澪「『恋するタルト』」
恋する夏はタルトの季節
溢れる想いはもぎたて果実
イチゴにピーチにブルーベリー
メロンにキウイにパイナップル
煮詰めたジャムでコーティング
たっぷり詰まったこの想い
あなたのハートへ届くといいな
梓(うぐ……ただでさえ甘いもの食べてる時に、この甘々ポエム……)
梓(そして目の前にはいまだ大量のタイヤキ……)
梓(もう帰りたい……)
その後、どうにか完食した梓。
梓「ご、ごちそうさまでした……」(当分甘いものはいらないかな)
唯「ねえ、あずにゃ~ん」ギュッ
梓「なんですか?タイヤキはもう諦めてくださいよ」
唯「そうじゃなくて、私からもう一つお礼をさせてよ~。ほら、ここに連れてきたときは道に迷っちゃったし」
梓「はあ……いいですけど」
唯「よいしょっと」ジャカジャーン
梓(弾き語りでもするのかな……まさか)
(唯『♪もっしもしカメよ~カメさんよ~』)
梓(なんて、歌いだすんじゃ……)ハア
梓(早くこの夢覚めないかなぁ)
唯「あ、あずにゃんもギター出してね」
梓「え?は、はい……」ガサガサ
唯「えへへ~、実はまたあずにゃんにコードとか教えてほしくって」
梓「って、それのどこがお礼なんですかぁ!」
唯「だってぇ、私とギターの練習してるときのあずにゃん、すっごく活き活きしてるんだもん」
梓「えっ……」
唯「あずにゃんはホントすごいよね。ギターうまいし、説明は分かりやすいし」ニコ
梓「唯先輩……」
唯「そして本当に、音楽が大好きなんだよね。だから、私と一緒にギターを弾いてるときすごく一生懸命になってるよね。自慢の後輩だよ」
梓「そんな、わたし……」
唯「さっ、始めよう。あずにゃん!」ジャカジャーン
梓「はい!唯先輩!」ジャカジャーン
唯「じゃあ、まずこれとこれとこれを教えてほしいんだけど……」
梓「って、以前教えたとこじゃないですかぁ!」
紬「うふふふ、いいわねぇ」
律「ああ。二人ともあんなに楽しんでるし」
澪「ここに梓が来てくれて良かったな……」
ジャッジャッジャジャ ジャジャッジャーン
唯「うわぁ、できたできた!」
梓「やりましたね!唯先輩!」
唯「ありがとう、あずにゃんのおかげだよぉ!」ダキッ
梓「にゃっ! もう……」
唯「それじゃあ、今度は合わせてみよっか!」
梓「はい!」
律「待った。私たちも混ぜてくれよ」
梓「え?」
澪「やっぱり、私たちもいてこその軽音部だろ?」
紬「演奏するときは、5人一緒よ?」
唯「みんな……」
梓「先輩方……はい!やりましょう!」パアアッ
律澪紬「」ニコッ
梓「でも澪先輩、乙姫様のカッコで演奏するんですか?」
澪「え……? あっ! いやこれはその……///」カアアッ
梓唯律紬「あははははは!」
こうして、竜宮城中に放課後ティータイムの演奏が響き渡っていった。
演奏は、幾度となく繰り返された。
時間を忘れたように、何度も何度も――
ジャジャッ ジャジャッ ジャーン
律「いやー、またまたキマッたなー」
紬「ほんとほんと」
澪「唯もギターソロ、すごく良かったぞ」
唯「いや~、あずにゃんのおかげだよぉ」
梓「この調子でいけば学園祭も……はっ!」
梓(そういえば……演奏が気持ち良過ぎて、学校に行く途中だってこと忘れてた!)
梓(どうしよう……いったいどれくらい時間経ってるのかな)
唯「どったの、あずにゃん?」
梓「あ、あの、私のために色々とありがとうございます!でも、もうそろそろ帰らなくちゃいけません!」
律「なんだよ、もっとゆっくりしていけばいいのに」
紬「名残惜しいわねえ」
澪「そっか……長いこと引きとめてすまなかったな」
梓「いえ、そんな……」
唯「それじゃあ、お土産にこの玉手箱をあげるねっ!!」ササッ
梓「え、玉手箱!?」
唯「だけどね、この箱は絶対に開けたらダメだよ?ギー太みたいに眺めて可愛がるのなら大丈夫だよ」
梓「あ、はい……」(この展開は、やっぱり……)
澪「それじゃあカメ、梓をもと来た場所へ送っていってもらえるか?」
唯「らじゃー!」
梓「あ、あの、なるべく早く……」
唯「ほらあずにゃん、ここに乗りたまへ」セナカポンポン
梓「って、またそこですか!」
唯「しゅぱーつ! ♪むっかし~むっかし~あずにゃんは~」ダッダッダッダ
梓「ちょっ、またそんなに走ったらすぐバテますよ~!」
澪「元気でな~」
律紬「またのお越しを~!」
いつもの通学路に到着した梓と唯。
唯「さぁさ、到着だよ」
梓「今度はスムーズに着きましたね」
唯「でも、このままちゃんと竜宮城に帰れるかな~」
梓(この人の方が、無事に着けるか心配だ……)
唯「ね~、あずにゃん」ズイッ
梓「な、なんですか?顔近いですよ!」
唯「また……会えるかな?」
梓「えっ?」
唯「私がいじめられてたら、また助けてくれる?」
梓「何言ってるんですか……その前に、子供にいじめられないでください」
唯「でへへ、そだよね」ポリポリ
唯「それじゃあ、またおいでね~!」ダッダッダッダ
梓「ふう、いったいなんだったんだろう。この一連の流れ……」
梓「しかしこの箱……やっぱりどう考えてもアレだよね……開けたらお年寄りになっちゃうっていう……」
梓「どうしようかな……でもせっかくもらったものだし、捨てちゃうのも……」
梓「って、そんなことより急がなきゃ!もう完全に遅刻だよね……うぅ」
ブロロロロ!
梓「わわっ、大型トラック!!……え?」
ブロロロロオオオ……
梓(今確かに、『放課後ティータイム 武道館ライブBD発売』って……宣伝車?)
梓(いやそれよりも、写真になってたのは……)
梓(唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩の……4人だけ!?)
学校。音楽室へ通じる階段をひた走る梓。
梓「気のせいだよね……そもそもメジャーデビューの話だって一度も……」タッタッタッタ
ガチャ
梓「おはようございます!」
ワイワイ ガヤガヤ ジャカジャーン ドコドコドン
梓「え……?」(誰この人たち……しかも何で一クラス分くらい人がいるの?)
女生徒A「あら?」
女生徒B「あなた誰?」
梓「あの……今って音楽の授業中ですか?」
女生徒B「違うわよ。今は部活動の時間」
女生徒C「私たち、軽音部員だから」
女生徒A「ひょっとして、入部希望者?」
梓「!?」
女生徒B「あ、やっぱり部員の多さに驚いてる?」
女生徒C「無理もないわよねえ。だってこの軽音部は、あの『放課後ティータイム』を輩出した部だもんね」
梓「!!?」
女生徒A「あら、あなたもそれを知っててここに来たんじゃないの?」
梓「あの! 放課後ティータイムのメンバーがいたのは何年前……」
女生徒A「もうかれこれ、10年くらい前かしら」
梓「」
女生徒B「4人が卒業直前にデビューしたから、その年の4月に一気に新入部員が入って、それ以来大人気の部なのよね」
梓「あの……質問ですが、
中野梓っていう子は御存知ですか……?」
女生徒A「中野……?聞いたことないわねえ」
梓「!!!」
ダッ
女生徒A「あ、ちょっと!あなたどこ行くの!?」
階段を勢いよく駆け下りていく梓。
梓(嘘だ嘘だ嘘だ……まさかそんな!!)ダッダッダッダ
ドカッ
梓「きゃっ!」ドタン
さわ子「もう、階段はゆっくり下りなきゃダメでしょ?」
梓「あいたたた、ごめんなさい……って、ええ!?」
さわ子「ん、どうしたの?」
梓(さわ子先生、老けてる……!なんか小じわが多い!)
梓「あ、ああ……」
さわ子「あら?あなた……」スッ
梓(眼鏡取って目を細めた……老眼!?)
さわ子「……」ジワッ
梓(え、涙……?)
さわ子「……ごめんなさい、この歳になると涙もろくなっちゃって」フキフキ
梓「あ、あの、どうしたんですか?」
さわ子「昔、軽音部にいたある生徒のことを思い出しちゃってね……あなたに、なんとなくその子の面影があってね……」
梓「え……その生徒は一体どうしたんですか?」
さわ子「ある日突然、行方不明になってしまったの……その日の朝に家を出たらしいんだけど、学校には現れず、それっきりどこにも姿を現さなくて……」
梓「……」
さわ子「その子、軽音部にいたのよ。放課後ティータイムの4人はあなたも知ってるわよね? 彼女達の1つ後輩だったの。その子がいなくなってから、4人は練習に練習を重ねたわ……『私たちがプロになれば、きっとどこかにいるあの子が見てくれるはず』ってね……」
梓「……」
さわ子「こうして実力をつけた4人は在学中にデビューを果たしたわ。その後の活躍は知ってのとおり……って、あら? どこ行ったのかしら?」
夕暮れの街道。
梓(竜宮城にいる間に、こんなに時間が進んでいただなんて……)トボトボ
ブロロロロ……
梓(また宣伝車……先輩達、武道館ライブの夢叶えたんですね。おめでとうございます……)
ユーヤケコヤケデ ヒガクレテー
梓「う、うう……ひっく」ポロポロ
梓(もし、今私が先輩達の目の前に現れたらどうなるんだろう……)
梓(喜んでくれるかな……)
梓(でも、私の姿はあの頃のまま……きっと信じてくれないだろうな……)
梓(せめて、大人になっていれば……って、そうだ!!)
ササッ
梓「この玉手箱……これを開ければ大人になれるんじゃ!」
梓「そうよ、何百年も時間が過ぎていたならお婆さんになっちゃうけど、10年ぐらい過ぎてるのなら、それ相応の姿になれるはず!」
(唯「この箱は絶対に開けたらダメだよ?」)
(唯「また……会えるかな?」)
梓「唯先輩、ごめんなさい……私、どうしても先輩達に会いたいんです!!」
パカッ
モクモクモクモク……
昼下がりの音楽準備室。
梓「zzz……う~ん」
律「梓の奴、なかなか起きないな」
澪「もうそろそろ起こしてあげてもいいんじゃないか?じゃないと練習が……」
紬「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ見てましょ」ウフフ
唯「あれ~、みんなドアの前で何やってんの?」
律「しっ!一番乗りしてた梓が寝てるんだ」
紬「時々寝言を言ってるから、夢を見てるみたいなの」
律「『全国1億のあずにゃんファンを敵に回したァー!!』とか、『全然踊ってないじゃないですか!』とか、面白いんだぜ~?」
唯「えー、なにそれ!どれどれ、私にも見して!」
澪「こら唯! やれやれ……」
梓「う~ん……待ってください先輩方~……」
律「あ、またしゃべった!」
唯「私たちを追いかけてるのかな?」
梓「私ですよ~……梓ですよ~……」
唯「一体どんな夢見てるのかな~」ワクワク
梓「こんなお婆さんですけど……梓なんですよ~……」
おわり
最終更新:2011年06月05日 08:36