ミオ「まさかな……場所を特定されるなんて……どうしてわかった?」

澪「……梓、とりあえず明かりをつけて」

梓「はい」

ミオ「質問に答えろよ!
   なんでお前ら、わたしの場所が特定できたんだよ!?」

澪「うるさい。そんなことよりわたしの質問に答えて」

澪(よし、明かりが完璧につく……って)

澪「えええええ!? これがわたし!?」

ミオ「……」

梓「み、ミオ先輩……その髪の毛どうしちゃったんですか……」

ミオ「……文句あるのか? わたしがどんな髪型にしようが、わたしの勝手だろうが」

澪「いや、でも……」

ミオ「……どうやらもうひとりのわたしは髪を染めたことないんだな」

澪「あ、あるわけないだろ?
  ていうか、その口ぶりだと髪をなんかいも染めてるみたいだな」

梓「言い忘れてましたけど、ミオ先輩はけっこうな回数、髪を染めてます」

澪「……いや、でもさすがにショッキングピンク色の髪は……」

ミオ「……完璧に別人にしか見えないだろ?」

澪「ピンク色に髪を染めてどうするつもりなんだ?」

ミオ「べつに。深くは考えてないな」

梓「でしょうね。これから推薦で受験する、人間のする行動じゃないでしょ。
  ていうか、よくそんな色に染まりましたね」

ミオ「ふふ……なんかいも染めてるからな」

澪「もしかして……そのままどこかへ逃げるつもりだったのか?」

ミオ「そっ。こんなくだらない連中からオサラバしたかったからさ」

澪「だから、わたしをパラレルワールドに呼んだのか?」

ミオ「いやいや、なんか勘違いしてないか?
   わたしは確かにお前が来ることをわかっていたし、実際お前をわたしの代わりにして逃げようとした」

澪「…………」

ミオ「けど、この世界にお前を呼んだのはわたしじゃない」

澪「じゃあ、誰だ?」

ミオ「さあ? そもそも、わたしも昨日までは半信半疑……
  いや、パラレルワールドなんてもの全然信じてなんていなかったんだよ」

澪「じゃあ、誰がお前にわたしのことを教えたんだ?」

ミオ「一週間前。メールがわたしのケータイに届いてたんだよ。
   妙に長い文章でさ。
   パラレルワールドからもうひとりのわたしが、律の家に現れるってメールがな」

澪「……」

ミオ「差出人は不明だ。だから、わたしもほとんど遊びのつもりで、
   仮にもうひとりのわたしがいたら、っていう仮定で前日までイロイロ準備してたんだよ」

澪「……なんで?」

ミオ「……あ?」

澪「どうして、お前はここにいるんだ?
  なんで、お前の代わりのわたしが現れたのに、遠くに逃げずにまだこんなとこにいるんだ?」

梓「そうですよ。先輩の言うとおりですよ。なんで、こんなとこにいるんですか?」

ミオ「…………」

ミオ「べつに深い理由はないし、こんなに簡単に見つけられるなんて思わなかったし……」

澪「……それだけ?」

ミオ「そもそも、わたしがお前をわたしの代わりにしようと思ったのも、ただひとつ。
   鬱陶しかったからだ」

澪「……」

ミオ「なんでか知らないけど、周りの連中はみんなわたしに惹かれてく。
   わたしってば、それで色んなヤツの相手をしてやった」

梓「……」

ミオ「ていうかさ、ぶっちゃけると賭けてたんだよ」

澪「賭け……?」

ミオ「今日中に、お前にわたしが見つけられなければ、わたしはここから去る」

澪「……」

ミオ「今日中にお前に見つけられたら……」

澪「見つけられたら、なんだ?」

ミオ「お前を一生、ここの住人にして、わたしがお前の世界に行ってそこの住人になる」

澪「どういうこと……?」

ミオ「理屈はよく知らないけど、この世界のモノでなんらかの傷を負うとパラレルワールドの住人は帰れなくなるらしい。
   なんかメールにそう書いてあった」

澪「……!」

ミオ「そしてね。傷を負わせた人間が、その傷を負った人間と同一人物だった場合……」


ミオ「その世界に行けるんだよ」


梓「澪先輩、なんだか非常にまずい気がするんですけど気のせいですかね?」

澪「いや、同じ人間として思うけど、あの目つきは危ないと思う……」

ミオ「わたしはいいかげんウンザリなんだよ。こんな女しかいない世界なんかさあ!」

澪「な、な、な、ナイフ!?」

ミオ「嘘じゃないっ!」

梓「あわわわ!?」

澪「ど、どどどどどうしようあずさああああ!?」

梓「いやいやいやわたしにフラないでくださいよ!」

澪「そ、そ、そんなこと言ったって迫ってくるしいいいい!」

梓「とにかく逃げましょう! 傷つけられるどころか、殺されます!」

ミオ「逃げるなああああああああ!」




梓「えらいことになりましたね……」

澪「死にたくない死にたくないいやだあああ死にたくないぃ」シクシク

梓「声出さないでくださいよ。かろうじて逃げ出して、隠れたのに。
  見つかったらどうするんですか?」

澪「だってぇ……」

梓「さっきの推理してるときの澪先輩はカッコイイと思ったのに……」


ミオ「どこにいるんだ!? 出てこいよ!!」

梓「ううぅ……確実に足音は近づいてるし……」

澪「終わった わたしの人生が ヒラヒラと」

梓「……ダメだこりゃ」

ミオ「なあ、頼むから出てきてくれよ? 今出てくるならそんなにひどい目にあわせないから……」


澪「あ、梓、ああ言ってるよ?」

梓「信用できますか、あのナイフ。妙にゴツいですし」

澪「て、ていうか、あれは本当にわ、わわわわたしなのか……」

梓「まるで別人ですね。でも、わたしの気のせいですかね?
  なんだかミオ先輩、心細そうに見えるんですけど」

澪「え……?」

ミオ「は、はやく出てこいよ。今なら……そうだ、安全ピンの針をチョコンと刺すだけで許してやるっ」

澪「……もしかして」

澪「梓、ひとつ頼みがある」

梓「なにか必勝方でも浮かびましたか!?」

澪「……うん、たぶん。アイツはわたしだから、たぶん上手くいくはずなんだ」

梓「わかりました、とにかく教えてください」

澪「……」ゴニョゴニョ

梓「……そんなことでいいんですか?」

澪「いいんだ。相手はわたしだ。だからきっと上手くいく」

ミオ「は、早く出てこいって言ってんのがわからないのか!?」

梓「わかりました。この際です、やってみます」

澪「た、頼んだぞ。わたしは耳ふさいでるから、話し終わったら背中を叩いてくれ」

ミオ「どこにいるんだよぉ……早く出てこいよっ!」

梓「ミオ先輩っ!」

ミオ「ひっ……!」ビクッ

ミオ「……って、どこにいるんだ!? 出てこいいぃ!」

梓「出ていってもいいですけど、その前に怖い話をしていいですか?」

ミオ「……へ?」

澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイ」

ミオ「ふ、ふざけるなっ! 馬鹿にしやがって……!」

梓「昔、あるところにギターが大好きな茶髪の少女がいました」

ミオ「……!」ビクッ

梓「しかし、その少女はやがてトラックに轢かれて死んでしまいました。
  少女の妹は悲しみました……って」

ミオ「 」

梓「立ったまま気絶してるし……。
  澪先輩、どうやら澪先輩の作成はうまくいったようです」

澪「 」

梓「……こっちは座ったまま気絶してる」

梓「なんだか、シマらない終わり方だけど、まあいっか……」

ミオ「 」

梓「暗い部屋でひとりでいても平気だったのに……ああ、もしかしたら気絶してただけなのかも」

澪「 」

梓「こっちはこっちでこれだし……」

梓「とりあえず、ロープかなにかでミオ先輩を縛ろうっと……」


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最終更新:2011年04月18日 00:31