ハァハァハァハァハァ・・・・・・
のどが焼けるように熱く、体温の上昇とともに呼吸が荒くなって肺が痛い。
ついでに身体の関節も痛い。運動不足を実感する。
汗も噴出してきたかもしれないような気がするが
今はそんなことにかまってられなかった。
転ばないように一歩一歩、力をこめながら全速力で廊下を走る。
とにかく、今はすこしでも早く部室へ急ぐことだけを考えながら私は走った。
後ろからはムギ先輩の声が聞こえ続けてる。
「ま、まちなさいってば!!!」
待てといわれて待つやつは19世紀にも20世紀にもましてや紀元前にすら居ないです。
そんなありきたりなことを考えながら
でも、呼吸をすることでいっぱいいっぱいで、声に発することはしないで
私は走った。
いつかのさわこ先生の華麗な走りのデジャブのように
階段を駆け上がり、部室の前へとついた。
ムギ先輩はまだ着ていない。
意外と持久力はないのかもしれないな。
息を整えながらそんなことを思った。
さて。ここへ着たのはいいけど
私はいったいどうすればいいのだろうか。
音楽室の扉を開けてしまえば、そこにはさっき見たような光景が
今度はカメラ越しでなく私のまん前で滞りなく行われていることになる。
どんな顔して入ればいいんだ。
ムギ先輩が澪先輩に廃ポーションだかなんだか媚薬的なものを盛ったことに気づいた私は、
考えもなしにわけもわからない怒りの衝動にまかせて部室へと走ってきてしまったわけだけど・・・・。
いやいやいや、考えてる時間も躊躇している時間もないっての。
もうすぐムギ先輩が来てしまう・・・・。
映像を見ておいてすっごく今さらだけど、私さえ犠牲になれば・・・・
2人は、たぶんおそらくいいえけっしてひょっとするとそこまで恥ずかしい思いをしなくてすむ・・・・・か?すむのか?
よくわからなくなってきた・・・・・私に見られるのだって十分はずかしいだろ・・・・でも、もうここまできてしまった。
ええええい、ままよ!!!!!
私は意を決して部室の扉をあけた。
「せ、せんぱい・・・・!!!」
「よう!梓」
「あ、やっと来たか。お・・・遅かったじゃないか」
あれ?
部室には律先輩と澪先輩の2人が確かにいた。
だけど・・・・。
2人は私の予想のように行為を催してはおらず
いつものように席に腰掛けて、少し戸惑い気味に私に挨拶を返した。
なんだ?これ?あれ?
「いきなり扉あけたらびっくりするだろ?」
いつものように私に話しかける律先輩。
「え?・・・あれ?」
「ん?どうした?」
「え、いや、その・・・・あれ?」
「・・・・っん?」
ちょっと、息はあらっぽい感じはするけど平然とする澪先輩。
あれ?なんだこれ。
どういうこと・・・・?
おそるおそる、息を整えながら尋ねてみる。
「せんぱいたち・・・・今までなにしてたんですか・・・・?」
「え!?な、っなにって・・・・」
「みんなこないから2人でしゃべくってたけど・・・・な?澪」
「あ、あぁ・・・う、うん。そうだな、りつ」
律先輩と澪先輩はそういいながら2人で苦笑いをした。
うん。そのあわてようからして、「なにか」はたしかにあったんだ。
さっき見ていたようなこと、してたんだ。
澪先輩・・・顔・・・ほてりすぎやん・・・
でも、どうして今2人は・・・・・
状況がわからず頭の中がこんがらがってる私の肩に「ポン」っと触れる感触があった。
振り向くと、そこには例のたくあん先輩が。
「あ、あずさちゃん・・・・あ、あし・・・・早いわね・・・・」
ゼイゼイいいながら、ムギ先輩はそういった。
「よう!ムギ!!!遅かったな」
「ホ、ン、ト・・・・っだよ。今日は、ハァ・・・なんでみんな来るの遅いんだよゥ!!ハァ」
うはっ!澪先輩いろっぽいっ!!!効き目継続中ですか!!!!
私の肩に右手を置きながら肩で息をするムギ先輩に律先輩と澪先輩は声をかけるけど、
私と同様、「どういうこと?」というような顔をしている。
きっとムギ先輩も私と同様、もっときまづいような雰囲気を想像していたに違いない。
しかし、現実はまったく違い、澪先輩も律先輩も少しとまどい気味、なおかつ澪先輩は少しあえぎ気味だけど、
普段とさしては変わらないような対応を私たちにかえした。
私とムギ先輩の頭の上にでっかいはてなマークが浮かんでいるころ
「も~~~~!!!!2人ともバックわすれてるよ~~~~!!!!」
そういいながら、唯が3人分の通学バックをすんごく必死に持って現れた。
あ、バックのことすっかり忘れてた、と思うやいなや
私の身体はいつものように優しい体温に包まれる。
少し、汗がひいた身体にはその体温が心地よいよ、唯
って、まどろんでる場合じゃなかった。
「よ~っす、唯!!」
「あ、りっちゃん!よ~~っす!」
私のことは抱きしめたまま唯が返す。
「唯も今日は遅かったな?どうしたんだ?」
「ちょっと用事があってね~~なはは~~」テヘペロ
「で、っも、なんで唯は3つもバック持って・・・んだ?ハァ」
「あ、これはね、あずにゃんのとムギちゃんのと私のだよ~~~」
「いや、だから、なんで唯が3人分のバックもってるのかって聞いてるんだけど」
見当違いの返答に律先輩がちょっと笑いながらたずねる。
「あ、これ?ちょっと3人で用事を先生に頼まれてたから」
「3人で?めずらしいな」
「うん。さわちゃんにちょっとね」
「そうっっっっつ!!!!!!なのか・・・・・ハァ」
唯のとっさのアドリブに、私はおどろいた。
でも、それは私だけじゃなくて、ムギ先輩もだったみたいだ。
「あの媚薬・・・結構効き目すごいのに・・・澪ちゃん、堪えるなんて・・・すごい・・・」ムギュン
あぁ・・・そっちですか・・・・ごめんなさい。驚いてること全然違ってた。
それでも、私と唯先輩の横で床にヘタリこむムギ先輩の頭の上に私はさきほど同様にはてなマークを見た気がした。
「唯もきたし、ムギ、お茶いれてくれよ」
「あ、う、うん・・・・」
律先輩に頼まれてようやくムギ先輩は息を整えながらたちあがってお茶の用意をし始めた。
「りつぅうううん!!!!なに言ってんだよ。みんなやっとそろったんだかぁら先に練習す・・・・るぞ!!!!ハァ」
「え~~~!?いいじゃんいいじゃん。私ちょっとおなかすいちゃったし、
今日は誰かさんのせいでなんだか疲れちゃったからお茶飲んでのんびりした~~いな、ね?み お しゃん♪」
「んな!?///ハァ」
律先輩がからかって、というか、この場合ではむしろ澪先輩のフォローなのだろうけど
いつものように澪先輩をからかい、澪先輩が赤面する。
いや、赤面したのは全然、律先輩がからかったせいだけじゃないだろうけど。
りつぅうううん!!!!って!!!!澪先輩、もういいから休め!!!
私も、唯にあずさぁあああああああぁあああああああああああってあんな色っぽい声で言われたい!!!!
てか・・・・やっぱ、なにか、あったんだよね・・・?
そんな2人の様子を見ている私の耳元でボソッとつぶやいた。
「あずにゃんとムギちゃんが走ってっちゃった後にね『今から部室行くね』って」
そうだったのか・・・・。
きっと、澪先輩と律先輩はそのメールを読んで慌てふためきながら
いろいろ、整えたんだな・・・・。
澪先輩はほんと、ドンマイな仕上がりだけど。
でも、だから、私がここにきたときは、少し戸惑いながらもいつも通りを装うことができたわけか・・・。
「そうだったんですか・・・」
メールか。それはちょっと思いつかなかった。
「うん」
そういって、唯は私を抱きしめる腕に力を入れた。
少し、苦しい。
「だって、いやじゃん。なんだか2人の素直な気持ちを踏みにじってる感じで」
「そうですね・・・・・」
興味本位で見てしまってた私にはちょっといたい言葉だ。
「どんなに仲良しでもさ、人にはきっと知られたくない場面とかあるだろうし。
『その人とだけ』って場面ってあるでしょ?もちろん、私とあずにゃんにもさ」
「・・・・はい」
「そういうの、もちろん見たい気持ち、私にも確かにあるんだけどさ、でもやっぱ・・・・」
そういいかけて、唯は私の顔をしっかりと覗き込む。
自分の顔が、唯の目に映ってるのがわかる。
「うん。自分に置き換えたとき、私はあずにゃんとのそういうの、誰にもみられたくないもん。
見られたとしても、あずにゃんにだけ見ててほしい。あずにゃんにだけ、覚えててほしい」
そういい終わると、不意にやさしく微笑みかけられる。
その顔にドキッとする。
この人は、と私は思う。
いつもは私の方がしっかりしているのに。
この人は、たまに私が思っている以上に人にあったかくて
私が思っている以上に大切なこと忘れていなくて。
だから、私が思っている以上に、私はこの人が大好きだ。
「だから、もうこんなことしちゃダメだよ?」
そういいながら、唯は私の頭を優しくなでる。
「はい・・・・」
私も悪かったな・・・。ちょっと反省する。
でも、なでられながら私は思う。
一番悪いの、ムギ先輩じゃね?と。
2人とも、お茶が入ったわよ、という声で
何事もなかったかのようにふりむくムギ先輩。
彼女の辞書に「悪気」という言葉はあるのだろうか。
あと、今度媚薬ください。
うっは~~、といいながら私をほっぽって立ち上がる唯先輩。
さっきお菓子たくさん食べたじゃないですか。
てか、お菓子>私 ですか。
やっぱ、ムギ先輩、今度媚薬ください。
さっさとお菓子をほおばる律先輩。
さっきはごちそうさまです。
その様子にあきれながらもやさしく微笑む澪先輩。
媚薬の効果は切れましたか?
「こら、そんなに1人でほおばるんじゃない、りつぅううん・・・ハァ」
あ、まだ切れてないですね。残念。
位置は把握してるからこの後カメラ撤去しなきゃ、
そのカメラのことでムギ先輩を揺さぶって、やっぱ媚薬もらおう。
そう思いながら、私もまたお茶をご馳走になることにした。
了
最終更新:2011年04月13日 21:29