澪「いいか、唯?お前は…、お前の記憶がもつのは日曜日までなんだ」
澪「日曜日を過ぎると全てを忘れるんだ」
唯「…嘘」
澪「メモを見るまで自分の名前すら覚えてなかったろ?」
唯「嘘だよ、嘘だ嘘よ嘘嘘嘘」
澪「………嘘じゃないよ、唯」
唯「うあああああああああああ!!!そんな!そんな!!!日曜日で、今の私は死んじゃう!」
澪「死なないよ!!!」
唯「今の私の人格が無くなるなら、何も覚えてないんだったら今の私は死んだも同然じゃん!!!」
澪「…違う」
唯「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁ」ポロポロ
紬「…唯ちゃん」
律「………唯」
律「泣き寝入りしちゃった」
唯「………ぐすん」
澪「私がおぶっていくよ、唯には悪いことしちゃった。まさかここまで唯にとってショックだったなんて」
律「澪のせいじゃないよ」
紬「そうよ、こんな言い方したくないけど、良くも悪くも月曜日には何も覚えてないんだから」
澪「………悪いことに決まってるよ」
平沢家
ピンポーン
憂「うう…眠い、誰だろこんな時間に」
ガチャ
憂「はーい」
澪「やぁ、憂ちゃん」
憂「みなさん、それにお姉ちゃん」
憂「やっぱり…、気づきましたか、お姉ちゃんも」
澪「ごめん、私が唯の為だと思って唯に教えたんだ。ここまでパニックになるとは思わなかった。ごめん」
憂「仕方ないことです、それに誰のせいでもないですよ」
憂「とりあえず上がってください、時間大丈夫なら」
澪「………」
律「澪!」
紬「澪ちゃんらしくないわよ」
澪「そうだな、上がらせてもらうよ」
憂「実は前にも似たようなことがあったんです」
澪「え?」
律「そうだったのか」
憂「お姉ちゃんが高校に入学する前日に、両親がもう唯も大人だろうからって話したんです、お姉ちゃんの幼馴染みの和さんも呼んで、日曜日の晩に」
憂「そしたらお姉ちゃん、もうすぐ私は死ぬって泣き出して…」
澪「今回と一緒だ」
憂「その日から両親は逃げるようにどこかへ行きました」
紬「そんなことが…」
律「やっぱり生まれつきなの?」
憂「いえ、お姉ちゃんが小さいとき、三歳のときだったかな?45度の高熱を出したんです」
澪「な…」
憂「両親も…、医者ももう駄目だと諦めかけてたんですが」
憂「奇跡的に熱は下がりました」
憂「しかし、高熱を出したときに脳の一部が溶け出したみたいで」
憂「1週間毎に記憶をリセットしないと脳が容量オーバーでパンクするみたいなんです」
律「そんな話が…」
澪「………そんな」
紬「………」
律「………」
憂「この話を知っているのは家族と和さんとあなたたちだけです」
憂「ただ、いつかはお姉ちゃんにも知ってもらわなきゃ駄目だと思うんです」
憂「ちゃんと、お姉ちゃんの手で、お姉ちゃんのメモに書いてほしいんです」
澪「憂ちゃん…」
ドタドタドタ
唯「たっ、大変だよ~」
唯「文化祭まで後1ヶ月しか無いよ!」
澪「ゆ、唯?」
唯「あれ?澪ちゃんにりっちゃんにムギちゃん!みんなどうしたの?」
澪「唯こそどうしたんだ?急に」
唯「え?いや、目覚ましが鳴ったからさ」
憂「え?あ、もう朝だ…」
律「うわ、ホントだ」
紬「これ遅刻ですよ~」アセアセ
澪「今日は帰ろう!お邪魔しました」
紬律「お邪魔しました!」
唯「みんな行っちゃった、何してたんだろ」
憂「お姉ちゃん、もう大丈夫なの?」
唯「………」
唯「ねぇ?憂?部活やってる私は楽しそうだった?」
憂「…うん、物凄く」
唯「じゃあ大丈夫だよ!例え今の私を忘れちゃっても、1週間経っても、また楽しい日々が続くんだよ!」
憂「…お姉ちゃん」
唯「それに今の私が死んだとしても、生まれ変わった1週間後の私がまた生きるんだ!何も悲しくないよ」
憂「………お姉ちゃん」ポロポロ
唯「えぇぇ!?どうしたの?憂!」
憂「ううん、何でもないよ、今朝食作るから先に顔洗ってきて?」
唯「了解でありまする!」
音楽室
唯「決めたんだ、私!今を生きるって!」
澪「そうか…良かった………ごめんなぁ、唯ぃ」ポロポロ
唯「澪ちゃん、おーよしよし」ナデナデ
律「まぁ一件落着…かな?」
唯「違うよ!文化祭!!!後1ヶ月だよ?」
紬「あ、そういえば」
律「まぁ幸い今週一杯は夏休みだ!詰め込み練習やるぞ!」
唯「おーっ!私も早く体で覚えないとねぇ!」
そして
唯「いよいよ、今週の日曜日だね!」
澪「あぁ」ドキドキ
律「まぁ楽しもうや」
紬「うふふ、今から楽しみだわ」
澪「唯!今週は細かいテクニックを覚えてもらう」
唯「うん!なんたって文化祭で演奏するのは今の私!なんだからね」
律「………唯…」
金曜日
澪「うん、この様子なら!大丈夫そうだぞ」
律「あぁ、唯!やるじゃねぇか」
紬「凄いわ!唯ちゃん」
唯「………」フラフラ
バタッ
保健室
唯「………う~ん、ここは」
澪「唯!!!」
唯「…澪ちゃん、みんなぁ」
律「良かった、気がついたか」ホッ
唯「そうだ!私、練習中に倒れたんだ」ガバッ
紬「起きちゃだめよ!凄い熱なのよ?」
唯「でも、文化祭まで時間が…」
澪「そうだ、時間が無いから早く治すんだぞ?」
唯「…澪ちゃん」
澪「迂闊だったよ、これは知恵熱だ」
唯「知恵…熱?」
澪「あぁ、一度に脳の容量を超えるまで詰め込み過ぎたんだよ、それで耐えきれなくなって脳がパンクしたんだ」
唯「…うああ」ガタガタ
澪「どうした唯!」
唯「うああ、この感覚…あああ…知ってる、ああああ、体が、ああ、覚えてる」
唯「熱は、あああ、何度、あああ、なの?」
律「………45度だ」
唯「うあああああああ、やっぱり、あああ、もし、熱が、あああああ、引いたとしても、ああああ」
唯「演奏するのは、あああああ、今の私じゃ、ああああ、無いんだろうな、あああ」
澪「唯!」
紬「私、先生呼んでくるっ」
唯「でも、ああああああああああ、大丈夫、ああああああ、だよ?」
唯「ああああ、次の私に、ああああ、バトンタッチ…できる準備は………できてるから………」
澪「おい、唯!唯!!!」
律「澪!気を失ってるだけだ!」
澪「………」
……
唯「えーと、私の名前は
平沢唯、桜ヶ丘高校の一年生だ」
唯「私には妹の
平沢憂がいる。両親と妹の四人暮らしだ。でも両親はよく家を開けるのでほとんど憂と二人暮らしみたいな感じだ」
唯「私には
真鍋和という幼馴染みがいる。困ったことがあれば憂か和ちゃんに相談すればいい」
唯「私は軽音部に入ってる」
唯「ドラムの
田井中律、りっちゃんとベースの
秋山澪、澪ちゃんとキーボードの
琴吹紬、ムギちゃんと一緒に今日もムギちゃんの持ってくるお菓子でお茶しよう」
唯「もちろんギターの練習も忘れずに!」
唯「今の私は1週間後には記憶が無くなるけど、それは悲しいことなんかじゃないから気にしないで!」
唯「これでいっか、あっと、カレンダー…なんか違和感がある」
…
唯「ここは…、病院…かな」
ガチャ
ナース「あっ、気がついたの!?」
唯「えっと、私」
ナース「ちょっと待っててね?あ、体温計っておいて?」
唯「…はい」
医者「おう、気がついたかかい、体温は?」
唯「36度5分です」
医者「…信じられん、気分は」
唯「何かムズムズします、家のカレンダーを見てないからかも」
医者「そうかそうか、少し検査があるから少しの間、入院してもらうよ?」
唯「はい」
ガチャ
憂「お姉ちゃん!?」
律「唯!」
澪「唯ぃ、ぐすん」
唯「みんなぁ!あっ、憂!カレンダーある?」
憂「うん、ちゃんと持ってきたよ」
………
唯「ねぇ、今日、何月何日?」
憂「10月4日だけど」
唯「文化祭の2日前からチェックされてないんだけど」
憂「お姉ちゃん、まる1週間寝込んでたから」
唯「じゃあ、文化祭は?出たんだよね?」
澪「…唯」
律「文化祭は辞退したよ」
唯「…そんな」
澪「唯」
唯「………」
律「今年だけじゃないからだよ」
唯「え?」
律「後、二回も文化祭あるじゃん!今回は見送っても、残りの二回が最高ならいいじゃんか!」
唯「…りっちゃん」
医者「ご家族の方は…」
憂「訳あって妹の私一人です」
医者「そうですか、ちょっと来てください」
憂「そうですか、3日が限界…ですか」
医者「恐らくそれ以上の時間の記憶は今の脳では耐えれないでしょう」
憂「でも、お姉ちゃん言ってました。たとえ1週間後に記憶が無くなっても次の自分が楽しい人生を生きてるんだから大丈夫だって!」
医者「………」
憂「だから、それが3日になってもお姉ちゃんの言うことは変わらないと思います」
医者「お強い方だ。あなたたち二人とも…」
……
一年後
唯「えーと、私の名前は平沢唯、桜ヶ丘高校の二年生だ」
唯「私には妹の平沢憂がいる。両親と妹の四人暮らしだ。でも両親はよく家を開けるのでほとんど憂と二人暮らしみたいな感じだ」
唯「私には真鍋和という幼馴染みがいる」
唯「私は軽音部に入ってる」
唯「ドラムの田井中律、りっちゃんとベースの秋山澪、澪ちゃんとキーボードの琴吹紬、ムギちゃん、後輩でギターの
中野梓、あずにゃんがいる」
唯「困ったことがあればみんなに相談すればいい」
唯「もちろんギターの練習も忘れずに!」
唯「今の私は三日後には記憶が無くなるけど、それは悲しいことなんかじゃないから気にしないで!」
唯「えーと、カレンダーカレンダー!」
唯「!?」
唯「そっかぁ、今日は文化祭なのかぁ」
~fin~
補足
結局あの後退院して三日で全てを忘れる生活をしていたんです
そして一年経って二回目の文化祭というわけです
あの反応はちょうど記憶をリセットした後の一日目だからです
最終更新:2010年01月10日 01:11