羽生蛇村 入り口付近
PM23:54:49
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ギリギリの終電に飛び乗った甲斐あって何とか今日中にたどり着けそうだ。繋がる可能性が一番高そうなのは異聞にあったサイレンが鳴る時間帯。6時12時18時0時だろう。
元々万に一つに賭けた可能性だが少しでも上げておきたい。
和「ギターって結構重いのね…」
背中に背負った唯のギターのせいでだいぶ体力を消耗させられた。唯にあったらいっぱい文句を言ってやろう。
真っ暗闇の静寂の中、私の足音だけが周りを支配する。風に揺れる葉の音はまるで私を拒むかのように叫びをあげている。
ようやく入り口にたどり着こうと言うところで、不気味に浮かび上がる人型のシルエットを眼孔が捉えた。
和「誰か……いる」
私が言えた義理じゃないがこんな時間にこんな山奥にいる人など正気の沙汰ではないだろう。
私は警戒心を強め、ゆっくりと近づき……、声をかけた。
和「あ、あの…」
「和先輩……こっちにいたんですね。良かった」
和「あなたは確か……」
純「梓と憂の同級生の
鈴木純です。ここにいるってことは先輩も皆さんを助けに来たんですね…」
和「こっちとかあっちとか…詳しく説明してくれるかしら? 鈴木さん」
純「純でいいですよ。ただ時間がないですから、詳しい話はあっちでしましょう」
和「あっちって…」
純「簡単に言えば異界……ですか」
和「それじゃやっぱり唯達は!!!」
純「先輩、時間がありません。この柵を登ってください」
そう言うと純は簡易的に置かれたであろう鉄の柵をよじ登った。幸い高さは全くなく、ただここから先は立ち入り禁止という目印だけに置かれたのだろう。私も後に続き鉄の柵を登り、上に立つ。
純「先に言っておきます。行きはよいよい帰りは怖いです」
和「?」
純「一度入ったら最後、抜けるのは奇跡でも起きない限り不可能ってことです。その覚悟は先輩にありますか?」
和「……あなたにはあるの?」
純「質問を質問で返さないでよ~」
和「そうね、ごめんなさい」
純「って梓によく言われました」
和「……そう」
純「わたしにはあります。その覚悟。絶対に助け出してみせる……梓が私を助け出してくれたみたいに」
和「……じゃあ行きましょうか」
純「聞かないんですか?」
和「詳しくはあっちで……でしょう?」
覚悟なんてとっくに出来ている。あの日みんなを失った日から……!
純「……はいっ!」
腕時計に目を落とす純。
純「00:00:00になったと同時に飛び込んでください! いいですか?」
和「わかったわ!」
5.4.3.2.1...
00:00:00時になったと同時に柵の上から飛び出した。
唯、みんな……待っててね。
今迎えに行くから。
その瞬間世界は暗転し、耳をツン裂くようなサイレンの音が体を駆け巡った。
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──────
??? ???
第三日
AM00:00:01
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和ちゃん…来てくれたんだ。和ちゃんならきっと来てくれると思ってた。
お姉ちゃんを……助けてあげて。
お願い……
私に出来るのはもう……ここまでみたいだから……。
羽生蛇村
第三日
AM00:15:15
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さわ子「ここは……羽生蛇村!?」
気づけばいつの間にかアスファルトは土に、ビルや家は木や森に変わっていた。
さわ子「ついにここまで来た……ここまで来たんだわ!」
逸る気持ちを抑え、冷静に分析する。
さわ子「宇理炎がない状態じゃ死に損ね……。先回りしてどちらかが持って来てくれるのを待つとしましょう」
そう言い、屍人の巣を目指す。
さわ子「頑張ってね、唯ちゃん。みんな」
それが最後の教師である山中さわ子の言葉だった。
羽生蛇村
第三日
AM00:30:00
斎藤
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斎藤「全く……たらい回しとはこのことか」
ま~た戻って来ちまった。まあ慣れ親しんだ土の道が俺には合ってるがな。
斎藤「紬……いるのか」
ドス黒い雲に覆われている空を見上げる。本来なら全く光など入らないであろうはずなのに、不自然に四つぽっかりと穴が開いている。
斎藤「あの時と同じか……急ごう」
斎藤「探すっつってもどこをどう探せばいいのやら」
薄暗い田んぼ畑をただ闇雲に走り回ってみたが、人っ子一人いやしねぇ。
いると言えば……。
「ウヒャヘハッホ~イ」
斎藤「化け物ばかりか」
猟銃を構え、躊躇いなく頭を吹き飛ばす。
斎藤「死にたくても死ねないか」
懐に入っているこいつを使えば楽にしてやれるんだろうが……。
斎藤「悪いな。まだ使うわけにはいかないんでね」
そうしてまた当てのない探し物を捜し始めた。
──
真っ暗だった。どうしてここにいるかもわからない。どうして生きているのかもわからない。どうして私がりっちゃんを……。
記憶にこびりついた焦げを振り払ってみるが一向に消える気配はない。
もう嫌だ……帰りたい……。みんながいたあの世界に……。希望が溢れていたあの世界に…。
絶望したくない…。
これ以上私を苦しめないで…。
紬「お願い……誰か助けて……」
「何やってるんだよ、お嬢」
紬「その声は……」
斎藤「よっ、やっと見つけた」
紬「斎藤……っ!!!」
紬「来ないでっ!!! まだ殺し足りないの!? あなたって人は!!!」
斎藤「なにいってんだよお嬢。帰ろうぜ、屋敷に」
斎藤から差しのべられた手を紬は容赦なくはらい飛ばす。
斎藤「なっ……」
紬「この化け物!!! なんで……なんで守ってくれなかったの……。そしたらこんな結末にはならなかったのかもしれないのに……」
泣きながら項垂れる紬に対して、斎藤はただ黙って隣に座り込んだ。
紬「……」
斎藤「お前が落ち着くまで隣にいるから。なんかあったら言え」
紬「えっ……」
ぶっきらぼうだがいつもの彼とは全く違ったやり方に紬は目を丸くした。
紬「あなた……ほんとに斎藤なの?」
斎藤「ああ、多分な」
紬「でも……全く雰囲気が…」
斎藤「何言ってんだよ、紬」
紬「!!」
この一言で確信する。あの人に無関心な男が人を馴れなれしく呼び捨てしてくるわけがない。だったら……これは誰?
紬「あっ……ああ……」
頭の中に入ってくる記憶の欠片。何で今まで忘れていたんだろう……そうだ……私は、私達は……ここへ来たことがある。
でも……それでも、私は彼女じゃない。それだけは確か。
紬「ごめんなさい……斎藤。あなたの言っている琴吹紬と……私は違うの」
斎藤「は? 何言ってんだよお嬢。冗談も大概に……」
バァンッ───
斎藤「伏せろ!!!」
紬「きゃっ」
斎藤が紬を守るように覆い被さる。
斎藤「ちっ! どっからだ!」
暗闇の向こう側から放たれた弾丸、その持ち主を探すように目を見開く。
斎藤「あんたはここにいろ、いいな」
紬「待って!! 斎藤っ!!!」
終了条件2 斎藤を倒す
とりあえず紬に流れ弾が当たらないようにその場を走って離れる。
斎藤「オラオラこっちだ!」
後は陽動に猟銃をぶっぱなしておけば……
バァン──
斎藤「っとおっ」
ノックが返ってくるわけよ。にしても究極的に視界が悪い……。敵の位置もわかんねぇし……。
斎藤「さてどうすっかな」
思案にふけこもうとすると、
バァン──
バァンッ───
耳元を鉄の塊が通過する。
斎藤「やろう見えてやがるな……」
どんなテクを使ってるのかは知らないがどうやらこっちの位置はバレバレのようだ。
自分だけ目を瞑ったまま喧嘩をするようなもんか……。
斎藤「おもしれぇ」
1 弾が飛んで来た方へ走り込み、姿を確認したところで猟銃で仕留める
2 弾幕を張り、物陰に隠れながら進み、仕留める
3 男なら特攻あるのみ! 駆け抜けて猟銃で殴りつける
※2
斎藤「さすがに相手が見えないんじゃ突っ込むのは分が悪いか……」
しゃあねぇ、弾幕張ってチマチマ進むか。
物陰に隠れては撃ち、そしてまた安全マージンを確保するのをひたすら繰り返す。
斎藤「……」イライライライラ
斎藤「……追ってもあっちが離れてるからいつまで経っても追い付けねぇな……」
しゃなあない。
1 大和魂見せてやるよ!
2 チマチマ行くか……
※1
斎藤「大和魂見せてやるよ!!!」
一気に物陰から隠れると畳み掛ける。
多分その先にいると思われる敵目掛けて全力疾走する。
バァンッ──
バァンッ───
斎藤「っと!!!」
ギリギリをかすれて行く銃弾。
斎藤「今お前怖いだろ!!!! 銃に向かってくる人間なんてそうそういねぇもんな!!!」
そう叫んでやる。あっちにわかるかどうかは不明だが狂人は常人を行動だけで喰らう。
その異質な動きが相手を震わせる、ありえないと。
斎藤「捉えた……!!!」
闇の中に浮かぶ人型をついに眼中に捕らえる。
斎藤「っ……と」
二人同時に構える──
斎藤は走りながら──
もう一人は止まりながら──
一発目、互いに当たらず。
二発目、相手の攻撃はほぼ直撃コースだったが斎藤の天性の勘で撃たれる僅か0.コンマ何秒に首を振り、それを回避。
斎藤も避けるのに必死だった為に二発目を外してしまう。
決着はリロードの早さによって決まることとなった。
もう一人の斎藤のリロードの早さは律のお墨付きで、人間の速度ではないとまで言われていた。
この勝負どう考えてももう一人の斎藤が勝つ、筈だった。
カチャ──
弾倉を開き、そこに、
斎藤「ぺっ」
さっき口にくわえさせた弾を寸分の狂いなく吐き捨てる。
斎藤が構えた頃にようやく弾を込め終えたと云った感じで顔を上げると、斎藤と視線がぶつかる。
斎藤「おせーよ」
バァンッ────
終了条件2 達成
──
紬「……」
斎藤「よっ」
紬「その調子だと勝ったのはあなたの方だったみたいね…羽生蛇村の斎藤さん」
斎藤「勝ち名乗りありがとよ、桜ヶ丘の琴吹紬」
紬「……わかったの?」
斎藤「あぁ。あいつとあんたを見てな。そしてどうして俺があっちに飛ばされりこっちに戻ったりしたのかも大体な」
紬「……多分繋がったのね異界同士が」
斎藤「俺にはよくわからんがそういうことみたいだな」
紬「……あなたの探している琴吹紬は……多分もう……」
斎藤「言うなよ。泣いちまうだろ……」
紬「ごめんなさい……」
斎藤「いけよ、やることがあんだろう。もう一回、次こそは繰り返すなよ……紬お嬢様」
紬「もう助けてくれないの?」
斎藤「二度は助けない主義なんでね、紬以外」
紬「そう。うん……それじゃ行ってくるわね…斎藤」
斎藤「ああ。倅が迷惑かけたな」
闇の中へ消えていく紬をただ黙って見送る斎藤。
斎藤「やることなくなっちまったな」
ドサリとその場に寝転び、星空も見えない夜空を眺める。
斎藤「さようなら、お嬢様」
っと、後一つだけ役割があったな。それまで寝てるとしますか。そうして目を閉じた、何も見えない暗闇が即座に広がった。
最終更新:2011年03月19日 03:16