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唯「りっちゃんおはよー」

律「う、うむ、おはよう。何も遊ぶときまで迎えに来んでも」

唯「だからー、りっちゃんに会えるなら会いたいの、私は」

律「そっか、ありがとよ」

唯「前はもっとこの台詞に興奮してくれてたのに……」

律「その言い方は誤解を生むからよしなさい!……まあそりゃ馴れるさ、毎日言われてりゃあ」

唯「それは新しい返しがそろそろ欲しいってことだね!任せといて!」

律「ふっ、唯に何言われてもたいしてときめかないよ。同性だし、唯だし」

唯「ちょっと待って二つ目の理由ちょっと待って」

律「だって……唯だし……」

唯「田井中アァァ!ちょっと来おぉぉぉおい!」

律「うるさいなもう、うりゃっ」

唯「へ、ななな何してんのりりっちゃん!」

律「ちょっと来いって言うからちょっと来てやったんだよ感謝しろ」

唯「抱きつけってことじゃないよ!」

律「いつも梓に抱きついてるくせして何今さらカマトトぶってんだいお嬢ちゃん、ぐへへへへ」

唯「ちょっとりっちゃん!もうちょっとで広い道に出るし……人いるし……」

律「……ほらよ、ったく、少しは梓の気持ちが理解できたか」

唯「今度から抱きつくのは校内だけにしとくよ……」

律「それ、校内でなら、私に抱きつかれてもいいってことか?」

唯「へ?」

律「いんや、なーんでーもなーい」

唯「ええー、そういうのが一番気になる!」

律「いいよいいよ、しょうもないことだから。あっ、ほら、手始めにあそこで鯛焼き買おうぜ」

唯「アイスはー?」

律「お楽しみは最後に、それが通ってもんさ」

唯「なるほど!じゃあ私たちアイス通だね!」

律「唯はアイスコレクターでも違和感ないな。ただし蒐集場所は腹の中」

唯「異議あり!それじゃあ私が食いしん坊みたいではないですか!」

律「どうだ唯よ、鯛焼きもなかなかうまいもんだろ」

唯「うん!寒い時期は温かいもの食べるとほっとするね!」

律「ふひい……どうする?映画でも見とく?」

唯「質問よりもふひいが気になってしょうがないよりっちゃん」

律「気にしてもしょうがないからスルーしろ、スルー」

唯「う、うん。……映画かぁ。今って何やってるんだろう?」

律「んー、ドラッグオンボールの実写版、山狗の三作目、のだめフォルテッシモの劇場版、ペリー・ポッティーと純潔のプリンス……」

唯「シリーズものとハリウッドリメイク以外でお願いします」

律「ええー……、じゃあ、ウィンターウォーズでも見る?アニメ映画だけど」

唯「それでいこう!さっそく映画館へ!!連れてってー」

律「却下だ歩けばか」

唯「何と」

律「ポプコン買う?」

唯「何そのカプコンみたいな……うーん、どうしよ、りっちゃんは?」

律「唯が買うなら買う」

唯「ず、ずるいよりっちゃん!」

律「なんでだよぉー。……なあ唯、私が塩、唯がキャラメル買って、分け合わない?」

唯「あ、いいね、それ」

律「サイズはMでいっかな?」

唯「うん、いいよー」

律「あ、ハーゲンダッツ売ってるぞ」

唯「ねえ、なんでそういうこと言うの、りっちゃん。わたし気付いてても意識の外に追い出すよう努めてたのに」

律「え、あ、う、ごめん。だって唯って悶々としてる時、見てて面白いんだもん……。というか、からかうと面白い唯が悪い。全面的に、うん」

唯「えっえっ?えっと、ごめんなさい?」

律「いやーあ、面白かったなー、ウィンターウォーズ」

唯「冬馬先輩が負けそうになったところからの展開にはちょっとうるっと来ちゃったよ」

律「あれがちょっとうるっと来た、だったら唯が大泣きしたら日本沈没しちゃうよ」

唯「うるさいなあ……って見、見てたの!」

律「それは隣であんなボロクソ泣かれたら、なあ」

唯「うう……お恥ずかしい」

律「気にすんな、誰にでも恥ずかしいことの一つや二つ、あるって」

唯「……そうだよね、りっちゃんもケンヂくんが縁側で冬馬先輩の手握ってたところらへんでぽろぽろ泣いてたもんね」

律「そうそうあそ……見、見てたのか!」

唯「それは隣であんなボロクソ泣かれたら、ねえ」 にやり

律「うおおおおおおおおおおおおお!!恥ずかしい!!」

唯「でもなんか、やっぱりっちゃんも女の子なんだなあとか思ったりして、かわいかったよ。……あれ、りっちゃん顔赤いよ?」

律「……やっぱやっぱお前の方が恥ずかしいやつだ、間違いない」

唯「もうお昼だね。どっかで食べようよ」
律「そうだなー、唯は何食べたい?」

唯「何でもいいよ?」

律「んー、そういうのが一番困るんだが……。あ、ファミレスでもいいか?」

唯「いいよいいよー、ドリンクバーで時間潰せるしね」

律「おうよ、もっと褒めろ、崇めろ、奉れ!」

唯「ほらりっちゃん、行くよ」

律「あ、はい」

律「お前……ちゃんとそれ食えよ?」

唯「……うっぷ……。スペシャルテラメガトンパフェ……これほどとは……」

律「せめて料理頼まないでこれ単品だったらよかったのにな……どう見ても一食分のカロリーを一品でオーバーしてそうだもんこれ」

唯「…………ギブ。まじ無理りっちゃん食べて……」

律「私は唯と違って食べたら普通に太るんだぞ?まったく」

唯「そのわりにはがんがんいきますね」

律「ふるはいお」(※うるさいよ)

ファミレスでしばらくだらけたのち、私たちは、カラオケしてみたりウィンドウショッピングしてみたり本屋で立ち読みしてみたり、一心不乱に遊びまわった。
普段は一日で、こんなに多様に遊ぶことは、ない。おそらくは、ストーカー事件に抑圧された鬱憤が、私をそうさせたのだ。
在り方はもはや、逃避に近いのかもしれない。私が何をして遊ぼうと、現実の問題が解決されるわけでは、全く、ないのだから。
しかし、それでも、今だけは。せめて、今だけは。何も考えないで、いたかった。

様々な場所に飛んで、少々疲れてしまった私たちは、先刻買ったアイス片手に、住宅街にある公園のベンチに、二人並んで座っていた。

律「なあ唯……今この瞬間も、誰かに見られてんのかな」

唯「……かもしれないね」

律「じゃあさ、今日一日の瞬間も全部、誰かに見られてんのかな」

唯「……どうだろう。多分、だいたいは」

律「はああ……なんか芸能人になったみたいな気分だな、悪い意味で」

唯「……そうだね」

律「…………」

唯「りっちゃん、こっち向いて?」

律「んー?なん、」

甘い味がした。
唯の顔がすぐそこにあって、唇に柔らかくて、あたたかい何かが、触れている。吐息が混ざり合う。視線が貫き合う。世界が止まる。止まった世界で、私のアイスが、溶けて、地面に落ちた。

律「…………っとおわいああえゆ、唯!!」

唯「何、りっちゃん?」

律「え、えええ?何っていやそっちが何だよ!」

唯「え?りっちゃん今の、知らないの?」
律「知ってるよ!だからだよ!」

律「……誰かに見られてるんだろ?だっ、だったらあんなことしたら……」

唯「大丈夫だよ、りっちゃん」

律「大丈夫ってお前……何もない澪があんな」

唯「大丈夫」

律「……」

唯「ストーカーさんは、他の誰に手を出せても、私にだけは、手を出せないから」

律「え……え?唯……それってどういう……」

唯「そろそろ帰ろっか、りっちゃん。あんま遅くなると、危ないし」

律「…………」
律「……うん」

律「いやー、毎度のことながら、ありがとなー」

唯「いえいえ、いいってことですよりっちゃんさん」

律「今日はさ、久しぶりに思う存分遊んで、楽しかったよ」

唯「うん、私も、すごい楽しかった」

律「……えーとさ……えっと、その……」

私が言葉を出し惜しんでいると、がちゃり、と、後ろから玄関の扉の開く音がした。
音に釣られ、振り返ると、そこには朝と変わらぬ寝間着のジャージ姿を装った、我が弟がいた。

律「お、聡、どしたの?」

聡「いや、ちょっとコンビニ行こうと思って」

律「ふーん、……あ、じゃあ、あれ買ってきてよ、もふもふプリン」

聡「あとで金払えよー?」

律「わかってるって」

唯「二人とも、仲いいねぇ」

聡「……。あっ、えっと……唯さん、ですよね?」

唯「あ、覚えてくれてるんだ、嬉しいな」
聡「……ええ、まあ、それは。いつも姉がお世話になってます」

そう、言いながら聡が、唯に近づいたその時。唯は聡に顔を近づけ、彼の左耳に向けて、小声で何事かを囁いた。
その内容までは聞こえなかったが、唯が囁き終えた瞬間、聡はこれまで私が見たこともないような形相と剣幕で、唯を睨んだ。
私は自分が睨まれたわけでもないのに、たじろいでしまった。にもかかわらず。彼の眼光に射抜かれているはずの唯は、余裕綽々といった風情で、こともあろうか、薄く笑って見せていた。
聡はしばらく唯を睨んでいたが、私の視線に気付くと我に返り、はにかむように微笑んだ。

聡「じゃ、俺はコンビニ行ってくるんで」

唯「またねー、聡くん」

私はまだ先程までの異様な雰囲気に威圧されていて、聡に何も、言えなかった。

唯が帰っても、聡は帰ってこなかった。
近所コンビニは、のんびり歩いても片道10分程度だ。けれど、私と唯が話してた間だけでも、40分はあった。まあどこか寄り道でもしてんのかな、と思い、放っておいた。
結局、聡が帰ってきたのは、21時を回ってからだった。唯が帰ってから、二時間は経過してからの帰宅だ。
当然その頃には、両親は二人で馬鹿騒ぎ。何か事件やら事故に巻き込まれたんじゃないかと半狂乱になり、捜索願いを出そうかなどと暴走しだす始末だった。
親からの質問攻めを軽くいなし自室へと向かっていく聡を、私は階段の途中で呼び止め、夕方、唯に言われたことは何だったのかを問いただした。
しかし、聡は決して私の問いに答えようとはしなかった。埒があかないと思った私は質問を変え、コンビニに行ったあと何をしていたのか、と問いかけた。

聡は、この質問にも厳重に錠を掛け、開けようとはしなかった。
これは何を言っても教えてはくれないな、と悟った私は諦めて、自室で聡から借りた漫画の続きを読むことにした。
何故かその晩は、視線を意識することが、なかった。
昼間に散々遊んだからだろうか。鬱積を発散したために、いわゆる躁状態とやらにでもなっているのか。
清々しさに、不安になる。そんな矛盾した心情を孕みつつも、午前零時を越えたあたりで毛布に身を包まれることにする。
すると、すぐさま疲弊した私の心身は自我を失う。それは、ここ数日待ち望んでいた、平穏だった。


唯「おはよー、りっちゃん」

律「おっす、おっはよ唯」

唯「なんだか調子よさそうだね」

律「うん、昨日さ、久し振りによく眠れたんだ」

唯「おおー、よかったじゃん」

律「でも……なんかな、昨日の晩は変だったんだよ」

唯「……変?どういう風に?」

律「これまではさ、ずっと……って言っても二週間くらいだけど、昼も夜も誰かに見られてる、って意識が働いて、常に視線を感じてたんだ」

唯「うん」

律「けど、なんか……昨日は、そういうのがなくて。視線を感じなくなった、って言えばいいのかなぁ」

唯「へえ……でも私、知ってたよ」

律「へ?」



おわり です





最終更新:2011年03月20日 03:02