梓「……」

一年前、先輩たちはこの桜の木をどんな風に見ていたんだろう


梓「さ、最近暖かくなったねー!」


トンちゃん「コポポ」


一人っきりの音楽室はちょっぴり寂しいです


梓「紅茶でも飲も…」

新歓ライブ当日、私は一人音楽室で出番を待っている


梓「……ズズ」

梓「苦い…」

梓「新歓ライブか…」


正直なところ最近やる気が起きない


新入部員を獲得することができるのか、という不安よりも


むしろその後、今までの日常のような毎日を送ることができるのかどうかの方が心配だ


梓「色んなことあったな…」

梓「……」


ガチャ


さわ子「どう?新入部員入ってくれそう?」


梓「何とも言えません…」


さわ子「もし誰も入らなかったら…」


梓「わかってます!」


さわ子「……」


梓「なんか最近自分がどうしたいのかよくわからなくて…」

梓「私…多分軽音部に居続けたのはギターを弾きたかったからじゃないんです」

梓「先輩たちと一緒に過ごす毎日がいつの間にか好きになってて…」


梓「だから新入部員なんて別に…」


さわ子「あの梓ちゃんがそんなこと考えてるなんてね…」


さわ子「だいたいあなた約束したんじゃないの?」


さわ子「それにあの子たちだって新入部員を期待してると思うけどな」


梓「私は…」


さわ子「そうやって言い訳して、結局は逃げてるだけじゃなんじゃないの?」


梓「逃げてなんか……!」


さわ子「それに、そんな楽しい思い出もらっておいて恩返しもしないなんて…」

さわ子「過去にすがってばかりいたら自分をダメにしてしまうわよ!」


梓「ぶ、部長は私です!」

梓「だから部をどうしようと私の勝手じゃないですか!」

さわ子「勝手じゃないわよ!軽音部を廃部にしてあなた笑顔であの子たちに会える?」

梓「っ……」

さわ子「頑張って入ってくれないならまだしも、やる気がなくて入らなかったじゃ、あなた一生後悔するわよ?」


梓「ちょっと…」

梓「ちょっと一人にしてくれませんかね」

さわ子「はぁ……わかったわ」

バタン

梓「……」

梓「どうしてこんな風に考えるようになっちゃったのかな…」

梓「はぁ…」

梓「ずっとずっと、あの頃のまま笑っていれたらな…」


ずっとずっと…

ドンッ

梓「!」

唯「いてて…」

梓「ゆ、唯先輩!?」


唯「あー!」

唯「梓ちゃんだー!」

梓「へっ!?」

唯「その姿…そして桜…梓ちゃんもしかして高校三年生?」

梓「は…はいそうですけど…」

唯「やっと会えたー!」ムギュ

梓「ちょっ…」

唯「はぁ…」

唯「懐かしいなぁ…」

唯「この柔らかさ、匂い……はぁ」


梓「懐かしいって、まだ卒業してからあまり経ってませんよ?」


唯「あれ?今日まだ春休み?」


梓「新歓ライブ当日です」


唯「そそ、そうなの?」


唯「もしかして…一人で?」


梓「そうですよーっ!」


梓「……だからもう不安で」


唯「そういうこと…か」

梓「ていうか何しに来……」


あれ……?


唯先輩…大人びてない?

大学生になったせい?

いやいや髪も伸びてるし…

それに…

梓……ちゃん?

梓「もしかして…憂?」

梓「憂手伝いに来てくれたの?」

唯「私…憂じゃないよ?」

唯「どっから説明すればいいのかな…」

ドンドン

さわ子「梓ちゃん!?もう行かないと!」

唯「うわっ、でた!」
梓「あっ、じゃあ私…」

唯「待って」グイ


梓「ちょっ」


シュンッ

ガチャ

さわ子「もう梓ちゃ………ってあれ?いない…」

シュンッ


唯「どんな仕組みなんだろこれ…」


梓「ちょっと何するんですか…」

梓「ってあれ、ここは…?」

唯「うーん…未来…かなぁ」


梓「へーみなとみらいですか」


唯「違う違う!未来!Futureのほう!」

梓「ふゅーちゃー?」

梓「ん?」

梓「えっと…ん?」
梓「みらい…って未来?」

唯「そそ。未来」


梓「ふーん…」

梓「ふーん?」

梓「痛たたた」

唯「夢じゃないでしょ?」グイグイ

梓「つまりどういうことなんれしゅか?」


唯「ちょっと話が長くなるんだけど…」

紬「おまたせー」


唯「つむぎはーかせー!」

梓「博士?」

紬「……」

唯「ねーはかせはかせはかせー」

紬「……はぁ」

唯「ほら見て!ちゃんと連れてきたよ!」

紬「すごいすごい」
唯「えへへ」

紬「っていうか私は博士じゃないんだけど…」


梓「ムギ先輩どういうことなんですか?」


紬「まあまあ、落ち着いて?」コトッ

唯「ケーキは?」

紬「もう大人なんだからだーめ」


唯「大人だからダメなの!?」

紬「甘いものばっかり食べてると太るって言ってるの!」


紬「あなたもう十代じゃないのよ?」

唯「うー…」

梓「十代じゃない…?」

梓「すいませんお二人って今何歳なんですか?」


唯「えーと…にじゅう…」

紬「ダメよ!私たちは心は十代なんだから!」

唯「はっ…!そうだった…心はずっとあの頃のままだ!」

梓「でも確かにお二人とも綺麗ですね」
唯「またまた~」

紬「本当に?」

梓「はい!」

梓「…ていうかすごいです」

梓「本当に未来ではタイムマシーンが使えたんですね!」

紬「誰でも使えるってわけじゃないんだけど…」

唯「ムギちゃんの会社の人たちがねー」

紬「ねー」

梓「それで、どうして私はこっちの時代に連れてこられたんでしょうか」


紬「……」


紬「そもそも、この時空間移動装置はあなたが原因で作られたものなの」

梓「わたしが…ですか?」

紬「…そう。あなたの過去…つまり未来を変えるため」


梓「私が何したんでしょうか」


紬「今梓ちゃん新歓ライブ当日だったと思うんだけど」


紬「……まあ結論から言うとね、誰も入部しないの」


梓「そんな…あはは…そんな訳ないですよ!」

紬「そしてそのまま軽音部は廃部」

唯「私たちが知った頃にはもう軽音部は無くなっていたんだよ」

紬「それから梓ちゃんも私たちと距離を取るようになって…」


梓「……」

梓「嘘ですよ!タイムマシーンの話は信じるとしてもそれは信じられません!」

唯「梓ちゃん…」

紬「いいえ。本当よ」

梓「そんなわけ…」

紬「嘘じゃない。私の眼を見て」

梓「う……」

唯「ムギちゃんね、梓ちゃんが距離を取ったのはずっと私たちに原因があったんじゃないかって思ってたの」

唯「ずっとだよ?今までずっと」

梓「じゃあどうすればいいんですか?」

紬「一緒にその原因を探しましょ?」

紬「そして未来を変えるの」

梓「そんなに簡単にいくでしょうか」

紬「やるしかないのよ」

唯「なんか映画みたいだねー」


唯「すいませーん」

梓「未来を変えるって言ってもどうしたら…」

紬「まずは現実を確認しに行きましょ」

紬「あなたも証拠が見たいでしょ?」カチッ

梓「それは?」

紬「これがタイムマシーンよ」

梓「その腕時計みたいなのが?」


唯「でしょー!私も最初はドラえもんに出てくるようなの想像したんだよー」


梓「未来はすごいです…」

紬「……」カチカチ

紬「このタイムマシーンで時空間を移動できるのは二人までよ」

紬「今回は私と梓ちゃんね」

梓「はい!」

紬「じゃあ手を繋いで」

梓「……」ギュッ

シュンッ



新歓ライブから数日後…

シュンッ

紬「いい?こっちの世界でもう一人の自分に会っちゃダメよ?」

梓「どうしてですか?」

紬「パニックになっちゃうでしょ?」

紬「それこそタイムマシーンの存在が知れたらあなたもう元には戻れないわ」

梓「はい…」

梓「…でここは?」

紬「……」

紬「桜高の教室だわ…」

梓「これって場所は指定できないんですか?」


紬「まだ正確な場所ってのは無理かな」

紬「まだ未完成だからね」


梓「そうなんですか…」


紬「とりあえず音楽室行こう!」


梓「はい!」

ジャカジャカ

紬「音…聴こえるよね」


梓「はい…そうですね」

ガチッ

梓「!」

紬「カセットのスイッチじゃない?」

梓「ってことは…もしかして私カセットテープの音に合わせて一人で…」


紬「………」


梓『なんで…こんなことになっちゃったんだろ』

梓『ねぇトンちゃん?どうしてかなぁ…』

梓『ひとりぼっちは…寂しいよぉ』

梓「こんなの…あんまりですよ」

紬「これが現実」

紬「あなたが変えなくてはならない現実なのよ?」

梓『先輩に会わす顔もないや…あはは』

梓『……』

梓『……グスッ』



梓「……」


梓「…わかりました」

梓「ムギ先輩が言っていたこと、全部信じます」

梓「一緒に変えましょう」

紬「うん、きっと変えられるわ」


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最終更新:2011年04月16日 04:28