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・・・殴られる・・・!
思わず目を瞑り、身を縮める。
しかし、どれだけ待っても、その瞬間は訪れなかった。

ゆっくりと開いた目に映ったものは、
振り上げられた澪先輩の腕と、それを抑えている、3つの腕・・・

律「澪、やめろ」
唯「澪ちゃん、ダメだよっ!」
紬「やめて、お願い・・・」

澪「あ・・・」

律「澪、梓に謝れ。いくら何でもやりすぎだろ」

澪「な・・・んだよっ!・・・律、お前が・・・
  お前のせいでもあるんだからな!」

律「・・・!」

唯「あっ、澪ちゃん!」

澪先輩は掴まれた腕をふりほどき、部室を飛び出て行ってしまった。

紬「・・・梓ちゃん、大丈夫?」

梓「は、はい・・・でも、ひぐっ・・・私、最低です
  謝らなきゃいけなかったのに・・・逆ギレしちゃって・・・うえぇっ・・・」

唯「落ち着いて、あずにゃん・・・
  今のは、澪ちゃんもよくないよ。
  りっちゃんに八つ当たりもしちゃって・・・」

律「八つ当たり、か・・・」

紬「りっちゃん?」

律「案外、回り回って・・・そうでもなかったりしてな」

唯「・・・どういうこと?」

律「んー・・・あのさ、梓」

梓「はい」

律「澪のヤツ、最近やたらと梓のこと気にかけるようになってたんだよ。
  梓が気がついてたどうかはわからないけど」

梓「私は・・・別に」

律「今更言うことじゃないけど・・・うちら卒業したら軽音部は梓1人になっちゃうだろ?」

梓「そ、ですね」

律「・・・で、頑張って部員勧誘してメンバーが集まったとしても、今度は部長としての仕事がある」

梓「・・・」

律「練習スケジュールの管理したり、ライブの計画仕切ったり、他の部員に気を配ったり・・・とか?
  私はあんまりやった記憶がないからよくわかんないんだけどさ」

唯「さすがりっちゃん。すごい説得力」

律「うるせぇ。・・・で、やっぱそういうのってそれなりに責任が伴うことなんだって。
  ・・・澪が言うには」

梓「責任・・・」

律「梓には、来年から新しい軽音部を作って、それを引っ張っていく自覚と責任をしっかり持ってほしい・・・ってな」

梓「・・・」

律「ま、現部長があまりにだらしないから、次期部長様に必要以上に期待が集まってるってことかな。
  ・・・私のせいってのはそういう意味だよ」

紬「そんなことないわ。りっちゃんはしっかり部長としてみんなをまとめてるもの」

律「へへっ・・・で、そんな感じで決意を新たにしたそばからこういう事が起きて・・・
  澪もちょっと頭に血が上っちゃったんじゃねーのかな?」

梓「あ・・・」

唯「・・・澪ちゃんは、色々考え過ぎちゃったんだね」

律「よく考えりゃ勝手すぎる話だけどな。
  ・・・結局、先輩として後輩に対して十分な引き継ぎはできそうにないし」

梓「そんなこと・・・そんなことないです!
  先輩たちはみんな、私に色々なことを教えてくれてます!
  律先輩も、唯先輩も、ムギ先輩も・・・澪先輩だって!
  なのに私は、それを裏切るようなことを・・・」

律「だからもうそれはいいって、梓」

紬「梓ちゃん、これ・・・」

ムギ先輩が差し出してくれたのは、真新しいふたつの楽譜だった。

梓「え・・・先輩、これって・・・」

紬「これが今回書いた新曲よ・・・こっちが正式版」

指し示された方の楽譜を目で追いかけ、その後両方を比較してみる。

梓「もしかして・・・」

唯「そう、この曲はあずにゃんとむったんが主役なんだよ!」

紬「最初はいつも通り唯ちゃんがリードギターのつもりで書いたんだけど、
  後から、梓ちゃんがリードをやることを前提にして変更したの」

律「澪の提案なんだよ」

梓「澪・・・先輩が?」

律「これまではどうしても梓は唯の後ろに回ることが多かったからさ。
  だからこの曲は、梓中心にして、梓のために作ってあげたいんだって」

梓「で、でも・・・唯先輩」

唯「あずにゃん、私に遠慮なんてしなくていいんだよ?」

律「元々梓の方が上手いから心配なんてしてないけど、
  これをライブでばっちり決められたら梓にとっても自信になるだろうし、
  私たちも安心して後を託せるってこと」

梓「・・・わかりました。
  私、やります!やってやるです!」

紬「ふふっ」

唯「私が横からしっかり支えてあげるから大船に乗ったつもりでいていいよ、あずにゃん」

律「泥舟じゃなきゃいいけどなー」

梓「・・・不安です」

唯「ぶーぶー」

梓「あ、でも澪先輩はやっぱりダメだって・・・」

律「そんなの本心なわけないだろ?」

唯「もし本気でも、多数決したら私たちの勝ちだし!」

紬「そうね、せっかく作り直したんだし、使ってもらえないのは嫌かな」

梓「でも・・・その前に澪先輩にちゃんと謝らないと」

律「えー、ほっといたら寂しくなって戻ってくるんじゃないの?
  ・・・鞄もベースもここに置いたままだし」

紬「りっちゃん、それはかわいそうだわ」

唯「りっちゃんひどい!」

律「じょ、冗談だって・・・」

梓「でも・・・澪先輩、今どこに・・・」

律「大方うちらの教室にでもいるだろうから、行ってやってくれよ、梓。
  きっと、梓に嫌いって言われてマジ凹みしてると思うぜ」

梓「あ・・・私、本当にひどいこと言っちゃった・・・」

律「ああやめやめ!そんなのはもうお互い様だろ?とにかく行ってきなよ」

梓「・・・はい!私行ってきます!」



3年2組の教室。
沈みかけの夕日が、教室中をオレンジに染めていた。

澪「・・・梓に、嫌いって、言われた・・・」

澪「あたりまえ、だよな・・・あんなひどい態度取ったんじゃ・・・」

澪「それどころか唯やムギにまで・・・」

澪「うぅっ・・・」

梓「澪先輩!」

教室の隅で影と一体化していた澪先輩を見つけ、私は教室に飛び込んだ。

澪「あ、梓・・・」

梓「そのっ、澪先輩!
  ホントのホントのホントのホントに・・・すいませんでした!」

澪「え・・・」

梓「先輩たちは・・・澪先輩は、私のことを考えて色々としてくれてたのに、私はそれを知らずに・・・
  何も分かろうとしなかったのは、私の方で・・・」

澪「梓・・・」

梓「ホント、情けなくて、申し訳なくてっ・・・」

澪「・・・」

梓「だけど私、これからは・・・あっ」

謝罪の言葉は、澪先輩が私を抱きしめたことで途切れさせられた。

澪「もう、いいよ・・・
  こっちこそ、ごめんな、梓」

梓「澪先輩・・・」

澪「おかしいって・・・やり過ぎだって分かってたのに・・・自分で自分をコントロールできなくなってたんだ。
  梓のためには、先輩として毅然とした態度を取らなきゃいけないとか勝手に考えて、止まらなくなって・・・」

梓「・・・」

澪「嫌な思いさせて・・・ホントにごめん」

梓「いえ・・・元はと言えば私の自業自得ですし・・・」

澪「あのさ・・・梓」

梓「はい?」

澪「さっきの・・・私のこと嫌いってやつなんだけど」

梓「あ、あれは・・・忘れてくださいっ!
  澪先輩のこと、嫌いなんてあり得ません!」

澪「・・・ホントに?」

梓「ほんとです」

澪「ホントのホントに?」

梓「ほんとのほんとにです」

澪「うぅ・・・よかったぁ・・・よかったよぉ・・・」

梓「先輩・・・泣かないでくださいよ・・・」

澪「唯やムギも・・・怒ってないかな?
  二人にもひどいこと言っちゃったし」

梓「・・・怒ってるわけ、ないじゃないですか。
  みなさん、澪先輩のこと心配してました。
  澪先輩がここにいるだろうって教えてくれたのは律先輩ですし」

澪「律は・・・いいんだ。
  あいつがだらしなさ過ぎるのが原因のひとつなんだし」

梓「・・・」

澪「部室、戻ろうか。
  みんなを待たせちゃ悪いしさ」

梓「はい!」


――――

唯「あ、2人ともお帰り~」

梓「みなさん、お騒がせしてすいませんでした」

澪「・・・」

律「あっれー?澪ちゃんは?もしかしてごめんなさいも言えないのかな?」

澪「な・・・なっ!」

律「なぁ、こういう時素直に頭を下げられるかどうかで先輩としての器量が試されると思わないか?」

澪「お前が・・・言うのかよっ!」

律「ふふーん」

澪「・・・みんな、迷惑かけて、ごめん。
  ・・・その、許してくれる、かな」

唯「もちろん!お帰り、澪ちゃん」

紬「これでみんな仲直りね」

律「許してほしければそれなりの・・・ぐはっ!」

澪「・・・調子に乗るな」

梓「当然の報いです」

梓「あの・・・澪先輩」

澪「なに?」

梓「改めてなんですけど・・・この新曲、私がリード弾いても良いですか?」

澪「・・・当たり前だろ。梓のために作り直してもらったんだから。
  大丈夫、梓ならちゃんと務められるさ」

律「・・・さっきは自分でダメだって言ったくせにさ」

澪「律、何か言ったか?」
梓「律先輩は黙っててください」

律「・・・」

唯「私がついてるから安心していいよ!澪ちゃん」

澪「唯は邪魔しないようにな」
梓「唯先輩はおとなしくしててください」

唯「ぶーぶー」

律「さてと、雨降って地が固まったところで新曲の練習でもするか?」

澪「そうだな」

紬「やろうやろう」

唯「ささ、あずにゃんは真ん中にどうぞ~」

梓「ええっ!い、いつものところでいいですってば」

唯「いやいや、位置取りもいまからやっとかないと本番とまどっちゃうでしょ?」

梓「うう・・・わかりました」

律「んじゃ、とりあえず1回やってみるぞ~」


・・・私の愚かな行動がきっかけで起きた今回の騒動だったけど、
その中で、先輩たちが私やこれからの軽音部のことを本当に考えてくれてるってことや、
私がこれからやらなければいけないことが見えてきた気がする。

いつまでもこの先輩たちと一緒に音楽をやっていたい。
・・・でも、いつかは訪れるその時に、ちゃんと前を向けるように。
先輩たちが安心して次のステージに進めるように。
私もやるべきことをしっかりやろう、そう思った。

だけど、もうしばらくの間は・・・
この最高の先輩たちと演奏ができる最高の時間を噛みしめていたいと思う。



おしまい






最終更新:2011年04月07日 23:19