梓「ハァ、ハァ……ここだ」

梓「薬屋琴吹……あってるよね」

梓「すいませーん」

紬「はぁ~い♪」

梓「あっ……その、こんにち、じゃなくてこんばんわ」

紬「こんにちは~」

梓「う……ちょっとバカにされてる」

紬「可愛いお客さんね」

梓「あのっ! 大至急お薬がほしいんです!」

紬「あらら、どんなお薬?」

梓「えっと、確かふくろうさんにもらった手紙が……」ゴソゴソ

紬「えっと、どれどれ……えっ!」

梓「ど、どうしたんですか……まさか」

紬「……お薬はあることにはあるわ」

紬「けどね、それはこの病気だけでなく、万病に効くとっても希少なものなの」

梓「それ以外に発作をおさえる薬とかは……」

紬「この子の場合、そんな一時的なものではもう無理よ。悪化の一途をたどるだけだわ」

梓「じゃ、じゃあそれをください! なんにでも効くやつ!」

紬「でも子猫さん、なにももってなさそうだけど……」

梓「あっ……そうだ、なにも交換できるものがない……」

梓「あ……えっぐ、えぐ、どうしよう……どうしたらいいの……」

紬「泣かないで……」

梓「だってぇ……唯ワンが……唯ワンが……うえええん」

紬「それほど大事な人なのね」

梓「大事……そう……はい、とっても大事なんです、ヒッグ」

紬「でもあなた、たくさんマーキングされてるわ。きっとこの先食べられちゃうんでしょ?」

梓「はい、食べられちゃいます! でも大事なんです!!」

紬「それは自分の命より?」

梓「わかりません! どうしてかわかりませんけどっ!」

梓「私がお薬をもってかえらないと……唯ワンは苦しくて、辛くて……」

梓「唯ワンが死んだら……もう私、いくところもないし、憂ワンも泣いちゃうし、ひっぐ」

梓「だからお薬がほしいんです……ひっぐ、えぐ、うわああああん」

紬「こんなに想われるなんて……とっても、優しい狼さんなのね」

紬「そしてあなたも、私が出会った中で一番やさしい子猫さん」

紬「急いでるのに試すようなこと言ってごめんね?」

紬「はい……これ。お代なんていらないわ。何ものにもかえられない、とっても、とっても美しいものがみられたんだもの」

梓「ひっぐ、あ、ありがとうございます。あの、この草をたべさせたらいいんですか?」

紬「そう、食べさせた後水も飲ませて、効いてくるまで側で身体を温めてあげてね」

梓「わかりました! この御恩一生忘れません! ありがとうございました!」

紬「うんっ! 元気になったら、今度はゆっくり遊びにきてね」


……


和「バサバサバサバサチェケー!」

梓「急いで! もっととばしてください」

和「これでも急いでるわ。それよりあなた、よくその薬手に入れたわね」

梓「えっ」

和「なにも持って行ってないんでしょ? どうやったの?」

梓「そうですけど……な、なぜかもらえました」

和「そうなの。あのいじわるでケチな金ピカタヌキが? ふーん、まぁいいわ。とにかく、あなたがいて良かった」

和「私だって唯がいなくなったら困るもの」

梓「私こそ、ふくろうさんがいてくれなかったら危ないところでした」

和「まぁ……まだ間に合ったかどうかはわからないけど!!」


ビューン

梓「唯ワン……無事でいてっ!!」


……


和「もうすぐよ」

梓「ありがとうございます」

和「私はこのまま唯のほらあなの周りを巡回するわ」

和「いまこのタイミングでこの縄張りに変なのが寄ってきたら困るから」

梓「お願いします」

和「ほら、着くわよ、飛び降りて」

梓「はいっ」

ピョン 

和「がんばるのよ……唯、梓ちゃん」

スタッ

梓「んしょ」

梓「唯わーん!! いま戻りました―!!」

梓「無事ですかー!? お薬とってきましたよ!!」

梓「唯ワン!?」

唯「ハァ……ハァ……あず、にゃ」

梓「良かった! 無事だったんですね!」

唯「ありがと……わた、し、ため、に……」

梓「しゃべっちゃダメです! ほら、この草」

唯「ん……」

梓「口入れますよ。ほら、食べるんですよ。いっぱい噛んでください。噛まないと!」

唯「んぅ……」

ポロッ 

梓「唯ワン……噛めないの……?」

梓「……ッ……あむっ!むぐむぐ、むぐむぐ!」

梓「んちゅっ」

唯「んむぅっ……んぐ……あむ」

梓(食べて……食べてください。元気になりましょう?

梓(また二人でいっぱい走ったり笑ったり、たくさん楽しいことしましょうよ)

唯「んぅ……あ……ぁ……ゴホッ、ごほ」

梓「んっ、う……ぷは、食べました? ちゃんとごっくんしてくださいね」

梓「次、水ですよ。飲んでください」

唯「……う……ぅ」

梓「……唯ワン」

梓「ほら、飲まないと……」

唯「んぐ、んぐ……ぁ、あり……がと……あず、にゃ」

梓「お礼なんていいんです! いまはゆっくり寝てください」

唯「ぅん……そう、する……」

梓「えっと、後は後は……側であっためるんだっけ」

梓「あ、その前に。唯ワン、ちょっと汗ふきますね」

唯「ハァ……はぁ……うん」

梓「……ひどい汗、ごめんなさい。私がもっともっと早く帰ってきてれば」フキフキ

唯「いいよ……あずにゃん……わたし、嬉しぃ……」

梓「もう大丈夫です。もう心配いりませんよ。熱がさがるまで私がずっとついてます」

梓「……」ギュ

梓「ずっと……側にいますから」

梓「だからおやすみなさい……唯ワン」

梓「元気になったら、私でも食べてたっぷり栄養つけてくださいね」

唯「ハァ……あず……にゃん、そんな……」

梓「……」ナデナデ

唯「はぁ……あぁ……スゥー、スゥー……」

唯「すー、すー……」

梓「あ……ちょっと落ち着いたかな」

梓「……よかった」

ギュウウッ

梓「それにしても、今日は……よく冷えますね……――――――





梓「ん……まぶしい……」

梓「あっ! 唯ワン!」

梓「あ、あれ……いない!? どこ?」

梓「唯ワン!? まさかあの熱で外いっちゃったの?」

梓「ねー唯わーん!!」タッタッタッ

梓「どこですかー?」


チャプチャプ


梓「ん、この音は……」


チャプチャプ

唯「あっ、あずにゃんおっはよー」

梓「ゆ、唯ワン……はぁ、なんで温泉に」

唯「いやー寝てる間もすごい汗かいてたからー、けどおかげでこのとーり! ふんす!」

梓「……唯ワン……」

唯「ほえっ?」

梓「ば、ばかあああっ!!」

唯「えっ!?」

梓「んにゃああっ、もおおっ!! 死ぬほど心配したんですよ!!」

唯「ご、ごめんなさい……」

梓「でも、よかった……よかった……ひっぐ」

唯「あ、あずにゃん?」

梓「うええええん、うええええん、びええええん」

唯「ええっ!? ちょ、泣かないでよ」

和「バッサバッサ」

和「あら唯、おはよう。元気そうでなによりだわ」

唯「あー、和ちゃん! あずにゃんが泣いちゃったの、どうしたら泣き止んでくれる? ものしりでしょ」

和「うーん……さすがに私にはわからないわ。自分で考えなさい」

和「あ、それと。ちゃんと安静にしてなきゃだめよ。ぶり返したらこの子の苦労が台なしなんだから」

唯「あずにゃん……ありがとね」

梓「うええええん、えええん」

唯「心配かけてごめんね。あずにゃんに心配かけまいと黙ってたのが失敗だったよ」

梓「ひっぐ、ばかです」

唯「うん……ばかだった」ナデナデ

梓「でも……うれし、また、元気な唯ワンにあえて……」

唯「さぁ、泣かないで。一緒に温泉入ろ。私もっともっと温まりたいから」

梓「はい! あ、ふくろうさんも一緒にどうぞ!」

和「嫌よ。濡れたら飛べないじゃない」

唯「まぁそういいなさんな、これも私からのお礼だと思って」グイグイ

和「ちょ、離しなさいっ、もうっ」


ザプン

和「……」

梓「あったかいですね」

和「そうね。今日はいい天気であったかいわ」

唯「はーるよ来い、はーるよ来い」

梓「あ、そういえば……私」

唯「?」

梓「やっぱり食べられちゃうんですかね」

唯「むしろ食べてくださいっていってなかった?」

梓「えっ、言ったっけ……あれ」

唯「うん、言ってたよ」

梓「い、言ってませんし! 食べられるなんて絶対嫌ですから!」

唯「えへー、食べちゃいたいなー、食べちゃうぞー」

ペロペロ

梓「うにゃああっ、だめっ、ちょっ! んもぅ!」

和「あのね、そういうのはほらあな戻って布団の上でやってちょうだい」

唯「えへー、おいひーおいひー、こりゃ食べごろは近いぞ―」

梓「にゃあああん」


しかし結局そのまま私が食べられることはなく、唯ワンと二人でほらあなでぬくぬくしてるうちに厳しい冬は過ぎ去りました。

そして、ついに森のみんなが待ちわびた春がやってきました!


唯「春だー! ごはんだー!」

梓「わぁ……! 緑が増えてきましたね」

唯「くんくん、くんくん、えへー、春の匂いだーい好き」

梓「私もわかります。なんか、うきうきしちゃいますよね」

唯「それともう一ついいことが!」

梓「え?」

唯「まだ遠くだけど憂のにおいがするー!!」

梓「ほんとですか!!」

唯「わおーん!!」



「わおーん!! おねいちゃあああああん――――……


梓「ほんとです!」

唯「よかったぁ……憂はやっぱり強い子!」

梓「あ、でも憂ワンがもどってくるって事は…・」ブルブル

唯「え?」

梓「わ、私もついに……春のお祝いのご馳走に」

唯「あー……そうだねぇ」

梓「や、やめましょうよ! ほら、私結構献身的ですし、家事もこなせるようになりましたしっ!! 使いっ走りにでもして」

唯「んー……でもおいしそう」

梓「にゃっ、ま、まってください! ほら、見てくださいこの身体、可哀想なくらい貧相です! きっと二人で食べるには物足りないですよ!」

唯「うーん、でも今年の景気付けにおいしいものを食べたいし」

梓「あっ、こ、この先私が成長しておっきくなったらもっともっとおいしくいただけるかもしれませんよ!!?」

唯「まちきれないなぁ」

梓「あう……じゃ、じゃあ……あわわわわ」

唯「じゅるり」

梓「えーん……」

唯「なんてね!」

梓「えっ」

唯「あ~ずにゃんっ♪」ダキッ

梓「にゃっ!?」

唯「こーんなに暖かくてきもちいの食べるなんてもったいないよー」

唯「だってあずにゃんがいれば掛け布団いらずで冬が越せるんだよ!? すごいよー」

唯「これから毎年、私の抱き猫として役に立ってもらわないと!」

梓「えっ、えっ?」

唯「それにー、ペロペロなめるだけでもおいしいしー、なにより一緒にいると楽しいし!」

梓「あっ、あの……ってことは」

唯「あずにゃん♪ 私の可愛い子猫ちゃん」ギュウウウウ

梓「あふ……にゃあ」

唯「あ、私の臭いいっぱいつけとこう。誰にも渡さないよ、私のあずにゃんだもんね、ちゅ、チュ」

梓「んぅ……だめですって……外で……んっ」

唯「じゃあおうちもどろっか、私たちのおうち! そんで、お腹いっぱいになるまでペロペロさせて?」

梓「あ……うぅ……」

唯「だめぇ?」

梓「むぅ……」

唯「えへへ」


梓「……じゃあ……ちょ、ちょっとだけですよ?」

唯「わぁ……うん!!」



予想外の春がきました。

優しくてふわふわな狼さんと過ごす初めての春。

陽だまりのようなあったかいぬくもりにつつまれて、今日も私は幸せです。


おしまい



最終更新:2011年04月08日 23:25