本当だ。ぼんやりとしか見えないけど確かに痛そうだ。自分の足だけど。

律「学校戻っても、保健室は閉まってるよなあ」

和「大丈夫よ、歩けるから・・・つっ!」

律「一歩だけですごい痛そうだよ。無理しない方がいいって」

和「でもどうしようも・・・」

律「乗りなよ」

 そういうと律は私に背を向けてしゃがんで手を広げた。
 これってもしかしなくても・・・

和「おんぶ?」

律「うん。私が和を背負ってくよ」


和「そそ、そんなおんぶなんて。は、恥ずかしいよ」

律「そんなこと言ってる場合じゃないだろ?
  それに今は生徒はほとんど歩いてないから大丈夫だよ」

 嬉しいんだけど・・・おんぶなんてされたら私の心臓が限界になっちゃう。
 それに背負われてる体勢だと鼓動がもろに律に伝わっちゃうかも・・・
 で、でも律がそこまで言ってくれるんだから仕方ないよね!

和「じゃ、じゃあ頼むわ」

律「よし来い!」

和「じゃあ乗るよ」

律「おう。よいしょっと。意外と軽いんだな」

和「お世辞はいいよ」

律「本当だって。行こうか」

 はあ・・・温かい。律の温もりが背中から直接伝わってくる。
 ドキドキしてるのはもう伝わっちゃってるのかな。
 それで律が私の気持ちに気付いてくれればいいのに・・・

律「足、痛む?」

和「痛くないよ。律のおかげ」

律「いいんだって。元はと言えば今日こうなったのは私が書類忘れたからだからな」

 そうだった・・・私は1つ罪を背負ってるんだ。 
 告白するにしてもしないにしてもそのことを謝らないと一生後悔すると思う。

和「ねえ、律」

律「ここはどっちに曲がればいい?」

和「あ、右で」

律「おっけー。なんか言おうとしてた?」

和「・・・なんでもないわ」

 タイミングを逃してしまった。


 それにしても、律の体温と歩いた時の揺れ具合がなんとも心地良い。
 なんだか眠くなってきたな・・・
 そういえば、昨日も一昨日もほとんど寝てないんだった。
 ごめん、律、ちょっとだけ寝させて・・・





和「うーん・・・」

 この感じは、結構長く寝ちゃったな。あれ、ここは?
 ソファーの上?それに毛布がかかってる。
 私の家じゃないよね・・・でも知ってる場所だ。

憂「あ、和さん起きましたか?」

和「・・・憂?」

憂「お姉ちゃん!和さん起きたよー!」

唯「おー!おはよう和ちゃん!夜だけどね!」

 ここは唯の家だ・・・

和「唯・・・えっと私は」

唯「あのね~。りっちゃんが和ちゃんを届けてくれたんだよ!」

和「律が?」

唯「うん。和ちゃんが足怪我しておんぶしてたら和ちゃんが寝ちゃったんだって。
  それで起こしたら悪いからって知ってる私の家に連れてきたんだよ」

和「そうだったの・・・」

 よく見たら足の怪我が手当てされてる。
 ここまでされてずっと寝てたなんて、どれだけよく寝てたんだ私は。

和「憂、足手当てしてくれたの?ありがとう」

憂「いえいえ。気にしないで下さい」


唯「なんで憂がやったってわかったの?」

和「消去法で」

唯「うー。それどういう意味?」

和「それで、律は?」

憂「律さんなら、和さんを届けた後帰りました。
  今日はごめんって伝えといてくれって言ってましたけど・・・」

和「そうなんだ・・・」

 私も律に謝らなきゃ・・・電話は恥ずかしいからメールでいいかな。
 あ、そういえば

和「・・・唯、律のアドレス教えてくれない?」

 律の連絡先知らないんだった。聞くタイミングを逃しちゃってて。




 唯に律の連絡先を聞いて、律にメールした。内容は今日のお礼。
 本当のことはやっぱり言えなかった。
 外はもう暗くなってきていたから、私は唯の家に泊めてもらう事になった。

憂「今からご飯作りますから、休んでてくださいね」

和「ありがとう。私も手伝いたいんだけど、眼鏡がないから・・・」

憂「いいんですよ。和さんはお客さんですから」

唯「和ちゃ~ん!一緒にお風呂入ろうよ~」

和「足怪我してるから遠慮しとくわ」

唯「ちぇ~」

 明日こそ律に謝ろう。そうしよう。




 夕飯を食べ、唯の部屋に布団を敷いて寝る準備をした。
 何回も泊まってるから慣れたものだ。
 服は唯の物を借りた。ちょっときついけど。

唯「和ちゃん、もう寝ちゃうの?

和「さっきまでたっぷり寝たから、あんまり眠くないかな」

唯「じゃあもっとおしゃべりしようよ~」

和「うん、いつもしてるけどね」

唯「寝る前のおしゃべりは特別なんだよ」

和「まあわからなくもないけど・・・」


唯「寝る前のおしゃべりと言ったら恋のお話だよね~」

和「い、いいよそういうのは。修学旅行じゃないんだから」

 唯の口からそんな言葉が出るとは。唯も年頃なんだなあ。

唯「和ちゃんは好きな人いるの?」

 なんという直接攻撃・・・
 今日のことを思い出してしまうじゃないか

和「い、いない・・・わよ?」

 やばい。ちょっと言葉が引きつってしまった。

唯「その反応。もしかして!」

 唯は妙なところで鋭いんだよね・・・


和「そんなことないって・・・」

 落ち着け。平常心平常心。

唯「教えてよー」

 こうなったら同じ質問聞き返してごまかすか。

和「そういう唯こそ、好きな人いないの?」

唯「私?いるよ」

和「へーそうなんだ・・・え!?いるの?」

唯「なにその反応・・・」


 意外。唯に好きな人がいる上でそんなあっさりと認めるなんて。
 誰が好きなんだろう。ちょっと、いやかなり気になるかも。

和「そ、それで誰が好きなのか聞いていい?」

唯「和ちゃんだよ」

和「へー。和ちゃんって子が好きなんだ」

唯「うん」

 唯は和ちゃんが好きなのか。なるほど。あれ、和ちゃんって誰だっけ?
 えーと・・・いやそれって

和「私じゃん!!」

唯「さっきからノリ突っ込み多いよ、和ちゃん」


和「なんだ。好きってそういうことか。びっくりしちゃった」

唯「そういうことって?」

和「友達としてってことでしょ?もちろん」

唯「・・・」

和「唯?」

唯「和ちゃんのバカ!!」

和「え?え?」

 唯がいきなり私を罵倒して布団を被ってしまった。
 どういうことなんだこれは。


和「あの、唯」

唯「ねえ和ちゃん」

和「な、なに?」

唯「和ちゃんの好きな人ってさ」

和「え、その話は」

唯「りっちゃんでしょ?」

 頭を撃ち抜かれた気分だ。それとも体中に電流が走った気分か。とにかく衝撃を受けた。
 唯に、ばれてた?

和「ち、ちがうわよ」

 口が勝手に否定してしまった。

唯「わかるよ。幼馴染だもん。
  りっちゃんを見る和ちゃんの目、小学生の時好きな男の子に向けてた目と同じだよ」

和「・・・」

 目って。本当に唯は妙なところが鋭い。

唯「認めたくないのはわかるよ。女の子同士って普通じゃないもんね」

和「違うって・・・」

唯「和ちゃん。ある女の子の話、してあげるよ」

和「え?」

唯「いいから聞いて」



唯「あるところに。女の子がいました。その子には、小さい時から仲のいい女の子の友達がいました」

和「・・・」

唯「その友達はとってもしっかり者で、いつも女の子を助けてくれました。
  女の子は、その友達の事が大好きでした。大好きは、いつしか恋にかわっていました」

唯「だけど、女の子はその気持ちを隠し続けました。
  気持ちを友達に伝えたら、お互いの関係が崩れてしまうと思ったからです」

唯「そうやって女の子が自分の気持ちを隠しているうちに、
  友達は別の女の子を好きになってしまいました」

唯「女の子はいまさら友達に気持ちを伝えましたが、
  結局ダメでした。」

唯「もっと早く伝えていれば、と女の子は後悔し、自分の物語を友達に伝える事にしました。
  せめて友達の恋は実るように・・・」

唯「・・・お話はこれで終わりです」


和「唯・・・」

 やっぱり私は馬鹿だ。最低だ。
 自分のことばっかり考えて親友の気持ちに気付いてあげられなかった。
 傷つけてしまった。

和「唯。私・・・」

唯「和ちゃんはりっちゃんが好きなんだよね?」

唯「今の物語・・・」

和「え?」


唯「頷いて!そうしないとそれが和ちゃんになっちゃうんだよ!」
   Nod or it's you


和「・・・!」

唯「今のが和ちゃんの物語になっちゃうんだよ?」



和「・・・ありがとう唯」

和「そうだよ。私、律のことが好き」

唯「うん」

和「唯のおかげで勇気が出た・・・
  明日、律に告白するわ」

唯「がんばって!和ちゃんなら大丈夫だよ!」

和「ありがとう・・・本当に・・・」

唯「えへへ」

 私が今すべき事は唯に謝る事じゃない。
 そんなこと唯は望んでないから。



 次の日の朝早く。私は自分の家に戻った。
 唯の家から近いし交通量も少ないから眼鏡無しで平気だった。
 昨日も律の事を考えてたけど、不思議とぐっすり眠る事が出来た。
 唯の泣く声は聞かなかったことにした。

和「行って来ます!」

 今から学校だ。スペア眼鏡も装備した。

澪「おはよう和。今日は早いね」

和「ええ。ぐっすり眠れたから」

 放課後はすぐに来た。律はメールで屋上に呼んだ。
 ベタな場所だけど、重要なのは場所じゃなくて気持ちだ。


律「お、いたいた。和!」

和「律。来てくれてありがとう」

律「足は大丈夫みたいだな。良かった」

和「あのね、律。謝らないといけないことがあるの」

律「え?」


和「昨日書いてもらった書類、あれは私が捏造したの。
  あんなもの存在しないわ」

律「へ?・・・えっと、なんで?」

和「律と一緒にいたかったから。ごめんなさい」

律「え・・・」

 唯、あなたの物語、絶対に忘れない。
 それにこれからも親友でいてね。
 私も、あなたのように自分に正直になるから。


和「律!」

律「は、はい!?」

和「私はあなたのことが好きです!!」



お わ り




最終更新:2010年01月07日 23:54