「ってぇ!!! なんだここ!!?」

後ろの方から聞こえる声にみんなが振り向いた。

紬「斎藤……どうして」

斎藤「よっ。最後にやり残したことがあってな。ほれ」

斎藤は懐から何かを取り出すと紬に向かって放り投げた。

紬「これは……宇理炎!」

唯「なんで二つもあるの!?」

斎藤「俺に聞くなよ。こっちはわかんないことばっかりなんだ。ただ必要かと思ってね」

紬「唯ちゃん、これ」

唯「うん……」

紬から宇理炎を受け取る。すると左右の宇理炎が中心で合わさり、太陽のような形となって赤々と燃えている。

それを手に取り、空に翳す。

宇理炎が二つ重なり、新たに生まれ変わった。

その名も、

唯「憂炎!!!!!!!!!!!!!!!!」

太陽のような眩しい様が、笑った時の憂と一緒だから。

和「唯、これもっ!」

和が唯にギターケースを渡す。

唯「ギー太ぁ! お帰りぃ~むちゅう~」

和「なに行ってるのよ。ギー太の方から迎えに来たんじゃない」

唯「そうでした」エヘヘ

唯「ギー太持って来てくれてありがとね、和ちゃん」

和「次から忘れないようにね」

眼鏡越しにウインクする和に笑顔で応え、ギターケースからギー太を出す。

唯「今こそ宿れ……四つの光!!!」

その瞬間、どこかから飛んできた四つの光がギー太に降り注ぐ。それは白いオーラのようになってギー太を纏った。

唯「行くよ!!! 焔薙ー太!!!」

左手に憂炎、右手に焔薙ー太。

もう、何が来ても負ける気がしないっ!!!

堕辰子「私ガ負ケル……?」

唯「あなたこそが元々ここに来るべき存在じゃなかった!!!! 還れ!!!」

憂炎を翳し、焼き尽くす。

堕辰子「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ」

これが私達が聴く最後のサイレンになるだろう。

唯「いっけえええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

焔薙ー太を振りかぶり、憂炎を纏って堕辰子を切り裂く────

堕辰子「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

その声もやがて聞こえなくなり、堕辰子はその存在を消滅させた。

終了条件2 達成



ピキ、ピキ、

冬の水溜まりに張った氷が割れるような音が響く。

唯「空間が…」

その空間を作っていた主がいなくなった為、維持できなくなっているのだろう。

唯「憂! このままどこかに飛ばされても……消えたりしないよね!?」

憂「……」

憂は答えない。

唯「憂っ!!!」

憂「多分……消えちゃうと思う。私が今こうやって存在出来ているのはこの空間のおかげだから……」

律「そんな……」

澪「憂ちゃん…」

憂「でもね。私はいつだってお姉ちゃんと一緒にいるよ。いつだってそばにいるよ。いつだって、笑いかけてるから」

唯「憂……」

ピキ、ピキ、ピキキ

梓「憂……」

憂「ごめんね梓ちゃん。軽音部……入ってあげられなくて」

梓「ううん。大丈夫。純と一緒になんとかやってくから」

純「うん。梓の面倒は私に任せて!」

梓「逆でしょ!」

憂「うふふ」

梓「ありがとね、純を助けてくれて」

憂「えっ……」

梓「あの時純を外に出してくれたの憂だよね」

憂「……うん」

純「ってことは梓を治してくれたのも憂ってわけだ。 ありがとう、憂」

梓「私たちのこと……唯先輩の中から見守っててね」

憂「うん……っ!」

ピキ、ピキ、ビキ────

憂「こうして喋れるのも後少しか……残念」

唯「憂……」

憂「お姉ちゃんともっと色々なことしたかったな……」


斎藤「なら、すりゃあいい」

憂「えっ……」

斎藤は自分の心臓を親指でつつきながら言う。

斎藤「俺の命を使え。大丈夫だ。赤い水は入ってない。かすり傷一つないからな」

憂「でも……! そんなことしたらあなたが!!!」

斎藤「俺はいいんだ。もう帰る場所なんてない」

紬「斎藤……」


斎藤「さすがに飽きた……」

斎藤「この命も、紬もそうなった方が喜ぶだろうしな」


斎藤「終わらせて……いや、使ってやってくれ」

憂「でも……」

斎藤「迷ってる時間はないぞ!!! そんな荒業出来んのもこの中だけだろう!!! 早くやれっ!!!」

憂「っ……!」




次の瞬間ガラスが割れるような音がし、この世界は終焉を迎えた。



??? ???
???


───────────

真っ白な世界でわたしは、確かに感じ取っていた。
三人の存在を。

唯「ごめんね、待たせて」

───気づくのがおせーよ。全く唯はいっつもそうなんだから

唯「りっちゃん…」

───まあまあ。唯も色々大変だったんだ。許してあげよう。

唯「澪ちゃん…」


───斎藤の命、大事にしてって憂ちゃんに言っといてね。唯ちゃん。

唯「ムギちゃん……」

───私達を、よろしく

最後にそう聴こえた後、わたしの意識はそこから遠ざかった。




??? ???
???

平沢唯一同

───────────
唯「ん…あれ? ここは……」

見慣れぬ防波堤、そして広がる海。

律「んあ……はっ!!! 桜ヶ丘か!?」

次々とみんな起き出し、辺りを確認する。

澪「みたことない場所だな……」

紬「ええ。どこかの島みたい」

梓「あっ! 憂は!?」

憂「いるよ、梓ちゃん」

梓「憂~っ!」
純「無事だったんだね!」
憂「うん。斎藤さんがわたしに命をくれたの…」

唯「大事にしてねって、ムギちゃんから」
憂「……うん」
紬「?」

唯「それにしてもここどこだろ~」

律「澪~わかるか?」

澪「全然…」

紬「どこかの資料で見たことがあるんだけど…どこだったかしら」

唯「物知り和ちゃんならきっと!」

和「私も見たことないわね。ごめんなさい」

律「駄目か…」

唯「憂~、ワープとか……」

憂「出来ないよぉ。もう普通の人間なんだから」

唯「じゃあせめてタケコ○ター」

憂「出ないよっ!」

唯「だよね……」

純「まあ帰ることはとりあえず置いといて、泳ぎますかっ!!!」

唯「賛成っ!!!」


この先にまたどんな絶望が待っていようと、みんなとならきっと乗り越えられる。

どうあがいても絶望な世界なら、それに対抗しうる希望をぶつけてやればいい。

それでももし、また失敗したら……。

それでも何回も何回でも私達はやり直すだろう。


あの頃や、今を思い出して。


おしまい



別エンド




唯「これで全部買えたかな」

手に下げた白いビニール袋にはスーパーで買った材料が顔を覗かせている。

寒い冬空、思い出すのはあの時のこと。


私達があの絶望から脱出してから、3ヶ月が経った。
学園祭をこなし、受験をこなし、後4ヶ月もすればわたしは晴れて大学生だ。

結局大学はみんな別々の場所に行くこととなった。大学に行っても仲間でいよう、そんなありきたりな言葉を言った気がする…。

唯「あ……雪だ」

辛辣と降り注ぐ白く小さな塊。

唯「早く帰らないと……よいしょ、よいしょ……」

重たいビニール袋を一生懸命に抱え、帰路につく。

通いなれた道、それを通るのももう後何回だろうか。後学校へ行くのはもう卒業式ぐらいだろう。

唯「早く帰ってお鍋で暖まろう……」

何かが足りなかった。
みんなも無事に戻って来れた。

学園祭も無事に終わり、受験も全員無事にクリアした。

何も悲しいことなんてない。あの絶望から生き延び、こんなにも幸せな毎日に舌鼓をうってもいい筈なのに……。

唯「うっ……う……」

涙が出た。

時々こうして堪らなく寂しい気持ちに襲われる。とてつもなく大事なものを置いてきた気がする。
わたしという存在がそれを忘れていたのだとしても……。

ピンク色の長めのマフラーは虚しく垂れ下がっている。二人引っ付けば仲良く巻いていけそうな、それくらいの長さ。
でも、わたしにそんな相手はいない。

唯「いない……んだよね」

ようやく家にたどり着いたわたしは雪をはらって中に入った。

唯「ただいま……」

誰もいないのだからこんなものを言う必要もないのだけれど、何故か週間づいている。
鍋の材料を机に置くと、必要なものだけ取り出そうとした。

唯「あれ……」

多い、明らかに一人分じゃなかった。

唯「ちょっと買いすぎちゃったかな……?」

余分な材料を冷蔵庫に押し込めると晩御飯の用意に取りかかる。

唯「作り方は……」

わからない。


なのにどうしてこんなものを二人分も買って来たんだろう。頭がどうかしてるとしか思えない。


残りを黙って冷蔵庫につめた後、わたしはまた寒空の下に出ていった。

唯「」もぐもぐ……

コンビニで買ってきたお弁当を適当に胃に流し込む。
特別美味しいとも思えない。ただ生きるためだけに食べている。

唯「……まただ……わたし……泣き虫だなぁ……」

リビングの床にお行儀よく体操座りしながら涙を堪える。

唯「っ……うあ……なんで……」

わからない。この悲しみがなんで生まれてくるのかもわからない。


唯「……あれ?」

いぶかしげにカレンダーに近づいて見る。

今日は2月22日、そこに何故かあかぺんのはなまるが彩っていた。

わたしはそれを読み上げる、


唯「ういの……誕生日……?」

誰だろう。親戚にそんな子でもいただろうか。友達にもそんな名前は聞き覚えがない。

でも……何故か懐かしい。

憂という響きが……。

とても……暖かい

唯「…………」

それでも、やっぱり何も思い出せない。

2月22日、わたしにとってはただの平日。

ビリッ─────

これが悲しくなる元凶だ、とでも思ったのかわたしはその2月のカレンダーを破り捨て、一足先に2月に移動させてやる。

唯「…………お風呂入ろ」

食べたコンビニの容器をゴミ箱に捨てると、わたしはまた一日を生きるための生活に戻って行った。








最終更新:2011年03月19日 03:26