…そうだ、私は、ここで応えなきゃ…あの子達の気持ちに、応えなくちゃ…
一人の軽音部の先輩として、教師として…大人として…そして…共に音楽を通じて知り合えた『仲間』として…この子達の想いに応えなきゃ…!
私は…一歩足を踏み出し、声を張り上げて彼女達に応えた…!
さわ子「わ…私だって! あなた達から色んなものを貰ったわ! 歌が好きだった頃の私を思い出させてくれた…」
さわ子「過去を…私が忘れたかった過去を…嫌だった過去を…良い思い出に変えてくれた…!」
さわ子「昔の自分を受け入れる事を…悪くないって思わせてくれた…! みんなのお陰で…疎遠だったみんなともこうして再会できた…!」
さわ子「忘れていた青春を、思い出させてくれた…! ううん、いくつになっても輝きは消えないんだって…それを教えてくれたのが…あなた達だったのよ…!」
さわ子「私の方こそありがとう…! あなた達の顧問で…幸せだった…! 最高だった! みんなが…大好きよ!!」
唯「……っっ…!せ…せんせ…!」
唯ちゃんがステージから降りようとする…
その唯ちゃんを、後ろの2人が静止させる…
律「待て唯! まだ…まだライブは終わっちゃいねえ!」
紬「そうよ唯ちゃん! ボーカルは…ライブが終わるまで…ステージから降りちゃダメ!」
唯「……っっ…うん…そう…だったね…ごめんっ!」
梓「先輩やりましょう…! あの歌を…!」
澪「私達でやるんだ、私達で…『あの歌』を。 奏でるんだ! さわ子先生の…思い出の曲を!!」
唯「聴いてください…宴の夜は…まだまだ終わらない…!」
――――PARTY☆NIGHT!
…この子達のレパートリーの中では聞いた事の無い曲名だ
…でも、その曲名、どこかで…聞いた事が………ある…ような……
唯「………♪」
その予感はすぐに的中する。
懐かしい…とても懐かしい記憶と共に…蘇って来る…
~~~♪ ―――♪
唯「Hold me baby 踊ろうよsunday…♪」
澪「Touch me baby 気分はHoliday…♪」
そう、歌詞が彼女達の口からこぼれた時、全ての記憶が鮮明に蘇る…
さわ子「………う…嘘……?」
みゆき「この曲……」
恭子「私達の歌じゃん!」
さわ子「まさか…紀美…?」
紀美「………」ニヤリッ
さわ子「どうして…あの子達がこの曲を……?」
紀美「私は、単にあの子達の背中を押しただけだよ…」
……今、ここでようやく理解できた。
どうして、あの飲み会が開かれたのか…
―――――――――――――――――――
紀美『これからアンタは大きな感動を目にする、ここで教師やってて良かったって…そう思えるようなことがさ…』
紀美『その為にも、今ここでさわ子の中の過去を、嫌な思い出を…良い思い出にしとかなきゃなんねえんだよ!!』
―――――――――――――――――――
紀美の言ってた事の意味が、今ならよく分かる…
みゆきや恭子と和解してなければ、この歌は私の苦い思い出のままでしかなかった…
それを紀美は…あの子達の為に…私と2人を仲直りさせて…
あの子達も私の為に…梓ちゃんへの曲作りも受験勉強もあったのに…この子達は…私の…為に………!
みゆき「あの同窓会も、この日の為にあったんだろうね…」
恭子「なーんか羨ましいなぁ…さわ子、本当に幸せ者だねっ」
さわ子「……ええ………っ」
―――♪ ――――!!!
紬「イヤな事ぜんぶ 忘れちゃおう♪」
律「一晩眠って目覚めたらhappy girl♪」
梓「夢の途中で 出会う不思議…♪」
唯「悪夢を食べてる バク達もgood friends!」
―――♪ ―――――♪
あの子達の歌は、次第に会場中のみんなの想いを一つにして行く……
憂「Hold me baby ウキウキlady♪」
恭子「ストレスは…溜めないで♪」
みゆき「Touch me baby キラキラbody♪」
さわ子「…リフレッシュ…しよう……」
紀美「ほらさわ子、もっと声出すっ!」
デラ「ほーるみーべいべー! 気分はホリデイ♪」
さわ子「星空の、メロディー…♪」
みんなが、口ずさんでいた…
私達の歌を…ここにいるみんなが…私と一緒に歌ってくれている……
さわ子(…?)
さわ子(あれ……?)
さわ子(今ステージにいるの…唯ちゃん…でしょ?)
眼鏡がずれたのか、夢なのか、彼女達の演奏が魅せる幻なのか分からないけど…妙だ……。 なんで…。
なんで、『私』がステージの上にいるの? 紀美達と出会う前の…コスプレして踊ってた頃の…私が……どうしてあそこに…
さわ子「……っ…嘘…?」
よく周りを見ると、制服姿の憂ちゃん達に紛れて、制服姿の紀美達の姿も見える…。
そして、私自身の姿も……制服に身を包んだ、高校生の当時の姿になっていた…
これは…幻?
さわこ『……そこのキミ! そこのキミも、私達と一緒に歌うにょ!』
ステージ上の『私』が、私に話しかけてくれる。
さわ子「………わた…しも?」
きょうこ『そうよ 今日はパーティー、あなたも是非楽しんで言ってね?』
みゆき『いいから、はやく歌うにゅ』
同じように、ステージの上にいるみゆきと恭子も、私の手を引いてくれる……
3人に手を引かれ…私は………
唯「生きることに テキストはないよー♪」
律紬「裸足のまま 騒ごう…♪」
澪梓「クツなんて…」
さわ子「脱ーぎ捨てぇぇぇーーーーっっっ!!」
…私は、大きな声で歌った。
ステージ上の彼女達も、『私』も、みんなが祝福してくれている。 その祝福に応えるように…私は歌う…
そしてその声に合わせ、会場の熱は更に温度を高めていく…!
律(さわちゃん……!)
憂(先生…)
紀美「へへっ…あいつ…」
みゆき「踊りましょ、恭子、振り付けは覚えてる?」
恭子「まっかせて! あの猛特訓、まだ身体に染みついてるわっ!」
私達は唯ちゃん達と共にステージに上がり、あの時のまま歌い、踊り出す。
楽しもう……! 今日は、教師とかそんな事、もうどうでもいいくらいに楽しもう…!!
今日は宴の夜…どれだけの時が流れても決して輝きを失う事の無い…輝ける皆の宴の…夜…
…そう、パーティーナイト!!
――――♪ ――――――♪
HTT「Touch me babe 気分はHoliday♪」
一同「スペシャルな瞬間(とき)をーーーーー!!!♪」」
~~~~~~♪ ~~~~~♪ ~♪
――――――――――――
ワーワーワーワーワー!!!!
紀美「みんな…いや……『桜高軽音部』、さいこーーーーーー!!!!」
演奏が終わり、割れんばかりの拍手が巻き起こる…
そして、唯ちゃん達は楽器を置いて…私の所へ飛び込んできてくれる……
唯「ぐずっ……う…わあああぁぁん!! さわちゃぁん!!」
澪「先生……ッっ…先…生……!」
律「私達…さわちゃんに会えてよかった…本当に……良かった……っ」
紬「大好きです…先生…っ」
梓「離れたくありません…っ ずっと…ずっと私達の歌…聴いていて下さい……! 」
さわ子「私も…よっ…っく…みんなに会えて……本当に…本当に良かった……! この学校で先生をやって…教師になって…本当に良かった……!」
大粒の涙を流しながら…みんなが私に泣きついてくれる…
みんなの大きな想いが…抱えきれないぐらいの想いが…私の中に入って行く…!!!
憂「お姉ちゃん…みんな……っっく…ひっく…」
純「わたし…もうダメぇ…涙が止まらないよぉぉ…うえぇん…っ」
紀美「…えへへっ…」
デラ「あれっ…紀美、貰い泣き?」
紀美「そういうデラこそ…」
みゆき「…っ…っ…っ…」
恭子「いいもん見れたよねぇみゆき…私、さっきから涙もろいなぁ…」
みゆき「……うん…っ」
――――――――――――――――
唯(ステージの上で、私達は…ただただ…子供の様に…泣いてました…)
…でも、それは、悲しい涙なんかじゃない…
みんなで…先生の為に歌えた事がとても嬉しいから…嬉しいから…泣いてたんだ…
そして…泣き声も落ち着いてきた時、紀美さんが動き出した…
紀美「さってと……後輩にばかり良い格好させてもいられないよねぇ…」
デラ「うん…そうだね…」
ジェーン「私達も、やりますか…♪」
紀美「さわ…いや、キャサリン! 出番だよ!」
さわ子「……そうね……唯ちゃん、私も…歌っていい?」
唯「うんっ…先生の、デスデビルの歌、聴かせて下さい!」
さわ子「ありがとう…ギー太、貸して貰ってもいいかしら?」
唯「…はい、先生に弾いて貰えて、ギー太も喜んでくれてるよっ」
さわ子「…ギー太、少しの間だけ…よろしくね」ジャララン…
唯「ギー太、嬉しいってさ♪」
さわ子「ギー太もありがとう……じゃあ…行くわよ………!」
先生は眼鏡を外し、鋭い眼で会場のみんなを睨みつけます…
でもそれは、威圧でもなければ怒ってるわけでもない…
…戻ってきたんだ…私達の先輩が…DEATH DEVILのボーカル…キャサリンが…ここに、蘇ってきた…!
キャサリン「オメーらに見送られて……アタシゃサイッコーの気分だぜええェェーーーーっっっ!!!!」
クリスティーナ「オラァ!! オメーらテンション上げて行くぞォォォォ!!!!!」
キャサリン「ウウウオオオオオオアアァァァ!!!!!!!!!」
―――ドスドスドスドス!!! ダンダンダンダンッッ!!!
キャサリン「アタシらの歌を……聴きやがれえええェェアァァ!!!!」
――ギュイイイイィィィン!!!
キャサリン「薔薇も恥らう紅い唇! 星も羨む青い瞳ニセモノ!!」
―――――!!! ――――――!!!!
私にはとても真似の出来ない音が、ギー太から流れてくる…
ドラムもベースも、歌声の何もかもが…私達とは比べものにならないぐらいの迫力がある…!
そうだ、私は…この人に教えてもらったんだ…
3年間ずっと…この人と一緒に……音楽を…
澪「マッディキャンディィ!!」
律「澪…?」
澪「どうしたんだよ律! 乗ろう! 私…今すっごく楽しいよ……!」
律「ヘドバンなんか慣れないでやるもんじゃないって…でも、私も負けてらんないよな……!」
あの怖がりだった澪ちゃんが…怖がるどころか…むしろ乗ってる……
それに同調するように、ムギちゃんも頭を振って、みゆきさんもみんな…頭を振って音楽に乗っている…
デスデビルの演奏に、みんなが虜になってる…!
唯「キャサリーン!!! すごく…すごくカッコいいよおおおお!!!」
律「デスデビル……さいこぉぉーーーーーー!!!」
キャサリン「イエヤアアァァァ!!!!! ウオアアァァァ!!!」
私達の声援に絶叫で答えるキャサリン、そして曲が終わり…
「tasty cherry召し上がれ! アアアアオゥ!!!」
――ダンッダンッダンッ!!
……………
律「ヒューヒュー!! キャサリンかっこいいーー!!」
紬「アンコール! アンコール!!」
恭子「私もアンコール! まだまだ終わらないっしょー!!」
キャサリン「もちろんだ!! まだまだ終わらせねえ!! 次、『ラヴ』!!!!」
クリスティーナ「テメェら本気が足りねえ!! 今日は死ぬまでやんぞコラァァ!!!」
「―――おおおおおおっっっ!!!」
アンコールに応え、すぐに第二幕が始まります…
デスデビルのライブは……まだまだ終わらない…!!
キャサリン「甘い言葉にご用心ウォォ…あんまそんなの慣れてなァい…!」
―――! ――! ―!
そして…2曲目も終わり、拍手が会場を埋め尽くした時の事でした……
―――――――――――――――――――
憂「ねぇ…梓ちゃん……純ちゃん…」
梓「憂……どうしたの?」
憂「こんなこと、あんなすごい演奏の後だから…もしかしたら興醒めするかもしれないけど…さ…」
憂「私も…歌いたい……」
梓「憂…」
憂「私達、もう軽音部なんだよ…?」
純「うん…梓、歌おうよっ」
梓「でも…私達の歌じゃ……」
憂「もちろんかなわないってのは分かってるけど…でも私達、それでもたくさん練習したんだよ?」
純「憂も私も、冬からたくさん練習したんだ…先輩みたいな演奏したくって…ずっと練習してたんだ…!」
純「だから私達の先輩達に、私達の歌、聴かせたいんだ……」
憂「先輩がいなくても軽音部は大丈夫だって…みんなを安心させてあげなきゃ…!」
梓「……………」
憂「梓ちゃん…!」
純「梓…!」
梓「うん…2人の言う通りだよね……」
梓「行くよ…憂、純!」
憂純「うんっ!!」
梓「せ…先輩!!」
あずにゃんと憂と純ちゃんがステージに上がり、私達に向けて大きな声で言います…。
唯「あず…にゃん?」
律「ん…梓……」
さわ子「梓ちゃん…」
梓「私達も…歌います…!」
憂「先輩達みたいに満足な演奏は出来ないですけど…」
純「それでも…私達の、未来の放課後ティータイムの歌…聴いてください!」
梓「先輩方…いいですか…私達…ここで歌っても…!」
律「ああ! もちろんだ…!」
澪「3人の…未来の軽音部の演奏、私達にも聴かせくれ…!」
紀美「緊張しないで、落ち着いてやれば大丈夫! なんたってさわ子の生徒なんだから!」
律「そうだ! 梓、私達と過ごした2年間の頑張り…ここで私達に見せてくれ!」
唯「憂! あずにゃん! 純ちゃん! 頑張ってぇ!」
さわ子「じゃあ、最後に先輩から、愛すべき後輩の楽器の調律と行きますか…澪ちゃん、ムギちゃん、唯ちゃん、手伝ってあげなさい」
唯紬澪「はいっ!」
―――
――
―
最終更新:2011年05月27日 04:09