――――
唯「いやほら、そんなにたくさんのごみじゃないんだし」
唯「駅のゴミ箱に捨てるのもまあ、いいかなって」
憂「悪い子だね」
唯「うぐっ」
憂「でも私も気付かなかったから、いっしょだよ」
唯「むっ、そうだ。憂も悪い子だよ! ていっ!」ペシ
憂「お姉ちゃんも!」ペシ
唯「よし、我々は許された」
憂「……ん、あ、電車来ちゃった! 急ごう!」
唯「わわっ、ツッコミとかなしなの!?」
プルルルルル
憂「ほっ」トタッ
唯「おおーっと!」ダキッ
憂「わっぷ……は、間に合った」
唯「もー、あんまり急いじゃだめでしょ。はぐれたらどうするの?」ギュギュ
プシュー……ガラララ
憂「ごめんね。次の待ってもよかったね」
唯「私から離れちゃだめだよ?」ギュウウ
憂「う、うん。……ごめん」ギュ
ガタッ…ガタッガタッ……
唯「それから、明日……絶対起こしに来るんだよ」
憂「……どさくさにまぎれて何言ってるの」
唯「ちがうよ、心配なの。私が寝てるうちに憂がどこか行っちゃうなんて」
憂「……」
唯「……だめなら、私は憂と一緒の部屋で寝る」
憂「だめじゃないよ。遅刻してでも起こしに行く」
憂「それでも心配だったら、私の部屋に来たってぜんぜん怒らないよ」
唯「よかった」ギュウ
憂「……そ、そろそろぎゅってするのやめない?」
唯「やだ。桜ケ丘に着くまでこのまま」
憂「うー……熱いよぅ」
唯「寒いよりいいでしょ」
憂「もう、ナーバスになりすぎじゃない?」
唯「しらないっ」ギュギュ
憂「ここだけ満員電車だよ……」
ガタン……ガタン、ガタン
憂「お姉ちゃんって電車の揺れは平気なの?」
唯「ぜんぜん平気って訳じゃないけど、ひとりで乗れるぐらいはね」
唯「電車の揺れと地震の揺れはタイプが違うみたい」
憂「そうなんだ。……」
唯「憂は平気?」
憂「大丈夫だよ。そんなに……」
唯「これから電車通いでしょ? 無理あるんだったら言ってよ」
憂「へーきだってば。もう4年もしてるんだよ?」
唯「むー。憂は強いなぁ」ナデナデ
憂「お姉ちゃんだって平気なんでしょ」
唯「でも憂はあのときまだ10歳だったわけだし」
憂「お姉ちゃんは11歳じゃん」
唯「まぁそれはそうなんだけど」
憂「それに、こうやってどこでもお姉ちゃんが抱っこして連れてってくれるわけじゃないから」
憂「もしものときに二人でいるのは安心だけど、ずっと二人でいたら問題もあるし」
唯「そうだけど……」
憂「強くならなきゃ。私たちが」
唯「……」
唯「でも、心配はさせて」
憂「心配がだめなんて言わないけど、信じて大丈夫だよって言いたいの」
唯「……うん。ひとりで学校いけるね?」
憂「うんっ。大丈夫」
唯「じゃあ、信じるよ。けど何かあったら言ってね」
唯「メールとかして気持ちが落ち着くなら、いくらでもしていいよ」
憂「わかってる。お姉ちゃんのこと頼りにしてるのは変わらないよ」
『間もなく桜ケ丘、桜ケ丘です』
カタン……カタ、カタ
憂「やっと着いた……」
唯「疲れた?」
憂「だきつられ……抱きつかれつかれた」
唯「噛んだ」
憂「抱きつかれ疲れた抱きつかれつぁれた抱きつかれ疲れたっ」
唯「言えてない言えてない」
憂「だきちゅ、むぐ」
唯「へへっ、もうわかったよ、言えてるから。怪我しちゃうからそのへんにね?」
憂「むぅぐ……ぷは」
唯「ずっと抱きついちゃってごめんね」
憂「んーん……」
『桜ケ丘ー、桜ケ丘です』
プシュー……
唯「よし、降りよう」
憂「うん」ギュ
唯「おぉ、さむいさむい」
ギュギュ
憂「二人三脚でいこうね」
唯「うん、二人で帰ろう」
憂「いち、にー、いち、にー」
唯「いち、にー、いち、にー」
テクテク……
――――
唯「街もすっかり元通りになってるね」
憂「街並みはちょっと変わっちゃってるけど、お店は揃ってるんだね」
唯「あそこのスーパー、看板ないまんまだ」
憂「地震の時に落ちてたからね」
唯「4年たっても、直らないところはあるんだね……」
憂「でも、そのうち。いつか必ず直るよ。私たちもその一部だし」
唯「……うん。早く帰ろうか」
憂「お家、建て直してピカピカになってるかもね」
唯「だといいね。へへっ、楽しみ」
テクテク……
唯「そのままの形で建てなおされてるといいなぁ」
憂「お家建てた時とおんなじ大工さんが頑張ってくれるって言ってたもん。大丈夫だよ」
唯「そろそろ……このあたりだね」
憂「うん……」
唯「……いち、に、いち、に」
憂「いち、にー、いち、にー」
唯「いち、にー、いち、にー」ギュウ
テクテク……
憂「あと。ちょっと。だねっ」
唯「ここ、曲がったら……」
スタッ
唯「……おうちだ」
憂「……うんっ」
唯「……」
憂「……」
唯「い、いこう。憂」
憂「う、うん。……」
ざっ ざっ
唯「……あー。ほんとに」
憂「私たちのおうちだね……」
唯「帰って来たんだ……おうちに」
たったっ……
唯「……うい、もっと急ごう」
憂「うんっ……!」
たたたたっ……
唯「はぁー、はぁー……」
唯「すごい、この木も……綿乗っけた木も、頭に残ってるのと同じ」
憂「ぜんぜん違和感がないよ。周りの景色は変わっちゃったけど……」
唯「中に入ろう。外にいるのは寒いし」
憂「う、うん。そうだね」
ガチャッ
唯「ただいまー!」
憂「た、ただいまっ!」
パタン
唯「……うちの匂いがする」
憂「お姉ちゃん、わたし……泣いちゃいそう」
唯「……お部屋、あがってみよう」
とん、とん、とん
唯「はぁ……」
とたとた
唯「私の部屋、どうなってるかな……」ガチャッ
憂「私の部屋も……」ガチャッ
唯「……ふぅ。ふふふ」
憂「……? どうかした、お姉ちゃん?」
唯「私の部屋、あのときのまんまだ。ピンクの壁紙じゃ、ちょっと子供っぽいね」
憂「そうかなぁ……やだったら、張り替える?」
唯「ううん、このままがいいよ。少なくともしばらくは……」
憂「そうだね。……あ、ベッドは大きくなってる」
唯「机も高くなったなぁ。……なんだか、そのまま時間が流れたみたい」
憂「……」
唯「憂の部屋はどう?」
憂「私も一緒だった。ちょっと広くなったような気もするけど」
唯「そっか。……」
憂「……」
唯「ごめん、憂。なんか私、もう……眠たい感じがする」
憂「お姉ちゃんも? ……ふあ、わたしも……寝ちゃおうかな」
唯「ん、おぁふみ……」
憂「おやすみ、お姉ちゃん」
パタン
唯「……つかれたなぁ」
唯「今までのぶん、ぜんぶが……」ギッ
ドサッ
唯「……くー」
――――
ジリリリリリ……
唯「……っ!?」ガバッ
唯「……はぁ、あ。目覚ましかぁ。びっくりさせないでよ」
唯「ん。……ん!? 8時!?」ドタッ
憂「お姉ちゃん、朝だよ……」
唯「じゃま、憂っ!」
憂「邪魔!?」ガーン
唯「あぁっと、私急いでるから!」
憂「なんで急ぐの!?」
唯「いってきまーす!」バタッ
憂「お姉ちゃんっ、どこ行ってもいいからせめて制服に着替えて!」
唯「あーあーあー!」
今日から、高校生です!
これから何が始まるんでしょうか、これから何が起こるんでしょうか。
紬「これが電子マネー……」ニヨニヨ
もしかしたら私が起こすのかもしれません!
それぐらい先が見えなくて、でも楽しみです!
またこんな気持ちになれて、すごく嬉しく思います!
律「あぁ、ちょっと待って……」
澪「入学式から遅刻する気か!」
なにか新しいことが始まるような予感。
4年間をこらえた甲斐があるというものです。
これからはきっと、今までを取り返すように楽しい日々が始まるに違いありません!
唯「セーフ! ……あれっ、時計?」
こ、これから、今この瞬間から始まるのですっ!
おしまい
最終更新:2011年03月14日 00:28