みんなの優しさ、暖かさが心に染みる。

私、何を意固地になっていたんだろうか・・・


唯 「それではお待たせしました。次は、私の話・・・」


き・・・来た。

にわかに緊張感が走り、知らずに飲み込んだ生唾で喉がごきゅりと鳴った。


唯 「あれは春先だったから、もうずいぶん経っちゃったよね。たくさん待たせてゴメンね、和ちゃん」

和 「う、ううん」

唯 「でも、私もね。和ちゃんとあまり会えない間、ずっと考えてたんだよ。ずっとたくさん、真剣に・・・」

和 「うん・・・」

唯 「でね。私、決めた!和ちゃんっ!!」

和 「う、うんっ!」ドキッ

唯 「和ちゃん、私と・・・!!」

和 「っ唯!!」

唯 「海に行こう?」

和 「うん、行こう!!」

唯 「やったー♪じゃ、夏休みに行こうね♪」

和 「分かった・・・わ・・・」


和 「え!?」

どてちんっ!

唯 「わ!!の、和ちゃん。なんでずっこけてるの・・・!?」

和 「ゆ、唯・・・なんでこの流れで海なのかしら・・・」

唯 「和ちゃん、海。・・・嫌い?」

和 「いや、好きとか嫌いとかじゃなくってね」

唯 「一年前・・・さ」

和 「え・・・?」

唯 「一年前。みんなと海に合宿に行った時のこと、覚えてる?」

和 「え・・・忘れられるわけないわ。私が要らないこだわりを捨て、そして唯が。昔の唯が戻ってきてくれた合宿の事だもの」

唯 「うん。そして、私と和ちゃんの新しい関係の始まりにもなった、ね?」

和 「そう、あの夏が起点だったわね。私、唯と本当の意味で親友に戻ることができた」

和 「・・・嬉しかった」

唯 「私も。だからね。海は私たちにとって大切な場所。そして、新しいスタートをきるのに、もっともピッタリな場所だと思うんだ」

和 「新しいって・・・あ。ゆ、唯・・・」

唯 「えへ・・・・」

唯 「和ちゃん。私、白状するね」

和 「な、なに・・・?」

唯 「私、今でもやっぱり、りっちゃんのことが好きなんだと思う。かっこいーし、一緒にいるとドキドキするし」

和 「唯・・・」

唯 「ふられたことを思い返すと、やっぱり悲しくなるし。でもね・・・?」


ぎゅ


和 「あ・・・唯?」

唯 「こうして、和ちゃんの隣にいる今。和ちゃんの手を握っている今・・・この今も、やっぱりドキドキしてるの」

唯 「気が多いって笑わないでね?今のドキドキは、和ちゃんが私を好きだって言ってくれたからこそ、気づけた気持ちなんだから」

和 「唯・・・そんな、ストレートに言われたら・・・こっちまでドキドキしてきちゃうじゃない」

唯 「へへ、ごめんね?でも、だから、こそ。今の気持ち、自分できちんと見極めたい」

唯 「和ちゃんと。想い出の場所で。一緒に・・・だから。だから、ね?」

和 「・・・ふふ」

唯 「えー!?なんでこのタイミングで笑うの?私、なんかおかしな事を言っちゃった?」

和 「じゃなくってね。私も、海。行きたいなって思ってたから・・・おかしいね。離れていても、考えてることは一緒なんだもの」

唯 「へへへ・・・だって私たち、ずっと。子供の頃から一緒だったんだもん。この、繋いだ手みたいに。そして、これからも」

和 「そうだね。だから、そのためにも・・・行こう、唯」

唯 「うん!あの、夏の海へ」


想い出の海へ。皆と賑やかにひと夏の想い出を紡いだ、あのリスタートの場所へ。

今度はそこへ、唯と。愛する人と二人で行こう。

二人手をつなぎ、どこまでも続く波打ち際を歩いて、いろいろな話をしよう。

寄せては返す波に足を洗われながら、今までのこと。これからのこと。唯の気持ち。私の想いのこと。

きっと入道雲の隙間からさす陽の光が、隠れていた感情まで照らしてくれて。

今まで以上に素直な気持ちで、お互い向き合うことができるだろう。それはとても素敵なこと。

そこで唯が出す結論がどんな形になるか、それは今の私には知る由もないけれど。

でも、予想はできる。

きっと導き出された答えは、どんな形であれ、私たちの新しい関係への出発点となってくれるに違いない。

一年前のあの時と同じように。

ううん。あの時よりも、もっと・・・


また今年も。これから指折り夏休みまでの日数を数える日々が始まる。

それは同時に、新たなスタートを切るまでのカウントダウン。

そう・・・


和 「・・・唯」


繋がれたままの唯の手を、さらに強く握る。


和 「唯、大好きだよ」

唯 「うん、私も。大好き、和ちゃん」


唯もそれに応えて、強く握り返してくれる。

そんな唯の手の暖かさと確かな感触を肌で感じ、胸にも刻み込み。

そして心で実感する。

私の軽音部でのライブは終わったけれど、私と唯の・・・

二人の新しいステージの幕は、まさに今。これから開かれようとしているところなんだと。



おわり!






最終更新:2011年04月19日 23:20