• 3年2組

ムギ先輩のクラスに着いた私達はとりあえず窓際の席に座った。

紬「そこ、唯ちゃんの席なの。」

知ってます。

紬「梓ちゃん、唯ちゃんの事好き?」

梓「え?!」

紬「皆気付いてるわ、皆梓ちゃんと唯ちゃんが大好きだから。」

梓「気付いてるって…どこまで…」

紬「本当は本人達から聞くまで待ちたかったけど、ちょっと急ぐ必要があるから。」

梓「どういうことですか?」

紬「セパレイティストって言葉、聞いた事は無い?」

梓「セパレイティスト…無いです。」

紬「女性だけで構成された社会を理想とする人のことよ。」

紬「そこではレズビアンが前提になるわ。」

梓「はい…」

紬「梓ちゃんと唯ちゃんはもうお付き合いしてるの?」

梓「一昨日から付き合ってます。」

答えるのが凄く恥ずかしい。
女の子同士で付き合ってるなんて。
二人の秘密だった事を人に話した事で一気に社会に突き出されたような気がした。

紬「大丈夫よ。私は理解があるから。」

紬「あまり人に言いたく無いけど、私は琴吹財閥の令嬢。兄弟はいないから当然結婚をしないといけない。」

紬「私は本当は女性と結婚したいの、でもお父様が日本に拠点を置いてる限りは女性と結婚なんて言語道断だわ。」

紬「形式上男性と結婚しててもレズビアンの人はいるの。」

紬「ホモとレズビアンが結婚して社会的地位を手に入れるのはとても有効だと思うわ。」

紬「梓ちゃんはどこまで考えてる?」

梓「…ただ唯先輩とずっと一緒に居たいと思ってただけです。」

私は大好きな唯先輩と付き合う事ができて浮かれてた。
先の不安なんて考えないようにしてたんだ。
でも、今現実が見えた。
目標が立った。

梓「私、唯先輩と結婚したいです。」

紬「そう、ならば私の出番ね。」

紬「今の日本、ビアンカップルが生きるには厳しいかもしれないわ。男女のカップルでも不景気で厳しいんですもの。」

紬「唯ちゃんと梓ちゃんは
本当に良いカップルだと思う。いつまでも仲良く暮らして欲しい。でも…お金が無いと愛は少しずつ少しずつ削り取られてゆくの。」

紬「梓ちゃんは、たとえ何があろうと唯ちゃんと一緒に暮らしたいのね?」

梓「はい、何があろうと手放しません。」

紬「ならこれを梓ちゃんに託すわ。」

ムギ先輩はバッグから一冊のノートを取り出した。
使い込まれているのがよくわかる。

梓「これは…」

紬「それは百合ノート。私がビアンカップルを応援する為にずっとまとめ続けた物よ。」

梓「百合…ノート…」

適当にページを開くと女性同士の結婚が認められた国のリストが目に入った。

当然日本の名前は無い。

紬「梓ちゃんがそのノートを全て読み終えたら、次のキーワードを教えるわ。唯ちゃんと素晴らしい百合の花を育てて頂戴。」

梓「あ、はい。」

キーワード?百合の花?
ちょっと良くわからないけど、唯先輩と結婚したいです。



  • 講堂

憂のお見舞いに行く予定だったのをすっかり忘れてたわ…

私は両手を広げてパイプ椅子を一気に十脚運ぶ。

はぁ、早く終わらせないと。

黙々と生徒会メンバーでパイプ椅子を片付ける様は中々シュールね。

風紀「…」

あそこで見ている風紀委員長は手伝うつもりなのかしら。
いや、手伝わせるわ。

和「ちょっと、見てないで手伝ってよ。」

風紀「さっきの総会はどういう了見なの?!平沢って子を委員長に推薦なんて聞いてないわ!」

和「ここの片付けを手伝うなら質問に答えるわ。」

風紀「ちょっと重すぎるわよ!女の子を舐めないで!」

和「…五脚ずつで良いから急いで運んで頂戴。」

文句を言いながらも手伝ってくれる風紀委員長。
非常に有難い。

風紀「それで、あの天然で有名な平沢さんがなんで委員長なわけ?」

和「唯の本質を見抜くには十年必要なのよ。あの子の頭は天然どころの騒ぎじゃないわ。」

風紀「でもあの子は部活やってるんでしょ?」

和「唯は部活と授業中以外は常に委員会活動に専念してるわ。」

風紀「その唯ちゃんはなんの為にそこまでやってるの?」

和「一番の関係者だからよ。」

風紀「関係者?唯ちゃんが?」

和「唯の妹も関係してるわ。」

風紀「…唯について詳しく教えなさいよ。」

駄目だこいつ面倒くさい。

和「パイプ椅子全部片付いたら教えてあげるから、さっさと運んでくれるかしら…」

風紀「終わったら質問に全部答えてよねー!唯が可愛いからって贔屓しないでよねー!」

明日ゆっくり答えてあげよう。
私は先に帰らせてもらうわ。

和「私の代わりに風紀委員長置いておくから先に失礼するわ。今日は色々と有難う。」

副会長「いえいえ、お疲れ様でした。」

下駄箱に行くと丁度唯と鉢合わせた。

和「もう帰るの?」

唯「澪ちゃんに憂のお見舞いに行けって言われたからお言葉に甘えて。」

和「じゃあ一緒に行きましょう。」

唯「そだね。」

そういえば憂が入院してる病院の名前も知らなかったわ。
ここで唯に会えて良かった。



  • 桜ヶ丘総合病院

和ちゃんとタクシーに乗って病院に来た私は少しそわそわしていた。

和「唯、どうしたの?」

唯「えと、和ちゃん先に行っててくれる?今日は憂と二人で話したい事があるんだ。」

和「わかったわ。先に帰ってた方がいいのかしら?」

唯「うん、待たせるのもなんだし、憂のお見舞い終わったら先に帰ってて。ごめんね。」

タクシー代もモロになってしまうが、それでも今日は憂と二人で話しがしたかった。

和「いいわ。じゃあ私病室いくね。」

唯「行ってらっしゃい。」

和「それで病室ってどこなの?」

唯「あっちの建物の503号室だよ。私ここで待ってるね。」

和「うん、じゃあいってくるね。」

和ちゃんは時々冗談を言うから面白い。

憂に携帯を渡すのは退院してからにしようかな…
今日話してみて憂が落ち着いてたら渡したいな。

はぁ、ちょっと眠いや。
最近あんまり寝てないからだね。

人通りも少ないしちょっと寝よう。
おやすみ、憂。

  • 待合室

誰かが私の体を揺さぶる。
憂か、もうちょっと寝かせてよ。

和「唯、唯ってば、起きないと眼鏡かけさせるわよ。」

唯「!」

そうだ待合室で眠ってしまったんだ。
涎を拭きながら今日の目的を思い出す。

男にイタズラされるかもしれないのに公共の場所で眠ってしまったなんて…

想像しただけで鳥肌が立った。

唯「ありがとう和ちゃん。お見舞いは終わったの?」

和「終わったわ。唯を待ってるから早く行きなさい。」

唯「うん。」

起き上がる為に腕に力を込めようとしたが立てない。
まだ眠くて体に力が入らない。

唯「和ちゃんおぶってー。」

駄目だ本当に眠い。
和ちゃんの背中に揺られ憂の病室に着く間にもまた眠ってしまった。

  • 503号室

和「唯、起きないと眼鏡」

唯「!」

唯「おはよう和ちゃん。」

和「憂、唯をベッドに下ろしてもいいかしら。」

憂「和ちゃん、ありがとう。ここに降ろしていいよ。」

唯「うーいー。」

私は憂が空けてくれたベッドのスペースに降ろされた。

和「じゃあ私帰るね。」

唯「ふぁいふぁーい。」

憂「和ちゃん、またね。」

カーテンが閉まる音が聞こえて、憂が布団をかけてくれた。
そして凄くフワフワな物に包まれる。

もう駄目、抗えない。
私は深い眠りに落ちた。

私が次に目を覚ました時には既に病室は真っ暗になっていた。

一体今何時なんだ。

ベッドの傍の小さなテーブルの上の時計を見やる。
えーと…一時半…?

え?いちじはん?

AM01:30?

なんで私まだ病院にいるの?

憂は私にしがみついて寝てるし…

ブレザーとスカートは丁寧に畳んである。
憂が脱がしてくれたんだ。

スカートも脱がしてくれたんだ。
態々スカートまで。

私は慌てて布団を捲りショーツを確認した。

今日のショーツはあまり憂に見られたくない奴だった。

まぁ、黒ストッキングじゃないだけマシだ。

ストッキングを履いた状態でスカートを脱ぐと、とても不格好になってしまうから。

憂「お姉ちゃんおはよう。」

唯「うわっ!?」

憂を起こしてしまったようだ。

唯「おはよう、今どんな状態?」

憂「ご覧の通りだよ。」

なるほど、流石自慢の妹だ。

唯「看護師さんとかが見回りに来た時、何も言われなかったの?」

憂「膝を立ててその下のスペースにお姉ちゃんを格納してたからバレなかったよ。」

膝下にお姉ちゃんを格納する妹を持って私は幸せだね。
憂可愛いよ憂。

憂「…」

憂は今だに私にしがみついている。
えーと他に質問は無いかな?

無いね。
それでは平沢唯脳内会議を終了致します。
お疲れ様でした。

憂「お姉ちゃん…大好き。」

唯「私も憂大好き。」

憂「えへへ、寂しかったんだよ?」

憂とあずにゃんの『えへへ』は可愛すぎるよ。反則だって…

唯「ごめんね。ちょっと立て込んでて。」

憂「いいよ。今日は朝まで甘えちゃうからね。」

今日の学校とかどうでもいいや。
心底どうでもいい。

憂「お姉ちゃんも抱きしめて。」

私は憂を強く抱きしめる。

唯「憂、ちゃんとご飯食べてるの?」

憂「最近は食欲出てきたよ。予定より早く退院できそうだって。」

唯「そっか。早く帰って来てね。」

憂「うん!お姉ちゃんU&I歌って?」

唯「隣の人起きちゃうよ?」

憂「私の耳元で歌えば大丈夫だよ。」

唯「わかった。んんっ。」

唯「うーいがーいーなーいーとーなんにーもーできなーいよ♪」

憂「ふふっ。」

唯「うーいのーごはんがたべたーいーよ♪」

憂「お姉ちゃん。」

唯「ん?」

憂「本当に好きだよ。」

唯「照れるよぉ。」

憂「お姉ちゃん、本当に大好き…」

唯「私も大好きだよ。」

憂「ねぇ、ユー&アイって、あなたと瞳って意味なの?」

唯「あなたと瞳?」

憂「You&eyeじゃないの?」

唯「そこまで考えてないや。」

憂「私とお姉ちゃんで決定的に違う所って目と声くらいだから瞳にかけたのかと思ったよ。」

唯「いいね!後付けだけどその意味も追加しよっか。」

憂「えへへ、お姉ちゃん、好きな人も一緒だよね?」

唯「え?」

憂「私はお姉ちゃんが大好き。お姉ちゃんは私の事好きだよね?」

唯「憂の事大好きだよ。不安なの?」

憂「不安だよ…だってお姉ちゃんのうなじにキスマーク付いてるんだもん。」

唯「…え?どこ?」

憂「ここ。」

憂が指で私の首筋を撫でる。
そっかあずにゃん、あの時…

憂「お姉ちゃん、恋人できたんだよね?」

唯「うん。」

憂「梓ちゃんだよね。」

唯「そうだよ。」

憂「私もお姉ちゃんの恋人になりたいな…」

唯「あのね、私ずっとあずにゃんと憂が好きだったんだ。」

唯「あずにゃんが許してくれたら三人で暮らしたいと思ってたんだよ。」

憂「私、お姉ちゃんを独り占めしたいなんて願わない。お姉ちゃんと梓ちゃんと三人で幸せに暮らしたいな。」

唯「そうだね、あずにゃんには言いにくいケド、憂と離れるのは嫌だから。」

憂「私、You&eyeに似てる言葉知ってるよ。」

憂「Your eyes Only、私の裸を見て良いのはお姉ちゃんだけだから…」

憂「私は生涯お姉ちゃん一筋だから。」

憂「梓ちゃんが許してくれるなら私の事も愛してね。」

唯「…ごめんね。今は抱きしめる事しかできない。」

私は布団を憂と自分に被せ、優しく抱き合って眠った。



※続く
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最終更新:2011年05月06日 22:00