和「幼馴染と妹がいるとして、唯ならどっち選ぶ?」
唯「え? なに、いきなり」
和「もう一回言うわね。幼馴染と妹、付き合うならどっち?」
唯「付き合うならって……交際するってこと?」
和「ええ」
唯「うーんと、どっちもっていうのは無理なの?」
和「二兎追うものは一兎も得ずっていうでしょ? 欲張っちゃだめよ」
唯「そっか……。じゃあ、妹かな」
和「えっ」
唯「えっ?」
和「本当にそれでいいの?」
唯「? う、うん」
和「考えてみて。姉妹で付き合うのよ? 血が繋がっているのよ? 世間の風当たりが厳しくなるのは目に見えてるわ」
唯「そ、そうかな?」
和「そうよ。それに、妹ってことは自分と顔が似ているってことよ。それは自分の顔に向かって好き、って言ってるのと同じだわ」
唯「う、うん…………」
和「自分の顔に愛の言葉をささやくなんて、ナルシストも甚だしいと思わない?」
唯「言われてみると……そうかも」
和「でしょう? だから妹はやめときなさい」
唯「うん……そのほうがいいね」
和「じゃあ、幼馴染と後輩がいるとして、その二人に同時に付き合ってと言われたら、唯はどっちを選ぶ?」
唯「え、えーと……後輩」
和「……唯」
唯「な、なに?」
和「…………唯はそれを本気で言ってるの?」
唯「う、うん……」
和「……考えてみて、唯。後輩っていうのはね自分より格下の存在よ。いうなればゴキブリよ」
唯「うんうん」
和「そんな格下の人間と付き合うのよ? 唯、仮に交際がうまく行って、結婚する時ご両親になんて言うの?」
唯「え、え? 結婚?」
和「『お父さん、私は自分より格下のゴキブリと結婚したいです』と言うの? それで結婚を認めてもらえると思う?」
唯「認めてもらえない…………」
和「唯はゴキブリに一生愛されたいって思う?」
唯「ううん。思わない。ゴキブリ嫌いだもん!」
和「でしょう? だからゴキブリ……じゃなかった、後輩に恋愛感情を抱くのは間違っているわ」
唯「言われてみれば……うん、そうだね」
和「じゃあ唯。幼馴染とお嬢様。付き合うならどっちがいい?」
唯「え、えーと……お嬢様」
和「なんで?」
唯「うーん、お金をたくさん持っていそうだから、かなぁ」
和「唯、あなたは一つ大変な思い違いをしているわ」
唯「思い違いって?」
和「お金だけがすべてじゃないのよ、この世は。お金で買えない価値のあるものはゴマンとあるわ」
唯「友情とか?」
和「そう。友達はお金を出しても手に入らないでしょう?」
唯「確かに……そうだね」
和「だからね、お金で人を選ぶのは間違っているの」
唯「……うん、私間違ってた!」
和「それにね、人間お金を持つとロクなことにならないわ。だから、お嬢様とかと付き合うのはやめた方がいいと思うの」
唯「うん、そうするよ」
和「じゃあ、幼馴染と姉御肌に言い寄られたとき、唯ならどっちを選ぶ?」
唯「……姉御肌、かな」
和「唯は姉御、という言葉の意味知っているかしら?」
唯「? うん。頼りになる人のことでしょ?」
和「そういう意味もあるわね。でもね、別の意味もあるの」
唯「別の意味?」
和「ヤクザの頭の妻、っていう意味よ」
唯「ヤ、ヤクザ!?」
和「そう。唯、ヤクザから女を奪ったらひどいことになるのは知ってるかしら?」
唯「た、例えば!?」
和「まず、学校に行けなくなるわね。それから、社会的な意味でも精神的な意味でも肉体的な意味でも殺されるわ」
唯「ほ、本当…………?」
和「ええ。想像してみて? 軽音部のみんなに会えなくなるのよ? それでもいいの?」
唯「やだ! みんなと離れ離れになるなんていやだ!」
和「でしょう。だから、姉御肌の女性と付き合うのはよした方がいいわよ。そのバックには必ず暴力団の影があるの。これ、豆知識ね」
唯「……うん。そうだね」
和「じゃあ唯、幼馴染と外国人ならどちらがいい?」
唯「えーとね、んとね、外国人かな」
和「外国人、と言われて唯はどんな感じの人を想像した?」
唯「金髪で、背が高くて、会うと抱きついてきて、へロー! とか言ってる人」
和「唯、それはアメリカ人よ」
唯「え? でも外国人でしょ?」
和「確かに外国人だけど、別にアメリカ人だけが外国人ってわけじゃないの」
唯「そ、そうなの!?」
和「ええ。外国人にはね、人間を食ってしまうような人種や、キムチがなければ生きていけないような人種までいるの。多種多様なのよ。イギリスジン、とかね」
唯「に、人間を食べちゃうの?」
和「そう。『お母さん、今日のご飯何?』『お隣の息子さんよ』『それはナイスだね』みたいな気軽さで、人を食べるっていう噂だわ」
唯「そ、そうなんだ……」
和「唯は自分を食べるような人と付き合いたい?」
唯「付き合いたくない!」
和「でしょ? だから外国人と交際するのは考えた方がいいわ」
唯「わかった、そうするよ。食べられたくないもん」
和「じゃあ、唯。最後の質問ね。唯は幼馴染と付き合いたい?」
唯「……ねえ、和ちゃん」
和「なに?」
唯「幼馴染って、さっきから言っているけど何なの?」
和「……ああ、唯。幼馴染って言葉の意味を知らなかったのね。じゃあしょうがないわ」
唯「うん。幼馴染ってなに?」
和「私のことよ」
唯「和ちゃんが幼馴染?」
和「ええ。私が唯にとっての幼馴染よ」
唯「へえ……そうだったんだ。勉強になった!」
和「それで。私と付き合いたい?」
唯「……和ちゃんと?」
和「私と」
唯「……いいかも」
和「じゃあ決まりね。付き合いましょう、唯」
唯「うん!」
和「ねえ、唯。恋人になった証に、私のこと好きって言ってくれない?」
唯「え?」
和「それとも私のこと、きらい?」
唯「ううん! 私、和ちゃんのことすっごく大好きだよ!」
和「本当?」
唯「もちろん! 和ちゃんは私の最愛の人だよ!」
和「――ありがとう、唯。私もね、唯のこと大好きよ」
終わり
最終更新:2011年05月01日 22:46