―――

唯「……あー、ひまだー」

梓「本でも持って来ればよかったですね」

唯「はぁ~~」

梓「帰りに向かいのペットショップに寄っていいですか。トンちゃんの餌を買うので」

唯「うん……。コインランドリーにいると、なんだか他の人の服を着せられてる気分になるね」

梓「実際私達他の人の服着てますからね、今」

唯「あ……あのお店最近できたのかな」

梓「……ウェディングドレス?」

唯「あ、そういえば」

梓「なんですか」

唯「今日りっちゃんの弟君の結婚式なんだって」

梓「そうなんですか。ああ、だから今日練習休みだったんですね」

唯「りっちゃん、今頃おいしい料理を食べてるんだろうなぁ。羨ましい……」

梓「そっちに憧れを抱くのは、唯先輩らしいです」

唯「他に何があるの?」

梓「花嫁、とか」

唯「花嫁、かぁ……」

梓「唯先輩?」

唯「あのドレス、かわいい……」

梓「やっぱり唯先輩は唯先輩です」

唯「ねぇ、あのお店見に行かない?」

梓「洗濯物、盗まれちゃいますよ」

唯「防犯カメラがあるよ」

梓「油断はできません。行くなら唯先輩一人で行ってください。私は残ります」

唯「え~。う~ん、しょうがないなぁ。ちょっと待っててね」


梓(唯先輩、まだかなぁ)

唯(あずにゃん! あずにゃん!)

梓(……。声は聞こえないけど呼ばれたような……。あ、唯先輩が手を振ってる)

唯(あずにゃ~ん、このドレスどう? かわいいでしょ!)

梓(……なんで着てるんですか)

唯(ねぇ、かわいい?)

梓(綺麗ですね。そのドレス)

唯(お姫様のドレスみたいだよね、これ)

梓(馬子にも衣装というか)

唯(ほらほら見て~)

梓(クルクル回らないでください、見苦しい。……意外と露出多いんだなぁ)

唯(でも歩きにくいなぁ)

梓(大人しく立っていられないのかな)

唯(あ、ポーズをとってみようかな)

梓(ブーケなんて持って来て何を)

唯(えへへ~)

梓(ブーケを胸の前に抱えてもそんな顔じゃ格好がつきませんよ)

唯(ふんすっ!)

梓(それもなんか違います)

唯(…………あずにゃん)

梓(……唯先輩)

唯(どう?)

梓「…………かわいいですよ」

―――

唯「ただいまーっ」

梓「おかえりなさい」

唯「あ、こんにちはー!」

梓「え、あ、こんにちは」

唯「どしたの、あずにゃん」

梓(男の人……。いつからいたんだろう。全然気付かなかった)

唯「あずにゃ~ん?」

梓「あ、すみません。というか唯先輩、何やってるんですか」

唯「ほぇ?」

梓「ウェディングドレスです」

唯「ああ。私、あのお店のお客さん第一号なんだよ! だから特別に、自由に試着させてもらえたの」

梓「いいんですか。唯先輩、結婚の予定があるわけでもないのに」

唯「わからないよ? 一週間後、電撃結婚するかもしれないよ?」

梓「……誰とですか」

唯「さぁ?」

梓「唯先輩に限ってそんなことありえないです」

唯「え~?」

梓「はぁ。乾燥、まだ時間かかるみたいですね」

唯「そうだねー。というわけであずにゃん」

梓「はい?」

唯「あずにゃんもウェディングドレス着てきなさい。 今度は私が留守番するから」

梓「え……いえ、いいです」

唯「でも私、店員さんにもう一人来るって言っちゃったし……」

梓「また人の都合も聞かずに……」

唯「さあさ、いってらっしゃーい」

―――

梓(来てしまった……。そして着てしまった)

唯(やっほー、あーずにゃんっ!)

梓(恥ずかしい)

唯(ほら、笑って。ポーズとって。クルッと回って)

梓(髪型までセットしてもらわなくてもよかったのに)

唯(アップのあずにゃんも新鮮だね。かわいいっ!)

梓(ドレスのふくらみが邪魔で足元が見えない)

唯(ちょこちょこ歩いちゃって。かわいいっ!)

梓(ん? これってよく見たら)

唯(あれ? あのドレスもしかして)

梓(唯先輩が着てたのと同じ?)

唯(私が着てたやつ?)

梓(店員さんに聞いてみよう)

唯(私がさっきまで着てたのをあずにゃんが……)

梓(あ……やっぱりそうなんですか)

唯(あずにゃんの方がかわいいね! 私より)

梓(なんだか変な気分)

唯(かわいいからいいんだよ、あずにゃん)

梓(唯先輩、さっきから「かわいい」としか言ってないような。気のせいかな)

唯(でも、顔がよく見えないなぁ。ベールがジャマで)

梓(喜べばいいのかな? でも違うことも言ってもらいたい。……違うことって何よ)

唯(ん? あずにゃんがベールを?)

梓(自分でベールを上げるのはおかしいかもしれないけど……)

唯「…………綺麗だよ、あずにゃん」

梓「……なにやってるんだろ、私」

―――

唯「おかえりー」

梓「戻りました」

唯「かわいかったよー……ってあれ?」

梓「……おみやげ、だそうです」 

唯「……ドレスって高いんじゃないの?」

梓「お客さん一号二号だし、二人に良く似合ってたからあげる、だそうです」

唯「気前がいいですな~」

梓「元々売り物ではなかったそうです。店長さんが試着者にプレゼントするために用意してたとか」

唯「そうなんだー」

梓「さ、乾燥も終わったみたいですし帰りましょう」

唯「うん」

唯「お、晴れてきたねー」

梓「はい。明日も晴れてほしいです」

唯「でも雨だったらまたランドリーに行って、それからあのドレス屋さんに行く口実ができるよ」

梓「デパートの試食品じゃないんですから。そんな気軽に試着しに行ったら迷惑ですよ」

唯「じゃあ次はいつ行こっか」

梓「それこそ結婚が近くなってからでいいんじゃないですか」

唯「いつになるんだろう」

梓「当分はないでしょうね」

唯「え~、あの店員さんにまた会いたいよ~」

梓「じゃあ迷惑がかからない程度に会いに行けばいいんじゃないですか」

唯「そうだねー。あずにゃんも一緒にね」

梓「……貰いものがありますからね。お礼は言いに行かないと駄目ですよね」

唯「今日は楽しかったね」

梓「はい。パーカーにスウェットで入るようなお店じゃありませんでしたけど」

唯「おままごとみたいだったけどさ」

梓「そうですね」

唯「でも、綺麗な花嫁を見れたよ!」

梓「私もかわいい花嫁を見れました」

唯「あはは」

梓「ふふ」

唯「ランドリーにいた男の人には奇異のまなざしを向けられてたけど気にすることないね!」

梓「……そこは気にします」



※終わり






最終更新:2011年04月15日 23:58