澪「なんか悪いな。結局買って貰っちゃって」

唯「だから気にしなくていいってば」

澪「唯は何か欲しいものないのか?」

唯「私?」

澪「うん。唯にも今日の分のクリスマスプレゼント買ってあげるよ」

唯「ン……。じゃあ、アレで」

 私が指差す先には、アイスクリームのお店。澪ちゃんは少し呆れたように笑ってから、
「了解」と呟いた。

澪「お前ってホント、年中アイスだよな」

 二人並んで椅子に腰かけ、冷たいアイスを頬張りながら彼女が言った。

唯「美味しいんだから仕方ないじゃーん。寒い日に食べるアイスは格別だよ」

澪「そんなもんかな」

唯「そんなもんだよ。これにコタツがあれば言う事無し!」

澪「はは。それは家に帰ってからな」

唯「あ、澪ちゃんの一口ちょーだい」

澪「あ、おい」

唯「んー、おいひ~」

澪「む、私だって」

 そう言うと今度は澪ちゃんが私のアイスを一口パクり。

唯「お、やったなー」

 また向こうのアイスを食べ返す。そうやってしばらくお互いのアイスを食べ合っていた。



唯「ふぅ……。次どうする?」

澪「上に楽器店があるみたいだからそこ行こ」

唯「はーい。しっかりエスコートしてね」

澪「任せなさい」

唯「おー今日は自信満々」


 楽器店!

唯「レフティフェア……は、やってないみたいです」

澪「ま、そう都合よくやってるものでもないよ」

唯「ベースはあの辺じゃない?」

澪「あ、ホントだ」

 しばらく並べられた沢山の楽器を二人で眺める。大好きなベースに囲まれた澪ちゃんは
子供みたいに目をキラキラさせていて、今のところギターはギー太一筋で買い変える気も
ない私は、どちらかというとその横顔に見とれていた。

澪「唯! ゆい! これどうかな!?」

唯「え、あ、なに?」

 何やら気に入ったものがあったらしく、興奮気味にベースを構えて見せる澪ちゃん。

唯「ン……。似合ってるとは思うけど……」

澪「けど?」

唯「かわいそうなエリザベス。新しい女が出来たらポイなのね……」

 よよよと芝居がかった泣き真似をしてからかってみる。

澪「なんでそうなる! それに、流石に楽器買うお金はないよ。ちょっと持ってみただけ」

唯「うむ。やっぱり澪ちゃんにはエリザベスが一番だよ」

澪「唯は……もう一生ギー太と添い遂げそうだな」

唯「そりゃーもちろん。ギー太も澪ちゃんもお墓の中まで持っていくからね!」

澪「はいはい」

唯「またそうやって適当にあしらうー」

 私は結構本気なんだけど。



 その後も適当にお店を回っていたら、すっかり晩ご飯の時間になってしまっていた。

澪「そろそろご飯にしようか」

唯「何にする?」

澪「混んでるみたいだし、入れる所でいいよ。ご馳走は昨日食べたしね」

唯「そだね。そこのファミレスにしよっか」


 ファミレス!

唯「私サイコロステーキー」

澪「私は、カルボナーラスパゲティにしようかな。デザートはどうする?」

唯「あ、じゃあいちごのケーキ!」

澪「昨日食べたのにまたか……」

唯「ケーキなら毎日でもおっけーだよ。澪ちゃんは?」

澪「食後はコーヒーだけでいいや。太るし」

唯「じゃあ注文しちゃおっか。ボタン押させてー」

澪「子供か、お前は……」


 食後!

唯「ふう……。食べた、食べた」

澪「ケーキまで入るのかー?」

唯「甘いものは別腹だよー。あ、澪ちゃん、イチゴあげる。メリークリスマース!」

澪「は? むっ……」

 私はショートケーキのてっぺんに乗っていたイチゴを澪ちゃんの口に押し込んだ。

澪「ゆ、唯……?」

唯「ふふ。澪ちゃんだから、特別ね」

澪「~~! ……ったく、お前は!」

 澪ちゃんは顔を真っ赤にして何やらモゴモゴ言っていた。愛い奴め。

唯「えへへ」



澪「もう少し中を見て回ったら、イルミ見に行こうか」

唯「うん。……あ、本屋さんだ。本屋さんもおっきーね」

澪「本屋か……そういえばベース雑誌の最新号まだ買ってなかったな」

唯「買ってきなよ。私待ってるから」

澪「そう? 悪いな」

唯「あ、私が買ってるファッション誌の新しいやつもあったら買ってきてー」

澪「分かったー」

 そういうと澪ちゃんは雑誌コーナーの方へ行ってしまった。私は漫画でも見て来ようか
な。……お、向こうにはゲームセンターもあるのかあ。


澪「お待たせ。1月号でいいんだよな」

唯「ありがと。澪ちゃん、澪ちゃん」

澪「なんだよ」

唯「プリクラやらない? そこに良さそうなのがあったんだけど」

澪「プリクラかあ……久しぶりにいいかもな」

唯「じゃ、とつげ~き!」


 プリクラ!

唯「澪ちゃん表情硬い~。もっと笑って」

澪「そう言われても、久しぶりで加減が……」

唯「思いっきり崩して変顔でもいいんじゃない?」

澪「それはやめとく……」

唯「えー」

澪「あ、ほらもう……」

唯「じゃあこうだ!」

 シャッターが下りる瞬間、私は澪ちゃんの頬にキスをした。

唯「なかなか良く撮れたね」

澪「まったく、なんて事してくれるんだ」

唯「いい思い出になったでしょ」

澪「こんなの、どこに貼ればいいんだよ」

唯「携帯とか?」

澪「みんなに冷やかされるからやだ」

唯「あとでこっそり貼っとこーっと」

澪「お前なー!」

唯「きゃー」



澪「よし、それじゃあイルミ見に行こうか!」

唯「おー!」

唯(ふう。何とか機嫌直してくれた……)

澪「どうした? 唯、早く行こう」

唯「あ、うん」


 イルミネーションスポット!

唯「さむ! 人多っ! それに――」

 それに、すごく――。

澪「綺麗、だな」

唯「……うん。とっても綺麗」

 木々が纏う色取り取りの明かりが、空を、街を、そして私達を照らしていて。まるで、
光に包まれてるみたいだった。昼間降っていた雪は積もることもなく止んでしまっている。
けれど、十分に幻想的なその光景は、私に人工の明かりも捨てたもんじゃないなと思わせ
てくれた。

澪「唯」

 隅の方で二人並んで、しばらくそれを眺めていると、不意に澪ちゃんが口を開いた。

唯「なぁに?」

澪「今日はごめんな。唯、疲れてたのに。私、付き合いだして初めてのクリスマスだからって浮かれちゃって」

唯「ン……。もう、そういうこと言う場所でも雰囲気でもないでしょ」

澪「ご、ごめん」

唯「謝らなくていいってば。今日は楽しかったし、それに、澪ちゃんにエスコートして貰えて嬉しかった……かな」

 いつもは私が振り回してばかりだったから。今日は澪ちゃんの方から率先して私を連れ
回してくれて、家から出て良かったって思えた。

唯「だから、これからも我がまま言ってくれていいよ。その方が、私は嬉しいな」

 澪ちゃんは初め少し驚いたように目を見開いた後、すぐ柔らかに微笑んでくれた。私も
それに答えるように笑いかける。それからしばらく、二人寄り添って地上に輝く星々をた
だ眺めていた。

澪「ほら」

 突然、澪ちゃんが腕――肘の辺りを突き出してきた。

澪「その、周りもカップルだらけだし、してない方が浮いてるって言うかさ……」

 そして、意図を図りかねていた私へ取り繕うように、もごもごと早口で何か言いはじめ
る彼女。冬の夜の白んだ空気に浮かぶその横顔は、サンタさんの服みたいに真っ赤になっ
ている。それで、ようやく察することが出来た鈍い私の口からは、思わず笑い声が漏れて
しまった。

澪「わ、笑うな!」

唯「ふふ。ありがとう。澪ちゃん大好きッ!」

 そう言って彼女の腕に飛びつく。

澪「私も。――愛してる」

(了)



最終更新:2011年03月18日 21:05