駆け寄ろうとする唯達。
そんな唯達をさわ子はしかりつけた。

さわ子「来ちゃダメよ!今来たらみんな巻き添えになるわ!」

ピタッとみんなの動きが止まる。

さわ子「私の可愛くて優しい生徒達!聞きなさい!私からの最後の授業よ!」

律「さわちゃん……最後だなんて……」

和「律……」

さわ子「強く生きなさい!何事にも負けない信念を持ちなさい!」

さわ子「人生は辛いことだらけよ!自分では道を選べないこともある!」

紬「……っ……」

さわ子「逆に、まだ進みたくないのに進まなくちゃいけないこともある!」

唯・律「…………、」

さわ子「わかって欲しくてもわかってくれないことや、努力して積み重ねてきた事がひょんなことで無に帰すこともあるは!」

梓・澪「……………」

和・純「…………」

さわ子「でも、そのたびに目をそむけてちゃダメなの!逃げてちゃダメなの!
戦いなさい!抗いなさい!独りで無理なら皆で!
そうすればきっと……」

   ガガガガガガガッ

教室の床が全て崩れた。
ホワイトボードに寄り添うようにしてさわ子も穴に落ちていく。

さわ子「あなた達は素敵な人生を送れるは!」

そう言い残してさわ子の姿はどんどん小さくなり、やがて消えた。

和「……、」

    ━━━━バタンッ

目をそらすようにして和が教室の扉を閉めた。

和「1階に降りましょう。憂や先生が見つかるかもしれない。」

唯「……うん。」

唯が辺りを見回すと、その視線を掻い潜るようにして皆、悔しそうに目を伏せる。

紬「……、(それにしても変ね。教室の床が全て抜けるくらいの大地震の発生。なのに、廊下にはなんら破損が見られない。)」

壁に触ってみるがなんのへんてつもないただの壁。

紬「(いくら耐震工事したところで、ここまで無傷なのはありえないわ……。)」

あぁでもない、こうでもないと思考錯誤する紬。

紬「ねぇ、みんな。ちょっと……」



アハハハッ━━━



皆「……!?」

紬「なに……今の?」

和「……笑い声?」

梓「しかも、小さな女の子の声でしたよ!?」

律「小さな女の子って……ここ高校だぞ!?」

純「……いったいどこから!?」

?「お姉ちゃん達も……イッショニアソボウ?」

  ━━ドドドドドドドッ

そんな音と共に、彼女達の世界は反転した。
唯は、天井を見下げていることで自分達が落ちていることを容易に理解する。

唯「キャアァアァア!」

闇━━。
みんなも一緒にいるのかすらわからない闇。
怖い、怖い、死ぬのが怖い。
闇が怖い。
憂やさわちゃんもこんなにも強大な恐怖と戦ったのかと思うと思わず歯ぎしりする。

唯「(意……識が)……!?」

薄れゆく意識の中、唯は確かに見た。

ふわふわ宙に浮いたボロボロの赤いワンピースを来た小さな女の子。
子どものものとは思えない残虐非道な目で、ニヤニヤしながら私達を見下ろしていたのを……。

?「キャハッ♪」

━━━━━━━━━━。


澪「うーん……今日のパンツ……ミセパン……ノーパン」ムニャムニャ

澪「……んっ」

澪「……あぅ!?」グキッ

突然襲ってきた痛みによって私は目を覚ました。

澪「……痛っ……痛い…… 足が……」

澪「……ふぅ、動くけど……捻挫してる……」

澪「あれ? ここはどこだ……?」

私は手探りで辺りを探すが、何も見つからない。

澪「家じゃ……ないよな?」

澪「えっ?うそ?」ガバッ

私は、とりあえず立ち上がって目を凝らす。

澪「……?暗くてよく見えないな。」

澪「確か地震のせいで憂ちゃんや先生が落ちて……。その後、皆で探しに行こうってなって……どうなったんだっけ?」

だんだん目が慣れてきた。どうやら、木造の古い建物のようで、床はところどころ抜けているが机が何列かになって並んでいた形跡があった。

澪「……学校……か?」

      ジジッ━━

澪「!?」

音を立てて明かりがついた。
突然の明かりで一瞬目が眩んだが、すぐに今まで見えなかった光景が露になる。
天井がところどころ剥がれて落ちてきたのか、真っ二つに割れたような板切れがそこら中に散乱しているし、

ボロボロの机は足まで木造でいかにも月日を感じさせていた。

澪「ここ、どこだよ……!」
半ば混乱しつつも、目が見えるようになったことで安心したのか、私は右足を引きずるようにして辺りを探索し始める。

澪「教室の後ろ側の右隅……扉だな。……扉の奥は暗いけど……外に廊下はちゃんとあるみたい……。」

澪「……まだ教室全部見てないし、ここから出るのはまだ止めておこう。」

……先に言っとくが、べ、別に怖くなった訳じゃないからな!

私は左隅へと足を進める。

澪「この板……落ちて来た時割れなかったのかな?
ボロボロには違いないけどけっこう長い……って今は関係ないか。」

澪「次は教室の前側を……あれ?」

澪「教壇のところに誰か……寝てる……!?」

そいつは、私と同じ紺色のブレザーに青いリボンタイをつけ、プリーツスカートをはいていた。
髪にしている黄色カチューシャがよく似合っている。
おまけに嫌と言うくらいに見知った顔ときた。

澪「律っ!?律か!?」

嬉しさのあまり声が上ずる。
孤独からの解放感と言えばいいのだろうか?
体がフッと軽くなった気がする。

しかし━━。

澪「へ、返事が返って来ない……。」

まさか死━━?

澪「……大変だ!」

澪「……床が壊れていてこれ以上先に進めない……。」

澪「……そうだ!一度、廊下に出て教壇側の扉から入れば……!」

澪「くそっ……やっぱり廊下暗いな。足元に気を付けないと……」

澪「痛ッ……!くぅ……、板キレにつまづいた……。」

澪「足……大丈夫かな…… やばそうかも……」

でも、律が危ないんだ。

澪「負けない……。」

私はパンパンに腫れ上がった右足にムチをうつ。

澪「なんだこれは?紙……新聞か?」

教室の一歩手前に落ちていたそれを私は拾う。

澪「えー……なになに?」

■****校■
"行方不明者ついに3名に"

相次ぐ***学*の 生徒児童の失踪事件に、ついに三人目の行方不明者が出てしまった。

同級生の証言によると、5年生の
****んは下校時刻に 校内の渡り廊下で
友人達と別れた後、その後の消息を絶った模様。

警察は誘拐事件の可能性も視野に入れ、
捜査員を増やし 一刻も早い解決に向けて捜索にあたっているが

一人目の児童失踪よりはや十日。
未だ消息の知れない子供達の安否が気遣われている……

澪「なんでこんなものが……ここに?いや、今はそれより律だ!」

澪「律!」

私は一目散に教室へと駆け込むと、律の名前を呼んで倒れ込むようにして飛びつく。

澪「……!?」

澪「よ、良かった。ちゃんと息はしてる。」ホッ

澪「おーい!律起きろ!」

私は中々起きない父親を起こすようにユサユサと律の身体をゆする。

律「う~ん……あと5分……。」

澪「さっさと起きろっ!」ゴツン

律「あぅ……。」

律「……あれ?澪じゃん?おはよう。こんな早くからうちになんのようだ……?」

澪「寝ぼけるな!」バキッ

律「ohアウチ!」

澪「起きたか?」

律「あぁ、目が覚めたよ。だが、頭を思いっきり蹴飛ばすのはやりすぎだバカヤロー。」

律「あれ?ここはどこだ?」
律は明かりが眩しいのか、目を細めて辺りを見渡している。
やがて、焦点が合い出したのか切羽つまったように焦りだす。

律「どこだよここ!?」

澪「私だって知らない!」

澪「知るわけ……ないだろ……。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━。

律「……ふんぬっ……ぬぬぬぬぬぬっ!」ググッ

律「ぷっはぁ!ダメだぁ!」
律「この窓、ビクともしねぇ……。」

律「それに、外も真っ暗で、よく見えねぇし……。」

澪「……どうなってるんだよ……」

律「……ここ……やっぱり、学校なのかな?」

澪「それにしては、何か妙に机が小さい気がするんだよね……」

澪「……小学校みたいに」

律「小学校って……」

澪「……まさか……」

律がスタスタと歩きだす。目標は黒板横の掲示板。
そこには一枚の張り紙がしてある。

律は張り紙を覗き込むようにして読み始めた。

律「━━っ!?」

驚きのあまりだろうか?
律が掲示板から一歩後退する。
……いったいなにに驚いたんだ?

澪「……どうしたの……?」

律「壁の……ブリントに……」





律「『天神小連絡通信』……って」

澪「天神小……学校……?」

澪「私達の学校……桜ヶ丘高校が建つ前に、取り壊された……廃校じゃないか……!」

律「ちっくしょォォオオ!何なんだ!私達どこにいるんだ!!みんなは?みんなはどこにいった!?」

澪「落ち着けっ!律!」

私は、明らかに平常心を失った律を手を握って必死になだめる。

律「━━ハァ……ハァ。」

律「わ……悪い……。取り乱して。」

律も私も、手を握り合ったまま声も出せなかった……。

歯が ガチガチと音を立てるほど、全身が震える経験なんて……生まれて初めてだったから。

頭の中がふわふわして……今 自分達の置かれている状況を、整理して考えることが出来ない。

悪い夢かと期待しても、ちっとも目の前の景色は消えてくれない。

ただ静寂が、苦しい……

ダメだ……黙ってると……。

澪「とにかく、学校の外に出てみないか?」

律「外に……か?」

澪「このままずっと震えてても……何も解決はしないだろ(こんな気持ち悪いところ……少しの間でも居たくないし)。」

律「……珍しく積極的だな。」

澪「いつも頼りにしてる誰かさんがやけに消極的だからな。」

律「……悪い。」

律「だが、窓も開かないんだぜ?かたいとかじゃなくて……そう、ガチッと空間に固定されてる感じ……。」

律「外になんて……本当に出られるのか?」

澪「あぁ、だけど ……玄関とか、非常口とかあればそこから外に出られるかも知れないじゃないか。」

律「そう……だな……
 ジッとしてたら、おかしくなりそうだし……。」

澪「よし、とにかくこの部屋をでよう。」

澪「私達だけじゃなく……ひょっとすれば、みんなもいるかもしれないし!」ニコッ

律「みんなと一緒なら……何とか なるかも知れないな!」ニコッ

澪「あぁ、そうとも!」


証拠も何もない話……

私もパニックってただけかも知れない

でも、じっとしてると……私まで悲鳴を上げそうで

必死に強がってみせた。



唯「幸せのサチ子さん?」    【第一部、完】





最終更新:2011年05月24日 00:26