澪「あ、いや、でも、その…わ、私、1人で入れますからっ!」

律母「遠慮しないで。私、いまから晩ごはんの準備しなくちゃいけなくて構ってあげられないから、そのあいだ律とお風呂にはいっていって。ね?」

 押しに弱い澪が首を縦にふるのに、時間はそうかからなかった。


律「ぷりぃどんせっゆーあーれいじぃー」

 脱衣場。
 鼻歌まじりに服を脱いで、洗濯カゴにスリーポイントシュート。
 …3Pシュートって書くとそこはかとなくやらしぃ。

澪「………」

 澪が、ため息まじりに隅っこのほうで服を脱いでる。

律「どうしたんだよ澪ー。風呂なんて、合宿のときとか一緒に入ってるじゃんかー」

 私が一歩近付くと、澪は一歩離れた。
 不思議におもって問いただしてみると、答えはなんとも澪らしいもので。

澪「よ、よるな! …どうせおまえ、私がちぃさくて非力なのをいいことに、変なことするつもりだろっ!」

 なんと。心が読まれていた。

律「変なことってどんなことー?」

澪「なっ…!」

 ふはははは。顔を真っ赤にしてうろたえておるわ。

澪「どんなことって…それは……」

 む。澪の頭から湯気が出てきた。
 これはいけない。

律「ほらほら、変なことなんてしないからさ、いつまでもそんな恰好じゃ風邪ひくし、さっさと入ろうぜ」

澪「え…?」

 ……「え」って澪さん。
 なんですかその残念そうな表情は。

律「…もしかして、してほしかった?」

澪「──そそそそんなわけないだろ! わ、私はただ、風邪はひきたくないなぁって思っただけだ!」

 ぷりぷりと、紅潮したほっぺたを怒った素振りで誤魔化しながら服を脱いでいく。
 かわいいなぁ。

律「じゃあ、ゆっくり温まるとしますかね」

澪「ん」

律「こーぼぉれおちるゴォージャースはー、プーリーンスゆえとめーらーれぇなーい」

澪「うるさい、気が散るだろ」

 ワシャワシャと、頭いっぱいに泡をたてて髪を洗っている澪。シャンプーが入らないように、ギュッと目を閉じているのがまた可愛い。

律「………」

澪「……な、なんだ? きゅうに静かになるなよ」

 注文の多い澪たま。

律「ねぇ澪」

澪「んー?」

 ワシャワシャワシャワシャ。

律「おっぱい触っていい?」

澪「だれが許すか」

律「こたえはきいてないっ!」

 ──ツンツンプニプニ。

澪「うぁひゃっ! …ひ、ひきょうだぞ律!!」

律「にひひ、私のテクにお前が泣いた……性的な意味で!」


律「…ちべたい」

 湯船の中から、澪の柔肌とまだ膨らんでいない双丘をツンツンしていた私。
 いや、調子のってました。

 子供のころは見れなかった澪の裸身が目の前にあって、軽く理性が消えていたようです。

澪「バカなことするからだ」

 バカなことする体。

 シャワーによる冷水攻撃を受けた私は、泡を流した澪からものっそい説教をくらいまして、ただいま2人で浴槽に浸かっております。

律「いやぁ、この胸がいずれあんなに大きくなるんだなって考えると、なんかこう込み上げてくるものが」

澪「おやじか。しかもロリコンのセクハラ」

 縦長い浴槽に私が足を伸ばすように入って、その太ももの上に澪が腰かけてる。
 あぁ、澪のお尻の感触はなんとも言えぬ綿菓子みたいなふわふわ感。

律「澪限定でなら、ロリコンにもセクハラおやじにもなれるぜ」

澪「……ばか」

 もじもじする澪。その度お尻がふわふわ☆時間、ふわふわ☆時間。


 特になにを話すでもなく。
 2人で静かに、肌を合わせて。

 澪は少しだけ体重を私にあずけて、私は受けとめるように手をまわして、軽めに抱きついてた。

澪「ねぇ、律」

律「んー?」

 澪が私の、名前を呼ぶ。

澪「…もうすこし、つよく」

 最初、意味がわからなかった。
 けど、すぐに理解する。

澪「……ふふっ」

 ギュウッて。強めに、抱きしめた。

澪「…あったかいな…」

 澪がそう言って、私は、湯船のお湯が冷めているのに気がついた。
 肌が重なってる私の体のほうが、あったかいんだ。

律「そろそろ、出よう」

澪「……わかった」

 すこし残念そうな澪と一緒に、私は風呂から上がった。

律母「おかえり。ずいぶん長湯だったのね」

 お風呂から上がって、パジャマに着替えた私と子供服に着替えた澪は、リビングでテーブルに向かっていた。
 確かに、1時間は余裕で経ってる。

澪「すみません、お手伝いしなくて」

律母「なに言ってるのぉ!? そんな、よその子にごはんの準備なんかさせられないわよぉ!」

 私たちが来たときには、もう晩ごはんの準備が粗方済まされていた。
 お米がまだ炊けていないけど、主菜副菜などは万全。

律「そうそう、上げ膳据え膳でいいって」

律母「あなたはもっと手伝いなさいね」

 そんな会話をしていると電子ジャーから炊き上がった音がして、私たちは晩ごはんを食べはじめた。

 お父さんは残業で遅くなるそうです。


律母「ところで……」

 ごはんを食べ終わって、2人でテレビを観ていたところで、後片付けをしていた母が声をかけてきた。

 なんの話なのか、私たちは瞬時に察した。
 澪が、ギュッと私の手を握る。

律母「零ちゃん、秋山さん家に帰らなくて大丈夫なの? 帰るのなら、送っていきましょうか?」

 予想通りの質問だった。
 手から、澪の不安が伝わってくる。
 ココを追い出されたら、行き場がなくなること。私が傍にいないと、不安に潰されそうになること。

 …大丈夫。ぜんぶ、わかってるから。

律「ねぇ母さん。今日、この子泊めていい?」

律母「え? どうしたの?」

律「実は澪ん家が用事あるからって、じゃあ私にまかせなよって引き受けちゃったんだよねぇ」

律母「あなた……なんでそんな大事なことを今更言うの!! 猫を拾ってきたりするのとは、話しが違うんだからね!?」

 おぉう、ママ・サンダーの降臨だい。


律母「あなたって子はいつも、そうやって大事なことを後回しに──」

律「ごめん、言い出すの遅れちゃったのは謝るよ。けどお願い、この子ウチに泊めさせて」

 母さんの言葉が止まった。
 いつもなら、言われるがままに罵倒万雷を聞き続ける私だけど、今日はそうはいかない。
 澪を独りにさせるなんて、出来るもんか。

律母「……もう受けちゃったなら、断るわけにはいかないでしょう。向こうには向こうの都合があるわけだし…」

 よしっ。ため息まじりだけど、了承してくれたぞ。

律母「一応、秋山さん家には私が電話して確認をとるわ。あなたたちは、部屋に言ってなさい」

律「ありがとう、母さん。…いこう」

澪「う、うん…」


澪母『はぁーい、秋山ですが』

律母「あ、秋山さん? 私、田井中ですけど」

澪母『まぁー、こんな時間にどうかしました?』

律母「あのウチの子がお宅の(親戚の)子を…」

澪母『あ……な、なにか迷惑起こしましたか?』

律母「迷惑? そんな、とんでもない。ウチの子が寝てるあいだ私とお話しして、肩を揉んだりしてくれてとても楽しかったわ」

澪母『…よかったぁ』

律母「けど…いいの? ウチなんかに預けたりして」

澪母『──そんな! あなたの家以外に(花嫁修行を)頼めるところなんてないわよ!』

律母「? そ、そう?」

澪母『ええ! …申し訳ないけれど、本人が決めたことだから……よろしくお願いします』

律母「ウチのことそんなに仲がいいの?」

澪母『ええ、それはもう!』

律母「わ、わかったわ。…それで、泊めるのはいつまでになるのかしら?」

澪母『(…これは、親である私の覚悟を試している…?)』

律母「…奥さん?」

澪母『──いつまでも!!』

律母「はい!?」

澪母『お宅が“これでいい”って思えるまで、徹底的にお願いします』

律母「(これでいい? 徹底的?)わ、わかったわ、それじゃあ、しばらくはウチが責任をもって預かりますから」

澪母『はい! よろしくお願いします!!』

律母「それじゃあ」

 ツー、ツー、ツー、ツー…。

律母「秋山さん、なんかやけに機嫌よかったわねぇ」

 ソファに座り、テレビをつける。

律母「……まぁ、あそこまで昔の澪ちゃんに似てたら、新しい娘ができたみたいで嬉しいかも。澪ちゃん可愛いものね」

 お茶をすする。

律母「ウチは一人っ子で充分だわぁー」

 私の部屋。
 なにもすることがなく、2人してまた、ベッドの上で抱き合っております。

 どうやら澪たまはこの態勢が気に入ったご様子。

澪「だいじょうぶかな」

律「…なにが?」

澪「律のお母さん……うちに、電話するって」

律「あー」

 そう言えば。
 澪の家には花嫁修行って言ってあるから、相互に情報交換されると面倒、かも。

律「ま、大丈夫だって」

澪「なんで言いきれるんだ?」

律「ウチの母さん、澪が子供なことにも気がつかなかっただろ? そんなふうにちょっと間が抜けてるとこあるから、多分平気でしょ」

澪「……それは、そもそも“こどもにもどる”なんて非科学的なことが起きるなんてかんがえてないからじゃないのか?」

 ……あ。

澪「一応、しんせきの子だって言ってるわけだし、ふつうは疑わないとおもうぞ」

律「だ、大丈夫だって! もしなにか有っても、私が誤魔化してみせるからっ!!」


律「…お母さーん?」

律母「なに?」

律「どうだった? 澪の家、忙しそうだった?」

 澪の家が用事有りっていうのは私の捏造したものなので、忙しいはずがないけど。

律母「確認はとったわ。しばらくの間、あの子はウチで預かることになったから」

 ほっ…よかった…。

律「ご、ごめんね、急な話しで」

律母「もういいわ……あなたが秋山さん家によく行ってるのは知っていたし、あなたに託したってことは、それだけ信用されているんでしょ?」

 信用……嘘をついている側としては心が痛む一言です。

律母「…ほら、いつまでもあの子を独りっきりにしないの」

 おぉっと……お母さん、本当にありがとう。

澪「お母さん、なんて?」

律「大丈夫だって。うまく話しが噛み合ったみたい」

澪「そうか…」

 私も澪も安心して、ベッドの上でゴロゴロしだす。
 特に澪が、私の服を掴んで放そうとしない。

律「なんだ澪、ちぃちゃくなってからやけに甘えんぼさんだなぁ」

澪「う、うるさい、こうしてると落ちつくんだ」

 私の胸に顔を埋めてグリグリ、お返しに澪を抱きしめてギュウギュウ。

 あぁ、私ってば幸せ者っ。

澪「…あした、学校どうしよう」

律「明日一日は、具合が悪くて休みってことにしよう。私が先生に言っておけば、電話で確認されても澪のお母さんが口裏を合わせてくれるんじゃない?」

澪「うぅ…ウソにウソが重なっていく…」

澪「ムギや唯たちには?」

律「…澪がこうなったことを話したいから、澪がいないとどうにもならないんだよなぁ」

澪「けど、こどもがいたら追い出されるだろうし…」

律「年端もいかない澪を独りで出歩かせるわけにもいかない。だからここは、放課後になったらウチの母さんに連れてきてもらおう」

 こんな可愛い子、1人で歩いてたら変質者に狙われるっ…!

澪「えっ、でも、お母さんに悪いような…」

律「母さん澪のこと気に入ってるから、“澪お姉ちゃんに会いたい”って言えば、きっと連れてきてくれるはず!」

澪「そんなに上手くいくかなぁ」

律「まぁ、来れなかったら来れなかったで私が説明して、みんなにウチに来てもらえば問題ないんじゃない? ちょっと手間が増えるけど」

澪「……うん、わかった」

律「じゃあ、おやすみ」

澪「おやすみ」




 翌日の、あーさー。

律「いってきまーす」

律母「気をつけなさいよー」

澪「いってらっしゃい律…お姉ちゃん」

 いってくるよおぉぉぉぉ! my sweet heart──!!

 *


律母「…今日はやけに早起きだったわねぇ、あの子。休み明けはいつもギリギリまで寝てるのに」

澪「が、がんばって起こしました」

律母「ごめんねぇ、だらしのないお姉ちゃんで」

澪「いいえ。……そういう律お姉ちゃん、好きです」

律母「(…かわいいわぁ…)」






最終更新:2010年01月07日 03:03