─OPPAI─



高校をめでたく卒業した私達は、大学に入ったのちも

休日の日はときどきスタジオを借りて

梓を交えた5人で練習している


梓は 憂ちゃんや純ちゃんと、軽音部を新生させたし

私達は私達でバンドをやっているし

とても充実した日々を送っているが

それはそれ、これはこれ


こうして5人で集まって音を奏でると

普段とは違った楽しさがある


梓に気を使っているのではなく

私達自身がそうしたいから、そうしているのだ


でも、練習よりも、お茶やおしゃべりの方に熱中してしまうのは

昔のままで、困ったものだけどな


律「昨日観た映画で言ってたんだけどさー」

紬「えぇ」

唯「なぁに?」


律「時速80キロで走る 車の窓から手を出して

  風をつかむと、オッパイの感触になるんだぜー!!」


紬「えぇ」


紬「えぇ?」


ムギは、あっけにとられた表情をしたのち


悲しそうな顔で 静かに微笑んだ


澪「そんな事しなくても、お前にも おっぱいついてるだろっ」

ゴチンッ

律「げぁあっ」


とりあえず条件反射で律の頭を殴ってみたものの


律には おっぱいは………おっぱい、と呼べるものは


まるで無かった


何も……



梓「フンフンフンフン♪フンフンフンフン♪

  フンフンフンフンフ~ンフフ~ン♪

  フンフンフンフン♪フンフンフンフン♪

  フンフンフンフンフ~ンフフ~~ン♪」

唯「どうしたの、あずにゃん?」

梓「脚はいいですねぇ」

唯「うん……」


梓「脚は心を潤してくれる」

 「黒タイツはリリンの生み出した文化の極みですよ」


梓「唯先輩もそうは思いませんか、碇シンジ君」

唯「あずにゃんがおかしくなっちゃった!!」


梓は脚フェチだった


しかし、梓が そんな嗜好をもつにいたった背景には

「持たざるもの」が

希望を胸に、前に、ただひたすらに前につき進むための

生存本能があったのかも知れない



梓もまた、おっぱいを持たざるものなのだ


澪「律、唯、梓……」

唯「ほぇ?」

律「ん……」

梓「なんでしょうか」



澪「お前たちは、なぜ生きているんだ」




ちょっとイジワルを言ってみた

その日は いつもより練習に熱が こもっていた


律と唯は 泣いていた


その泣き声をかき消すように、唯は小さな胸でギターをかきならし

律は脆弱な胸でドラムをドンドコ叩きまくる


あわれなヤツらだ


人間にもなれず山犬にもなりきれぬ、哀れで醜い可愛い我が友たちだ


二人はお互いの傷をなめ合う狼のように寄り添い

互いの胸を揉みあいながら、夕日の中へ消えていった


梓の方を見ると、何もない方を見ながら走りだしたり

時々、ジャンプしていた


梓「10コインブロックです!!」


梓は何もないところで拳を突き上げながら

ピョンピョンとジャンプし続ける


梓は おっぱいを持たぬゆえに、目に見えぬものが見えるらしい


紬「やめて、あずさちゃん」

 「もうやめてぇええ」


ムギが悲痛な表情で梓を抱きしめる

が、しかし

梓の背中にあたる北斗神拳奥義天破活殺ムギおっぱいが梓を苦しめる


ムギュウ


梓「ぬくもり……」

梓「いっぱいコインが出ました!」

澪「そうか」

梓「このお金で おっぱいを大きくするです!!」


私達に手のひらを突き出して、得意そうな顔をするが

その手には何もつかめていない


『空手では何もつかめなかった』

『俺の空手は空っぽの「カラ」だったな……』


そう言い残して逝った、とある空手家の言葉を思い出した


よしよし、と私は梓の頭をなでてやった


梓「澪先輩もやってください!!」


澪「なにを?」


梓「あそこにも10コインブロックがありますよね?」


ない


澪「梓よ、あるべき場所に還れ」


紬「澪ちゃん……」


澪「……わかった」

私も拳を突き上げジャンプしてやると

私の豊満なる豊穣なる豊臣秀吉天下統一おっぱいが

たゆんたゆんと揺れた


梓は『拾ってください』と書かれたダンボール箱を展開させ

ちょこんと座り、咆哮をあげた


澪「あれが、あずにゃん咆哮か」



私は面倒くさくなって帰った


翌日、大学の寮で律に出会うと

律のおっぱいは膨れ上がっていた


まるでバレーボールでも入っているのでは無いかと見まごうくらい

律のおっぱいは膨れ上がっていたのだ


バレーボールが入っていた


律「よぉ澪、おはよう」

 「なんだかすがすがしい朝だよな」

ゆっさゆっさ


澪「そうだな」


私は見て見ぬふりをした

――――

唯「おはよ~澪ちゃん~」

澪「やぁ唯、おはよう」


唯に出会うと、唯のおっぱいは腫れていた


野球ボールほどのおっぱいが10個くらいボコボコと

唯から飛び出していた



野球ボールが入っていた


律の顔も唯の顔も、一点の曇りなく輝いていた


もしも私に 自由なおっぱいが無かったら

あんな風に笑えただろうか……


いや、はたして私は自由なのだろうか


おっぱいなどというものがあるから

私達は肩が凝り、痴漢を恐れ、友に気をつかい、苦悩する


紬「澪ちゃん」


 「おっぱいとは なんなのかしら……」


澪「……そんなこと、私に聞かないでくれ」


私もムギも泣いていた

「持つ者」たちが笑い、「持たざる者」たちが笑う


こういった矛盾したことが、ときどき この世界では起こる


私はいてもたってもいられず、咆哮をあげた


唯「澪ちゃん咆哮、だね」


紬「おっぱあああああアアアアアアアアアアアアィィッ!!!!!」


ムギも私に続いて咆哮をあげた


律も唯も「おっぱぁあああああぃ」と咆哮をあげた


寮にいる他の女学生たちも次々と咆哮をあげた


いつもは沈着冷静で、こういった騒動を治める立場にある曽我部 恵先輩ま



咆哮をあげた


女子寮から聞こえた「おっぱい」に感化されたのか

女子寮付近の建物からも「おっぱい」という咆哮が聞こえ始めた


おっぱあああい


今、梓の声が聞こえたような気がした


耳を澄ませば憂ちゃんや純ちゃんたちの声も聞こえてくる


あの子たちもこの一つつながった空の下

「おっぱい」と叫んでいるのだろうか


紬「あっ……」

澪「どうしたムギ」

紬「今、フィンランドの言葉で、オッパイと聞こえた……」

唯「ほんと……?」

 「私達のおっぱい、海を渡って 空に響き渡って、ちゃんと伝わったんだ

!!」

律「やったぜ!!」

澪「おっぱい!!おっぱいおっぱい!!」

律「おっぱああああい!!」


その日

世界は、柔らかくもあたたかい

母なるOPPAIに包まれた



おわり



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最終更新:2011年04月29日 02:24