちゃんは可愛いから大丈夫だよ。もちろんロミオをやってもかっこいいだろうけどね」

和「じゃあロミオでもいいじゃない」

唯「だーめ。だって、私がロミオじゃなきゃ、先に死ねないじゃん」

和「何それ。お芝居の話じゃない」

唯「それでも和ちゃんが先に死んじゃうなんて嫌だもん」

和「わがままなのね」

唯「知らなかった?」

和「……まあ、いいわ。可愛いから」



多分これで終わり。




唯「ねえ和ちゃん」

和「どうしたの?勉強する気になった?」

唯「私ね、和ちゃんのこと、大好きだよ」

受験を控えたある冬の日、和ちゃんの家での勉強会の途中。

二人きりでの勉強会と銘打って集まっておきながら、早々に勉強に疲れ果ててしまった私は和ちゃんのベッドでごろりと横になり、和ちゃんはそんな私を背に勉強を続けていた。

そんな状況でいきなりその背中にこんな言葉をかけたのだから、和ちゃんは怪訝な顔をしてこちらへ視線を向ける。

一方の私は、ごろりと転がりながらベッドを下りて、その勢いで和ちゃんに抱きついた。

和「何から何までいきなりね」

呆れたような和ちゃんの言葉を無視して、その胸に顔をうずめる。
和ちゃんの匂いで頭の中が満たされる。この上ない多幸感。

でも、心の中には同時に言いようもない切なさが広がっていた。

和「もう、どうしたのよ」

しばし、沈黙。
それを打ち破る言葉は、私の中には見つからない。

和「……唯?」

でも、和ちゃんの優しい声に誘われて、私は言ってはいけないことを口に出してしまった。


唯「私と違う大学で、和ちゃんは寂しくないの?」

和ちゃんと私、二人きりの部屋の時間が一瞬止まったような気がした。

唯「私は、すごく、寂しいよ」

私、また和ちゃんを困らせている。

つくづく私って馬鹿だなあ。
自分で選んだ道なのに。悪いのは私なのに。

軽音楽部のみんなと同じ大学に行くということは、つまり和ちゃんと違う大学に行くということだ。

選択というのは常に「選ばなかったなにか」を犠牲にすることを強いる。

そんなことぐらい、いくら私だってわかっている。

それでも、手から零れおちていく大切なものに必死で手を伸ばそうとする。

浅ましいと言われるかもしれないけれど、それでも私は、和ちゃんのことを――――


和「まあ、寂しくないわけではないけど、あなたが自分で選択できたことが私は嬉しいの」

唯「……ごめんね」

和「謝ることなんてないわ。嬉しいって言ってるじゃない」

唯「じゃあなんで……なんで、和ちゃんは泣いてるの?」

口元は優しい笑みを浮かべたまま、和ちゃんの瞳には涙が滲んでいた。

最低だな、私って。

和ちゃんに散々お世話になっておきながら、後ろ足で砂をかけるような真似をしてる。

気がつけば、私の目からも涙がこぼれていた。

どこまで私は卑怯なのだろう。

ここで泣いたら、和ちゃんは心配してくれるに決まっている。

すべて私が悪いのに、だ。

それはとてもとてもずるいことで、わかっているのに、涙は止まらない。

自分の情けなさ、卑劣さ、幼稚さ、そしてそのすべてを受け入れてくれた和ちゃんとのお別れという自分の選択すら、一人で抱えることができない弱さ。
それらがないまぜになった罪悪感で押しつぶされそうになる。

唯「私、やっぱりダメだよ……私には和ちゃんがいなきゃダメなんだよ」

和「そんなことないわ。あなたはこの三年間でずいぶん立派になったじゃない」

唯「ダメなんだよぉ……大学だって、私が決めたんじゃないよ、ムギちゃんが行くからって、それで、りっちゃんとか澪ちゃんも行くって……」

和「でも、最後に選んだのはあなたの意志じゃない。もっと胸を張っていいわ」

唯「でも!でもやっぱり私は……!」

和「あなたには大切な仲間ができたじゃない。私の出る幕はもうないの」

唯「違うの!確かに軽音楽部のみんなは大切な友達だけど……和ちゃんは和ちゃんなの!
私の人生にはずっと傍に和ちゃんがいてくれたから……だから私、頑張れたんだよ……和ちゃんがいなくなっちゃったら、私、どうしたらいいか……」

和「怖がることはないわ。もうあなたは選択した。後はそれを信じるだけ。それに、離れてたって、私はいつでもあなたのことを思ってるから」

唯「和ちゃん……ごめんね、ごめんねぇ……」


もうなぜ謝っているのかすらわからない。

それでも私はひたすら和ちゃんの胸の中で泣きながら謝り続けた。

そんな私を、和ちゃんは優しく受け止めてくれた。

それが余計に辛くて、もう消えてしまいたいと思った。

どうしようもない私の頭を、和ちゃんの温かい手が優しくなでる。

この温もりに包まれて、何も考えずただ子供みたいに、全ての煩雑な現実を投げ捨てて、夢の中に暮らせたらいいのに。

唯「ねえ和ちゃん、私、和ちゃんのお嫁さんになる」

ひとしきり和ちゃんにしがみついて泣いた後、口を衝いて出た言葉は、幼い日の約束。

今の今まで忘れてしまっていたような、ありがちな子供の戯言。

唯「それでね、おうちで和ちゃんが帰ってくるのをご飯作って待ってるんだ」

和「あなた、ご飯なんて作れたかしら?」

和ちゃんはくつくつと笑いながら、それでも私の馬鹿げた夢物語を否定しない。


唯「ぶー…憂に習うもん」

和「なるほど、それなら安心ね」

唯「いっそ、三人で住めばいいよ。ずーっと三人で暮らそうよ」

和「そうね……そうできればいいわね」

私が話す戯けた夢想。

和ちゃんは、それをどこかに遥か彼方に見出すように、それでも否定することなく聞いていた。

それがどこまでも遠くにある、蜃気楼のような幸せにすぎないということは私にもわかっている。

和ちゃんには和ちゃんの、憂には憂の、そして私には私の、決断と未来があるのだから。

意識を夢と現実の狭間に漂わせながら、私は遠くに五時を告げる鐘の音を聞いた。

それは、子供にとってのお別れの合図。

和「五時ね」

唯「うん」

和「もう、お別れね」

唯「……うん」

自分自身の選択から逃げようとする今の私は、子供だから。
だからもう、お別れなんだ。

唯「じゃあ、またね」

和「ええ」

唯「私、絶対受かるから」

和「楽しみにしてるわ」

唯「うん」

今は、決して後ろを振り向かない。
それが和ちゃんに対する私の精いっぱいの罪滅ぼし。

後ろ手に閉める和ちゃんの部屋のドアは、いつもより重く感じた。



ここまでです。ありがとうございました。





唯「和ちゃんは生徒会長だし、かっこいいからみんなからもてるもんねー」

和「なにいってるのよ。あなたの方こそ文化祭で随分ファンが増えたんじゃない?」

唯「去年たくさんチョコもらってたじゃん!知ってるもんね!」

和「あら、そういう唯だって軽音楽部のみんなからもらったんでしょう?」

唯「本命は、和ちゃんのだけだもん……」

和「私だって、あなたのだけよ」

唯「えへへ、和ちゃんだいすきー」

和「よしよし」

……

唯「和ちゃんはかっこいいし誰にでもしいししっかり者でモテモテだからってみんなにでれでれしないでよ!」

和「あなたこそ可愛くて癒し系であったかくて学校中のの人気者だからって他の子に目移りしないでほしいわね」

唯「もー何言ってるの!?私は和ちゃん一筋って言ってるじゃん!」

和「私だってあなただけっていつも言ってるじゃない」

唯「私は和ちゃんのこと大好きだもん!」

和「じゃあ私は唯のこと大大好きよ」

唯「むー…じゃあ私は大大大好きだもんね!」

律「いいかげんにしろ」

澪「痴話喧嘩を教室でするな」

紬「あらあらうふふ」

もう続かない



最終更新:2011年02月13日 23:59