憂「んっん……」

 また、キス。

 触れあったお姉ちゃんの頬は、なぜか冷たく感じた。

 いつもはお姉ちゃんの方がずっとあったかいのに。

憂「んぁっ!」

 キスしてる最中なのに、くちびるの隙間になにかが触れた。

 慌てて退こうとしたけれど、ソファの背もたれが邪魔をした。

唯「うーい……」

 そして口の中に押し込まれる、甘い匂いのするもの。

 少しだけ、形が変わるほどくっつきあっていたくちびるが離れる。

 けれど、触れあったまま、キスは中断されない。

憂「っん、あ……」

唯「うい、噛んで」

 噛む? ガム?

 ようやく口の中に入ってきたものの正体に気付く。

 なるほどこれは、お姉ちゃんの口の中に入っていた、お姉ちゃんが噛んだガムだ。

憂「もらっていいの……?」

唯「うん。……んぅ」

 少し余裕のあったくちびるが、また塞がれる。

憂「はむ、んん」

 お姉ちゃんが噛んで、お姉ちゃんの唾が絡んだガム。

 奥歯の方へ持っていき、くしゃりと噛んだ。

憂「はあっ、あ、あ……」

 お姉ちゃんがちゅーっと唇を吸う。

 体の奥から、ぞくぞくと震えあがってきた。

憂「あま、んっ……」

 ちゅぱ、と音を立てて、お姉ちゃんがわたしのくちびるしゃぶりを中断する。

唯「おいしい?」

 にこにこ笑いながらお姉ちゃんは訊いた。

憂「うん、おいしい……」

唯「じゃあ、これもね?」

憂「なに……んむ」

 喋る暇もなく、お姉ちゃんが唇をふさぐ。

 今まででいちばん強く、深く重なっている感じがした。

憂「ふぁ……」

 また、くちびるの隙間に甘い何かが触れる。

 今度は驚かないで、口をそっと開け、ガムと同様に舌を使って口の奥へ連れ込む。

憂「ん、ぎゅ……」

 甘くてやわらかいそれに、そっと歯を立てた。

 わたしの手首を掴んでいるお姉ちゃんの腕が、ぶるりと揺すられた。

唯「もっほ、噛んれ……」

憂「……はぐ、んぐ」

 何度も、ゆっくり歯でプレスをかけるようにそれを噛む。

 ガムより弾力があって、水気たっぷりで、私が動かさなくてもひとりでに動く。

憂「はむっ、んんん……」

 手首を掴むお姉ちゃんの手から力が抜けている。

 私はいっぺんに振りほどいて、お姉ちゃんの背中をぎゅっと抱いた。

唯「んっん……うい、ういっ」

 反応して、お姉ちゃんも私をぎゅっと抱きしめて、もっと深くキスをする。

憂「ん、ちゅぅ……きゅ」

唯「んはっ、ぅ……く、ちゅぱぁ」

 くちびるから漏れ、顎から首筋を伝い、全身が唾液に汚れるよう。

 お姉ちゃんがたまに息継ぎをしてくちびるを離すたび、

 ぼたぼたと制服に唾液が垂れ落ちた。

唯「んーっ、うい、ういーっ」

 背中に回ったお姉ちゃんの手は、何かを求めるように指をうごめかせていた。

 私の体をまさぐる指が、愛しく感じる。

唯「がむ、がむかえひてっ」

 お姉ちゃんがそんなふうに求めた。

 私は口の中を舌で探索し、右の奥歯にガムが追いやられているのを発見した。

 舌で張り付いたガムをはがし、歯を使って少し丸める。

憂「んーっ」

 そして、お姉ちゃんがやったように、ガムを舌で押し出し、くちびるの隙間へ押しつける。

唯「ん、はむっ」

 お姉ちゃんが私の舌ごとしゃぶりつく。

 わたしも勢いで、舌をそのままお姉ちゃんの口の中に押し込む。

唯「んくっ……」

 舌にお姉ちゃんの硬い歯が立てられる。

 背中を冷たい感覚、熱い感覚が交互に走り抜けた。

憂「おねえひゃ、んぁ」

 口の周りをびちゃびちゃにする唾液から匂うイチゴの香り。

 けれど、お姉ちゃんと舌を絡めると、もうガムの味は消えてしまっているように感じた。

 だからお姉ちゃんも、ガムを求めたのかも知れない。

唯「ういっ……んぁ、ちゅちゅ」

憂「お……んっ、おねえひゅあ」

 お姉ちゃんと舌を絡めると、ガムを噛むよりどんどん唾液があふれてくる。

 ブレザーの襟もびしょびしょになって、お姉ちゃんのタイは夜のような色になっていた。

憂「んんっ、おねえ……」

 もっと汚れたくて、お姉ちゃんの口の中から唾液を掻き出すように舌を回した。

 お姉ちゃんがだらだら唾液を吐いて、ブラウスが冷たくなる。

唯「はぁ、はふ……んぐっ」

 そのとき、ごくりと喉の動く音がした。

唯「んむっ……」

 途端に、絡み合っていた舌とくちびるが離れた。

 さっと腕が解かれ、私もなんとなく腕をだらけさせた。

 お姉ちゃんはそのままの姿勢で、目をそらした。

憂「はぁっ、は、……はぁっ」

 息を荒げつつ、お姉ちゃんに視線を送る。

 どうしたの、と。

唯「……ふはぁ。の、のんじゃった」

 そっとソファを降りながら、お姉ちゃんは言う。

憂「……そっか」

 それで、それがどうしたというのだろうか。

 わたしはお姉ちゃんのくちびるを奪った。

唯「んむっ……」

 また強く抱きしめて、お姉ちゃんのくちびるを舐める。

 べちゃべちゃになった口周り。

 冷えた唾液を舐めとりながら、また新しい唾液を塗りつける。

唯「んんっ……」

 お姉ちゃんが背中をぶるぶるふるわせて、少し遠慮がちに私の背中を抱く。

憂「……おねえちゃん、どうしたの?」

 いっしゅん尋ねて、また唾液を垂らしながら舐めまわす。

唯「ひや、しょの」

 お姉ちゃんが身をよじった。

 まるで、逃れるように。

 いったいなにがお姉ちゃんの体を震えさせているのか。

 確かにブラウスは濡れて寒いけれど、だったらもっとキスをして、熱くならなければ。

唯「ごめんっ!」

 と、お姉ちゃんが私の肩を押さえ、ソファに押しつけた。

 そして、一目散にリビングの奥に駆けていく。

憂「お姉ちゃん!?」

 奥の部屋に駆けこんだお姉ちゃんは、すぐさま扉を閉め、鍵をかけてしまった。

憂「おね……」

 そして数秒後。

 えもいわれぬ水音が扉を隔て、聞こえてきた。

唯「ふぅーいっ」

憂「……」

 私は、お尻に潰されていたガムの箱を手に取った。

憂「はぁ……」

 「一度に大量に食べると、お腹がゆるくなることがあります。」

 裏にはそう小さく書かれていた。

 私は足音を鳴らして、トイレの前に立った。

憂「お姉ちゃん、大丈夫?」

唯「な、なんとか」

 中でお姉ちゃんが、へへっと笑った。

憂「……お姉ちゃん」

唯「はいっ」

憂「今度はお腹が悪くないとき、ガムちょうだいね」

唯「はい。……あ、うんっ!」

 私の言った意味を解したか、お姉ちゃんの声の調子が上がった。

 私は小さく笑ってから台所へ行き、ガムをひとまず捨ててしまうと、

 夕ご飯の支度を再開することにした。


   お わ り



最終更新:2011年04月14日 01:07