律「もってきたぞーーーい」チョリーッス
唯「あ、う、うん、はやかったね。ありがとう」カチカチアタフタ
唯はテーブルの傍に置いている2つの座イスのうちの1つに座ってケータイをいじっていた。
この座イスは低反発になっていて、何気に私のお気に入りである。
よく宿題を写させてもらうために澪が遊びにくるので
2つセットでお買い得だったものを躊躇なく買えたあの頃は
今はもうなんだか潰れたまま戻らなくなってしまったクッションに似ている。
うん、自分で言っていて得に意味はわかってないから気にスンナ。
律「メール?憂ちゃん?」
牛乳やら皿やらをテーブルに置き、自分もイスに腰掛けながら尋ねた。
なにをそんなにアタフタしておるのだい?
唯「え、いや、別に。うい、うい、ういだよ、うん、きっとうい!」シマイシマイ
・・・・・なにそのうさんくさい憂ちゃん押し。
ちょっと話のきっかけに聞いただけなんだけどな。
「きっと」って。むしろこれはあれか。「誰?」って聞けってフリか、フリなのか?
極め付けに窓の外見て口笛ふくなよ、雨だっての。
唯「さて、わたしはしょーとけーき食べようかなぁ~~♪りっちゃんは?」
そういうと箱からさっさとケーキを皿に取り出した。
私は牛乳をコップに注ぐ。
ケーキには正直、牛乳だと思う。
紅茶もいいけど、やっぱ牛乳だよ、牛乳。
やっぱり牛乳はむさしの牛乳!
律「ん~~・・・・やっぱモンブランかな」
唯「え!?イチゴ好きじゃないの!?それ人生9割損してるよ!!」ガーン
律「いや、9割も損しないから。てか、イチゴ好きじゃないとか言ってないから」
唯「だよね~~。イーチゴちゃんを嫌いな人とかいないよ、イーチゴちゃんを!!」
イーチゴちゃん、イーチゴちゃんと調子を取りながらモンブランも皿に取ってくれた。
そういうことを普段するのは、部活ではムギ、家では憂ちゃんなのだろう。
でも、私と2人で居るときの唯はそういうことを結構気を利かしてやる人になる。
唯はなにもできないわけじゃない。
ちゃんと気も利くし、人並みにいろんなことできる。
ただ唯よりもずっと早く気が利く人(ムギや憂ちゃん)が居るからそれは普段見えにくくなる。
それに加え、唯の怠け癖と人に素直に甘えることが出来る性質は
見る人に彼女をさらに何も出来ない人のように思わせてしまう。
だから、唯が何かを人並みにしようものなら
周囲の人はまるで小学生が高校生の数学をスラスラと解いているのを
目の当たりにするかのように驚き、そして、彼女を必要以上に持ち上げる。
その結果、唯はその怠け癖とだらけ癖にますます磨きをかけるのだ。
デフレスパイラル以上の悪循環。
憂ちゃんよ、君は賢いのだからそろそろそこに気づけ・・・・いや、気づけてください。
牛乳の入ったコップを渡すと、さっそくケーキを食べ始めた。
唯「おいひぃ~~~」モグモグ
律「・・・・そうか、よかったな」ハハハ
唯「りっちゃん、たべないの?」オグモグ
律「ん?・・・いや、食うよ」パクッ
律「うん・・・・うまいな、モンブラン・・・」モグ
唯「そうなんだ~~。イチゴも牛乳もおいしいよ~~」ゴクゴク
律「・・・・・あの、・・・・あのさ・唯」
唯「ん?なに?」プハァ
律「今日は・・・・その・・・・部活勝手に休んでごめん・・・」
唯「・・・・」モグモグ
律「・・・・私、部長なのに・・・・」
律「いや、そもそも・・・こんなのが部長だなんて・・・・・」
律「なさけないよな・・・・・」
唯「・・・・」ゴクン
唯「りっちゃん、どうしたの?」
律「・・・・」
唯「なんか、あったの?」
律「・・・・・」
唯「澪ちゃんとケンカしちゃった?」
律「」ピクッ
律「・・・・・ちがう・・・ケンカはしてない」
唯「・・・・ムギちゃん?」
律「いや・・・・ムギとは別になにも・・・・」
唯「じゃあ・・・・・」
唯「・・・・あずにゃん・・・・かな?」
律「・・・・」
唯「・・・・やっぱり昨日なにかあったんだね」モグモグ
律「・・・・・・」
律「・・・・・うん」
昨日あったことをはなす。
いつもの私のテンポではなく、
澪に対しての罪悪感のせいか、梓に対しての思いのせいかわからないけど
とにかく話にくかった。
声がのどで何回かつっかえた。
でも、唯はそれを何も言わずに聞いていた。
唯「そんなことがあったんだね・・・・」
律「うん・・・・」
唯「・・・」
律「・・・」
唯「・・・」
律「・・・」
唯「・・・」パクッ
律「・・・」
この雰囲気の中でケーキ食いやがった・・・。
唯「あ、えと、ごめん・・・ちょっと空気が重くて」ゴクゴク
私はよほどあきれた目を唯に向けたらしい。
あわてて言い訳が述べられた、牛乳のみながら。
いや、「空気重い」とか本人の前でいうなよ!!
しかも空気重いからケーキ食うってなんだよ、オイ!!
律「・・・・ったく・・・お前は・・・」
唯「へへへ・・・サーセン」
そういって、唯はいつものフニャっとした笑顔を私に向ける。
その笑顔に、ちょっとあきれるけどしまいにはクスっと笑ってしまう。
私今笑える状況じゃないのに。
本来、呆れられるべきは、私なのに。
・・・唯を見てるとたまに馬鹿らしくなる。
くだらないことで自分はクヨクヨとしてるんじゃないか、と。
本当はもっと単純で、それを私が勝手に難しくしているだけなんじゃなかろうか、と。
唯のせいでいろんなこと、わからなくなる。
唯と会ったときから、今までの私が積み上げてきた常識はゆっくり揺らいでく。
唯の視線で世界を見ることができたらいいのにな。
私もその柔らかさがほしかったよ。
また沈黙が始まろうとしていたけど、唯はケーキをゆっくりとついばみ始めた。
もうケーキが気になって仕方がないんだろう。
今日は放課後のティータイムもなかったんだし。
話をした手前、私のほうから次の会話をしたほうがいいのだろうけど、
私も、唯にならってケーキを食べることにした。
泣き虫にはモンブランの甘さがきつかった。
甘さを流すために牛乳を飲む私に唯が話かけてきた。
唯「ねぇねぇ」モグモグ
律「・・・ん?」ゴクゴク
唯「澪ちゃんはりっちゃんのどこが好きだったんだろうね?」
律「」プハァ
唯「りっちゃん、しょうもないデコなのにね」プークスクス
律「デコいうな、笑うな、そして私がそんなこと知るわけないだろう」
唯「じゃあ、あずにゃんなんでりっちゃんが好きなんだろうね?」
律「・・・」
唯「どうして・・・私じゃないんだろうね」
律「・・・」
律「・・・そんなもん、私が知りたいわ」
唯「ははは。ごめんごめん、怒んないで?」
律「・・・怒ってないから」
唯「そっか・・・よかった」
唯「でも、気になるなぁ」ウーン
律「・・・なんで気になるんだ?」
唯「んーーー」
唯「なんでかあててみる?」
律「・・・・」
なんだか、
唯の目すらもう直視できそうになくなってきた・・・
律「それは・・・」
律「当てても当てなくても」
律「悲しくならないかな・・・?」
唯「んーーー」
唯「それは、どうなんだろうね」フヘヘ
律「・・・」
唯「てか、やっぱり昨日あずにゃん、りっちゃんのせいでこなかったんだね」モグモグ
唯「りっちゃんは、本当に嘘つきだなぁ」
律「・・・」
律「あ、えと、・・・その・・・ごめん」
唯「もう・・・!!澪ちゃんしかり、あずにゃんしかり・・・うちの部長は一体どうしたものかね」
律「・・・・・」
律「いやぁ・・・・ほんとうに、もう・・・言葉がないです・・・はい・・・」シュン
唯「(今日のりっちゃんは怒ったり落ち込んだり、リアクションが面白いね!!)」ホホウ
唯「(・・・もうちょっといじめてみようかね!!)」
唯「澪ちゃんからもあずにゃんからも『また明日』って言われてるのに学校休んじゃうし」
律「ううぅ・・・・」
唯「澪ちゃん、フラれた側なのに今日ちゃんと学校きてたんだよ?」
律「・・・・うん・・(みお・・・)」
唯「あずにゃんは部活には来てなかったけど憂からは『学校来てた』ってきいたよ」
律「・・・はい・・・・(あずにゃ・・・あずさ・・・)」
唯「あずにゃん、りっちゃんの返事まっててきっと今日学校きたんだよ?」
律「・・・・」
唯「りっちゃんだけだよ?」
律「・・・・」
唯「逃げたのは、りっちゃんだけだよ?」
律「・・・うん」
唯「・・・・どうするの?」
律「・・・・」
唯「このままでいても、なにも変わらないよ?」
唯「どうするの!?」
律「・・・・どうしましょう・・・・?」
唯「私にきかないでよ・・・・」
律「すいません・・・」
唯「りっちゃんはさ・・・・」
唯「本当に、あずにゃんのこと好き?」
律「・・・好きだよ」
唯「本当に?」
律「本当だよ」
唯「じゃあ、ちょっと言うけどさ」
律「?」
唯「いくらでも嘘はついてていいよ、うん、もうそれがりっちゃんなんだって私、受け入れる」
唯「今話してることがりっちゃんにとって嘘でも私、信じるよ」
律「いや、・・・・嘘じゃないさ、私はあずさが好きだよ」
唯「うん、それはわかったよ」
唯「人に言いたくないことなんて、人にはあって当たり前だからさ」
唯「とりあえず」
唯「自分が部長だってことを気にしてあずにゃんを傷つけるのはやめてくれないかな?」
律「・・・っ!?」
律「だって・・・私、部長だし・・・」
唯「・・・・」
律「部長が・・・・部員のうちの一人だけに好意よせてたら・・・・」
律「もしそれがみんなにバレたら部活、・・・うまくみんなとできなくなるかもしれないって思って・・」
律「そんなことになったら・・・いやだから・・・・だから・・・・・」
律「・・・・あずさのことは好きだけど・」
律「本当は・・・・部長として・・・あずさのことはどうしたらいいのか・・・・」
律「わからない・・・」
律「澪にも、梓にも・・・嫌われたっていいんだ」
律「それくらいのことを私は2人にしてるって思ってる」
唯「・・・・」
律「だけど・・・やっぱり私は」
律「私の思いのせいで・・・軽音部が軽音部じゃなくなるのが一番いやだ・・・・」
唯「・・・・」
唯「りっちゃんの話聞いてたら・・・・」
唯「けいおん部のみんながりっちゃん傷つけてるみたい」
唯「私たちが・・・りっちゃんの邪魔してるみたいにおもえてくるよ・・・」
唯「りっちゃんは、部長としてどうしていいのかわからなくて、今日こなかったみたいだけど」
唯「今日りっちゃんこなかったから、あずにゃんもしかしたら『断られた』って勘違いしてるのかもしれない」
律「・・・・!」
唯「それはいやでしょ?」
唯「・・・嫌だってちゃんと思えるよね?」
律「・・・・うん、嫌だ・・・・よ」
唯「うん」
律「いやだ・・・」
唯「・・・私たちは・・・澪ちゃんもあずにゃんも、ムギちゃんもけいおん部の部員で」
唯「りっちゃんはけいおん部の部長で・・・・」
唯「たしかに、部長が部活の雰囲気を乱すのはよくないって思うよ」
律「・・・・うん」
唯「でもね、私は別に、律を『軽音部の部長』って位置づけにしておきたくって部活やってるわけじゃないんだよ?」
律「・・・・・」
唯「ただ、みんなで居るのが居心地がよくて、みんなでお茶しながら話するのが楽しくて」
唯「みんなで・・・5人で5人だからこその音楽をするのが嬉しいんだよ」
唯「部活はただの場所だよ、私たち5人がわかりあってれば・・・」
唯「ねぇ、りっちゃん」
唯「部活なんて、場所なんてさ、どうでもいいんだよ」
唯「私だけじゃない。澪ちゃんもムギちゃんも」
唯「あずにゃんだって・・・みんなきっとそう思ってるよ?」
唯「誰も、りっちゃんを『軽音部の部長』って枠に押し込めたくって部活してるわけじゃないんだから」
唯「だから、部長だからとかじゃなくてさ、ちゃんと、自分の幸せとか、考えていいんだよ?」
律「・・・・」
唯「澪ちゃんも、・・・あずにゃんも、りっちゃんが部長だからりっちゃんのこと好きになったわけじゃないんだよ」
唯「きっと、そうだから」
唯「だから・・・・あずにゃんのこと・・・部長だとかそんなの気にしないで」
唯「ちゃんと考えてくれないと私・・・いやだな」
律「・・・・ゆい」
律「ごめんな・・・その・・・」
唯「・・・・」
律「ごめんな・・・」
唯「悪いと思ってるならちゃんとしてね?」
律「・・・うん、ちゃんとする」
唯「あと、さっき撮った私の寝顔もちゃんと消してね」
律「・・・・」
唯「返事は?」
律「・・・はい」
唯「へへ・・・よくできました」ナデナデ
律「・・・っちょ///」
律「いきなりなでるなよ!?///」
唯「はずかしい?」ナデナデ
律「あっ、当たり前だろ!?///てか、やめろってば!!」
唯「なでなで、いやだ?」ナデナデ
律「い、いや、いやじゃないけど・・・」
律「今はなんか、嫌だ」
唯「じゃあ、なでなでは私からのりっちゃんに対する罰です」ナデナデ
律「な、なんだよ・・・それ・・・てか、ほんとにやめて・・・・」
唯「今なんだかりっちゃんの嫌なことをしたいの、すごく」ナデナデ
律「・・・頭なでるなんて・・・罰のうちにはいるわけないじゃないか」
唯「でも、りっちゃんが嫌がるなら、なでなでもきっと罰になるよ」ニッコリ
律「・・・・ゆい」
唯「なにかな、りっちゃん」ナデナデ
律「私は・・・・ゆがんでるかな?」
唯「う~~ん」
唯「それ今私が答えたら、りっちゃんは楽になっちゃいそうだから」
唯「答えない。自分で考えなさい」ニッコリ
最終更新:2011年04月20日 03:43