軽音部!!
律 「と、いうわけでー・・・・」
律 「我らが軽音部の救世主!クールビューティー・ミスさわ子に盛大な拍手をー・・・・!!」
ぱちぱちぱち!!
さわ子 「なんなの、このノリ」
律 「さぁさぁ、さわちゃん!一番良い席に座って。上座上座♪ムギ!上等のお茶でおもてなししてくれ!」
紬 「あいあいさー♪」
さわ子 「ちょっと・・・」
澪 「山中先生、感激です!生徒の憧れ、あの山中先生が私たちの顧問になってくれるなんて」
さわ子 「あ、あはは・・・」
律 「まぁ憧れと言っても、本当の姿はアルバムの通りなんだけどな」
さわ子 「けっきょくバラしてんじゃないのよ!」
唯 「ありがとうございます、山中先生!」ニッコー
さわ子 「もう好きにして・・・」
ずず・・・
さわ子 「ふぅ。お茶、ご馳走様。じゃ、早速だけど、みんなの演奏を聴かせてくれるかしら」
和 「はい。みんな、やろう」
澪 「ああ。それじゃ、先生。ここにいるムギが作曲して」
紬 ぺこり
澪 「私が作詞した曲 ふわふわ時間 を聴いてください」
いよいよだわ。ここで無様な姿はさらせない。
強引に引っ張ってきた山中先生のためにも、軽音部のこれからのためにも。
全力で、今もてる力を全て発揮して、最高の歌を唄うんだ・・・!
律 「じゃ、いくぞー!ワン・ツー!」
失敗は許されない・・・
前奏が始まった。
軽快なリズムの合わせて、私の身体も自然とリズムを刻む。
心地良い曲の流れに身を任せ、みんなの演奏と私の一体感を得る。
良い感じだ・・・!
前奏が終わりに近づき、いよいよ歌い出しが間近に迫る。
あとはいつもの練習通りに歌うだけ。私は口を開いた。
と、その途端に感じる違和感。同時に早鐘を打つかのように、心臓の鼓動がペースを上げだす。
和「っ君を見てると いつもハートどどきどききっ」
唯・律・澪・紬 「・・・・え?」
しーん・・・
和 「み、みんな、ごめんなさい。かんじゃった」
律 「あはは。なんだよ、和らしくない」
まったくだ。我ながら、私らしくない凡ミス。
情けない歌を聴かせて山中先生に呆れられちゃったら、顧問の話も立ち消えになっちゃうかもしれない。
そんなことにさせてはいけない。頑張らなくちゃ。
頑張らなくちゃ・・・ でも、さっきのはいったい・・・
ううん、気にしちゃいられない。とにかくもう一回。次はきっと上手くいく。
和 「もう平気。もう一回、よろしく!」
ちゃかちゃかちゃん♪ちゃかちゃかちゃか♪ちゃかちゃかちゃん♪
和 「君をみ・・・あぐ・・・ぅ」
律 「ちょ、ストップ・・・」
唯 「どうしちゃったの、和ちゃん?」
紬 「喉の調子でも悪いのかしら?」
唯 「それだったら、無理しないほうが良いよ!」
和 「や、違う。喉は全然なんとも・・・ んっ、んっ、おかしいな・・・・」
澪 「もしかして、先生が見てるんで緊張しちゃったのか?」
和 「・・・・あ」
そうか、そういうことだったのか・・・
律 「ますます、らしくないな。リラックスしてもう一回! 最初っからいってみようぜ!」
和 「・・・・ええ。ごめんね」
20分後・・・
律 「・・・・」
澪 「・・・・」
紬 「・・・・」
唯 「・・・和ちゃん」
和 「ごめんね、みんな。だけど、そんな哀れんだ目で私を見ないで」
律 「いや。つーかさ、本当にどうしたんだ?」
和 「澪がさっき言った通りだと思うわ・・・」
紬 「緊張しちゃって、声が出なかったの?」
唯 「え、でもでも。今まで練習のときは、あんなにちゃんと歌えてたのに・・・」
和 「だからそれも・・・ 澪がさっき言った通りに・・・」
さわ子 「私がいたから?」
律 「つまり、私ら以外の第三者がいたから、緊張して声が出なかった・・・と?」
和 「おそらく」
澪 「え?だけど第三者といっても、山中先生ひとりだけだぞ」
和 「人数の問題じゃないみたい」
紬 「どうしよう・・・ それじゃもっとたくさんの観客が見に来るライブなんか、とても・・・」
和 「本番前に気がついてよかったわ」
唯 「冷静に分析してる場合じゃないよ!」
和 「そうよ!ど、どうしよう、唯ーーーーー!」
さわ子 「だからって、取り乱さない」
和 「そうですね」
初心者なりに練習もがんばってきた。
みんなの足を引っ張りたくなくて、私なりに懸命に。
なにより、唯に笑顔を取り戻させてくれた場所を私も大切に思っているから。
だから、大切な場所と大切なみんなのために。
なのに・・・
和 「どうしよう・・・ このままじゃ私、みんなに迷惑をかけてしまう」
律 「迷惑とかさ、そんな風には考えなくても良いけど。ただ、な」
澪 「この現状、どう打開するかが問題だな」
紬 「うーん・・・」
和 「ほんと・・・ ほんと、ごめんなさい・・・」
唯 「・・・・」
唯 「今日はいったん練習はお開きにしようよ」
律 「唯?」
唯 「和ちゃんも、気分を落ち着ける時間があった方が良いよね」
和 「ええ・・・」
律 「そうだな。時間を置いたらスンナリ事が運ぶって場合も、けっこうあるもんな」
紬 「そうね、それじゃお茶を煎れるわ!まずは一息つきましょう。ね?」
和 「え、ええ・・・」
唯 「和ちゃん・・・」
さわ子 (ふむ・・・)
解散後 職員室!!
唯 「山中先生・・・」
さわ子 「あら、平沢さん? みんなと帰ったんじゃなかったの?」
唯 「あ、はい。ちょっと用事があるって言って、抜けてみました」
さわ子 「そう。で、その用事って私に?」
唯 「はい・・・ あの、今日はごめんなさい」
さわ子 「なにがかしら」
唯 「せっかく来てくれたのに、顧問にもなってもらったのに、演奏を聞かせられなくって・・・」
さわ子 「ま、仕方がないわよ。今日はダメでも、次にきちんと歌えれば問題ないじゃない」
唯 「はい・・・」
さわ子 「真鍋さんは?」
唯 「一人になりたいって。たぶん教室に・・・」
さわ子 「そっか」
唯 「先生。私、和ちゃんから聞きました」
さわ子 「ん?」
唯 「一番最初。私が部活を始めるのに二の足を踏んでいるとき、山中先生が親身になってくれたって」
唯 「おかげで私、軽音部に入れて。あんなに良い人たちとも知り合えて・・・ だから」
唯 「本当にありがとう。山中先生・・・」
さわ子 「・・・良いのよ」
さわ子 「私は廃部寸前で、部員が喉から手が出るほど欲しかった軽音部と・・・」
さわ子 「そしてあなた達との橋渡しをしただけ。だから、ね?」
唯 「・・・」
さわ子 「そこで良い友達と巡り合えたというのなら、それはあなた自身の力」
さわ子 「あなたが良い人だから、周りの良い人も惹き付けられた。ただそれだけの話よ」
唯 「先生・・・」
さわ子 「感謝してくれるのは嬉しいけど、それよりも自分を誇りなさい」
唯 「・・・はい」
唯 「でも、それでも。先生と、あと和ちゃんにはいくらお礼を言っても足りないくらい」
唯 「特に和ちゃんには・・・ 和ちゃんがいたから、みんなとも、先生とも知り合えて・・・」
唯 「その和ちゃんが困ってて・・・ たぶん今、凄く落ち込んでて・・・」
さわ子 「そうね。かなりショックを受けてるようだったものね」
唯 「はい。だから、何か力になりたいなって。でも、私に何ができるのか。全然分からないんです」
さわ子 「ふむ。私は逆に分かって来ちゃったけど、ね」
唯 「わかっちゃいます?」
さわ子 「分かるわよ。つまり、真鍋さんを立ち直らせるために力を貸せと。そう言いたいのね」
唯 「さすが先生」
さわ子 「やっぱり長年の親友ってだけあるわね・・・ 考え方も似てること」
唯 「えへへ」
さわ子 「よし。乗りかけた船だ。最後まで舵取りしてやろうじゃないの!」
唯 「ありがとう、先生!」
さわ子 「たぁだし!」
唯 「!?」
さわ子 「これは真鍋さんの時にも言ったことだけど、自分で言い出したことなんだから投げっぱなしはダメ」
さわ子 「あなたにも協力してもらうわよ?」
唯 「ふ・・・・ふぇ?」
教室!!
唯 「あ、和ちゃん。やっぱりここにいた!」
和 「唯・・・ みんなと帰ったんじゃなかったの?」
唯 「ううん? 私はね、和ちゃんと一緒に帰るの」
和 「いや、今はちょっと一人に・・・」
唯 「でね、帰りにちょっと寄り道したいところがあるんだー」
和 「唯。人の話を聞いてる?」
唯 「さ、早くいこ!遅くなっちゃうよ」
和 「・・・はぁ。分かったわ。で、どこによって帰りたいの?」
唯 「えっへっへっへ・・・・」
和 「??」
カラオケ屋の前!!
和 「いや、カラオケって・・・」
唯 「和ちゃんとカラオケなんて、久しぶりだよね。中学の頃いらい?」
和 「そうね。その後は唯もカラオケどころじゃなかったし・・・て、そうじゃなくて!」
唯 「ん?」
和 「悪いんだけど、唯。とてもカラオケって気分じゃないのよ。だから・・・・」
唯 「話は中で聞くよー。さ、はいろはいろ」
和 「人の話を聞けー!」
唯 「あ、受付はしないで良いよー。先にやってもらってるから」
和 「やってもらってるって、誰が・・・」
和 「あ・・・ もしや・・・」
がちゃっ!
唯 「さわ子先生!お待たせー!!」
さわ子 「はい、待ってた待ってた♪ 先に2~3曲歌っちゃってたわよ」
和 「・・・やっぱり」
唯 「せっかちだなぁ。これからいくらでも、たくさん歌えるのに」
さわ子 「なに言ってるの。あんたたち待ってる間も料金はかかってるんだからね。ただボーっとしてるのも、もったいないじゃない」
唯 「それもそうかー」
アハハハハ
和 「ちょっと、談笑中に申し訳ないんですけれど・・・・」
さわ子・唯 「ん?」
和 「これは何事? そろそろ説明してくれても良いんじゃないかしら・・・」
さわ子 「何事って・・・ カラオケに来て、やることは一つじゃない」
唯 「歌うよ!」
和 「そうじゃなくって!」
さわ子 「ああ、飲み物ね!」
和 「へ??」
さわ子 「これはうっかり。飲み物ないと喉かわいちゃうものねぇ。唯ちゃん、メニューとって」
唯 「ほいきた」
さわ子 「んー、何にしようかなぁ。ほれ、あんた達も選びなさい」
唯 「・・・これ、美味しそう・・」
さわ子 「・・・カルーアミルクって、お酒じゃない。ダメです。そういうのは先生のいない時、こっそり飲みなさい」
唯 「ちぇー・・・」
さわ子 「固いことは言いたくはないけどね。目の前で飲酒なんかさせちゃ、私にも立場って物があるのよ」
唯 「ばれなきゃ平気なのにぃ・・・」
さわ子 「はいはい。おとなしくただのミルクでも飲んでなさいな」
さわ子 「それじゃ飲み物が来たら、さっそく歌うわよ!」
唯 「歌うぞー!」
和 「・・・・」
さわ子 「さぁさ、今のうちに歌を選んでおきなさい」
唯 「ねぇ、歌う順番はどうするの?」
和 「・・・・」
さわ子 「そうね。じゃんけんして、負けた人から時計回りで良いんじゃないかな」
唯 「うわ、一番目は嫌だなぁ。これは気合を入れて勝負をしないと・・・!」
和 「・・・・」
さわ子 「じゃ、決めちゃいましょう!じゃーんけん・・・ほいっ」グー
唯 「ほいっ!」パー
和 「・・・・・」パー
さわ子 「私からか。ふっふっふ、望むところよ。喉はもう暖まってるもの!歌い倒してやるわ!」
唯 「先生、私、和ちゃんの順番だね。二番手か、緊張するなぁ」
和 「・・・・」
唯 「どうしたの、和ちゃん。さっきからずっとダンマリしちゃって」
和 「どういうつもりなの?」
唯 「え・・・ なにが??」
和 「歌えないのよ!二人も部室で見てたでしょう?それをこんな無理やり!」
和 「なんなの、なんだってのよ!」
唯 「の、和ちゃん・・・」オロオロ
和 「ひどい・・・ 酷いよ・・・」
さわ子 「・・・・・」
さわ子 「なんかちょっと幻滅だわー・・・・」
和 「・・・・え」
最終更新:2011年04月19日 23:05