唯「…じゃあ、ぎゅってするのは、だめ?」

純「ちょっとだけですよ。」

唯「…ぎゅー。」

純「はい、おわり! 離れてー。」

唯「えー、短いよお! もっともふもふしたーい!」

純「だーめです。」

唯「純ちゃんのけち。」

純「けちじゃありません。」

唯「フェチ。」

純「フェチでもない。」

唯「じゃあ、シャチ?」

純「じゃあってなにがだ。」

唯「シャチ・ウナギ・タコ!」

純「オーズ!?」

唯「ねえ、アンクちゃん。」

純「アンクじゃない! 純!」

唯「純ちゃん、さびしい思いさせちゃってごめんね。」

純「だまして愚痴聞くなんて、最低ですよ。」

唯「ごめんね…純ちゃんのことなんでも知りたかったんだもん。純ちゃん隠してばっかだし。」

純「私そんなに正直じゃないかな…。」

唯「一人でちんぐり返ししてることだって知らなかったよ。」

純「ひああああ!」

そういえばそうだった!

さっきの憂は唯先輩の変装だってことは、ちんぐり返し見られたのも唯先輩ってことじゃん!

唯「あんなことして、そんなに欲求不満が溜ってたんだね……おちんちん。」

純「あれはそういうんじゃないよ!」

唯「我慢しないでいーのにー、セックスしようよー。」

純「先輩のすけべー!」

唯「なんだとー、言ったなー? 食らえっ、ちんぐり返し!」

唯先輩はやにわに私の両足首を掴むと体ごと転がして私をむりやりにちんぐり返しの恰好にしてしまう。

足をばたばたしてどうにか抜け出そうとしてもがっちり掴まれていて身動きできない。

この人はこの細い腕のどこにこんな力をしまいこんでるんだ? 覇気?

唯「うふふー、いいかっこだね純ちゃん。それじゃイイコト、しよっか?」

純「先輩のへんたい! ごうかんまー!」

唯「ぶー、ちゃんと性技超人って言ってよー。」

純「それ字が違いますから!」

唯「おちんちん見ちゃおっかなー。」

純「やだっ、ほんとにやめ……へ、へ、へ、へっくしゅん!」

びちゃ。

純「あ…」

――まあ、なんということでしょう。

風邪ひき純ちゃんから放たれたくしゃみは、涎とはなみずを効果的に空中運搬し、

唯先輩のお顔にお届けしてしまったのです。それはもうべったりと。

唯「…」

唯先輩ははなみずと涎まみれのまま茫然といったていで私を見ている。

え……なんでなんにも言わないんですか? ひょっとして怒ってる?

もしかしなくても怒っちゃってますか?

純「その……ごめんなさい。」

唯「ううん、今のは私が悪かったよ。」

まあそれは尤もだ。あんな手荒なこと、性欲に駆られて病人にすることじゃない。

それは尤も、もっともなんだけど、でも、唯先輩、それ絶対に

「うんっ、ゆるしてあげるよハニー! なんにもきにしないでっ!」

って顔じゃないですよ。

嵐の前の静けさというか、台風の目と言うか、むしろ投石機は真下が一番安全だっ、て感じの表情じゃない?

純「いやいや、ちょっと待て、何考えてるんだ私、おちつけ…」

唯「ねえ、純ちゃん。」

純「はい!」

そんなにびくびくするなよ私、卑屈だなあ。

でもやっぱ唯先輩はこわい。なにするか分かんないからこわい。

普段は優しい人なんだけど、つまり、なんというか、今までの経験上具体例を挙げさせて貰えば……

いや、やっぱりこれは思い出したくない。

純「な、なんですか。」

半分涙目になりながら、ずずっ、とはなをすする。

唯「風邪、やっぱりまだつらい?」

ん? いや、それは確かにまだ治りきっちゃいませんから……

唯「楽にしてあげるね。」

と言うと唯先輩は私の頭をぐいっ、と引き寄せ、そこに自分の顔を近づけてきた。

これはまさか、平沢家伝統キスして風邪をうつしてどうこうとかいうあれ!?

いやいや、そんなのだめだってー!

…なんて甘いこと考えている私にはもっとハードでありがたくない現実、

あるいは妙ちくりんな愛の行為が待ちうけていた。

唯「ちゅ。」

純「ほえ。」

先輩の唇が音をたてて接触する――私の鼻に。

そして先輩は私が逃げられないように頭をがっしりつかんだまま、舌を一方の鼻の穴に差し込んだ。

熱い感触が顔の中心に押し寄せる。

純「ふぐっ、ええ!?」

鼻腔の粘膜にぐいぐいと湿った柔かい舌がおしつけられる。

愛撫する時のような繊細さで舌を押しこんでくるが、やはりそこは普通いじる場所じゃないので痛くて、くるしい。

というかそこは舐める個所じゃないです!

純「ふが、しぇんぱっ、ばっ……ああ!」

先輩、ばっちいですからやめてください!の一言すら満足に言えない。

唯「ぴちゃ……んん、ふふ。おいし。」

それでも言葉が通じたのか舌を抜き取ってくれた。

おいし、じゃないですよ……うう、顔がよだれくさい。

ひりひりして、穴が拡がっちゃったんじゃないかとちょっと心配になる。

ところが……というか、もちろんというか、猟奇的な彼女の奇行はそれで終わらない。

唯「ずずー。」

唯先輩は口をすぼめるような形にして再び鼻の穴にくっつけると、そこから直接はなみずを吸い始めた。

純「んああ!」

これには私もたまらず先輩を押しのけようとする。でも先輩は私の頭をがっちりつかんで放そうとはしない。

先輩が離れない。離れない。離れない。こわい!

唯「ずず……んー。よしよし。」

吸いながらいい子いい子するように先輩は私の後頭部をやさしく撫でる。

そんなことで誤魔化されたくない、と思うんだけど、やっぱりそうされると嬉しくて抵抗する気が失せてしまう。

純「……んぐぅ。」

唯「へんほへんほ。」

先輩がなにか言ってるけど口をつけたままなので全然わからない。

純「ははんはういへふおー。」

返事しようとしても、私も何言ってるのか分からない。

誰かに鼻を吸われた状態で出す声は、鼻声というのを超越して一種異様な声だ。

こんな知識、ふつうに生きてたらまず間違いなく手に入らないよ。

はなみずは泉の水のように次から次へと湧いて出て、私の鼻から唯先輩の口の中へと渡されてゆく。

唯「…ずずー、ん、ごくっ。」

ああ……飲んでるよ、先輩。いやだなあ……

唯「ずっ……すん、すん。」

ようやくはなみずが尽きたのか、もう先輩が息を吸い込んでも空気しか通らなくなった。

お陰さまで鼻の通りが抜群です。でも鼻から直接唯先輩のよだれのにおいがする。

唯「…こんどはこっち。」

純「まひゃっ!? まだやるんでしゅか……ふぐっ!」

先ほどとは反対の穴に舌を挿しこまれる。

今度は先ほどより慣れたのか、一回目よりもすばやく舌が奥まで到達した。

鼻の穴が裂けてしまいそうな痛みを感じる。

……この痛みは、いつかおしりに指を入れられたとき以上かもしれない。

ああ、へんなこと思い出しちゃった。

いや、でもこないだはもっとすごいのが……

唯「ずずずー。」

純「ふやあっ!」

などと油断している暇はない。

舌を挿しこんで通り道をつくると、すぐに抜き取って同じように中の粘液を吸い始めた。

おまけに、頭を押さえていない方の手が体をまさぐりながら徐々に下腹部の方へと近づいていく。

服の上から触られてるだけなのに、このいやらしい手つき……なんというてくにしゃん。

人類は唯先輩にギターなんて与えちゃいけなかったんだ。

唯先輩の手はスリ顔負けの手際の良さでズボンに潜り込み、私のおちんちんに到達する。

唯「んー?」

純「はう……」

むんずとにぎられてはっきりする。

私は勃起していた。

唯「へふー。」

なんですかそのへんな笑い声は。

どうせ私は好きな人になでなでされながら、はなみず吸われておちんちんを硬くしちゃうようなエッチな女ですよ。

純「うう……」

唯先輩は慰めるように、いっそうやさしく頭をなでなでしてくれた。

気持ちいい。

唯「ずず、ずずー。」

でもはなみず吸うのはやめてくんないんですね。

ズボンに入り込んだもう一方の手はペニスに触れたまま動かさずに置いてくれるので助かった。

この状態で下までいじられてしまったら、情けないやら、なんやらで、もう生きてはいけないはずだ。

もう充分に情けなさの限界点を通り越しているのでは、という疑問は私の精神の健康のために捨て置くことにする。

唯「ずずー。」

ゆっくりとした速度で、着実に唯先輩ははなみずを吸いこんでいく。

先輩が私のはなみずをすする音に混じって小さく、

ぷふー、と先輩の荒い鼻息の音が聞こえた。

純「……。」

やがて音が止まり、先輩は私から顔を離した。

つ、と私のはなみずと唯先輩のよだれの混合物が糸を引く。

先輩はいつになく上気した、赤い顔をしていた。

ああ……泣きたい。

唯「ごちそうさま。」

はい、おそまつさま。

とでも言うと思ったのか。

純「くたばれ!」

かわりに私はクッションでにっくき変態の顔面を殴ることにした。

唯「ぶへっ。」

純「もうやだ! うう! ばか! どあほ、死ね! さいてー!」

両手で掴んだクッションで何度も先輩を打ちつける。

てれかくしなんかじゃない。わりとほんきのにくしみだこれは。

唯「ちょ、純ちゃんたんま、たんま! ごめん、ゆるして、ごめんってば~!」

純「ううう!」

唯「も~っ、いやなんだったら、いやだって途中で言ってよー。」

純「言えなかったよ!?」

唯「あれ、そうだっけ?」

純「くそばか!」

唯「こら、汚いことば使わないの。」

言葉なんかより先輩の行為が汚いというつっこみはなしだろうか。

純「うう~……鼻がひりひりしますよう……」

唯「ごめんごめん。でも、鼻の通りよくなって楽になったでしょ?」

はあ、それはまあ確かに、そうだけど……。

唯「よかったよかった。純ちゃんはお風邪が楽になって、私はおいしい純ちゃんが味わえて。」

純「よくないですっ!」

唯「え~?」

純「これ、二度とやっちゃだめですからね。」

唯「え、んん、んふふ~、わかったー。」

純「私の目を見て言ってよ。」

唯「わかった?」

純「疑問形じゃなくて。」

唯「わかんない!」

純「堂々としないで!」

唯「まあまあ、落ち着いて落ち着いて、病人なんだから暴れないの。」

純「唯先輩が興奮させてるんですぅ……」

ああ、なんか熱が上がってきた気がする。

ほんとにひどいひとだ。

純「……なんでこんなへんなことするんですか?」

唯「だって純ちゃんおしっこ飲ませてくれないんだもん。」

純「そうじゃなくって……」

唯「好きな人の体から出るものなら、なんでも飲めるよ、私。」

純「……」

唯「きゅんってした?」

純「いえ、さいていです。」

唯「え~?」

えーじゃない。

先輩のきゅんきゅん概念っていったいどうなってるんだろう。

はなみずすすられて人を好きになる女の子って唯先輩の頭のなかにしかいないんじゃないだろうか。

唯「純ちゃんだって、言ってくれたらいつでも私の飲んでいいんだよ?」

純「いらない。」

ぜったいにノーサンキュー。

唯「あはは。――まあ、それとこれは、純ちゃんに対するおしおき、かな。」

純「……え?」

おしおき?

やっぱり唯先輩、ライブ観に行けなかったこと怒ってたのかな。

意外な成り行きに思わず体を固くしてしまう。

唯「だーって純ちゃん、『唯先輩』ばっかりで、ちっとも呼び捨てしてくんないんだもん。」

純「あ……」

お仕置きってそのことですか。

純「それは、その…やっぱりまだ慣れないというか、努力はもちろんしてるんだけど……」

唯「さみしいなー。」

純「ごめんなさい。」

唯「んふふ、まあいいよ。」

この笑顔は、「これは貸し一つだよ、純ちゃん」の意味な気がする。こわい。

唯「純ちゃん、今度はちゃんと私のライブ観に来てね。」

あ、やっぱりそっちも気にしてたんだ。

純「はい。もちろん。」

唯「ん。じゃあ、そのためにも今日はゆっくり休んで風邪をしっかり治そ?」

唯先輩は私をベッドに横たえさせ、毛布を体にかけてくれる。

せんぱい、やさしい。

直前までゆっくり休まれないようにしていたのは当の唯先輩だという事実にはこの際目をつぶろう。

唯「ぼーやはよいこだ、ねんねしなー。」

純「こどもじゃないです。」

だけど不思議とすぐにまぶたが重くなる。

朝からずいぶん寝たはずなのに、眠くなるのおかしいな……

唯先輩の声を聴いてると、魔法みたいに安心して……

…………………………………………………………。

再び目が覚めたときは夜中。もう唯先輩の姿はどこにもなかった。

立ち上がって電気をつける。

勉強机の上に、一枚の紙切れと鍵が置いてあった。

『我が最愛なる純ちゃんへ

私の寮の部屋の鍵を授けましょう

会えなくて寂しいのはいやだからどんどん会いに来てね

ただし、周りの人にばれないようにこっそりと!

ゆっくり寝てはやく元気になってね

かわいい恋人より』

鼻をすすろうとして、もうすっかり鼻の通りがいいことに気づく。

純「自分でかわいいとか言うか。」

たしかにかわいいけどね。世界で一番。

まちがいなく。


すっかり風邪の治った純ちゃんが、

交替に風邪を引いた彼女の部屋を襲撃に行くのはその三日後の話。



純「くらえっ、まんぐり返し!」

唯「ひええっ、やめてよお純ちゃあん!」



お し ま い



最終更新:2011年05月27日 20:52