※
澪「なんか悪いな。結局買って貰っちゃって」
唯「だから気にしなくていいってば」
澪「唯は何か欲しいものないのか?」
唯「私?」
澪「うん。唯にも今日の分のクリスマスプレゼント買ってあげるよ」
唯「ン……。じゃあ、アレで」
私が指差す先には、アイスクリームのお店。澪ちゃんは少し呆れたように笑ってから、
「了解」と呟いた。
澪「お前ってホント、年中アイスだよな」
二人並んで椅子に腰かけ、冷たいアイスを頬張りながら彼女が言った。
唯「美味しいんだから仕方ないじゃーん。寒い日に食べるアイスは格別だよ」
澪「そんなもんかな」
唯「そんなもんだよ。これにコタツがあれば言う事無し!」
澪「はは。それは家に帰ってからな」
唯「あ、澪ちゃんの一口ちょーだい」
澪「あ、おい」
唯「んー、おいひ~」
澪「む、私だって」
そう言うと今度は澪ちゃんが私のアイスを一口パクり。
唯「お、やったなー」
また向こうのアイスを食べ返す。そうやってしばらくお互いのアイスを食べ合っていた。
※
唯「ふぅ……。次どうする?」
澪「上に楽器店があるみたいだからそこ行こ」
唯「はーい。しっかりエスコートしてね」
澪「任せなさい」
唯「おー今日は自信満々」
楽器店!
唯「レフティフェア……は、やってないみたいです」
澪「ま、そう都合よくやってるものでもないよ」
唯「ベースはあの辺じゃない?」
澪「あ、ホントだ」
しばらく並べられた沢山の楽器を二人で眺める。大好きなベースに囲まれた澪ちゃんは
子供みたいに目をキラキラさせていて、今のところギターはギー太一筋で買い変える気も
ない私は、どちらかというとその横顔に見とれていた。
澪「唯! ゆい! これどうかな!?」
唯「え、あ、なに?」
何やら気に入ったものがあったらしく、興奮気味にベースを構えて見せる澪ちゃん。
唯「ン……。似合ってるとは思うけど……」
澪「けど?」
唯「かわいそうなエリザベス。新しい女が出来たらポイなのね……」
よよよと芝居がかった泣き真似をしてからかってみる。
澪「なんでそうなる! それに、流石に楽器買うお金はないよ。ちょっと持ってみただけ」
唯「うむ。やっぱり澪ちゃんにはエリザベスが一番だよ」
澪「唯は……もう一生ギー太と添い遂げそうだな」
唯「そりゃーもちろん。ギー太も澪ちゃんもお墓の中まで持っていくからね!」
澪「はいはい」
唯「またそうやって適当にあしらうー」
私は結構本気なんだけど。
※
その後も適当にお店を回っていたら、すっかり晩ご飯の時間になってしまっていた。
澪「そろそろご飯にしようか」
唯「何にする?」
澪「混んでるみたいだし、入れる所でいいよ。ご馳走は昨日食べたしね」
唯「そだね。そこのファミレスにしよっか」
ファミレス!
唯「私サイコロステーキー」
澪「私は、カルボナーラスパゲティにしようかな。デザートはどうする?」
唯「あ、じゃあいちごのケーキ!」
澪「昨日食べたのにまたか……」
唯「ケーキなら毎日でもおっけーだよ。澪ちゃんは?」
澪「食後はコーヒーだけでいいや。太るし」
唯「じゃあ注文しちゃおっか。ボタン押させてー」
澪「子供か、お前は……」
食後!
唯「ふう……。食べた、食べた」
澪「ケーキまで入るのかー?」
唯「甘いものは別腹だよー。あ、澪ちゃん、イチゴあげる。メリークリスマース!」
澪「は? むっ……」
私はショートケーキのてっぺんに乗っていたイチゴを澪ちゃんの口に押し込んだ。
澪「ゆ、唯……?」
唯「ふふ。澪ちゃんだから、特別ね」
澪「~~! ……ったく、お前は!」
澪ちゃんは顔を真っ赤にして何やらモゴモゴ言っていた。愛い奴め。
唯「えへへ」
※
澪「もう少し中を見て回ったら、イルミ見に行こうか」
唯「うん。……あ、本屋さんだ。本屋さんもおっきーね」
澪「本屋か……そういえばベース雑誌の最新号まだ買ってなかったな」
唯「買ってきなよ。私待ってるから」
澪「そう? 悪いな」
唯「あ、私が買ってるファッション誌の新しいやつもあったら買ってきてー」
澪「分かったー」
そういうと澪ちゃんは雑誌コーナーの方へ行ってしまった。私は漫画でも見て来ようか
な。……お、向こうにはゲームセンターもあるのかあ。
澪「お待たせ。1月号でいいんだよな」
唯「ありがと。澪ちゃん、澪ちゃん」
澪「なんだよ」
唯「プリクラやらない? そこに良さそうなのがあったんだけど」
澪「プリクラかあ……久しぶりにいいかもな」
唯「じゃ、とつげ~き!」
プリクラ!
唯「澪ちゃん表情硬い~。もっと笑って」
澪「そう言われても、久しぶりで加減が……」
唯「思いっきり崩して変顔でもいいんじゃない?」
澪「それはやめとく……」
唯「えー」
澪「あ、ほらもう……」
唯「じゃあこうだ!」
シャッターが下りる瞬間、私は澪ちゃんの頬にキスをした。
唯「なかなか良く撮れたね」
澪「まったく、なんて事してくれるんだ」
唯「いい思い出になったでしょ」
澪「こんなの、どこに貼ればいいんだよ」
唯「携帯とか?」
澪「みんなに冷やかされるからやだ」
唯「あとでこっそり貼っとこーっと」
澪「お前なー!」
唯「きゃー」
※
澪「よし、それじゃあイルミ見に行こうか!」
唯「おー!」
唯(ふう。何とか機嫌直してくれた……)
澪「どうした? 唯、早く行こう」
唯「あ、うん」
イルミネーションスポット!
唯「さむ! 人多っ! それに――」
それに、すごく――。
澪「綺麗、だな」
唯「……うん。とっても綺麗」
木々が纏う色取り取りの明かりが、空を、街を、そして私達を照らしていて。まるで、
光に包まれてるみたいだった。昼間降っていた雪は積もることもなく止んでしまっている。
けれど、十分に幻想的なその光景は、私に人工の明かりも捨てたもんじゃないなと思わせ
てくれた。
澪「唯」
隅の方で二人並んで、しばらくそれを眺めていると、不意に澪ちゃんが口を開いた。
唯「なぁに?」
澪「今日はごめんな。唯、疲れてたのに。私、付き合いだして初めてのクリスマスだからって浮かれちゃって」
唯「ン……。もう、そういうこと言う場所でも雰囲気でもないでしょ」
澪「ご、ごめん」
唯「謝らなくていいってば。今日は楽しかったし、それに、澪ちゃんにエスコートして貰えて嬉しかった……かな」
いつもは私が振り回してばかりだったから。今日は澪ちゃんの方から率先して私を連れ
回してくれて、家から出て良かったって思えた。
唯「だから、これからも我がまま言ってくれていいよ。その方が、私は嬉しいな」
澪ちゃんは初め少し驚いたように目を見開いた後、すぐ柔らかに微笑んでくれた。私も
それに答えるように笑いかける。それからしばらく、二人寄り添って地上に輝く星々をた
だ眺めていた。
澪「ほら」
突然、澪ちゃんが腕――肘の辺りを突き出してきた。
澪「その、周りもカップルだらけだし、してない方が浮いてるって言うかさ……」
そして、意図を図りかねていた私へ取り繕うように、もごもごと早口で何か言いはじめ
る彼女。冬の夜の白んだ空気に浮かぶその横顔は、サンタさんの服みたいに真っ赤になっ
ている。それで、ようやく察することが出来た鈍い私の口からは、思わず笑い声が漏れて
しまった。
澪「わ、笑うな!」
唯「ふふ。ありがとう。澪ちゃん大好きッ!」
そう言って彼女の腕に飛びつく。
澪「私も。――愛してる」
(了)
最終更新:2011年03月18日 21:05