菫「紬さんはすごい」

菫「幼少の頃はピアノで賞をとったこともある」

菫「そして高校では、けいおん部という部に入り、キーボードという楽器を担当しているらしい」

菫「もっと言えば、紬さんのバンドの曲はすべて紬さんが作っている」

菫「私はたまに紬さんから誰よりも先に完成した曲を聴かせていただいたり」

菫「曲に関するささやかな悩み事などを聞かせていただいていたりもした」

菫「紬さんが高校3年生の1学期に作曲をした、『ときめきしゅがー』」

菫「彼女が作曲を終えた後に私に感想を求めた」

トントン

「どうぞ」

ガチャ

菫「お呼びでしょうか、紬さん」

紬「菫ちゃ~ん!!」ガバッ

菫「ひゃう!?」

紬「曲がね!曲ができたの!!!」ムギュムギュムギュ

菫「えっ!な、なんですかいきなり!!は、離れてください!?不意打ちで抱きつかれるのはいくら紬さんでも~!?」ワタワタ

菫(というか、紬さんだからこそ私の心臓がもたないっ!!)

紬「え~菫ちゃんのケチィ」ブーブー

菫「け、ケチで結構です!というか、キャラが変わってますよ!?」

パッ

菫(あっ…)ションボリ

紬「まぁ、仕方ない。人の嫌がることはしてはいけないものね」

菫「あ、い、いえ…(なんか勘違いさせてしまわれたけど、嫌ではないんですよ私のお嬢様ぁぁあああああ!?)」

紬「さて、と。菫ちゃん!」

菫「はい、さっき曲と言ってましたが…」

紬「うん!そうなの!!やっとね、曲ができたの!!」

菫「それはあの、いつものごとく紬さんのバンドの曲ですかね?」

紬「うん!そうよ!!」

菫「ということは…歌詞は」

紬「そう!!いつも通り澪ちゃんが作詞よ!!!」

菫「ハ、ハア…(やっぱりあの人の作詞か…)」

菫(正直、私があのあまあまな歌詞がちょっと苦手なのは紬さんには内緒です)

紬「これが今回の曲の楽譜ね」ハイッ

菫「あ、ありがとうございます」オソルオソル

菫(澪さんという方はどんな歌詞を今回は…お書きになったのだろうか…)ジー

菫「はうっ!?」

紬「?」

菫(あ、甘すぎるぜベイベー)

菫(これは…はっきり心の中だけで申し上げると…)

菫(とても高校生が書いたとは思えないくらいとってもメルヘンです!!)

紬「今回も澪ちゃんワールド炸裂よねぇ~」ノゾキ

菫(紬さんが近くに!!)ドキッ

菫「そ、そうですね」ハハハ

紬「今までの曲ならちょっとぐらいかわいい歌詞でもロックっぽさを残した感じにしていたのだけど」スタスタ

菫(あ…キーボードがスタンバイしてある…!)

紬「今回はとってもメルヘンな歌詞だったからそれを活かしてみることにしてみたわ」クスクス

菫(こんな歌詞に…紬さんはどんなメロディーをつけたのだろう…)

紬「菫ちゃん、聴いててね?これが放課後ティータイムの新曲」

紬「『ときめきしゅがー』よ」ポロ~ン

ジャーン♪

菫「……」

紬「……えへへ、どうだったかしら。一応歌ってもみたけど…やっぱりみ―」

菫「すごい…」

紬「えっ?」

菫「す、すごいです!紬さんっ!!」ギュ

紬(あ、手を握って…///)
菫「ま、まさか、まさか!この歌詞にこんなメロディーがつくなんて思いませんでした!!」

菫「あ!これが巷でいう『予想外』ってやつなんでしょうか!?」

紬「え…巷でよく言われてるのか私はわからないけど…」タハハ

菫「すっごくかわいい曲でした!!歌詞に全然違和感がなくて!!私なんだか感動しちゃいましたよ!!」

紬「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ」

菫「私、音楽のことよくわからないですけど、歌詞がイキイキしてるってこういうことなんだって生意気にも思いました!」

紬(な、なんだかすっごく菫ちゃんがテンション高い……)

菫「恋してる女の子って感じの歌詞がすごい良いですね~~!!」

紬(やっぱり澪ちゃんの歌詞がよかったのかしら…)ションボリ

紬(菫ちゃんは澪ちゃんみたいなしっかりした人がすきなのかな…?)ションボリ

菫「あの歌詞をここまで活かせるメロディーをつけることができるなんて」

菫「やっぱり紬さんはすごいですっ!!」

紬「えっ?」

菫「えっ?」

紬「菫ちゃん……いまなんて…」

菫「へっ?い、いや、あの、この歌詞に曲をつけられる紬さんはすごいですねって言いましたが……」キョトン
紬「………」

菫「あ!?てか、私、感極まってしまって紬さんの手を握ったままでした///!?」カァァ

紬(…私のこと、ちゃんと見ててくれてる人もいるんだ)

菫「と、とんだ無礼をっ…す、すみません…///」ウギャー

紬「あ、いえ、いいのよ!?菫ちゃ─」

菫「あわわわわ、私、し、失礼しましたぁ~」ダッ

バターン

紬「行っちゃった…」ポツーン

紬「ふふっ、でもよかった、菫ちゃんにこの曲気に入ってもらったみたいで…」

紬「この歌詞のために100曲作ったの…無駄じゃなかったわ」エヘヘ

紬(ていうか、菫ちゃんにもわかるくらい澪ちゃん、やっぱり恋してるわよね…この歌詞)

紬(明日からりっちゃんと澪ちゃんの監視を強化しましょう!!)

紬「ファイトよ、つむぎー!!」フンス



菫「なにやら紬さんの叫び声が?」


トントン

「はーい」

ガチャ

紬「あら」

菫「あ、あの。入ってもよろしいですか?」

紬「えぇ。もちろん菫ちゃんなら」ニッコリ

菫「は、はい、し、失礼しますっ///」カァァ



紬「菫ちゃんの方から私の部屋に来るなんて珍しいね」

菫「そうですね、勉強を教えていただくぐらいしか紬さんの部屋には来てなかったかもなので…」チラチラ

紬「部屋をなんだか気にしているみたいだけど…」

菫「あ、いえ…部屋にあったものが随分なくなっているなぁ…と…」

紬「あぁ。そうね。もう大抵のモノは荷造りしてしまったから…」

菫「荷造り……」

紬「……うん」

菫「……紬さん本当に寮に入ってしまうんですね」

紬「そうね。一度は1人暮らしも考えたけど、やっぱりみんなと一緒にいるのも楽しいかなって」

菫「い、いえ、そうでなくて!!」

紬「?」

菫「本当に…この家から居なくなってしまうんですね…」

紬「菫ちゃん……」


菫「なんだか…とってもさみしいです、私」

菫「紬さんと仲良くなれたのに…お別れだなんて」

紬「……」

菫「私のわがままだってわかってます…」

菫「でも、紬さんに追い付きたいと思って、勉強頑張って、桜高を受験して…合格して」

紬(桜高受けた理由どうしても教えてくれないと思ったら、そうだったの…)

菫「ようやく追い付いたと思ったら今度はもっと遠くへ行ってしまう」

菫「私はいつまでも紬さんの後ろ姿しか見ることが出来ない存在なのでしょうか」

紬「そんなこと…!」

菫「紬さんは……いじわるです」グスン

紬「…ごめんね?」

菫「いえ、紬さんが悪いわけじゃないので謝らないでください…私が本当にわがままなだけで…」グスグス

菫「でっ、でも……もっと側にいたかった…もっと紬さんのキーボード聴いていたかったです」ポロッ

すっ

菫「……あ」

紬「泣いたらかわいい顔が台無しよ?」ゴシゴシ

菫「うぅうう……」ポロポロ

紬「泣かないで?菫ちゃんが泣いたらなんだか私まで悲しくなっちゃう」


菫「紬さん…」グスッ

紬「私は確かにちょっと菫ちゃんの先にいるかもしれないわ」

紬「でも、それはほんのちょっと先に生まれた者として避けられないことなの」

菫「はいっ…それは、わかります」グスン

紬「そのことで菫ちゃんを悲しませたのなら、本当にごめんなさい」

紬「でもね?」

菫「?」

紬「人って、けして年齢とか、先に生まれたとかそういうものが一切関係ない時が来ると思うの」


紬「だから、後ろ姿しか見てることが出来ないだなんて、そんなこと言わないで?ね?」

菫「……」

紬「これから桜高で菫ちゃんはきっと色々な体験をするわ」

菫「そう……ですかね?」
紬「そうよ」

紬「たとえば…」フフッ

紬「友達のギターを買うためにバイトをしたり」

菫「ふぇ?」

紬「たまに友達同士が仲良くしているのを見てて嫉妬したりなんかしちゃったり」

菫「……嫉妬」

紬「みんなで合宿をして真っ黒に日焼けをしてしまったり」

菫「がっしゅく…」

紬「ライヴの終わりに安堵した瞬間にステージの上で転んでしまったり」クスッ

菫「えぇ!?」

紬「もしかしたら、高校で出会った大切な友達にお茶をふるまったりとかしちゃうかもしれない」

菫「……」

紬「確かに大変なこともあって、なかなか楽しいことばかりではないかもしれないけど」

紬「でもね?」


紬「その分、きっと菫ちゃんにとって大切なものが見つかると思うわ」

紬「私みたいに」エヘヘ

菫「大切なもの…紬さんみたいに」

紬「そう。菫ちゃんにはたくさん体験をしてもらいたい」

菫「……」

紬「見て、触れて、感じて、そして、それをあなたの大切な人と共有してもらいたいの」

紬「たしかに私はここを離れてしまうけど、大丈夫。
ちょっとだけ途切れてしまうだけ。でも必ず繋がっているから」

菫「……はい、わかりました」ヘヘッ

菫「私、高校生がんばります!紬さんのように楽しんで大切なものをたくさん作ります!!」

紬「ふふっ…寂しくなったら電話もメールもするからね?」

菫「なんだか、私の方からするのが多くなりそうですね…」

紬「それはそれで私が嬉しくなるからいいのよ」

菫「たはは…そうなんですか…」

菫「あの…」

紬「?」

菫「ありがとうございます…紬さん」ニッコリ

紬「……」

菫「紬さん?」

紬「あ、いえ…な、なんでもないの」アセアセ

菫「そう……ですか」

菫「あ、もうこんな時間!!はやく戻らないと!」

紬「あっ…」

菫「話聞いていただいてありがとうございました!!紬さんのおかげで気持ちがスッキリしました!では」タッタッタ

ガチャ

紬(さすがに本人に向かって、キスしたくなる衝動に駆られたなんて言えない!)

紬(一応菫ちゃんはまだ中学生だもんね!)

紬「でも……高校生になったら」

紬「ふふっ、楽しみなことだらけね!大学生って!!」

紬「3年間の観察を生かして」

紬「ファイトよ、つむぎ!」オー


菫「紬さんの叫び声が聞こえるような…」

菫「まぁ、いっか!」

菫「紬さんに追い付くためにがんばるぞー私!」オー



これで本当におわり。






最終更新:2011年05月30日 20:04