律「ひとまず最初の課題は、梓を慰めてあげないといけないことだな」

紬「ちゃんと謝ったら許してくれるかしら……」

澪(えっ えっ? 失敗したの? 梓はどこ?)

唯「あ、澪ちゃん起きた?」

澪「あっ、ああ、さっきから起きてたんだけど今何がどうなったのかわからなくて……」

律「えーとな、かくかくしかじか」

澪「なるほど、それでまるまるうまうまと」

澪「うーん」

澪「それはやっぱり、私たちが悪かった」

澪「梓には謝ったか?」

唯「ううん、今から電話するよ」

唯「許してくれるかなあ……」ピッピッピ

ピリリリリリリリ ピリリリリリリリ プツッ

唯「あれ?」

唯「もう一回」ピッピッピ

オ客様ノオカケニナッタ電話番号ハ 現在電波ノ届カナイトコロニ...

唯「電話に出てくれないよ……」

紬「電源切られちゃったのね……」

律「こりゃあ本気で怒ってるな」

唯「あずにゃんを探さないと……」

唯「私行ってくるよ!!」ダッ


澪「私たちも手分けして探そう!」

紬「そうね、みんなで唯ちゃんのために協力しましょう!」

律「そうと決まったらダッシュだ!」

澪「いや……わたしに一つ案がある」


唯「あずにゃーん! どこー!」

唯「ごめんなさい……謝るから!」

唯「わたしが悪かったの…… お願い、出てきて!」

唯「……あずにゃんっ」ヒグッ

唯「あずにゃん、お願い……」

唯「わたし、あずにゃんがいないと……」

唯「うぇっ ひぐっ」

唯「やりすぎてごめんなさい……ごめんね、あずにゃん」


ガーッ ガーーーーーーッ!

律「……おーい、唯ー!」

唯「りっちゃん?……」

律「唯! ここにいたか!」

唯「あずにゃんが見つからないよ……」

律「ああ、わたしたちも協力する、それより学校に戻れ!」

唯「だめだよ、あずにゃんを見つけないと……」

律「そのために澪とムギが学校で準備してくれてる、唯が必要なんだ」

唯「どういうこと?……」

律「いいから乗れ! 説明は道の途中でする!」

唯「わわっ、これお店のカートだよ、いけないんだよ2人乗りは」

律「そんなこと言ってる場合か! 走るより乗ったほうが速いだろ?」

律「いくぞ!」

ガーーーーーー---ッ


唯「わわわっ 速い!速いよりっちゃん!」

律「カート乗りに関しちゃ結構極めてるんだぜ」

唯「風みたい! わたしたち風になってる!」

律「曲がり角だ! しっかりつかまってろよ!」


――――

澪「さて、これでペイントはよし……」

紬「あとはりっちゃんと唯ちゃんを待つのみね」

澪「うまくいくかな?」

紬「きっとうまくいくわ」

ガーーーーッ ガガーーーーーーッ!

澪「カートの音だ!」

紬「りっちゃんが来たわ!」

律「澪!ムギ! 準備はできたな!」

澪「ああ、バッチリだ!」

律「唯、あとは説明したとおりだ」

律「派手にペイントしたヘリで空から梓を探して」

唯「成層圏から地上へダイブ、だね」

紬「このバッグにパラシュートが入ってるわ」

紬「サイドのトリガーを引けばパラシュートが開く タイミングはこちらから指示するわ」

澪「失敗は……許されないぞ」

唯「大丈夫、絶対に成功するよ」

紬「たとえパラシュートを開いていても落下するときはかなりのスピードが出るの」

紬「少し前までは、着地の衝撃はビルの2階から飛び降りるのと変わらないと言われていたわ」

律「えっ、そんなに」

澪「もっとふんわり降りるものだと……」

紬「最近は改良も進んで性能は向上してるわ」

紬「だけどそれでも、危険なことに変わりはない」

澪「それなら最初に言ってくれれば……」

唯「ううん、やるよ、私」

唯「あずにゃんのためならどんな危険だって怖くないよ」

紬「……そう言うと思ってたわ」

澪「……唯は勇敢だな」

唯「みんなのおかげで気付けたんだよ」

唯「ありがとう、りっちゃん、ムギちゃん、澪ちゃん」

律「へへっ、よせよ照れるだろ」

斉藤「みなさま、心の準備は整いましたか」

紬「ええ、もう大丈夫よ」

唯「斉藤さんもありがとうね」

斉藤「琴吹家の執事として当然のことをしているまでです」

唯「それじゃあみんな、行ってくるね」

澪「気を付けてな」

唯「うん」

紬「頑張って!」

唯「うん」

律「また変なこと言うなよ?」

唯「私の気持ちを素直に伝えるだけだよ」

斉藤「では、ドアに気を付けてください」

バタッ

バラララララララ

唯「わあ、どんどん高くなっていく」

唯「りっちゃんたちがもうあんなに小さくなってる……」

斉藤「人探しでしたらこのくらいの高度が丁度いいでしょう」

唯「あずにゃん、どこかな……」

唯「黒髪の長いツインテール……きっと見つけやすいはず」

唯「学校の近くにはいない、通学路にも……」

唯「電車通学じゃないし……あずにゃんのおうちも電気がついてない」

唯「あっ、よく食べに行ったアイスクリーム屋さん……」

唯「あずにゃんの好きなドーナツ屋さんに、一緒に買い物に行った服屋さん……」

唯「この街が全部見える……」

唯「空から見るとちっちゃいんだね……」

唯「OKOの服を買ってあげたのはあのお店で、そうだ、あずにゃんの誕生日だったっけ……」

唯「あの河原でおばあちゃんのために練習して……ライブハウスにも行ったね」

唯「……!! いた!あずにゃん!!」

唯「こっちだよ! 気づいて、あずにゃん!」


梓「ぐすっ……」

梓「唯先輩、ひどいです……」

梓「いつもいつも勝手なことばかりして……人のことなんて全然考えてなくて」

梓「練習もしないでずーっと遊んでばっかり、受験生なのに上の空で……」

バラバラバラバラバラ……

梓「私の気持ちなんて何も……」

バラバラバラバラバラバラ……

梓「ええい! うるさい!!」

バラバラバラバラバラバラバラ……

梓「……」

梓「随分と派手なヘリコプターです……」

梓「澪先輩みたいにぴゅあぴゅあで……唯先輩みたいにふわふわな……」

バラバラバラ……

梓「……」


唯「もっと!もっと高く飛んで!」

斉藤「これ以上は無茶です、巡航高度を超えてしまいます」

唯「でも成層圏はもっと高いんでしょ?」

斉藤「いくらSA 315B Lamaでも成層圏までは……」

唯「ムギちゃんはこれで飛べるって言ってたよ」

斉藤「それはヒマラヤ山脈の山頂から離陸した際の記録でして、
  地上から12,000kmの高度へ飛び立てるわけではないのです」

唯「そんな……そんなのってないよ!」

斉藤「申し訳ありません」

唯「……できるよ きっとできる!」

唯「頑張れば成層圏まで飛べるよ!」

斉藤「そう風船のようにふわふわとは……」

唯「そんなあ……」

斉藤「……いえ、諦める前に挑戦してみましょう 琴吹家の執事として」


――――

梓「……」

梓「……」

梓「……」

梓「そろそろ帰ろうかな」

梓「……」

ビュオオオオオオオオオオオオオ

梓「……明日はちゃんと部活に行こう」

梓「……」

ビョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

梓「……?」

唯「あぁぁぁぁああずぅぅぅうううううにゃああぁぁぁぁぁぁぁああん!!!!」

梓「!?!?」

ビョオオオオオオオオ……ッッッッ

ズシャアァァァアアアアアア

梓「えっ?! えっ!!」

唯「あずにゃん! 心配したよ!」

梓「唯先輩!? どうして空から……」

梓「あずにゃんがいなくなっちゃって……探してたの」

梓「空からですか?」

唯「ムギちゃんと斉藤さんが協力してくれたの」

梓「……はぁ」

唯「あずにゃん……」

梓「……」

唯「わたし自分勝手でごめんね」

梓「……」

唯「みんなのことちゃんと考えてあげられなくて、ごめんね」

梓「……」

唯「みんなと一緒に楽しくしていたいだけなのに」

唯「わたしが張り切るといつも空回りしちゃうんだ」

梓「……」

唯「本当はね、頼れるカッコいい先輩になれたらなって思ってたの」

唯「どんな危険からもあずにゃんを守ってあげられる、強い先輩になりたかった」

梓「……」

唯「でもあずにゃんがどのくらい怖い思いをするのか考えてあげられなかった」

梓「……」

唯「……先輩失格だね、わたし」

梓「……」

唯「……ごめんね」

梓「……」

唯「……それだけだよ」

梓「……」

梓「……それだけですか?」

唯「あずにゃんにちゃんと謝らないといけないから」

梓「……それだけのために、空から降ってきたんですか?」

唯「……そうだよ」

梓「……」


梓「……くすっ」

唯「?」

梓「ぷっくく」

梓「おかしいです、謝るだけのために何でそこまでできるんですか」

唯「このくらいわけないよ」

梓「いつもそうやって何も考えないで、みんなを笑わせてくれて」

梓「もう、危ないから無茶はしないでくださいよ」

唯「えへへ、怪我ひとつないぜ俺たち、って言うつもりだったのにな」

唯「でも、あずにゃんのためなら死ねるよ」

梓「ダメです、いのちがキケンです」

唯「……みんなはマネしちゃダメだぜ!」


らヴぃ!

おしまい



最終更新:2011年03月26日 22:41