私の名前は中野梓。
またの名を、怪盗あずにゃん。
と言ってもその名を知るものはまだいない。

なぜって?私はまだ盗みを成功させたことがないから。
おかしい?
どうせ、予告状を出し、宝石や絵画を華麗にいくつも盗み出すものを怪盗と呼ぶと思ってるんでしょ?
それは素人の浅はかさというもの。
真の怪盗とは、生涯にたった一つ、本当に盗むほどの価値のあるものを盗み出すもの。
私から言わせれば、アルセーヌルパンも、怪人二十面相も、怪盗キッドもただの腕自慢の盗賊に過ぎない。

私が狙っているものがなにか教えてあげましょう。
生涯に一度、盗むに値する神がつく利子珠玉の宝、それは―――


それは澪先輩のパンツ!
しかも脱ぎたての縞々パンツ!!!

私はあの日、先輩方が1年生のときのライブdvdを見たあの日から、
澪先輩の縞々パンツの虜になってしまったのだ。

どうしてもあれを手に入れたい!
あの縞々パンツ、澪先輩の縞々パンツ!!!

干してあるものを盗めば簡単だろうって?
それはただの下着泥棒ではないか。
それに、先にも言ったが、怪盗たるもの、盗み出すものは生涯に一度、自分の全てをかけるほどの価値のあるものでなければならない。
いくら澪先輩の縞々パンツと言えども、脱ぎたてでなければ盗み出すほどの価値があるとは言えない。
また、脱ぎたてであろうと、ほかのパンツでも同じこと。


分かりやすくたとえてみよう。
澪先輩の洗ってある縞々パンツが50カラットのダイヤの価値があるとすれば、他の澪先輩の洗ってあるパンツは30カラットのダイヤ、
そして澪先輩の脱ぎたて縞々パンツは1000カラットのダイヤと同じ価値なのだ。
ちなみに現在発見されている研磨済みダイヤの最大のものは545.67カラットのザ・ゴールデン・ジュビリー。
このことから、澪先輩の脱ぎたて縞々パンツがどれだけの価値があるかが、
自分の全てをかけてまで、盗み出す価値があるものであることがわかってもらえると思う。

……私としたことが、熱くなり余計なことを語ってしまった。
澪先輩の脱ぎたて縞々パンツの価値がどれほどのモノ化など、語るまでもないことだと言うのに。
澪先輩の脱ぎたて縞々パンツが、1000カラットのダイヤと匹敵する価値があるってことぐらい、氷が解ければ水になる、
ムギ先輩の眉を両方取ればゲル状になる、律先輩のおでこの輝きが1000ルクスである程度の、小学生でも知っている程度の常識だと言うのに。


話を戻そう。
実は、私は半年ほど前から少々あせっていた。
それはなぜかと言えば、もうあれから1年半もの月日が流れている。
澪先輩がどれだけのパンツを持ち、ローテーションさせているか、どの程度で廃棄してしまうかわからないが、
そろそろ廃棄させてもおかしくないころだった。
ひょっとしたらもう廃棄している可能性も―――
そうも思ったが、後述するように、その後の調査で、その心配は杞憂に終わった。
私とてこの2年間、ただ手をこまねいていただけではない。
澪先輩とどこかに宿泊する時は必ずそのチャンスを狙っていたが、あいにく脱ぎたて縞々パンツとはめぐり合うことができなかった。
去年の年末は憂の家に、今年の文化祭ライブの前日は学校に、みんなでお泊りしたとは言え、みんな着替えなどもって来ていなかったし、
今年の合宿の夏フェスの時は、澪先輩は薄いピンクのパンツだったのだ。
それを思うと、なぜもっと早くあのDVDにめぐり合わなかったかが悔やまれる。
1年の時の合宿前にあの映像を見ることができていれば、1年の合宿で澪先輩の脱ぎたてシマシマパンツを手に入れられていたかもしれないのにと。

私が澪先輩の脱ぎ立てシマシマパンツを手に入れようと画策していたのは、お泊りの時だけではない。
今夏、澪先輩のクラスがプールの授業のたび、私は腹痛になり、更衣室へと欠かさず向かったが、全て別のパンツだったのだ。

先ほども言ったように、タイムリミットが迫る中、澪先輩と宿泊するチャンスも、私の手の届く範囲で、澪先輩がパンツを脱ぐことも望めなくなってしまった。
そこで私は強硬手段に出ることにした。
澪先輩に勉強を教えてほしいとお願いし、週末、澪先輩の家に泊めてもらうことにしたのだ。

もちろん下準備は万全だった。
私はプールでの失敗より、数ヶ月前から澪先輩がどれだけのパンツを所有し、どのようなローテーションでパンツを履くか、
上履きに取り付けた超小型カメラにより、盗撮、もとい、調査をし、縞々パンツのローテーションが来る今日、この日に約束を取り付けたのだ。


―――

と言うことで、私は今、澪先輩の部屋で、数学を教えてもらっているところだ。
むふふ、澪先輩の縞々パンツ、楽しみだなぁ。

「……さ……梓」
「ふぁい!」

澪先輩に急に声をかけられ、声が上ずってしまった。

「どうしたんだ、ぼうっとして」
「す、すみません」
「ほら、ここはさっきの公式を当てはめて……」

うわわわわ、澪先輩が肩を寄せて来て!
顔が近い顔が近い顔が近いぃいいいい!
澪先輩の髪が揺れて、シャンプーの甘い香りも漂ってきて、や、やばい。
おなかの下の方がキュンキュンしちゃう!


「梓」
「にゃっ!」

澪先輩の厳しい声が飛び、私はびくっとして、澪先輩の顔を見返す。

「梓、今日はどうしたんだ?
梓が、勉強教えて欲しいって言ったんだぞ」
「す、すみません」

うぅ、澪先輩に怒られてしまった。
ってか、部屋の中は暖房で、暑いぐらいにしてあるとは言え、なんで澪先輩、こんな真冬にキャミなんか着てるんだろ?
なんと言うか、怒られてるのに、視線が下の方に自然と下がってしまうんですけど。

「まぁ、少し休憩デモするか」
「……はい」
「じゃぁ、何か飲み物持ってくるよ。
紅茶とココア、どっちがいい?」
「……じゃぁ、ココアで」
「分かった」

澪先輩はそう言うと、飲み物を取りに、キッチンへと向かった。

あぁ、折角の二人っきりの夜だと言うのに。
澪先輩の、脱ぎたて縞々パンツを手に入れる、記念すべき夜だと言うのに。
それなのに、澪先輩を怒らせてしまうとは。

「梓、お待たせ」

そんなことを考えていると、ココアのカップを二つ載せたトレイを抱えた澪先輩が帰ってきた。

「あ、すみません」
「いいよ、でも、これ飲んだらちゃんと勉強するんだぞ」

そう言って澪先輩は私の頭をなでてくれた。

なんだろう、この心地よさは。
思わずゴロゴロと喉を鳴らしたくなってしまう。


―――

「大分はかどったなぁ」

澪先輩が背伸びをする。
キャミから、零れ落ちるんではないかと錯覚させるほどの、大きな胸を無防備にさらけ出し、触ってくれと言わんばかりの体制に理性が振り切れそうになる。

(いかんいかん、冷静にならないと)

私は震える右手を、必死に左手で押さえる。
目的を違えてはならない。
みおっぱいが、いくら魅力的だとはいえ、今日は縞々パンツを手に入れなければならないのだ。
みおっぱいなら、澪先輩と会うことさへできれば、触る機会などいくらでも訪れるが、
脱ぎたて縞々パンツは、いくつもの条件が重ならなければ、手に入れるのは困難なのだ。

「梓?」

そんな私を、澪先輩は怪訝そうな顔で見つめる。

「な、なんでもありません」

本当に冷静にならねば。
ここで少しでも怪しまれたら、千載一遇のチャンスを不意にしてしまいかねない。

「それならいいけど……」

うわ、だめだ。
なんかめっちゃ怪しまれてそう。

こう言う時は二人で自然に盛り上がれる話を振ってごまかすしかない。

「そう言えば澪先輩、1月に出る、パンツ・メセニーの新譜楽しみですね」
「え?パンツ?」
「あ、パット!パット・メセニーですっ!!!」

うぅ、縞々パンツのこと考えてたら、間違えてしまった。

「そ、そうだよなぁ」

澪先輩は、はははと乾いた笑い声をあげる。

これは、これはどうするべきか。

私の頭はパニック寸前になってしまった。

「ははは、じゃぁ、なんか音楽でも聴こうか」

そう言うと澪先輩は、CDをかける。
コンポからは、コルトレーンの『My one and only love』が流れ出す。
てか、コルトレーンのサックスがムーディーというか……エッチ臭いんですけど。

「うん?梓はこういうのきらい?」
「い、いえ」

澪先輩は、すっかり緊張してしまった私の横に、ぴったりと寄り添うように座りなおした。
澪先輩の二の腕の、程よい柔らかさとぬくもりが伝わってくる。
ほ、ほんとになんでしょう?この状況は?
また、おなかの下のほうがきゅんとなって、ドキドキしてきた。


「み、澪先輩」
「なに?」
「も、もう夜も遅いんで、そろそろ寝ませんか?」

私はこの状況を打破するために、提案した。
このまま澪先輩の色香に惑わされては、澪先輩の脱ぎたて縞々パンツを手に入れるという、大業が果たせなくなってしまいそうだったから。

「そう……
じゃぁ、梓、お風呂入ってきなよ」

え?澪先輩なんか怒ってる?
ちょっと口調が冷たいんですけど。

「い、いえ、申し訳ないので、澪先輩が先に入ってください」

「そう。
じゃあ先に入ってくるよ」

そういって、澪先輩は、プイっと部屋を出て行ってしまった。

でも私は少し安心していた。
今のうちに体制を立て直し、澪先輩がお風呂に入っている間に、縞々パンツを手に入れるのだ。

私は、落ち着くために、何度も深呼吸する。
そして、5分ほどすると、足音をしのばせ、澪先輩の脱ぎたて縞々パンツの待つ、お風呂場へと向かった。

私は慎重に、慎重に脚を進める。
床が少しでもギシっとなると、ビクっとしてしまう。
そのたびに、周りを確認し、ゆっくりと歩を進める。

やがて、シャワーの水音が近くなるにつれて、私の鼓動も早さを増していく。
そして、私はやっとの思いで、お風呂場の脱衣所へとたどり着いた。

「ふぉぉぉぉー!」

思わず、叫び声をあげそうになり、自らの手で、口を塞ぐ。
どうやらシャワーのおかげで、澪先輩には気付かれなかったらしい。
私は、もう一度深呼吸をすると、視線をそれに戻した。
そこには、脱衣篭に無造作に置かれた、夢にまで見た、澪先輩の縞々パンツがあった。

さすが澪先輩の脱ぎたて縞々パンツだ。
パンツに後光が差し、まばゆい光を放っている。
まさに怪盗たるものが盗み出すにふさわしい、珠玉の宝と言える物だった。

私は、しばらくの間それを見つめ、感動に打ち震えていた。
永木に渡って求め続けた宝が、今まさに、手の届く場所にあるのだ。
私は、震える右手をその宝に伸ばす。
やっと手にしたそれは、ほかほかとまだ澪先輩のぬくもりを残していた。

私はそれをゆっくりつかみあげる。
そして、部屋に戻ろうときびすを返そうとして、足を止めた。

私は、この無常の宝を手に入れ、更なる欲望が沸いてきてしまったらしい。
いや、それは本来一対であるべきものなのかも知れない。
そして、引き離されようとする今、それらはお互いを呼び合い、私の足を止めたのだ。

私は再び右手を伸ばし、それを、おそろいの縞々ブラを掴み取る。
その、自分と比較するのもおこがましいような、カップの大きさに、感動とかすかな嫉妬を覚えつつ、私は、今度こそ部屋に戻り始めた。


無論、帰りも集中力を途切れさせることはなかった。
折角の宝を手に入れ、それを不意にするほど、私はおろかではない。

「ふう……」

数分後。
やっとの思いで、澪先輩の部屋までたどり着き、私は、安堵のため息を吐いた。

「これが、夢にまで見た澪先輩の縞々パンツ……」

私は手にした宝を改めて見つめる。

すると、言いようのない思いが、ふつふつと湧き上がってくる。

「……少しぐらいなら大丈夫だよね」

私は、その思いに抗えず、自らに言い訳をすると、
澪先輩の脱ぎたて縞々パンツを、顔に押し当て、ブラを抱きしめた。


「パンツ!パンツ!パンツ!パンツゥゥうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!パンツパンツパンツぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!澪先輩の脱ぎたて縞々パンツをクンカクンカ!クンカクンカ!あぁあ!!
違うお!ペロペロするお!ペロペロ!ペロペロ!パンツをペロペロ!ペロペロチュッチュ…きゅんきゅんきゅい!!
おそろいのブラも手に入って嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!」

「あ……ず・さ?」
「澪先輩の縞々パンツゥゥううううう!!!にゃああああああああん!!!って、え?」

その声に振り返ると、呆然とドアの前に立ちすくむ、バスタオル1枚の澪先輩が立っていた。

「え、えっと、これは……」
「あ、梓が、私の下着を……」
「こ、これは違うんです!
1000からっとのダイヤに匹敵する、澪先輩のパンツがですね!」
「……つまり梓は……私の下着が欲しかったわけだ」

澪先輩の瞳に涙が溜まっていく。

「あ、あの……」
「今日来たのも、下着を盗むためだったんだ……」

澪先輩の頬を、溢れ出した涙が伝う。

(うぅ、どうしよう。
こんなはずじゃなかったのに。
澪先輩を傷つけるつもりなんかなかったのに)

私の胸は、後悔ではちきれそうになった。
よし、謝ろう!
謝って許してもらえるか分からないけど、心から謝ろう。
私は意を決し、口を開いた。


「み、澪せんぱ」
「梓は」

だが、その言葉は澪先輩の言葉に中断させられた。

「梓は、下着の方が好きなんだ……」
「え?」
「私なりにがんばったのに……下着の方がいいんだ……」

澪先輩は何を言っているんだろう?

「はは、今だってこんな恥ずかしいかっこで……」
「…………」

改めて見ると、バスタオル1枚だけ巻きつけている澪先輩は、やっと大事なところが隠れているといった上体で―――

「それでも、梓は下着のほうがいいんだよな」
「あの……澪先輩まさか……」
「所詮私は縞々パンツだけの女なんだ……」
「…………」
「どうせファンクラブって言ったって、あの時パンツ見せなきゃ出来なかったんだきっと……」
「そんなことありません!!!」

私は思わず叫んだ。
「確かに澪先輩の縞々パンツは魅力的です!
1000からっとのダイヤと匹敵する価値があります!
でも、それは澪先輩が履いたからなんです!!!」
「梓……」
「それは澪先輩が魅力的だからじゃないんですか!?」
「でも梓は……」
「そりゃぁ私だって澪先輩の全てが手に入るなら、こんなことはしてません!」
「…………」
「だから、せめて下着だけでも!」
「梓」

私はいきなり温かいものに包まれた。

「梓、ごめん、酷いこと言って」

澪先輩が耳元で囁く。

「なんで澪先輩が謝るんですか。
私の方がひどいことしたのに」
「そうだな、でも、おかげで梓の気持ちが知れてよかったよ」
「み、澪先輩」

私は、優しく抱きしめてくれる、澪先輩の胸に顔を埋めて泣いた。

「ところで梓」


しばらくすると、澪先輩が躊躇いがちに囁く。

「なんですか?」
「私の全てをもらってくれる?」
「はい!」

私が元気よく返事をすると、澪先輩は瞳を閉じて、少し俯く。
私は少し背伸びをして、澪先輩の柔らかな唇にキスをした。
そして、そのまま二人で既に敷いてあった布団に倒れこんだ。


―――

「梓」

澪先輩は、幸せそうに私の胸に頬を摺り寄せる。
前髪が素肌に触れて、少しくすぐったい。
いつもかっこよく、私より大きな澪先輩を、抱きしめているなんてちょっと不思議な気分だけど、悪くない。
私は、私に甘えている澪先輩をちょっとからかってみたくなった。

「さっきの澪先輩かわいかったです」
「ば、ばか」

澪先輩は、顔を真っ赤にして、私の胸で顔を隠した。

「でも、ありがとう……」

しばらくすると、澪先輩は、ひょこっと顔を上げて、照れたように言う。

「お礼を言うのは私の方です。
こんな素敵な澪先輩の全てをいただけるなんて」

私は、澪先輩をぎゅっと抱きしめ、唇を重ねた。


「あ、でもあのパンツとブラもくださいね」

唇を離すと、私は澪先輩に囁いた。
その後、軽い痛みが頭に走ったけど、私は幸福だった。
何せ私は、追い求めていた以上の宝を手に入れられたのだから。



おわり



最終更新:2011年05月27日 23:17