私は唯のお腹の方に向き直した

太ももの上でもぞもぞと動いたからか
唯はくすぐったがり色っぽい声を出した

澪「ごめん」

唯「えへ、変な声出ちゃった」

本気で恥ずかしがる唯は珍しく、とても可愛かった

澪「可愛い声だったよ」

唯「む、いいから澪ちゃんはまだ寝てなさい」

私は「はいはい」と空返事をして目を閉じた

放り出した私の片手を唯が握ってくれた

私もその唯の手を握り返した

唯の温かさが伝わってくる

そして空いている方の手で私の頭を優しく撫で始めた

なぜこんなに落ち着くんだろう

唯は今、ママのような優しい表情を浮かべているのかな

さすがはお姉ちゃん


ふと目を開けてみると唯のジーパンの社会の窓が空いていた

今日一日これだったのだろうか?

オレンジ色の可愛いパンツが顔をのぞかせている

澪「唯」

唯「なぁに澪ちゃん」

優しい声で唯が返事をする

とても言いにくい

澪「オレンジのフリフリのやつ…」

唯「ほぇ!?」

私は唯が直しやすいように起き上がってその一点を見つめていた

唯は慌てて直したがバツの悪そうな顔をしている

顔をあげてきた唯と目があった

唯「教えてくれてありがと…」

澪「どういたしまして」

少しの間微妙な沈黙が流れる

この沈黙を私たちは同時に破った

「お昼食べよ?」

私たちはクスクスと笑いながらレストランへと向かった

唯がオススメはオムライスだと言うのでオムライスを頼んだ

たしかに美味しかったけど血の味が混じってあまり味わえなかった

唯「次はどこに行く?」

ほっぺに米粒をつけるお約束とともに唯は聞いてきた

澪「じゃあ記念にプリクラなんてどうだ?」

唯のほっぺの米粒を取って自分の口に運びながら答えた

唯「澪ちゃん、目真っ赤で髪の毛ボサボサだけどいいの?」

澪「せっかく唯と来たんだし記念にな」

  「それに誰にも見せないし」
唯「決まりだね、レッツゴー!」

私が寝ていたせいで時間が詰まっているのだろうか唯は急ぎ気味だ

澪「唯、そんなに急がなくても大丈夫でしょ」

唯「だって澪ちゃんとたくさん遊びたいし」

澪「そ、そうか嬉しい」

唯はこの遊園地の施設をすべて把握してるのではないかというくらい迷わなかった

今日のためにどれだけ準備してくれてたか伝わってくる

これは私が思い描いてた理想のデートだ



唯は二枚目を撮っている時、私のほっぺにキスしてきた

澪「わっ!」

マヌケ面をした瞬間にシャッターが落ちた

唯「びっくりした?」

澪「うん」

唯「じゃあ次は澪ちゃんの番だよ」

澪「え? 私も?」

唯「おねがい、ちゅーして?」

今日、いろいろしてくれた唯のおねがいならやるしかない

私が自分からキスをするのはほっぺも含めて初めてだ

澪「いくよ唯」

唯「うん」

そして私は初めてのちゅーをプリクラに撮られた

そのあとはエアギター、エアベースなどしてふざけあった

そうこうするうちに撮り終わり落書きの時間だ

唯「落書きも楽しみだね」

澪「あんまり変なこと書くなよ」

唯「大丈夫♪大丈夫♪」

澪「本当だろうなー?」

唯「もちろんだよ」

『泣き虫澪ちゃん』

澪「言ってるそばから唯は…」

唯「だって泣き虫澪ちゃん可愛かったんだもん」

澪「うるさいっ、仕返しだ」

『↓オレンジパンツ』

唯「わわっ、止めてよ澪ちゃん恥ずかしい…」

澪「誰にも見せないんだしいいだろ?」

唯「むー、じゃあこれでどうだ」

『しましまパンツ↓』

澪「なっ、唯いつ見たんだ?」

唯「え? 本当にしまパンなの?」

澪「う、うん…」

こんな調子で落書きを続けていき

唯「じゃあそろそろ落書きおしまいにしようか」

澪「そうだな次はどこに行く?」

唯「最後になりそうだから観覧車は?」

澪「それでいいよ」

唯「よしじゃあ落書き終了…」

澪「ちょっと待って…」

『ファーストキス』

澪「はい、いいよ」

唯「初めてだったんだ」

澪「うん」

唯「澪ちゃんありがと」


澪「どういたしまして…さ、行こう」

唯「こっちだよ」

唯に手を引かれて観覧車へ向かう

しかしさっきまで温かかった唯の手が心なしか冷たかった


観覧車には向かいあって座った

唯「今日は疲れた?」

澪「うーん、疲れたけど楽しかったかな」

唯「それならよかった…」

澪「唯は?」

唯「私は澪ちゃん…うん、楽しかったよ」

観覧車に乗ってから唯の様子がどうもおかしい

澪「唯、何かあったか?」

唯「別になんでもないよっ」

澪「さっきから変だぞ?」

唯「そうかなー?」

澪「言いたいことがあるなら言ってくれよ」

唯「まだ…言えない」

まだ?

澪「わかった…」

頂上が近づいたときようやく唯が口を開いた

唯「澪ちゃん! 今日はありがとう」

澪「お礼を言うのは私の方だよ」

唯「ううん、私は澪ちゃんと一緒にいるだけで楽しいんだ」

澪「私もだよ唯」

唯「私…好きなんだ」

澪「え?」

唯「澪ちゃんのことが好き」

澪「私も好きだよ唯のこと」

唯「よかった…」

澪「当たり前だろ、唯。 何をいまさら…」

唯「でもそれは友達としてでしょ?」

澪「え、あ、うん」

唯「私は女の子が好き… つまり同性愛者的な意味で言ったの」

澪「あ…」

このときの私はどんな表情をしていたか思い出せない

あまりの衝撃に固まっていただけなのか

それとも引いた態度をとっていたのか

とにかく思い出せない

気まずい、重い空気が観覧車の個室を埋めつくす

しかしこの沈黙を唯が破った

唯「…な、なーんてね! 嘘だよ澪ちゃん!」

澪「嘘…なの?」

唯「今日はエイプリルフールだよ」

澪「そうだったのか」

唯「あ、でも澪ちゃんが好きなのは本当だからね!」

澪「うん、ありがとう」

唯「澪ちゃんあの夕日見て! 綺麗だよ!」

澪「うん、さっきから綺麗だな…」

唯「ほら!もっとちゃんと見てみな…ぅ…」

澪「ああ…」

―――――――――

――――――

―――

もしかしてあの時の唯も私と同じ嘘を?

思えばあの時の唯は私に泣いてるところを見られたくなかったのかもしれない
今の私のように…

そしてあの時、泣き声のような嗚咽も聞こえた気がしないでもない


あの日を境に私は唯をただの友達として見れなくなったのか…

想いが募っていく過程で最初を忘れてしまうとは…

だとしたら私は唯に最低な嘘をついたことになる

私の告白を聞いて唯が戸惑うのも当然だ

唯からしたら一回フラれてるも同然の私から告白されたら
それはどうしていいかわからないだろう

きっと私もそういう反応をするはずだ

とにかくもう一度唯に会って嘘っていうのは嘘だと言わないと…

私は部室のドアを荒々しく開け走り出した

「唯!」「唯ー!」

・・・・・・・・・

学校中探し回って声も枯れ果て諦めて帰ろうと玄関へ向かった

「うっ…」

そこにはうずくまって泣いている一人の女子がいた

その女子は私に気づいたのか泣き腫らした顔をあげて言った

唯「澪ちゃんと帰りたいから待ってたの」

唯は私が泣いてるのをわかっていたのかな?

だから一人にしてくれたのかな?

とりあえず今は伝えなきゃ



澪「嘘っていうの…嘘だよっ!」


唯「澪ちゃん2回嘘ついたね」

澪「うん…」

唯「私も嘘ついていい?」

澪「いいよ」

唯「去年の観覧車の中でついた嘘…嘘だよっ!」

澪「大嘘つきだな唯は…」

唯「澪ちゃんだって…」

それから私たちは赤子のような泣き声をあげて
落ち着くまでお互いを抱きしめ合った







      ~ END ~



最終更新:2011年04月02日 23:06