「何を言ってるんですか律先輩ってばホントにもう冗談が好きなんだから~、ねぇ澪先輩?」
「……そうなのか?梓」
うわ、澪先輩の目が輝いている。興味持ちすぎですよ。
「今日はガトーショコラ持ってきたの~」
その空気を打ち破る様にムギ先輩が紅茶とショコラを用意する。
あぁ、ムギ先輩が女神の様です。が、
「ムギ!梓と何がどうしたんだ?」
「ムギちゃん!私のあずにゃんに何したのさ!」
「私も聞かせてほしいな」
やっぱり質問の向かう先が変わるだけで、逃げられそうにない。
「何したって色々よ~。はい、どうぞ」
のほほんとした空気を出しながら、ムギ先輩は粛々と紅茶とケーキを差し出す。
「ちょっと詳しく聞かせてもらおうか」
言いながら、先輩方が一斉に紅茶を口に含み、
「それとね、唯ちゃん。梓ちゃんは私のモノよ」
「ぶふっ!」
一斉に吹き出した。
「ちょちょちょっ!ムギ!どうゆう事だ!?」
「そうだよムギちゃん!ちょっとそれは聞き捨てならないよ!」
「げほっ!ごほっ!ごほっ!」
澪先輩は驚き過ぎたのか、気管に入った様で言葉も出せなくなってる。
「大丈夫ですか?澪先輩」
「ごほっ!……あぁ、ありがとう梓」
「実は梓ちゃんと付き合う事になったの~。ね?梓ちゃん」
「ちょっとムギ先輩!それは秘密にしましょうって言ったじゃないですか!」
「え~、でも正直に素直になろうって言ったじゃない」
「正直過ぎますよ!」
「大丈夫よ。あの時の話はしないから~」
「あの時って何!?ねぇムギちゃんあの時って!?」
ムギ先輩に掴みかかる唯先輩。何でそんなに必死なんですか。
「実はね~」
「ってなんで即喋ろうとしてるんですか!」
「ちょっとムギ。それ本当の事なのか?」
澪先輩まで興味津々だ。
「本当よ~。ね?」
ムギ先輩が私に振る。先輩方の首がこっちに向く。
「はい、本当です、けど……」
三者三様の表情が何か怖い。唯先輩泣いちゃってるし。
「だから唯ちゃんも無闇に梓ちゃんに抱きついちゃ駄目よ?私が嫉妬しちゃう」
「え~、でもあずにゃんに抱きつくと気持ちいいんだよ?」
唯先輩、その反論はおかしいです。
「知ってるわよ~。でも駄~目」
「ぶーぶー!」
「じゃぁ代わりにコレ、見せてあげるから」
「これって何?ケータイ?」
ケータイ?ってまさかムギ先輩!
「それは見せないって約束!」
私の制止も遅く、既に画面が開かれていた。
「何このあずにゃん!スゴイかわいい~!ちょうだい!」
「駄目よ、私の宝物だもの。見せてあげるだけよ」
「何だ何だ?おぉ!これは……確かに可愛いな」
「そうでしょ~」
あ~、見られた……。この二人にだけは見られたくなかったのに。
「やっぱり、梓はネコミミ似合うな」
澪先輩までじっくり見ちゃってる。素直に感想を言わないで下さい。
「もうお嫁にいけない……」
「大丈夫よ梓ちゃん。私がお嫁に貰うんだから」
「むむむムギ先輩!?」
何たる爆弾発言。本当に、正直過ぎます。
「おぉ!プロポーズか!よっ、アツいねお二人さん!」
律先輩が囃し立てる。やっぱりこの人は茶化すんだなぁ。
「そうか、もうあずにゃんは私の子猫ちゃんじゃ無いんだね」
唯先輩は窓を見ながら、よくわからない事を呟いている。
「二人とも、お幸せに」
澪先輩は、祝福してくれている。素直に反応されるのもこそばゆい。
「皆ありがとう、私達幸せになるわね!」
ムギ先輩はそう言って、私を抱きしめる。
「じゃあ梓ちゃん。改めてこれからもよろしくね?」
今日みたいに振り回される毎日になりそうな予感もするけど、構わない。
「はい!」
私はこの人と、共に歩んでいく。
END
* * *
「にしても……」
ムギの衝撃の告白からそのままの勢いで二人をデートに出させた為、結局一回も練習をしないまま解散となった。
今私は、唯と二人で帰路についている。
澪はさわちゃんに呼ばれて職員室に行ってしまった。少しかかるから先に帰っておけとのことだった。
「まさかムギと梓がな~。意外だったわ」
「そうかな?」
前を歩く唯が、そう言って振りかえる。
「あずにゃんはムギちゃんの事、ずっと見てたよ?」
「そうなのか?」
「だって、ずっとあずにゃんを見てたんだもん」
唯が、遠くを見ながら呟く。
それを見た私は、さっきから気になっていた疑問を聞いてみる事にした。
「……もしかしてさ、唯は梓の事好きだったのか?」
「ん?ん~、どうなんだろ?」
前を見ながら大袈裟に腕を組み、体を傾げる唯。
「あずにゃんは可愛いし、大好きだけど、そうゆうのじゃ無かったんだ」
あのスキンシップは保護欲とか、愛玩的なものだったのか?
「でも……」
大きく揺れていた体が、ぴたりと止まった。
「ムギちゃんとあずにゃんが抱きあったの見てからさ、ずっとモヤモヤして苦しいんだ」
「ムギちゃんの事も好きだよ?二人が一緒になるんなら、私は嬉しいよ」
「唯……」
「でもさ、これが焼き餅だって言うのなら、私はあずにゃんの事好きだったのかな~って……」
肩が震えている。向こうを向いたまま振りかえらない。
「あ!じゃあ私こっちだから、バイバイ」
そのまま走り去ろうとする唯の手を引き、抱き寄せる。
「り、りっちゃん?」
「無理すんなって」
「無理なんて、そんな」
「私は、唯の気持ちが分かるとは言えないけどさ、今、唯は泣いて良いんだと思う」
「りっちゃん……」
「な?」
「ごめんねりっちゃん……胸、借りるね?」
堪え切れず、静かに泣き始める唯。
「良いって良いって」
泣き崩れる唯を抱きしめる。
「……ごめんね、りっちゃん」
暫くして、震える声で唯が喋りだす。
「だから気にするなって」
「りっちゃんだって、同じ気持ちなのにね」
「え?」
「りっちゃんだって、ムギちゃんの事……」
「……良いんだ」
「いいの?」
顔を上げて、真偽を問う様に私の顔を見つめてくる。
「私は、あいつが幸せならそれで良いんだ」
「本当に?」
「あぁ。皆の幸せが第一だからな、私は」
幸せに出来なくても、なってくれればそれで良い。
それは、本当にそう思ってる。
「りっちゃん……」
「勿論、唯と澪の幸せだって願ってるぞ?」
「りっちゃん、ありがとう。……ごめんね?」
「だから気にするなって。好きなだけ泣いてさ、それから笑って帰ろうぜ?」
「うん……うん……」
沈む夕暮れの中、唯を抱きしめる。
唯の泣き声と、虫の鳴き声だけが静かに響く道の上。
私が好きだった彼女と、今腕の中に居る彼女が、どうか幸せになりますように。
そう願って、暗くなる空をずっと見上げていた。
END
最終更新:2011年06月10日 21:11