律「……はぁ、しょうがねえな」

そういいながらも、ドラムの準備をしてくれる律先輩、
やっぱり、律先輩は大雑把だけど、優しい先輩だ。

紬(きっと澪ちゃんは、歌詞に想いをのせて告白するのね)

ムギ先輩はまだ私の嘘を信じているようだ。

梓「澪先輩も、お願いします!」

澪「へ?う、うん…別にかまわないけど…」

律「それで、なんの曲をやるんだ?」

梓「翼をください、です」

唯「ええー、私、そんな難しいの弾けないよ?」

梓「大丈夫です、私が弾いて見せますから、それと同じように弾いてください、
唯先輩ならできるはずです」


梓「それから、ごめんなさい、澪先輩、これはお返しします」

私はベースのチューニングをしていた澪先輩に、白紙の入部届けを返した。

澪「そっか…」

悲しそうな顔を見せる澪先輩。

梓「文芸部に入部するまでもないんです、もともと私は、この部室の住人なんですから」

事情を知らない三人は、困惑した顔を浮かべた。

梓「さあ、始めましょう、律先輩、お願いします」

律「はいはい、いくぞー、1,2,3,4!」


律先輩のカウントで演奏が始まる、なんだか不思議な感覚だった、
私の知らない先輩達と、一緒に演奏しているなんて…
だけど、奏でる音は同じものだった…


そんな思考を最後に、私の視界は暗転していった…


……


………

シャリシャリ


何かの音が聞こえる…

私は目を開いた、真っ白な天井がみえる、知らない天井だ…
ここは…どこ…?


憂「あっ、目がさめたんだね、良かった…」


梓「憂…?ここは…?」

ベッドの横では憂がりんごをむいていた。

憂「病院だよ、梓ちゃんは階段から落ちて頭を打って四日間意識不明だった…ってことになってるみたい」

梓「私は、私たちは…戻ってこれたの…?」

憂「うん、梓ちゃんのおかげだよ、ほんとにありがとう」

よかった、戻ってこれたんだ。


ガラッ


病室の扉が開いて、その向こうに先輩達がいるのが見えた。
みんな驚いた顔をしている。

梓「あっ、みなさ…

唯「あずにゃーーん!!」

私が喋るより早く、唯先輩が抱きついてきた。

唯「あずにゃん!目が覚めたんだね!よかったよー」

唯先輩は泣きながら私を抱きしめている。
このあだ名で呼ばれるのもとても久しぶりのように感じる、
ようやく、元も世界に戻ってこれたんだという実感がわいてきた。

澪「梓、よかった…」

紬「もう目を覚まさないんじゃないかって、心配したのよ…」

澪先輩とムギ先輩も、目に涙を浮かべていた。

律「まあ、なんにせよ、目を覚ましてよかったよ」

律先輩はそう言って、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。

梓「はい、ご心配をおかけして、すいませんでした」

律「みんなすっごく、心配したんだからな、罰として梓は三日間練習禁止だ」

梓「ええっ、そんな…」

律「病み上がりで練習させるわけにもいかないからな、梓は部活中は強制ティータイムだ」

そんなぁ… 早く先輩達と一緒に演奏したかったのに…


翌日、無事退院することができた私は、学校への道のりを歩いていた。

純「梓ちゃん、おはよう!怪我の具合はもういいの?」

梓「うん、もう平気だよ、ありがとう」

純「よかったー、心配してたんだよ」

こっちの世界でも、あっちの世界でも、純ちゃんには心配をかけっぱなしだ。
私は心のなかで、あっちの世界の純ちゃんにもお礼を言った。


放課後になり、部室へ行くと、そこには憂の姿もあった。

梓「憂、どうしたの?」

憂「あ、梓ちゃん、みなさんの演奏を聞かせてもらおうと思って」

憂「これからは、時々ここに来させてもらうことにしたの」

紬「憂ちゃんなら、いつでも大歓迎よ」

憂「ありがとうございます、紬さん」

憂は楽しそうにそう話した。

しばらくの間、いつも通り、みんなでティータイムを楽しんだ後、
律先輩が席を立って言った。

律「よし、じゃあそろそろ始めるか!今日は観客もいることだし、気合入れていこー」

律先輩がそう言うと、先輩達は準備を始めた。
私は部長様から練習禁止を言い渡されているので、
今日は憂と一緒にオーディエンスだ。

律「いくぞー、1,2,3,4!」

律先輩のカウントを合図に、先輩達の演奏が始まる。

やっぱり、四人そろうとすばらしい演奏になる。
私も一緒に演奏したくてうずうずしたきた…がまんがまん。


唯「ういーどうだった?」

憂「かっこよかったよ!おねえちゃん!」

そう嬉しそうに話す憂、よかった、この様子なら、もう過去に戻りたいなんて思うことは、きっとないだろう。


三日後、私はわくわくしながら学校へと向かっていた。
今朝は全員そろって朝練をすることになっている。
今日からまた一緒に練習できる、楽しみだなぁ。

私は失ってみて初めて、この日常の大切さに気づくことができた。
これからは、もう二度と失わないように、この日常を大切にしていこう、
そんなことを思った…

梓「おはようございます」

私は部室の中に入り、あいさつをした。

まだ来ているのは澪先輩だけのようだ。
澪先輩は、なぜか今日は律先輩の席に座っていて、本を読んでいた。


ん? 本??

なんだかいやな予感がした……

いやいや、そんなまさか……

私はおそるおそる澪先輩の顔を見た。

澪先輩は、驚いたような、困惑したような表情で、こちらを見ていた。


なんで、なんでそんな顔をしてるんですか…
まるで、知らない人が急に部屋に入ってきたみたいな………

私がそんなことを考えていると、
澪先輩はパッと表情を明るくして、こう言った。

澪「あっ、もしかして、入部希望の人とか?」

激しいデジャブが私を襲った。

梓「なに言ってるんですか…?澪先輩…」

澪「?どうして、私の名前を?」

知ってるの? とでも言いたげに、首をかしげた…


やめてくださいよ… 天丼なんて、澪先輩のキャラじゃないですよ…

私は思い立って、ホワイトボードを乱暴にひっくり返した。

初めて見つけたときはうれしくてしょうがなかったのに、今はこのメッセージが恨めしい…
そこには、こう書かれていた。



プログラム起動条件・鍵をそろえよ・最終期限・四日後


………


私は自分の教室まで走った。
ドアを開けると、求めていた人物の姿が、そこにあった。

梓「長門さんっ!!」

私が名前を呼ぶと、長門さんは読んでいた本を閉じ、こちらを向いた。

梓「長門さん、これは、いったい……」

私が尋ねると、長門さんは、いつものように淡々と言った。

長門「昨日、ある生徒が、涼宮ハルヒに悩みを相談した、内容は、平沢憂のものと、ほぼ同様のもの」

私はおそるおそる尋ねた。

梓「その……生徒って…」

長門さんは、相変わらずの淡々とした口調で、その名を告げた。


長門「真鍋和




憂「梓ちゃーーん、大変だよーー!!」


憂がそう言って、教室に駆け込んできた。
息を切らしながら、慌て気味に言う。


憂「今朝おきたら、お姉ちゃんと和さんが、東京の全寮制の高校に通ってることになってて……」



私は頭を抱えながら、考えた……


ああ、また二人を探しだして、部室まで引っ張ってこなくては………

だけど…

梓「今度は…東京……か………」


はたして、四日で間に合うだろうか………


おわり



最終更新:2011年04月01日 05:03