純視点
澪「純にさ、告白OKしちゃったんだ」
澪「でも、良く考えたら、そんなに簡単に答えだしたこと、後悔してさ」
澪「律の顔が、浮かぶんだよ」
澪「私はさ、梓の言ったとおり、鈍感なんだけどさ、わかったね」
澪「皮肉なことに、告白にOKした後にさ」
澪「私、律のことが好きだったんだなって」
扉越しに、私は聞いていた。
悲しくない、と言えば嘘になる。
現に私は、涙が浮かんでいる。
やっぱり、聞かなきゃよかった。
でも、聞かないと駄目なんだ。
真実を、正面から受け止めないと。
……私は、知っていたんだ。
澪先輩は、律先輩が好きだってこと。
だめもとで、告白した。
澪先輩の、本当の気持ちを、その口から聞きたかった。
帰ってきたのはYESの返事。
でも、その言葉を澪先輩が言った後、すぐに浮かべたあの表情。
悲しむような、表情。
私はそれを見て、確信してしまった。
口から告げられなくても、判ってしまった。
澪先輩は、気づいてしまったのだろう。
律先輩のことが、好きなんだって。
澪先輩は、どこまでも鈍感だから、いままで自分の気持ちにすら気づけなかったんだろう。
その気持ち、慕情を気づかせてしまったのは、誰でもない、私。
でも……私は、澪先輩が幸せなら、それでいい。
だから、私は澪先輩をあきらめよう。
そっちのほうが………澪先輩にとって―――。
私は、ずず、と鼻をすすり、ドアノブに手をかける。
あいた手で涙を拭って、私はドアを開いた。
きいいい、と、もの寂しい音がした。
紅茶の香りが、少し、気分をやわらげてくれた。
純「わかり、ました」
笑顔を浮かべられるよう、頑張った。
澪「……、聞いて、たのか」
純「覗き見はしてないから、ご安心を」
そういうと、梓がきっと、こちらを睨んできた。
純「それはそうと、いいですよ」
澪「な、何がだ?」
純「振るんでしょう? 私を」
澪先輩は伏目がちに言った。
澪「―――悪い」
それが少し、心を痛めた。
純「いいですけど、代わりに……」
澪「キスか?」
純「いえ。そしたら澪先輩、初めてになっちゃうでしょ? 初めては、本当に好きな人と……」
私はキスじゃなくていい。
私はもっと、簡単なものでかまわない。
純「キスじゃなくて、好きだよって、言ってください」
純「それで、諦めますから」
私は小さく、笑みを浮かべた。
自嘲でもなんでもない、純度120%の笑顔。
澪視点
純「キスじゃなくて、好きだよって、言ってください」
純「それで、諦めますから」
私はその言葉を聞いて、少し躊躇った。
純は、知っているのだ。
私が、本当に、純を好きではないと言うことを。
私が好きなのは……律、だと言うことを。
純は、笑みを浮かべた。
その笑顔に、私は少し、罪悪感を覚えた。
残酷なことを、している……。
しかし、その願いを無視することは、出来なかった。
澪「純……大好きだよ」
気恥ずかしい。けれど、私は精一杯の気持ちを込めて、口にした。
張りぼての言葉だと、知られているけど。
虚像の言葉だと、知られているけど。
仮構で空虚な台詞だと、知られているけれど……。
純は嬉々として、言う。
純「――嬉しいです。告白されたときより、ずっと」
澪「……ありがとう」
私は、何故かお礼の言葉を紡いでいた
レモンティーを、私は一気に飲み干した。
梓視点
私はその光景を見ながら、何と純に言おうか迷っていた。
ごめんね、と言おうか。
それで、果たしておさまるのだろうか。
いや、それでも。――謝っといたほうがいいだろう。
梓「あ、あの、純。さっきは、死ねとかいって、本当に――」
純「私のほうこそ、ごめん」
梓「―――……え?」
純「私、梓の気持ち、全然考えてなかった」
梓「そ、そんな、悪いのは、私……」
純「じゃあさ、お互い様ってことで。水に流そうよ!」
純「何もなかった、ってことにしようよ」
私は、考えるよりも早く、語を継いでいた。
梓「―――うん、そうだね」
レモンティーは、少し、温い。
梓「そうだ、純。澪先輩の淹れた紅茶、飲んでみない?」
純は静かに、頷いた。
澪「お、いいな。淹れてくるよ」
澪先輩が席を立ち、ちょっと待ってろ、と言い残して準備室へ向かっていった。
私はローズヒップティーを飲み干した。
すこし甘い。
and more …
エピローグ① 梓視点
翌日の放課後。
けいおん部には、私しか居なかった。
澪先輩がいなくて少し残念だった。
私ははあ…、と落胆のため息を吐いた。
狙い示したかのように、唯先輩がやってきた。
唯「あれ、あずにゃんひとり?」
梓「はい。そうみたいです」
唯「ふーん」
梓「そうだ、唯先輩」
唯「ん?」
梓「昨日、突き飛ばしちゃってごめんなさい……本当に」
唯「いいよー。私にも落ち度はあったしね」
梓「……許してくれますか?」
唯「もちろん」
唯先輩は天使のような笑みを浮かべる。
梓「あ、あともう一つ……言いたいことがあるんですけど」
唯「なーにー?」
言うのはとても、恥ずかしかった。
自分でも、顔が赤く紅潮するのがわかった。
梓「……私も、少しだけだけど、唯先輩のこと、好きになりました」
唯先輩は、はっとした顔つきになって、すぐ、えへへーと笑った。
唯「ありがと。あずにゃん」
唯先輩は目を細める。
こうして見ると、意外と可愛い。
かも、しれない。
――――
エピローグ② 純視点
憂「はい、純ちゃん差し入れだよ~」
珍しく、部室に憂がやってきた。
純「お、サンキュー」
憂が渡してきたのは、ミスドの箱だった。
早速中を開くと、色とりどりのドーナツがある。
後輩達のとこに持って行こうと―――、憂が「待って!」と、私の制服を、ぎゅっとつかんできた。
純「な、何…?」
憂「あ、あのさ――」
憂はすう、と深呼吸をした。
顔が赤くなってる。
憂「放課後、ここで待っててほしいなーって」
純「え?」
憂「言いたいこと、あるんだ」
憂は「駄目?」と上目遣いで聞いてくる。
私は小さな、デジャヴを感じた。
私も同じようなことを、澪先輩に頼んだ気がしたから。
純「――うん、いいよ」
迷いなく、私は答える。
弦楽器の音が、少しうるさかった。
――――
エピローグ③ 澪視点
あの日から、律のことばかり頭に浮かんだ。
律のことに、囚われた。
そう、私は恋を知った。
そして、今日、告白するのだ。
机の中に、差出人不明のラブレターをいれておいた。
授業中、律が開いてるところをみた。
屋上に来てください、実に判りやすい誘い文句。
そして、今。純の気持ちを実感しながら、屋上で律が来るのを待っていた。
がちゃり、と屋上のドアが開かれて、私はドアのほうを見やる。
姿を現したのは
頭に包丁の刺さってる、律
澪「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
私は驚いて驚いて驚いて驚いて驚いて驚いて驚いて驚いて叫んだ。
律「へへー、やっぱり澪か」
律は朗らかに笑う。
私は心臓をバクバクさせながら、律を見据える。
澪「お、脅かすなよ」
律「ごめんごめん」
律は、作り物の包丁が突き刺さっているカチューシャを外した。
律「いいだろー、作ったんだ」
澪「律なあ! ……それはそれとして、何で私だってわかったんだ?」
律「お前の字なんて、見慣れてるんだよ」
澪「――そうか」
その台詞が嬉しかった。
律「ああ。で、あれだろ。告白」
澪「そのとおりだ、な」
律「よし、私の返事をあてたら、キスしてやる」
澪「………二択か」
律「二択だ」
私は、一切のためらいをなくして、答えた。
そうであると、信じたい。
澪「YES?」
私が言い終えるのと同時、律が詰め寄ってきて―――、
ちゅっ
そんな擬音がしたような、気がする。
律「あ・た・り」
律は得意気な笑みを浮かべた。
澪「」
私は頭が真っ白になった。
この前もこんなこと、あったような……。
あの時は、未遂か。
律「唇のバージン、奪われたな。私も澪も」
そう言って、律は再び破顔した。
律「これからもよろしく、澪。もちろん――『恋人』としてな」
そういいながら、律は手を差し出す。
白くて柔らかそうな律の手を。
私はしっかりと、握った。
澪「―――ああ」
そう言うと、律はまた、へへーと笑った。
空は、相変わらずの青空だった。
私はこの日の青空を、一生記憶にとどめておきたいと思った。
fin…
最終更新:2011年04月01日 06:14