律「吸血種の一族が集団失踪か」

唯「怪しいでしょ?」

律「おそらく、私が倒していたのはそいつらだな」

唯「でも、なんで彼らが」

律「誰かに操られていたんだ」


律「私が倒した連中は、もう人のカタチをしていなかった。ツギハギだらけだったよ」

唯「身体を改造されていたってこと?」

律「そんな感じだったな」

唯「混血一族をさらって、人を襲う化物に改造か」

律「改造したやつが、今回の黒幕だな」

唯「そいつが、澪ちゃんを……」

律「おいおい、まだ澪は死んだときまったわけじゃないぜ?単に行方不明なだけだぞ」

唯「ムギちゃんから聞いてるんだ。この事件の被害者は、テレビで報道された人たちだけじゃないって」

律「……」

唯「行方不明者も増えているんでしょ?」

律「ああ」

唯「きっと、その人たちは同じように連れ去られて改造されたか、もしくは……」

律「単に死体が見つかってないだけ、かもな」

唯「私だって澪ちゃんに生きていて欲しい。だけど、確率は恐ろしく低いの」

律「現実的だな、唯は」

唯「りっちゃんだって、ほんとはそう思ってるんじゃない?」

律「どうだろうな」

律「さてと、つい話し込んじまったな。私は辺りの見回りに戻るよ」

唯「ねぇ、りっちゃん。吸血鬼を狩るために派遣されたってことは、澪ちゃんとは幼馴染じゃないんだよね」

律「ああ、この町にきたのもここ最近さ」

唯「じゃあ私たちとの思い出も」」

律「そういう暗示だ」

唯「そっか」

律「もう行くぞ?」

唯「最後に一つだけ。今日、澪ちゃんが死んだことを知って、悲しんだり怒ったりしたのも、嘘?」

律「……」

唯「私はね、すごく悲しかった」

律「私だって、そうさ。またな、唯」 ヒュッ

唯「りっちゃん……」



───三日後

唯「や、りっちゃん」

律「唯か。どうだ、何か分かったか?」

唯「全然だよー。私もあれから毎晩パトロールしてるけど、りっちゃんが言うようなお化けとは会わないし」

律「私もだ。それに、黒幕の尻尾すらつかめない」

唯「どーしたものかなぁ」

律「手がかりがない以上、地道にことをすすめるしかないな」

唯「つまり?」

律「見回りだ」

唯「が、頑張るよ」

律「じゃ、何か分かったら教えてくれ」

唯「りょーかい。私はあっちの方を見てくるねー」

――――

律(と、唯に言ってはみたものの、見回りだけってのもな)

律(何か私にできることはないのか、何か……)

 「……!」 ピャッ

律「ん?今何かいたような」

律(かすかだけど、気配を感じる。追ってみるか!) バッ

 「……!?」 ダダッ

律(足は速いようだけど、唯ほどじゃないない。これなら追いつけるぞ)


律「鬼ごっこはここまでだ」

 「ひっ!」

律「おまえ、何者だ?人間じゃないな」

 「そ、その声は、まさか律?」

律「澪!澪じゃないか!!生きてたのか!?」

澪「律ー!よかった、やっと知ってる人に会えたー」 グスグス

律「おまえ、今までどうしてたんだよ、いったい何があったんだ」

澪「家族と夕食を食べた帰りに、変な化物襲われて、そして目覚めたら、お父さんとお母さんが……」

律「……澪」

澪「えっぐ、ひっぐ……」

律「でも、澪は襲われずにすんだんだな、よかった」

澪「わ、私も襲われて血を吸われたんだ」

律「なら、どうして?お、おまえその眼!」

澪「どうかしたのか?」

律(赤い眼、あれは吸血鬼の眼だ。襲われ死んで、吸血鬼化して蘇ったってのかよ!)

澪「どうしたんだよ、律。何で怖い顔をしてるんだ?」

律(澪を殺せってのかよ。短い期間とはいえ、親友だった澪を)

澪「なぁ、律ってば。具合でも悪いのか?大丈夫か?」

律「悪い、ちょっと考えごとをしてたんだ」

澪「もしかして私に関わること?」

律「ああ」

澪「そうか」

律「なぁ、澪。おまえに話さなきゃいけないことがあるんだ」

澪「うん」

律「私は───」

澪「お化け退治機関の一員、か」

律「そう、それが本当の私だ」

澪「じゃあ、小さい頃の律との記憶も、嘘なのか」

律「すまん」

澪「小学校の頃の思い出も、中学校の頃の思い出も……」

律「全部偽りだ」

澪「なぁ、律」

律「なんだ、澪」

澪「偽りの記憶だったけど、律と遊んだ思い出はどれも楽しいものばかりだったよ」

律「……」

澪「もちろん、最近まで律とみんなで部活したり遊んだりしたこの記憶も」

澪「私さ、吸血鬼になっちゃったんだよな」

律「……」

澪「律の話を聞いてて、なんとなく分かっちゃったんだ」

澪「私を殺すんだろ、律」

律「澪、私は……」

澪「いいんだ、私は化物になっちゃんだから。それにな、こんな身体になってから喉が異様にかわくんだ」

律「……」

澪「水をいくら飲んでも癒せない。これは、私の身体が血を欲してるんだろ?」

律「ああ」

澪「そっか、私は吸血鬼になちゃったんだな。おかしいな、私が嫌いなお化けになちゃったんだ」

律「そう、だな」

澪「なぁ、律」

律「なんだ、澪」

澪「律にだったらいいぞ」

澪「殺されても」

律「そんなこと、できるわけないだろ」

澪「それが律の仕事なんだろ?じゃあちゃんと仕事しないとダメだ」

律「だけど、私は澪のことを……」

澪「頼む、それ以上言うな。気持が揺らいじゃうじゃないか」

律「なら!」

澪「私は化物なんだぞ!人を襲って血を吸う化物なんだ!お父さんとお母さんを殺したやつと同じなんだよ!!」

律「……」

澪「こんな風になった私に、友達でいる資格なんてないんだよ……」

澪「だから、私が人を襲うまえに殺して」

律「澪、本当にすまない」

澪「いいんだ、律になら」

律「でもさ、そんなこと言うなよ。友達でいる資格がないなんて、悲しいこと言わないでくれ」

澪「律?」

律「澪、私はおまえのこと最高の親友だと思ってるぞ、心の底から」

澪「馬鹿っ!どうしてそういうことをこんな土壇場で言うんだ!」

澪「私もだ!律のことは親友だと思ってる!全部知った後でも!」 グスグス

律「ああ、この関係は嘘じゃないな」

澪「ありがとう、律。もう、いいよ……」

律「すまない、澪」 スッ

澪「な、なんで抱きしめるんだよ。私を殺すんだろ?」

律「親友の澪を殺せるわけないだろ」 ギュッ

澪「でも、それだと律が」

律「私が機関から追われるようになってもだ」

澪「私、化物なんだぞ!?血を吸わないと生きていけない化物なんだ!」

律「輸血パックで補給すればいい。どうしてもって言うなら、私の血を飲んでいい」

澪「ずるい、ずるいよ律!そんなこと言われた、死にたくなくなっちゃうよ!」 ギュウ

律「もう二度と死なせないよ、私が澪を守るから。だから、私と親友でいてくれ」

澪「律、律ぅ!私も律と親友でいたい、一緒にいたいよぉ!」

律「ああ、一緒にいよう。これから、本当の思い出をたくさん作っていこう」


愛おしい親友を抱きしめながら、ふと空を見上げる

そこには、いつか見上げたときのような満月が輝いていた

ああ、今夜はこんなにも月が綺麗だ───




おちまい



最終更新:2011年05月07日 23:28