憂バトリオン「……」
父アプトノス「む…なんだあの肉食…様子がおかしい…」
母アプトノス「坊やー!!」だだだだ!
母アプトノス「坊やを離して!」尻尾アタック!
グサッ…
憂バトリオン「うっ…」
~アプトノスの尻尾に生えた太い針が、アルバトリオンの腹部に突き刺さっていた~
幼アプトノス「ママ!」すっ
父アプトノス「あの肉食…!!無抵抗だ!!みんなかかれ!かかれー!!」
父アプトノス「今まで肉食に殺された同胞たちの恨みを晴らすのだ!!」ドドドドド
憂バトリオン「ッ…!!」
ザクッ…ザクッ…ぐさりっ…ドスッ…
~~~~
アイルー「ふんふ~ん、今日は良い天気だにゃ」
ヮアアア!
アイルー「ん?」チラッ
アイルー「にゃっ!?」
アイルー「にゃ、にゃんだあれ!?なんかめっちゃ強そうな龍が…アプトノスの群れにリンチされてる…!?」
~~~~
母アプトノス「このっ!よくも!よくも家の子を…!!」ざくっ…ざくっ
アプトノス「このっ!このっ!肉食めっ!」ざくっ…ざくっ…
憂バトリオン「ッ…ッ…」ゴゴゴゴゴ
父アプトノス「はぁっ!はぁっ!ぜぇ!ぜぇ!なんだ…こいつ…」
憂バトリオン「気は…済んだかしら…」ゴゴゴゴゴ
アプトノスたち「 」ぞくっ
憂バトリオン「…」ゴゴゴゴゴ
父アプトノス「こいつ…やべぇ…に、逃げろ!」
ダダダッだダダダ
憂バトリオン「……」ふらっ…
憂バトリオン「ぐっ…」踏ん張り
憂バトリオン「…ふぅ~」タンッ
バサッ…バサッ…バサッ…
片腕のない血まみれの龍が、空へと飛び去った。
それから憂は半年以上もの間、水以外いっさい口にせず、
不眠不休で空を飛び続けた。
途中、幾度となく意識が途切れかけた。
その度に、地面に叩きつけられた。
もはや満身創痍だった。
耐え難い飢餓感と激痛と眠気が、休む間もなく憂を襲った。
意識が消えかける度に、憂は思い出していた。
唯と初めて巡り会った、あの日の思い出をーーーーーー。
『…さむい…なぁ…ん?』
トコトコ
『ん?…』
『…』
『ねぇ…きみもひとりなの?』
『うん』
『わたしと一緒だね!お名前はなんていうの?』
『う…うい…』
『わぁ!名前も似てる!わたしはゆいっていうの!』
『ゆ…い…』
『きめた!あなたは今日からわたしの妹だよ!わたしのことお姉ちゃんって呼んでね!うい!』
『お…ねえ…ちゃん…』
『うふふ』ぎゅっ
『あっ』
あの日、1人ぼっちで震えていた自分の身体を抱きしめてくれたあの肌の温もりを。
自分の身体に生えた触れたものをみな傷つけてしまう逆鱗をものともせずに強く抱きしめてくれたあの優しさを。
親の顔も知らぬ、家族というものがなんなのか分からぬ自分を、妹と呼んでくれた。
生まれて初めての優しさと温もりだった。
お姉ちゃん。
あの日のことを思い出すたびに、身体の奥底から力が湧き上がってきた。
お姉ちゃんが苦しんでいるのに、自分が休んでいるわけにはいかない。
今度はーーー
私がーーーーー
お姉ちゃんを助ける番だーーーーー。
~~~~~
ザアアアアアアアア(雨)
憂バトリオン「ごめんね…お姉ちゃん…役に…立てなくて…」ポロ…ポロ…
イビル唯「憂…!憂!!」ぎゅぎゅっ
ココット「……」(なんだ…こいつらは…なんだ…?…煌黒龍の方は…死にかけてる…)
ザアアアアアアア
ど く ん !
イビル唯「うっ」
ココット「!?」
イビル唯「あ…あ…う…い…逃げて…」(やばい…今度のは…きっと…)
憂バトリオン「…お姉ちゃん」にこっ ぎゅぎゅっ
イビル唯「!?…離して…憂…!!」どくん、どくん
唯は直感で理解した。
次に本能が表に表れたとき、自分は完全に覚醒する。
自分という理性が本能に喰われ、完全なる恐暴竜・イビルジョーとなる。
イビル唯「憂!離して!逃げて!分かるの!今度のは今までと違う!もう私は…完全に…!」どくん!どくん!
憂バトリオン「お姉ちゃんが苦しんでるのに…私だけ逃げられないよ」にこっ
イビル唯「お願いだから離して!怒るよ!?憂!離せ!離せぇぇぇえええええ!!」グッ どくん!どくん!
憂バトリオン「私の…最初で最期のわがままだよ…絶対離さない」ぎゅ~っ
イビル唯「憂!憂を殺したくないんだよぉ!どうして分かってくれないの…!うっ!ひっく」どくん!どくん!
憂バトリオン「お姉ちゃん、私ね、今でも覚えてるよ」ぎゅっ
イビル唯「離して!私から逃げて!逃げて!逃げてよぉおおおおおお!!!」ポロ…ポロ… どくん!どくん!
憂バトリオン「お姉ちゃんと初めて会った時のこと」ぎゅ~
イビル唯「離して!お願いだから逃げてよぉおおおおおおおおお!!!」どくんっ!どくんっ!
イビル唯「逃げて!憂!逃げて!」どくんっ!どくんっ!
憂バトリオン「お姉ちゃん、私ね」
イビル唯「逃げてよぉおおおおおお!うわああああああああああん!!!」どくんっ!どくんっ!
憂バトリオン「お姉ちゃんの妹になれて…」
イビル唯「あああああああああああ」どくんっ!どくんっ!
憂バトリオン「本当に幸せだった…!!」
イビル唯「ああああああああああああ」どくんっ!!どくんっ!!どくんっ!!!
憂バトリオン「 お姉ちゃん 大好き !!!!!!!」にこっ
ど く ん !!!!!
イビルジョー「グォォオオオオオォオオォァアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
ガブリッ…!!
ぶちっ…!!みちっ…!!
・・・・・・・
ザアアアアアアアアァァァ
ココット「…ッ!…ッ!」(こりゃあいったい…なんだ…?)
ザアアアアアアアアア
イビルジョー「グオアアアアアアッ!!!」ガブッ…!!みちりっ…!
凄まじい光景であった。
降りしきる雨の中、竜が龍を喰らっているのである。
ただ喰らっているだけではない。
泣いていたのである。
肉を喰らっている方の竜が、赤い血の涙を流しながら、肉を屠っているのだ。
泣きながら、悲哀の篭った悲鳴にも聞こえる吠え声を上げ、肉にかぶりついているのである。
喰われている方の龍も、異様だった。
まるで赤子の寝顔のように、とても穏やかな表情で、文字通りその身を捧げているのである。
すでに絶命していると思われるものの、とても幸せそうな表情で、その身を喰われていたのだ。
異様にして凄惨な光景だった。
並の神経をしている者がこの光景を見たら、それだけで精神が壊れるのではないかと思われた。
ココット「…ッ!…ッ!」
歴戦の、百戦錬磨のココットの英雄でさえも、呼吸も忘れ、その光景を眺めていた。
ザアアアアアアアア
ガブッ!ぶちっ!みりみりっ!
ココット「…」(こいつは…やべぇ)シャキン
ココット「…」(今ここで殺しておかねーと…やべぇ)
イビルジョー「グオオオオアアアアアッ!!!」ガブチッ!
ココット「……」(仕留めるなら…今…!)ダダッ!
ゴ ウ ッ
ココット「むっ!?」サッ
ボン!メラメラ…
ココット「!?」(この雨をものともしねー火球!まさかッ!)クルッ
「久しぶりだなぁ。ココットの英雄よ…」
ココット「…修羅かよ…」にやり
イャンクック「よぉ。また会うたな」 光景を眺めていた。
ココット「50年振りだな…」
イャンクック「ああ」
ココット「で?なんだ?あの時の決着をつけようってのかい」
イャンクック「ぬしに頼みがある」
ココット「なんだ」
ザアアアアアアア
イャンクック「あの竜には…手を出すな」
ココット「手を出すなと言われてもな…ワシもこれが生業でな。手ぶらじゃ帰れねぇのよ」
イャンクック「なにもただで帰れとは言わぬ」
ココット「へぇ。なにを土産にくれるってんだ?」
ザアアアアアアアア
イャンクック「…ワシの首だ」
ココット「…なに…?」
イャンクック「ワシの首を持うてゆけ」
ココット「……」
イャンクック「何千という狩人が欲しがったワシの首だ。不足はあるまい」
ココット「……」
イャンクック「だから…」
イビルジョー「グオオオオッ!!!グオアアアアアアアッ!!!!」
イャンクック「だからせめて…あの竜を…」
イビルジョー「グアアアアアアアアアッッ!!!!」
ザアアアアアアアアアア
ココット「……」
イャンクック「せめて……泣かせてやれ…!」
ココット「……」
ココット「ふんっ」
イャンクック「…」
ココット「こんな形でてめぇの首を獲ってもワシの気が済まぬわ」
イャンクック「…」
ココット「今日のところは引いてやる」
イャンクック「…すまぬ」
ココット「…ひとつ教えろ」
イャンクック「なんだ」
ココット「…アレは…いってぇなんなんだ…?」
イャンクック「あれは…」
ザアアアアアアアア
イャンクック「…哀しき運命を背負った獣よ…」
ココット「獣…とな」
ココット「あれは…てめぇが責任持って始末しろ」
イャンクック「分かっておる」
ココット「…じゃあな。いずれ決着をつけようぞ」くるっ
イャンクック「ああ」
スタスタスタ……
ザアアアア…ポツ…ポツ…~雨が止みかけていた~
イャンクック「さてと…」くるっ
イビルジョー「グオオオオアアアアアッ!!!」
イャンクック「恐暴の申し子よ…」ざっ…ざっ…
イビルジョー「!」ギロリ
イャンクック「ぬしは何も悪くない」
イビルジョー「グアアアアアッ!!」ドシンドシンドシン
イャンクック「ぬしはただ生きる為の本能に従っているだけじゃ。なぁ~んも悪くない」
イビルジョー「グアアアアアッ!!」ドシンドシン
イャンクック「ぬしは何も悪くない…!しかし…」
イビルジョー「グオァァッ!!」ぐばぁっ
イャンクック「…許せ」
ご き ゃ っ !!!
イャンクックの鋼鉄の嘴がーーーーー
イビルジョーの頭蓋を砕いたーーーーーーー。
イビルジョー「グッ…」ふらっ…どしーん!!
イビルジョー「……」
イャンクック「ぬしは…悪くない…」
イビルジョー「…あ…」
イャンクック「!?」
イビルジョー「…あ…り…」
イャンクック「 」
イビルジョー「…あ…り…が…と………う……」
イャンクック「!!」ぶわっ
イビルジョー「…………」
イャンクック「くぅ!…すまぬ!…すまぬ…!!」ポロ…ポロ…
ポツ…ポツ…ぽつり
イャンクック「こんな方法でしかお主を救ってやれぬワシを…どうか許してくれ…!!」
翌日、その現場には、なにも残っていなかった。
肉片ひとつ、骨の欠片ひとつ残っていなかったのである。
周辺の住民たちの間では、夜のうちに、肉食動物たちが一掃したのだろうという説が有力だったが…。
ある一匹のアイルーの話によると、
深夜、空から、光り輝く白い龍が舞い降りて、傍で打ちひしがれていたイャンクックとなにか一言二言話したあと、
イビルジョーの亡骸と周辺に散らばった肉片を抱え、イャンクックと共に天空へと飛び去っていったという。
夢ではない。絶対にこの眼で見たーーーーとのことらしいが。
真相の程は、不明である。
なお、あれ以来、イビルジョーという種を目撃した者は誰もおらず、
あのイビルジョーが恐暴竜種最後の個体だったのではないかと言われている。
[エピローグ]
~~~~とある世界の、とある女子高にて~~~~
[校長室]
校長「…うむ」ずず
わいわい
きゃっきゃっ
校長「こうして茶をすすりながら、夕日に照らされて下校する我が生徒たちの輝く笑顔を眺める…」
わいのわいの
校長「至福のひと時じゃわい」ずず
お姉ちゃん♪
あ、部活終わるの待っててくれたんだぁ!だきっ
うん!一緒に帰ろ!
ったく…お前ら姉妹ってほんっと仲良いよなー
えへへ
校長「…ふふん」にこっ
コツーん……カツーん…
校長「む?聞きなれぬ足音が聞こえるの…」
カツーん…コツーん
ピタッ
校長「…?」(ドアの前で止まった…)
・・・・・・・・・
校長「だれかな…?入ってもかまわんよ」
ギギィ…
校長「 」
ゴゴゴゴゴゴゴ
校長「なっ……!?」
「けっ…てめぇはどこの世界に行っても校長やってんだな」
校長「ぬ…ぬしゃぁ…まさか…!!」
ココット「よぉ、時空を超えて会いに来てやったぜ」にやり
校長「ッ!…ッ!!」
ココット「くく」
校長「ふ……ふふ…ふはっ!うははははは!」
ココット「くくく、くくくく、笑いが止まらんよなぁ、修羅よ」
校長「そうか…そうかそうか!くく、お主もアレと会うたかよ」
ココット「ああ。どうしてもてめぇと決着がつけたくてな」
校長「ワシもなぁ、この世界はちぃ~と退屈じゃと思っとってな」ゆら~り
ココット「今度こそ…手ぶらじゃ帰れねぇ」シャキン
校長「くくく、この姿になるのも…久しぶりじゃわい」ゴゴゴゴゴォォォォォォ
ココット「約束通り…その首持って帰るぜ」
イャンクック「おもしろいわ」にやり
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
ーーーーーーーおしまい。
最終更新:2011年05月15日 23:44