梓「――――あ」

梓「……」

「ちょいと、そこのお嬢さん」

梓「私ですか?」

「ええ、ええ。その通りでございます。お時間がありましたら、少し見ていきませんか?」

梓「わぁ、いろんな物がある」

梓(どれもおかしい感じの物ばっかりだけど)

梓「ふーん……」

梓「お婆さん。なにかオススメを」

「はい、あなたに相応しい品はこれかと」

梓「それは?」

「゛覚めないあずにゃん゛でございます」

梓「覚めないあずにゃん……?」

「お買い上げになられますか」

梓「……いえ、これはいらないです」

「ですが」

「そろそろお疲れになられたのでは?」

梓「……」

「疲れたでしょう? 疲れたでしょう? もういいのですよ」

紬?「ゆっくり、休みましょう。梓ちゃん」

唯?「そうだよ、あずにゃん」

律?「梓、無理すんなよ」

澪?「そうだぞ。さぁ、梓」

梓「ああ、皆さん……」

梓「……」

梓「だめ、それはだめ」

梓「こんなところで終わっちゃうなんてないですよ」

「なぜ?」

梓「私には、たくさんの待っていてくれる人たちがいるんです」

梓「そんな人たちを置いて、無視して、休むなんてないです」

「ほっほっ」

梓「だから゛覚めない゛なんて選択ありえないんです」

梓「私は、この選択をし続けますよ」

「それは゛覚めるあずにゃん゛ですね」

梓「買います。これをください」

「お買い上げ、ありがとうございました」

「またのご来店をお待ちしております」

梓「二度と来ません」


気がつけば私は、ベッドの上に横たわっていた。
体のあちらこちらにチューブを取り付けられている状態で。

目だけを動かして辺りを見回してみると、ここは私の知らない場所だった。

知らない天井。知らない窓からの知らない風景。知らない花瓶。

知ってる顔。

唯「あず、にゃん?」

澪「ああ……!」

紬「うそ……っ」

律「梓!!」

知っている顔だ。みんなみんな。
私の大好きな人たちだ。

梓「……私、長い長い夢を見ていたみたいなんです」

梓「あんまりにも居心地がよくて、ずっと夢の中だったみたい」

梓「でも、やっぱり。皆さんのもとに居る方が心地がいいみたいですね」


ああ、唯先輩。

そんなに強く抱きしめないで。苦しいですよ。

ああ、澪先輩。

そんなに情けない声で私を呼ばないで下さいよ。もっと優しい声でお願いします。

ああ、律先輩。

そんなに喜ばなくても。他の患者さんに迷惑がかかっちゃいますってば。

ああ、ムギ先輩

そんなに泣かないでください。私、笑顔のムギ先輩が大好きですから。

そうか、私は帰ってくることができたんだ。目を覚ますことができたんだ。

よかった。本当によかった。

「「「「おかえりなさい」」」」
4人が揃ってそう言った。

なら、私はこう返すべきなんだね。

梓「ただいまです」



覚めるあずにゃん編  おわり





最終更新:2011年03月30日 23:28