───桜ヶ丘 大手スーパー 内部本屋
律「きゃふは、やっぱりマンガタイムキララは面白いよな~」
律「…梓のやつ勝手なこと言ってさ。私だってちゃんと……。この先か……」
考えてみたら軽音部のことだけでその先なんて考えてなかったな…。
いや、考えたくなかったんだ…きっと。
律「このまま時間が止まればいいのに…」
グラッ…
律「えっ…」
ゴオオオッ────
律「じしっ…」
少し揺れた後に訪れる強烈な縦揺。
次第に立っていられなくなり必死に何かに捕まる。
怒号さえ遠くなるような揺れの中で……
私は聴いた。
澪「律…、梓…」
心配だ。今まであんな険悪な空気は中々ないだけに心配だ。
手にしている勉強もままならないまま私はただヘッドホンから流れる音楽に身を任せていた。
澪「明日…ちゃんと話し合わないとな。律と唯の進路のことも考えないと」
そう切り分けて勉強に集中し直し、ノートの上に転がっているシャーペンを手に取ろうととした時だった。
ガタタ……
澪「ん…?」
勝手に揺れるシャーペン。
ガタタタタタタ…
それは次第に自らをも震わす振動に変化していく────
澪「じ、地震!? 隠れなきゃ……ッ」
急いで机の下に隠れる。
しかし更に揺れ続ける地震に私は段々気が遠くなり……そして、
聴いた。
──琴吹邸
紬「はあ…」
斎藤「お嬢様。どうなされましたか? 溜め息なんてらしくないですよ」
紬「ごめんなさい。ちょっと考え事を…ね」
斎藤「左様ですか。では、下がった方がよろしいでしょうか?」
紬「……あなたは機械みたいな人ね」
斎藤「よく琴吹様に言われます。自分の父親とは正反対だと」
紬「あなたの父親もここで?」
斎藤「そうらしいですね。もっともかなり前のことなので存じてませんが」
紬「そ…。じゃあいいわ。下がって」
斎藤「はい、お嬢様。何かありましたらまたお呼びください」
そう言い扉を閉める前に一礼。本当に機械の様な人、でもそれが一番楽なのかもしれない…。
何も考えなければ…こんな苦しむことも…。
紬「何考えてるのかしら…私は。軽音部のみんなは何よりも大事で…」
大事? 何よりも? 何で?
……わからない。
紬「りっちゃんと梓ちゃん…仲直りするといいな」
そうじゃないといけない気がする。
軽音部はみんなが仲良しで、みんなが一人一人を大切にしなきゃいけない。
紬「澪ちゃんに電話してみようかな…」
携帯を手に取り、アドレス帳から澪ちゃんの名前を探しだし…かける。
…………。
紬「あれ…? 繋がらない…」
グラッ…
紬「きゃあっ」
突然の揺れに椅子から崩れ落ちる。
紬「地震…! 斎藤! 地震よ! 斎藤!」
返事はない…。
次第に強くなる揺れの中で私はただ床に這いつくばったまま、あの音を聴いた。
──中野宅
梓「何であんなこと言っちゃったんだろ…」
梓「私はただあの二人に早くこの先のことを決めてもらいたくて…」
梓「ただそれだけだったのに…」
明日謝ろう。
梓「音楽続けて欲しいな…」
バラバラの道を選んだとしても…音楽だけは続けて欲しい。
音楽は、私達が繋がってる証だから。
梓「…勉強しよ」
リビングから階段に上ろうとした時、世界が揺れた。
梓「地震…」
すぐ止むと思い階段の手すり掴まるも一向に止まず、
梓「ダメ…………、謝りたいの! お願いだから…………!」
もう自分が立ってるのかどうかもわからなくなった頃に、響き渡る音。
──保健室
夢を見ていた。
いつのことだろう。
私達みんなでただ遊んでる。
みんな楽しそう。
なのに…………
あの音が、全てを奪い去ったんだ────
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────────
桜ヶ丘高校 保健室 PM19:00:01
平沢唯
終了条件1 学校からの脱出
──────────
唯「さっきの音…何だったんだろう」
私はいつまで寝てたのか…いつの間にか外も暗くなっていた。
唯「帰らなきゃ…憂が心配してる」
ゆっくりと慣らすように地面に足をつけ、立ち上がる。
──【ギェギェ…】──
唯「うっ……何……今の」
頭に一瞬過ったそれはまるで誰かの目線を自分が見たような様だった。
唯「…さっき保健室って見え…」
「ハヘァハアッヘーヘッヘッへ!!! ネテナキャダメデスヨオオオオ!!!!!」
唯「ひいっっっ」
カッターナイフを持った白衣の女の人が危なげな表情で近寄ってくる…!
唯「先生…だよね? 危ないよぉ…そんなもの…」
「ゆいチャンハは病気ダカラ手術シナイトイケナイノヨォ?」
カチッ、カチッ、とカッターの刃を出し、それを楽しそうにしてる先生。
顔も真っ青で唇も青白い……とてもじゃないけど正気だとは思えなかった。
唯「わ、私帰ります!」
脇を抜けて帰ろうとした時────
「アアアアアッ!」
ザクッ────
唯「い、あっ……」
振られたカッターナイフで右腕に浅い切傷をつけられる。
唯「あ、ああ……」
本気だ。この人は本気で私を殺すつもりだ。
唯「……あっ…あああ!!!!」
脱兎の様に逃げ出す。人間の本能、一番奥にある死と云う恐怖から逃れる為に。
「ハヤクこっちにおいでエエエエエエエ」
体を反りながら吠える様に鳴いた後、唯の追跡を開始する。
その足取りはもはや人間のもではなく、一歩一歩歩く度に血の様なものが目から流れ出ている。
「ユイチャアアアアアアン!!! ヒャッエッハア」
夢中になって走る…。
誰か…人を見つけて助けてもらおう。
足は自然と職員室に向かっていた。
職員室ならさわちゃんが…!
勢いよく扉をスライドさせ、
唯「さわちゃん! 助けて!!!」
…………
唯「嘘…………」
誰もいない。
電気もついてない薄暗い職員室は奇妙な程に静かだった。
トントン、
唯「えっ」
肩を叩かれ、不意に振り返る。
校長「ヤァ」
唯「校長先生…………も」
校長「コワクナイ…………こっちはスバラシイ世界ダヨ」
目から赤い血を流し、ニコニコと笑っている。
手には自分のものだろうか、ゴルフクラブを握っている。
唯「やめて…………よぉ……」
泣き出しそうな心を抑えつけながら後退る。死にたくない……その一心で体は逃げ場を模索していた。
校長「コッチニオイデェェェェ!!!」
振りかぶられたゴルフクラブを見てようやく私の体は動き出した。
唯「ひゃうっ」
ガシャアアンッ
咄嗟に避けたのが効をそうしたのかゴルフクラブは空を切り、誰かの机を粉砕した。
校長「アヘへ…………ウヒャアアアア!!!」
ブンッ! と目の前をゴルフクラブが通過、
ガシャアンッ───
職員室のガラスが派手に割れる。
唯「ひぃぃっ」
尻餅をつくような体制でなんとかかわす、も、それはかわしたと言うよりただ腰が抜けてしまったと解釈した方が自然だろう。
校長「ウヘアッ………ウウ?」
またゴルフクラブを唯に定めようとするも職員室の窓に引っかかり中々抜けずにいる。
唯「(今の内に……!)」
尻餅をついたまま下がって行くと立ち上がり、職員室を抜け出す。
校長「待てエエエエエエエエエエ」
唯「はあ…はあ…どうなってるの……」
走りながらこの全くわからない状況を整理してみる。
唯「みんな目から血を流してた……考えたくないけど感染病とかかな……」
そう考えた瞬間キュッと胸を締め上げるものがきた。
友達のこと、家族のこと、憂のこと……。
まるで迷ってしまって家がどこかわからなくなったような不安感が押し寄せてくる。
誰もいない、いるのは私を殺そうとするわけのわからない人達だけ。
この世界は一体なんだ。私は……一体どこへ来てしまったのだろう。
駄目……。ここで挫けたら私は多分死んでしまう。
そしたらもうみんなにも会えない……。
思いついたように携帯を開く。
圏外
その二文字に心を折られそうになる。
でも…待ち受けのみんなで撮った写真を眺めていると自然とさっきまでの不安は幾らか和らいでくる。
唯「みんなを探そう…」
生きてる保証はない。だけど生きているのならみんなも同じことを考える筈だ。
唯「まずは学校を出よう」
買い物に行った憂も心配だ。
──【ドコダー??】──
唯「うっ……」
また頭に過る映像。さっき見たのとは違って職員室辺りが映し出されていた。
唯「あの声……もしかして校長先生の目から見えてる景色が私に見えた……?」
何故かはわからない、けれどやってみる価値はあるだろう。
目を閉じ、意識を集中する……。
──【手術シマショウネー】──
これはさっきの保健の先生…。
何を切り刻んでるんだろうか、人形のようなものがズタズタになっている。
更に頭を別のチャンネルに切り替えてみる。
テレビに映っている番組を変える様なイメージ。
──【オーーーーーーイ】──
いた、校長先生だ。さっきよりこっちに近づいて来てる…。
間違いない、これは相手の視界に割り込む能力…!
唯「言うなら視界ジャック…!!!」
唯「これを利用したら上手く逃げられるかも…」
校長先生は今一階の職員室前…、保健室の先生は保健室。
校長先生は動き回ってるから注意しとかないと。
学校を出るだけなら色々道はあるけど…他の先生達もああなってるかもしれない。
なるべく見つからない様に正門は避けよう。
裏門から脱出だ。
どうやら他にはいないようであっさりと裏門にまで辿りついた。
唯「後はここを出て…あっ」
裏門には金色の錠がかかっていた。
唯「もうっ!」
こんな大事な時なんだから鍵ぐらい外しておいてほしいよ!
ここで苛立っても仕方ないので危険を承知で体育館の裏を抜け、正門の方を覗き込む。
唯「誰かいる…」
体育教師「遅刻するヒトはユルシマセン」
木刀のようなものを持ちながら正門のど真ん中に立っている。
唯「正門は抜けれない…」
唯「壁は私じゃ乗り越えられそうにないし…」
私は鍵探しを開始した。
小目的 裏門の鍵の入手
再び職員室の近くのトイレまで戻って来るも……。
──【ウヒャッヒャア】──
唯「どこか行ってよ校長先生!」
トイレの一室で一人作戦会議なのです。
唯「鍵は職員室にかかってる……それは校長先生の視界から確認したけど…」
職員室を出たり入ったし続ける校長先生を何とかしない限り鍵は手に入らない…。
唯「何とか注意を引けないかな…」
唯「……何か音が出せれば…そうだ!」
「来週のゴルフタノシミダナァ……」
ゴルフクラブをひたすら磨いている校長先生。
ガタンッ───
「アヒャッ!?」
隣の教室で大きな音が鳴り響いた。
それを聴いた校長先生は餌の臭いを嗅ぎ付けた野犬のようなスピードで早歩きで音の発信源へ向かう。
「みいいいいいつけたァァァァァァ」
ガラッ
教室の中はただ机が散乱しているだけで、中には誰もいない。
「いるノハワカッテルンダ」
「デテキナサイ」
そのまま扉を閉め、教室の中を物色し始めた。
唯「上手く行った…!」
唯は仕掛けを打っていた。隣の教室に静かに入りこんだ後、机や椅子を重ねる。
なるべく入口近くにして音が響く様に窓も開けておく。
教室を調べビニールの紐の様なものを入手した後、その机の足にビニールの紐を結ぶ。
それをトイレまで引っ張り込み、一気に引っ張た。
重ねた机や椅子は見事に崩れ、盛大に音が響いたのだ。
視界ジャックで校長先生が教室に入った所を確認してからトイレから職員室へ。
唯「かぎぃ~かぎぃ…あった!」
裏門の鍵を見つけると一目散に職員室を脱出した。
カチャリと音を立てて錠が落ちる。
唯「開いた! とりあえず憂を……」
でも闇雲に探して見つかるかな…入れ違いになるのも怖いし…。
唯「家で待とう…。それにもう帰ってるかもしれないし」
そう決めると私は学校を飛び出して自分の家を目指した。
終了条件達成
最終更新:2011年03月19日 02:56