11月中旬。木々が真っ赤に染まり、少しづつ散り始める季節。
平沢唯は、盛大に悩んでいた。

和「何唸ってるのよ、唯。」

唯「あ、和ちゃん。実はどの高校にしようかまだ決まらなくて。」

和「えっ、まだ決めてなかったの? 受験までもう3ヶ月しかないのよ?」

唯「うん。でも私、和ちゃんみたいに頭よくないし、高校のこともよくわからないし。」

和「はあ…まったく、困った子ね。」

唯「う~、ゴメン和ちゃん…」

和「なんで謝んのよ。で、模試とかはどうだったの?」

唯「え~っと…あ、あった。はい、こんな感じですっ。」

和「どれどれ…あら、ここB判定出てるじゃない。」

唯「うん、でも……」

和「それで…え? 第1志望、桜ヶ丘?」

唯「えへへ。」

和「えへへ、じゃないわよ。D判定。今の時期にこれじゃつらいんじゃない?」

唯「うん、わかってるけど…」

何か言いたげな唯の様子に和はすぐに気づく。
唯は、自分と同じ高校に行きたがっていると。

唯「私、和ちゃんと同じ高校行きたい。」

和「はあ…あのね、唯。気持ちは凄く嬉しいんだけどね。」

和「唯、家でほとんど勉強してないでしょ。憂から聞いて知ってるわよ。」

和「あと、この前の実力テストも名前書くの忘れて0点だったし。」

和「それに、基本的な間違いも多いし記述問題は軒並み不正解だし。」

和「はっきり言って、今のままじゃ…絶対に無理よ?」

唯「う、ヒドイよ和ちゃん。そこまで言わなくても…」

我ながらキツイ物言いだったかもしれない。けど、この脳天気な子にも現実って
ものを知ってもらわないといけない。和は思う。

和「とにかく、このB判定出てるところメインにしたら良いと思うわ。」

唯「うん。」

和「そんなに悪い高校じゃないし、今から頑張れば絶対受かるわよ。」

唯「うん。」

和「それと…」

唯と和とは長い付き合いだが、昔からいつもこんな調子だった。
唯がグズグズしてるところを、和が面倒をみる。そんな関係。

唯は私にやたらと助けを求める、そして和はついつい彼女を甘やかす。

和は中学3年になった時に決めた。
こんな関係は、中学3年までにしておこう。唯のためにならないと。

和「というわけで、憂からも何とか言ってあげてよ。」

憂「そうなんだ。お姉ちゃん、そんな感じなんだ。」

和「ええ。このままズルズルと迷ってると勉強にも差し支えるし。」

憂「うん。でもお姉ちゃん、絶対に和ちゃんと同じ高校に行くって言ってた。」

和「それは構わないわよ。でも、今のままじゃ確実にダメね。」

憂「手厳しいね、和ちゃん。」

和「唯のためを思って言ってるの。」

憂「うん…わかった。お父さんやお母さんにからも言うように言っとくよ。」

和「よろしくね。」

憂「あ、そうだ。もうすぐお姉ちゃんの誕生日なんだけど…」

和「知ってるわよ。もし良いのなら、今年もお邪魔させてもらうわ。」

憂「うん! ありがとう和ちゃん!」

これから唯と別の高校に進むこととなると、今は近くてもいずれは疎遠になって
しまうかもしれない。和はそう思い、出来る限り唯との時間は大切にしている。
多分、和自身も今の時間、関係を名残り惜しく感じているのだろう。

和「大したプレゼントはあげられないかもしれないけどね。」

憂「ううん! 和ちゃんが来るってだけで、お姉ちゃん喜ぶから!」

和「ええ、私も楽しみにしてるわ。」

和「(…今年で最後になるかも知れないしね。)」


平沢家

唯「う~ん…」

憂「お姉ちゃん、どうかしたの?」

唯「うん…ちょっと高校のことでね~…」

憂「(あ、和ちゃんの言ってたことかな…)」

憂「お姉ちゃん、今日和ちゃんと話したんだけど…」

唯「うん、わかってるよ。私、桜高は諦める。」

憂「お姉ちゃん…」

唯「明日からちゃんと勉強するよ。ごめんねうい~、心配掛けて~…」

憂「(今日からじゃないんだ。)」

憂「あ、そうだ。和ちゃん、今年の誕生日来てくれるって。」

唯「ホント!?」

憂「うん。今日聞いたら、是非行きたいって。」

唯「そうなんだ~。えへへ~、楽しみだなあ。」

憂「ふふ、そうだね…あ。」

憂はここで気付く。このまま別の高校になると、和は自分たちから離れていくんじゃないかと。
縁が切れることはないだろうけど、でも不安になる。

憂「(和ちゃんとお姉ちゃん…離れちゃうんだ。)」

憂「(お姉ちゃん…)」


真鍋家

ブーン

和「ん? メール?」

和「憂からだ。」

To 真鍋和 From 平沢憂
 お姉ちゃん、高校決めたみたいです。
 でも、私はお姉ちゃんに桜ヶ丘行って欲しいです。
 和ちゃんと離れることになるかもしれないから。

和「……」

和「まったく…姉妹揃って甘えんぼさんね。」

和「私だって…寂しいわよ。」

唯にはああ言ったものの、出来れば彼女の希望が叶って欲しいという思いもある。

和「どうしたものかしら、ね…」



11月27日 誕生日当日 平沢家

和「お邪魔します。」

憂「あ、和ちゃん。いらっしゃい。」

和「ちょっと早く来ちゃったわ。唯は?」

憂「うん、なんか部屋でゴロゴロしてるみた…あ。」

和がきたことを察したのか、いきなり唯が駆けつけてくる。
そしてそのまま和に抱きつきにかかる。

唯「和ちゃーん!! ありがとう!!」

和「ちょっ、唯。離しなさい。」

しかし唯は離さない。

和「はあ、まったくこの子は…」

憂「とりあえず、もうちょっとだけ待ってて。すぐケーキの用意するから。」

和「ありがとう。」

唯「ね、ね? 和ちゃん! プレゼント! プレゼントは!?」

和「…唯、ちょっとは慎みってものを知りなさい。」

唯「ぶー、知らないよそんなの。だから、今ちょうだいっ?」

和「はいはい、後でね。それより、なんでこんな日まで変T着てるのよ。着替えてきたら?」

唯「おぉう、そうだった。忘れてたよ。じゃ、ちょっと着替えてくるね!!」

唯は、和から離れバタバタと廊下を駆けていく。
その様を見て、和は笑みをこぼす。

和「まったく、いくつになっても慌ただしいんわね。」

一足先に和は居間にあがる。テーブルには既にいくつかの料理が用意されている。

和「気合入ってるわね、相変わらず…ん?」

憂「和ちゃん。とりあえず、そこに座って待ってて。」

和「え、ええ…ねえ、憂。これは?」

憂「何? あ…それは。」

和「…もしかして、唯が?」

憂「うん、ついさっき。踏ん切りつけなきゃって言って。」

和「踏ん切り…ねえ。」

和「(やっぱりこうするしかないか。まったく世話のやける……)」

その後、少人数ながらも楽しく誕生会は開かれた。
そして、料理を食べ終わる頃に唯はもう一度催促を始める。

唯「コホン…では改めて。和ちゃん! プレゼント!!」

和「はいはい。これね。唯、15歳のお誕生日おめでとう。」

和はそう言って、少し小さめの包装を差し出す。

唯「ありがとう和ちゃん!! ね? 開けていい!!?」

和「ええ、でもちょって待って。」

唯「ん?」

和「唯、私ね…実は唯に隠してたことがあるの。」

唯「な~に?」

和「私ね……」



和「少しだけど、未来のことが予知できるの。」

憂「(え…和ちゃん、急に何を?)」

唯「えーっと、和ちゃん? 何のこと?」

和「ふっ、思い出せないなら思い出してもらうまでよ。」

和「小学3年の時、図工で発泡スチロール使うの。唯、忘れてきたわよね。」

唯「うん、確かその時多めに持ってきた和ちゃんに分けてもらったっけ。」

和「ええ。実はあの時、唯が忘れてくることを予知してたのよ。」

憂「(なん…だと……)」

和「それだけじゃないわ。小学4年の遠足の時も、中学1年の調理実習の時も。」

和「全部わかってて、私は多めに用意していたの。」

憂「(え、何…それってこじつけなんじゃ……)」

唯「…ホント?」

和「ええ。」

唯「和ちゃん…スゴイ。スゴイよ!!」

憂「(信じた!?)」

唯「和ちゃんがそんなにすごかったなんて…私、ビックリだよ!」

和「ええ。そこで、そんなにスゴイ私から、唯にもう一つプレゼントがあるの。」

唯「え、なになに!?」

和「唯…あなたの未来のことよ。」

唯「私の未来?」

和「そう、高校生活のことね。唯、高校では部活したいって言ってたわよね?」

唯「う、うん。」

和「何の部活かまではわからなかったけど…でも、唯はそこで新しい仲間に恵まれるわ。」

唯「ホント!?」

和「ええ。人数は…まあ、特に仲良くなるのが3~4人…いや、まあそんなとこかしら。」

唯「へぇ~、楽しみだなぁ~。」

和「それで、高校でも唯は相変わらず私に頼りっぱなし。」

唯「?」

和「怠けたところはしばらく治らないわね。」

唯「えーっと、和ちゃん?」

和「ん?」

唯「その未来、すごく嬉しいんだけど。一ついいかな?」

和「どうぞ。」

唯「私と和ちゃん、違う学校行くじゃん。和ちゃんに頼りっぱなしてどういう……」

和「はあ…唯。わかってないわね。」

和「唯、あなたは桜高に進学するのよ。」

唯「!?……ホント?」

和「私が嘘ついたことあったかしら?」

唯「いや、まあ、あの、でも……」

和「ツベコベ言わないで……」

不意に和はテーブルの下から何かを取り出す。
そして、それを勢い良くテーブルに叩きつけるように置く。

バァン!!

和「受けなさい。これを拾って。」

テーブルに置かれたもの、それは……

唯「ご、ゴミ箱?」

居間の隅に置いてあったゴミ箱だった。
中には、何かの封筒らしきものがキレイなまま捨てられている。

憂「和ちゃん、それって。」

和「桜高の願書。踏ん切りつけるつもりで捨てたそうだけど、用紙は綺麗なまま。」

和「唯、あなた全然踏ん切りついてないんじゃないの?」

唯「……」

和「でも…当たり前よね。唯は桜高に進学するんだから。」

唯「和ちゃん……」

和「さあ、唯。もう一度これを手に取りなさい。大丈夫よ、唯なら絶対受かるから。」

唯「和ちゃん……うん…! うん!!」

憂「(…つーか、何故ゴミ箱ごと? 中身だけ渡せばいいじゃん…)」

唯「ありがとう、和ちゃん。私、頑張るよ!」

和「ええ、これからは一緒に勉強しましょう。」

唯「うん! あ、そうだ。もうひとつのプレゼント。」

和「ああ、それね。」

唯「中身は~…え、赤本?」

和「ええ。それ使って当面は勉強ね。」

唯「でも和ちゃん。これ、桜高のじゃないよ?」

和「当たり前よ。その程度の問題解けなきゃ桜高なんて夢のまた夢よ。
  とりあえず、それ年内にはある程度解けるようになりなさい。」

唯「ね、年内~!? キツイよ和ちゃ~ん!」

和「文句はナシ。今まで勉強してなかった分、みっちり鍛えてあげるから。覚悟なさい。」

唯「ひ、ひえ~。」


後日

憂「和ちゃんっ!」

和「あら、憂。唯はどう? ちゃんと勉強してる?」

憂「うん、最近は和ちゃんが見てないところでもすごく頑張ってるよ。」

和「そう。唯には頑張ってもらわないとね。じゃないと、私が嘘つきになっちゃうわ。」

憂「えっ、嘘つきって…?」

和「……未来なんて見えるわけないじゃない。」

憂「(やっぱりか。)」

和「出まかせでそれっぽいこと言ったはいいけど、この先ちょっと不安だわ。」

憂「はは…あ、でも和ちゃん。いいの? このまま同じ高校入ったら…」

和「…もう少し、あの子の面倒見ることになるかもね。」

和「でも、構わないわよ。もう3年くらいは。」

憂「…えへへ~。」

和「ん? どうしたの憂、くっついて来ちゃって。」

憂「まだ和ちゃんと離れないと思うと嬉しくて。」

和「はいはい、そうね。私も嬉しいわよー。(棒)」

憂「和ちゃん。棒読みすぎっ。」

和「ふふ。」


和は思う。

中学3年間で一旦区切りをつけようと思った関係。でも、私自身それを延長したかった
のかも知れないと。この姉妹とのの関係はまだまだ続きそうだ。

この後、唯は見事に和と同じ高校に合格する。
そして、和が言った嘘の未来は(都合よく)現実になっていく。

出まかせで言った未来。
しかし、それが結果として唯の人生にとって最大のプレゼントになったのかもしれない。


おしまい



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最終更新:2011年05月25日 02:52