律「あー、もう真っ暗だよ。早く帰らないと」
「ちょいと、そこのお嬢さん」
律「え、私のこと?」
「はい。少し、見ていきませんか?」
律「婆さん、こんなところで物売ってたって誰も見てくれないだろ。……どれどれ」
「どれも素晴らしい品ばかり。是非、なにか買われてみては?」
律「んー……」
律(なんか可哀想だし、一つ安いの買ってやるか)
律「じゃあこれ。これくださいな」
「それは゛大きくなるあずにゃん゛ですな。お目が高い」
律「大きくなるあずにゃん……?」
―――
律「ただいまー」
聡「あ、おかえり。……なにそれ?」
律「これ? 買ったんだよ、変な婆さんから」
聡「よりにもよって人形かよ。変なのー」
律「まぁ、ねぇ……なんかさ、これお湯につけると大きくなるんだって」
聡「昔の夜店とかで売ってたやつみたいだね」
律「そういやそうだなぁ。聡、欲しい?」
聡「いらねぇよ。それより夕飯だってさ」
律「はいよ~」
律(湯船の中に沈めとくか、これ)ス
律母「律ー。お風呂は入っちゃいなさいよ」
律「え~、まだご飯食べたばっかじゃん!」
律母「あんたいつも入るの遅いんだからいいの。ほら、さっさと」
律「ちぇー、はいはい……」
・・・
律「ったく、お風呂ぐらいいつ入ってもいいだろっての」ヌギヌギ
律「……」
ガチャリ
大梓「……」プカ…プカ…
律「……」
律「……」
大梓「……」プカプカ
律「どういうことだよ……」
大梓「こういうことですね」プカプカ
律「とりあえず風呂の中から出て」
大梓「律先輩が出してください。私、力入らなくて」
律(なんなんだよこれ、梓じゃないかよ)
律(ていうかでかくなり過ぎだろ……本物の梓の大きさじゃんか)
律「仕方がない、よいしょ……ってお前、なんかふにゃふにゃしてるぞっ」
大梓「長い時間お湯に浸かってたからですかね……」
律「なんつーもん掴まされたんだ私……インチキ婆さんめ」
律「で? お前これからどうするんだよ」
大梓「どうするもなにも、律先輩次第ですよ」
大梓「飼い主はあなたなんですから責任を持ってください」
律「うるさいやい! 私だってこんなのだってわかってたら買わなかったよ!」
大梓「はっ、責任放棄ですか! なんて人!」
律「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
大梓「とりあえず言っておくと、私は大きくなります。お湯に浸かると」
律「だから?」
大梓「いや、別にそれだけですけど……」
律「~……」
律「ったく、お前がお湯吸ったせいで湯船に全然お湯ないぞ」
大梓「それは申し訳ないです。お詫びに」
律「ん?」
大梓「大したことはできませんが、肩をおもみしましょう」モミモミ
律「いいよ! べちゃべちゃするし、ふにゃふにゃだし!」
大梓「むー……」
律「お前、一体何なんだ。梓なのか?」
大梓「違いないですね、はい」
律「わっけわかんねぇよ……」
大梓「そう言われましてもね」
律「……」ゴシゴシ
大梓「お背中流しましょうか」
律「いいよ。黙ってろ」
大梓「黙ってあなたの貧相な体を見ていてもちょっと……」
律「なんだ!? お前ケンカ売ってんのか!? 自分の体見てからそういうこと言えよ!」
大梓「ふふんっ」ボイン
律「あ……!?」
大梓「胸の部分だけお湯に浸してみました」
律「お湯が減るっつってんだろー!!」
律「だいたい寸胴体系が胸だけでかくたっておかしいだけだよ」
大梓「嫉妬ですか? ええ、ええ、嫉妬するのはタダですからどうぞどうぞ」
律「この……やろっ……」
律「奇乳!」
大梓「貧乳!」
律「だぁーっ、こらぁー!」
大梓「やってやるです!!」
ガチャリ
聡「姉ちゃんなに騒いで……」
律・大梓「!」
聡「失礼しました……!」ガチャリ
大梓「ほーら! 私の胸に興奮してましたよ!」
律「ちげぇよバカたれ!!」
律「とりあえずお前、小さくなれないの……?」
大梓「水に浸れば縮むこともできますが」
大梓「あまり浸りすぎると消滅しちゃいます」
律「思う存分水風呂を堪能してくれ」
大梓「そ、それはあんまりですよ! 律先輩!」
律「だまらっしゃい! ……とりあえず少し縮めてから私の部屋行くぞ」
大梓「不本意ですが……仕方がないですね」
律「なーにが不本意ですがだよ。ったく」
――これが律の最後の言葉になるとは誰が予測できただろうか
大梓「そして、この後待ち受ける怒涛の展開に……」
律「本気で水風呂に沈めんぞコラ」
・・・
大梓「律先輩のベッドふかふか」ポフポフ
律「埃立つからあんま暴れるな!」
律(にしてもアイツどうすればいいんだ……)
律「クーリングオフってあの店効くかな」
大梓「洒落た言葉使わずに返品と言えばいいでしょう」
律「……お前はどうされたいのさ」
大梓「……律先輩と、一緒にいたい……」
大梓「離れたくないです……」
律「お前……」
大梓「って言ってみるテスト」
律「……くたばれ」
大梓「まぁ、なんだかんだで律先輩次第ですよ」
大梓「私ってばこういう品ですし、自分じゃどうすることもできません」
律「まいったなぁ……」
大梓「律先輩は私のことどうしてくれる考えなんです?」
律「いや、どうもこうも」
律(唯にあげたら喜ばれそうだな……)
律「よし、決めた! 明日出かけるぞ」
大梓「はぁ?」
コンコン
律「ん?」
「姉ちゃん、あの……さっきのことなんだけど。ちょっと入っていい?」
律「げ、聡! お、おい! 早く隠れろ!」
大梓「こそこそ」
律「い、いいよー」
ガチャリ
聡「姉ちゃん……」
律「お、おお~、聡ぃ。どうしたの?」
聡「どうもこうもないよ」
聡「さっき姉ちゃんが風呂の中で持ってたやつ……」
律「うん……」ゴクリ
聡「ラブドールってやつだろ……?」
律「……うん?」
聡「ダッチワイフとも言うよね、俺知ってんだよ……」
律「なっ、このっ! なにバカなこと言ってんの!?」
聡「いい! もういいんだよ姉ちゃん……」
律(なに悟ったような顔してんだよ……っ)
聡「姉ちゃんは昔からさ、ああ……普通とは違うんだなぁって思ってた」
聡「でもだからってあんな物を……高かっただろう?」
律「バカ! バカバカバカバカぁっ!! お前そんな目で姉ちゃんのこと見てきたのか!?」
聡「姉ちゃんっ」
律「ふざけんなっ! もうあっち行けよ! 出てけ!」
聡「ああ……」ガチャリ
大梓「とんでも展開ですね。家族会議が起きますか?」
律「うわあああああっ、お前のせいでだよっ、ちくしょう!!」
律「……」シクシク
大梓「……」
律「慰めも、しないのかよっ」
大梓「してほしいですか」
律「うるさぁい……!」
大梓「困りましたね」
大梓「そうだ! ちょっと見ててください」
律「ぐすっ……なんだよぉ」
大梓「ほら、このツインテール。だんだん何かに見えてきませんか?」ブンブン
律「はぁ……なんだよ?」
大梓「これがオチを用意してないんですよねー。いや、参った参った」ブンブン
律「寝るよちくしょうがっ!!」
次の日
大梓「黙って連れて来られましたけど、ここは?」
律「お前が大好きな先輩のウチだよ」
大梓「律先輩の第二のおウチですか?」
律「はぁ? って……お前」
大梓「……ぷひっ」プゲラ
律「少しでも期待しちゃった自分が恥ずかしいよ……ごめんくーださい」ピンポーン
ガチャリ
憂「あ、律さん。お姉ちゃんに用ですか?」
律「うん。まぁ」
唯「あ、りっちゃーん!」
律「おっす。今日はお前にプレゼント持ってきたんだ」
唯「え~! プレゼントー? なにかな、なにかなぁ~」
律(押し付けるようで悪いなぁ、唯。でもこれしか手はないんだ)
律「ほら、これがプレゼ……あれ?」
唯「どしたの?」
律「あ、いや! ちょっ、ちょっと待ってて!」
律(おいおい、なんでさっき後ろにいたのにいなくなってるんだ!)
「きゃー!!」
律「!?」
唯「う、憂! どうしたの!?」
律「どうした!?」
憂「お、お風呂の中に溺死体が……!」
大梓「……」プカ…プカ…
律「 」
律「うちのバカがご迷惑をかけて申し訳ない」
大梓「つい出来心でやりました。だが私は謝らない」
唯「ほんとにあずにゃんそっくりだねー」
憂「う、うん」
唯「それで、りっちゃんはその大あずにゃんを私にプレゼントしてくれるって?」
律「引き取ってくれるか!?」
唯「くれるってならもちろんだよー。だって、あずにゃんだし!」
律「よ、よかったぁ……おい! お前もお礼言わなきゃダメだぞ!」
大梓「むすー」
律「……なんだよ?」
大梓「いえー、別にー」
律「じゃ、じゃあ。そいつのこと頼んだよ」
唯「うん、まっかしといて~! ほれほれ、大あずにゃん」ギュウッ
大梓「わーくすぐったいですよー唯せんぱーい」
律(よかったよかった。これで一件落着だよ)
律「大梓。唯にあんまり迷惑かけるなよ」
大梓「けっ、了解しかねます」
律「……ふん。じゃあな」
唯「りっちゃんばいばーい!」
大梓「……」
唯「あれ……大あずにゃん、泣いてるの?」
大梓「汗ですよ……」
唯「汗かー」
大梓「違いないです」ホロリ
―――
律「うー、あいつがいなくなって清々しい気分だよ!」
律母「あいつ?」
律「あ、なんでもないっす……」
聡「……」
律「……おい、そんな目でこっち見んなよ」
聡「ごめんよ……気が利かない弟でさ……」
律「うぅ……だからそういう哀れみを私に向けんなよぉ……」
律母「そんなことより、あんた今日もさっさとお風呂入っちゃいなさいよ」
律「ま、またかよっ。まだいいでしょ別に」
律母「さっさと!」
律「はーい……ちぇ」
律「……」ヌギヌギ
律(あいつ、唯と上手くやってるかなぁ)
律(きっと大丈夫だよな。なんたって唯と梓なんだし)
律「って、なんで私があいつの心配しなきゃいけないんだか!」
律「それもこれも、あいつのせいだよ」
ガチャリ
律「……」
大梓「……」プカ…プカ…
律「……夢であってくれ」
最終更新:2011年03月30日 23:15