駅前、スーパー

梓「皆さん寝起きですし、軽めの物にしましょうか」

唯「そうめんなんてどうかな?ちゅるちゅるのうまうまだよ」

梓「そういう擬音、得意ですね。でも作るのも簡単だし、良いかも知れません」

唯「総菜コーナーで天ぷらを買えば、天ぷらそうめんにもなるしね」

梓「それも良いかもです。出汁は、市販のを買いますか」

唯「思い切って、チョコそうめんは?」

梓「やりませんよ」

唯「だったら、流しチョコそうめん?」

梓「もう、唯先輩は」 くすっ

唯「たはは」


   コテージへ続く山道

梓「日も傾いてきましたね」

カナカナカナ

唯「ひぐらしが鳴いてるよ。綺麗だけど、切ない鳴き声だね」

梓「ええ」

カナカナカナ

唯「何か寂しくなってくるな。・・・憂、どうしてるかな」

梓「唯先輩が帰ってくるのを、楽しみに待ってますよ」

唯「そかな」

梓「ええ。私が憂なら、絶対そう思ってますから」

唯「ありがと、あずにゃん♪」

   カナカナカナ

唯「遠くに来て寂しく感じると、いつも思うんだ。私は幸せだなって」

梓「寂しく感じると、ですか」

唯「うん。そう感じるのは、帰る場所。待ってる人がいるからだもん」

梓「・・・そうですね。私もそう思います」

唯「寂しければ寂しい分、私は幸せなんだっていつも思うよ」

梓「唯先輩らしい発想ですね」

唯「そかな」

梓「ええ、そうですよ。今度は憂も誘って出かけましょうよ」

唯「和ちゃんも純ちゃんも、さわちゃんも一緒にね」

梓「はいですっ♪」


   コテージ内、キッチン

澪「ひぐらし?ああ、そういえば鳴いてたな」

紬「風情があって良いわよね」

唯「むー」

律「ミンミンゼミやアブラゼミとは、ちょっと違うよな。というか、あいつらこそなんなんだ?」

紬「でも、頑張ってるって気はするわよ」

唯「むー」

澪「なるほど、そういう解釈もあるのか。・・・唯、どうかしたのか?」

唯「ひぐらしの鳴き声を聞いた後から、喉がかゆくてね。むー」 ぽりぽり

澪「マジで止めろ」


――――

律「あー、食った食った」

紬「そうめんだけでも、結構お腹一杯になるわね」

梓「私、後片付けします」

澪「よし、みんなでやるか」

律「おう、頑張れよっ」

澪「お前もやるんだ」 ぐりぐり

唯、紬、梓「あはは」


   キッチン、シンク前

澪「大体終わったか。全員でやるとはかどるな」

律「今日も一日、よく働いたぜ」

唯「なんだか、充実してるよね」

紬「今夜は寝かさないわよー♪」

梓(唐突に、何?) びくっ

紬「今夜は流星群が見られるのよ」

梓「ああ、そういう事ですか」

澪「へぇ。面白そうだな」

律「なんかワクワクして来たぜ」

唯「流星群って事は、流れ星?」

紬「ええ、そうよ」

唯「だったら、お願い事しないとね」

律、澪、紬、梓「おおっ♪」


   コテージ前の庭

律「まずはブルーシートを敷いて、その上に毛布を敷いてと」

澪「なんだか、良い感じになってきたな」

紬「後はお茶の用意もしてと。冷えて来たら、ホットを飲んでね」

梓「蚊取り線香も準備出来ました」

唯「薄闇の中でこの匂いが漂ってくると、夏だなーって思うよ」

澪「うん、うん。分かる分かる♪」

唯「金鳥の夏、日本の夏だよ」

律、澪、紬「あーっ♪」

梓(何才なんだろう、この人達) 

紬「流れ星はどの方角でも見られるそうだから、このまま寝転がった方が良いかも」 ごろーん

律「じゃ、お言葉に甘えて」 ごろーん

澪「自然の中で夜空を見ながら寝るなんて、感動すら覚えるな」 ごろーん

梓「天の川が見える事自体、街中では考えられませんからね」 ごろにゃーん

唯「本当、ムギちゃんのお陰だよ」 ごろーん

梓「そんな。梓ちゃんにも言ったけど、みんなが来てくれて私も本当に嬉しいの」 

律「この、可愛い奴め。・・・これからはたまに、全員で誰かの家に泊まったりするか」

唯「その時は私が、全力でおもてなしするよ」

律「憂ちゃんが、だろ」

唯「もう、りっちゃんのいじわる」

澪、紬、梓「あはは」

   きらっ☆

梓「あっ。今見えましたよ」

律「梓、願い事だ。願い事っ」

梓「え、えと。あの、その。もっとギターが上手く・・・。消えちゃいました」

唯「むーん、残念。あずにゃん、惜しかったね」

澪「何をお願いするか、初めから決めておいた方が良さそうだな」

紬「瞬発力と計画性が重要ね」 

澪「慌てず騒がず、平常心で挑めば……。あ、見えた」

紬「澪ちゃんっ」

澪「え、えと。あの、その。もっとベースが上手く・・・。消えちゃった」

律「切なすぎて、突っ込む気にもなれん」

   きらっ☆

唯「あ、見えた」

梓「唯先輩、早くっ」

唯「えーと、憂に早く会えますように。会えますように。会えますように」

律「・・・色々言いたいが、願いは願いだからな」

澪「でも、意外と落ち着いてるな」

唯「私は、やれば出来る子なんです」

紬「うふふ♪」

   きらっ☆

唯「あ、また見えた」

梓「唯先輩っ」

唯「あずにゃんのギターが上手くなりますように。上手くなりますように。なりますように」

律「何気にすごいな」

澪「唯、才能あるぞっ」

律「何の才能だよ、おい」

   きらっ ☆

唯「あ、また」

梓「唯先輩っ」

唯「澪ちゃんのベースが上手くなりますように。上手くなりますように。上手くなりますように」

律「本当、ここまで来ると才能だな」

澪「ちょっと尊敬してきたかも知れない」

紬「目が良いのかしら。それとも、見る角度?」

梓「もしくは、変な電波を受信してるかですね」

唯「もう、あずにゃんったら。・・・あ、また」

梓「え?」

唯「りっちゃんのドラムが上手くなりますように。上手くなりますように。上手くなりますように」

律「いや。ありがたいんだけどさ。唯」

   きらっ☆

唯「あ、また」

紬「あの、そろそろ自分の」

唯「ムギちゃんのキーボードが上手くなりますように。上手くなりますように。上手くなりますように」

律「あちゃー。いや、あちゃーじゃないけど」

紬「あちゃー、よね♪」 くすり

澪「唯。人の事も良いんだけど、自分の事もお願いしろよ」

唯「え?ああ、そかそか」

梓「でもそういう所って、唯先輩らしいです」

唯「褒めてるの、それ?」

梓「さあ」

唯「もう、あずにゃんは」

律、澪、紬「あはは」


律「ともかくだ。一番自分がお願いしたい事を頼もうぜ」

唯「そだね」

澪「私はそれ以前に、流れ星が見られるようお願いしたい気分だな」

紬「うふふ♪」

梓「夜は長いですし、ゆっくり待ってればいつか見られますよ」

唯「私はその前に寝ちゃいそうだけど」

梓「その時は寝れば良いんですよ」

唯「そんなもの?」

梓「はい、そんなものです」 にこっ

唯「そかそか」 にこっ

   きらっ☆

澪「あ、見えた。え、えと。あの、その。・・・消えた」 しゅん

律「慌てるな、慌てるな。見えたら指をさせ。その方向を全員で見れば、誰か一人はお願い出来るだろ」

紬「軽音部、一致団結ね」

律「そういう事だ。宇宙がどれだけ広くても、私達には敵わないぜ」

澪「どこまですごいんだよ、私達は」 くすっ

紬「うふふ♪まずはお茶を飲んで、一服しましょうか」


律「みんなでこうして集まって。ムギのお茶を飲んで、星を眺めて。全く、贅沢な話だぜ。本当、良い夏休み・・・」

   きらっ☆

律「あっ」 びしっ

澪「いっ?」 びしっ 

紬「うっ」 びしっ

梓「えっ?」 びしっ

唯「おーっ」 びしっ


律「いつまでもっ」

澪「みんなとっ」

紬「一緒にっ」

梓「いられますようにっ」

唯「え、えーと。和ちゃんと、純ちゃんと、さわちゃんと、憂もねっ」 

 きらっ☆

律「・・・なんか、全員被ったな」

澪「それでこそ、私達だ」

紬「やっぱり考える事は、みんな一緒なのね♪」

梓「唯先輩のは、字余りだった気もしますけど」

唯「たはは。ちょっと、欲張りだったかな」

梓「そんな事無いです。とっても唯先輩らしかったですよ」

唯「それ、褒めてるの?」

梓「さあ」

唯「もう、あずにゃんの意地悪」

律、紬、澪「あはは」



   同時刻、平沢家テラス

   きらっ☆

憂「あ・・・。・・・お姉ちゃん達が、いつまでも笑顔でいられますように。笑顔でいられますように。笑顔でいられますように」




―――


唯「憂♪」

憂「お姉ちゃん♪」



唯、憂「お休み♪」



  終わり






最終更新:2011年04月30日 01:41