団地前
澪「……どうしてすぐにナナちゃんを助けに行かなかったんだよ。まった
く、救急車まで来ちゃってさ」
救急車
梓「し、仕方ないじゃないですか。律先輩もいないし、誰もいないから…
…私一人で……」
澪「冗談冗談、仕方ないって。それにナナちゃんも助かったんだから。終
わりよければ、ってな?」
梓「……ですね」
紬「ふふっ」
澪「あの子……さ」
澪「ごめんねアズサって、言ってたよ。うなされながら……」
梓「ナナちゃん……」
紬「……」
梓「……着きましたよ.澪先輩」
梓「ここが、残りの棟になります」
澪「ここに律と唯が……?」
梓「多分、そのはずです」
澪「……よしっ」
……ヒュゥゥゥゥゥゥ
梓「えっ……」
グシャッ
梓「どうして……」
リル「……」
梓「どうしてなんですか、澪先輩」
紬「梓ちゃん……」
澪「梓……」
リル「……」
澪「リルちゃん。まだ生きているよ、幸せそうな顔して……ほら」
梓「……」
タタタタッ!
律「リルちゃん! リルちゃん……どうして……!」
澪「……律」
律「どうしてなんだよ、どうして」
――――
リル「……」
男「……」
ヤヨイ「あの子の父親よ」
唯「ヤヨイちゃん。また……」
ヤヨイ「リルの話を聞いたでしょ。ここの団地の磁場がイタズラしたの」
ヤヨイ「リルの父親が、リルの飛び降り自殺の下敷きになって、その代償となったのよ」
唯「そんな……そんなのってありえないよ!」
唯「飛び降りたら、お父さんが下敷きになるなんて……偶然でもあるはずないよ……」
ヤヨイ「唯は甘いね。人の意思で、なんでも現実に転じる事ができる」
ヤヨイ「意外と強いのよ、人っていうのは」
唯「……ねえ、どうして私につきまとうの?」
ヤヨイ「傍観してるだけよ。いいでしょ、それくらい?」
唯「でもっ! 澪ちゃんをどこかに消しちゃったじゃん!」
ヤヨイ「見ているだけじゃあ……つまらないから」
唯「それだけで……」
ヤヨイ「他に理由なんてないわよ」
唯「そんな理由だけで澪ちゃんを……!?」
ヤヨイ「そんなに、怒らないでもいいんじゃない?」
唯「怒るよ……いくら私でも!」
ヤヨイ「唯なんて怖くないわよ。なんたって私の親友なんだから」
唯「……リルちゃんの代わりに、ヤヨイが死ねばよかったのに」
ヤヨイ「私が消えても……彼は」
唯「うるさいよ……!」
唯「消えて、今すぐ。私の前から!」
ヤヨイ「唯、本当に怒ってる」
唯「ねえ、消えてよ! お願いだから……じゃないと私、本当にヤヨイを
この屋上から……!」
唯「……誰もいない」
唯「……」
唯「リルちゃん」
唯「ヤヨイ……ちゃん」
唯「こんなの絶対おかしいよ。絶対、絶対に……」
唯「……」
唯「満月、綺麗……」
唯「街の光、リルちゃんも、毎日こんな綺麗な景色を見ていたのかな」
唯「……」
唯「リルちゃん……」
団地 部屋
子供「……」
シャキーン シャキシャキーン
子供「……」
シャキーン シャキーン
子供「……」
シャキーン
子供「……」
ウッ……
……。
子供は誰も、外の月と人影に気付かない。
誘
浮
※澪
深夜 団地屋上
澪「……あれっ?」
澪「どうして私こんなところに……しかも、パジャマじゃないか!」
ヒュー
澪「ううっ、寒い」
澪「は、早く帰ろう」
帰る? どこに帰るっていうの?
澪「どこって、家に決まってるじゃないか」
ふ~ん。
澪「ははっ、空から声が聞こえるなんて……すごい夢だな」
澪「起きて覚えてたら、ちょっと歌詞にしてみようかな……」
夢じゃないよ。
ガシャン ガシャン
澪「あれ、おかしいな。今日来た時はこのフェンス……ここが開いていたはずなのに」
澪「これじゃあ、屋上の外周から……中に入れない?」
ヒュゥゥ
澪「……夢だ」
夢じゃないよ
澪「寒い、寒いけど……これは夢なんだ」
澪「空から人の声がするから、これは夢……」ブルブル
リル「……澪ちゃん」スッ
澪「へっ? リルちゃん……なんでここに?」
リル「私、私……」
澪「ああ、そっか。夢だもんな、リルちゃんも一緒に遊びたいんだよな」
リル「私と……」
澪「ふふっ、いいとも。せっかく友達になったんだからさ……一緒に遊ぼう、な?」
リル「うん、うん……! 嬉しいな」ニコッ
澪「えへへ~」
リル「じゃあ澪ちゃん。一緒に以降!」ガシッ
澪「手、冷たいな……暖めてあげるよ、ほら」スリスリ
リル「ううん大丈夫。絶対暖かくなんてならないから、いいんだ」
澪「そ、そうなのか?」
リル「うん。それより澪ちゃん、こっちこっち」グイグイッ
澪「ま、待ってよリルちゃん。そんなに引っ張ったら……!」
リル「引っ張ったら……なに?」グイッ
ヒュッッ
澪「ひっ……あ、遊ぶまえに、お、落ちちゃうよ!?」
リル「……」
澪「ほ、ほら。もっと安全なこっちで遊ぼう、な? な?」
リル「違うよ、そこは遊ぶ場所じゃないよ。私はそこから落ちたんだから」グイッ
澪「リル……くっ……」ズッズズッ
リル「嬉しいなあ、澪ちゃんが来てくれるなんて。最初は寒かったけど、
暖かい澪ちゃんがいればもう安心」
澪「や、やめて、リルちゃん……リル!」グイッ
リル「ふふっ、選ばれたのが澪ちゃんがでよかった」グイッ
澪(あっ……足場が……)
スカッ
もう、ない
リル「あ……でもそっか」
ヒュゥゥゥゥゥゥ……
リル「澪ちゃんがこっち来ちゃったらさ。もう暖かくならないんだよね」
リル「……失敗しちゃったなあ」
グシャッ
リル「もう、聞こえないよね、澪ちゃん?」
澪「……」
リル「まあ、いいや。これで澪ちゃんとはずっと一緒。一緒、一緒」
リル「一緒だよ……」
……。
澪(ああ、これは夢なんだ)
澪(身体中がものすごく痛いけど、これは夢なんだ)
澪(いつかみたいに、事件が起こっても夢の話ですんだしゃないか)
澪(だから今回だって、きっと)
リル「澪ちゃん。よかった、やっと会えたね」
澪(夢……)
リル「これからは、ずっと一緒だよ。ここで、一緒にいようね」
澪(ああ、夢の中ってのは結構寒いんだな)
澪(律と唯に、あったかい物でもお供えしてもらおうかな)
澪(ああ……)
さよなら、みんな
アラマタ手帳
澪ちゃんが死んだ
放課後 部室
唯「……」
紬「……」
梓「律先輩、今日は来てませんでしたね」
唯「無理ないよ。だって澪ちゃん、澪ちゃんが……」
紬「なんだか……夢を見てるみたいね」
団地の屋上から、澪ちゃんが飛び降りて死んだ。
ああ、死んだんだ。
最初は、いつもの夢だと思っていた。
紬「なんなんだろうね、最近の……事故は」
最近……。
ここ数日、さわちゃんがあるクラブで死んでいるのが確認される。
そして昨日の澪ちゃんの自殺。
梓「……澪先輩、どうしてあんな場所にいたんでしょうね」
唯「……」
梓「おかしいじゃないですか、だって。深夜に家をわざわざ抜け出して、
パジャマで飛び降り自殺なんて……ううっ」
紬「……何か、悩んでいたのかな?」
梓「悩んでいた? ムギ先輩、本当にそう思うんですか?」
紬「それは……」
梓「あんな事件の後ですよ!? 澪先輩だって、その……呪いで殺されたに決まってますよ!」
唯「呪い……」
紬「でも、原因になっていたリルちゃんはいなくなって……」
梓「……確かに、あれ以来団地での飛び降り自殺は止まりましたけど」
梓「でも、どうして澪先輩が死んだのか……私は理解したくないんですよ……」
唯「あずにゃん……」
唯「割りきれるもんじゃ……ないよね」
梓「……」
紬「……今日はとりあえず解散しましょうか。ね?」
唯「んっ」
梓「……」
それから、澪ちゃんの葬儀も終わり何もない日々がニ週間程経ちました。
そんなある日、私の元にりっちゃんから電話が来たのです。
プルルルル
律『唯か?』
唯『うん、どうしたのりっちゃん?』
律『なあ唯、いきなりこんな事を頼むのもあれなんだけどさ……一緒に来
て欲しい場所があるんだ』
唯『ホントいきなりだね~。で、どこに?』
律『LOST HIGHWAY』
唯『ロストハイウェイ……?』
律『ああ、さわちゃんが焼身自殺をした……あの店だよ』
唯『!?』
律『な、頼むよ唯。迷惑なのはわかってる……でも……』
唯『……澪ちゃんのため、だね?』
律『澪が自殺なんてするわけない……あの元気だった澪が』
唯『でもあの後の団地には……』
律『ああ、団地には何もなかった。そこで私は、一番最初の事件に注目したんだ』
唯『さわちゃんの?』
律『ああ……澪の事件と関係あるかはわからないけど、何かがあると思うんだよ』
唯『……』
律『それくらい、私は必死なんだよ。どんな小さな事でもいい、何かを……』
唯『わかった、私もついていくよ』
律『ああ、ありがとう唯』
唯『あずにゃんたちには、この事言うの?』
律『……今はまだ、秘密だ。余計な心配もかけたくないしな』
唯『ん、わかったよ~』
律『じゃあ明日の夜10時。駅前に集合だからな』
唯『うん、遅れないでね』
律『ああ、唯もな。じゃあ……』
ピッ
最終更新:2011年06月05日 23:10