と思った時にはすでに遅かった。
ニョロボンはストライクの本体を地面へと引き倒し、車輪のように転がり投げた。

シジマ「フハハ、本物だったようじゃな!!」

律「……っく、ストライク、体制を立て直せ」

投げられたストライクは地面を滑りながらも、立ち上がる。

シジマ「ふぅ……なかなかやりおるが、甘いな」

律「……さっきのはこころの目か」

シジマ「ほう、分かったか。ならばたった今の言葉を撤回しよう」

律「っく……」

その言葉にすらも悔しさを感じる。
相手は今、自分の上にいるつもりでいる。
たしかに今までの攻防では相手のほうが一枚上だった。
だが、まだ終わっちゃいない。

だから――

律「ストライク!!」

ストライクが今度はニョロボンへと真正面から切りかかりにいった。
速さだけに任せた押しだ。

シジマ「みきり!!」

だが、その一言だけでニョロボンは幾応にも重なる太刀を最小限のうごきだけで避けていく。

律「くそ、ストライク!!」

その呼びかけでストライクが律の目の前へと戻った。
ニョロボンの追撃はない。
そして律が一息、大きく息を吐いた。

シジマ「退くべきところはわかっているのか、申し分……」

シジマの感心した声を遮るように律が言葉を紡いだ。

律「攻撃を見切られる理由がようやくわかったよ……さっきので」

シジマ「……」

シジマの答えはない。
だが、それはまるでその先を促しているようで。

だから律は

律「さっき私が嫌な予感を感じて、ストライクにかげぶんしんを命じた。あれと一緒だったんだな」

「ようはあんたとあんたのニョロボンは私のストライクの攻撃の一々に嫌な予感みたいなものを感じ取ってるんだな?」

「アンタの場合、経験でそれを捉える範囲がハンパないんだ」

律が言い切ったときシジマが咆えるように笑った。

シジマ「大したもんだな!! そう攻撃とはつねに気配を持ちながら行われるもの。
     よほどの訓練をつまなければ気配を消した攻撃などできん! ゆえにワシらはそれを感じ取り応じる。
     それが武の力。ゆえにワシのタイプは格闘! 格闘のエキスパートじゃ!」

律「へぇ、そこまでいっていいのかよ」

シジマ「かまわん! だが、どうする少女よ。攻撃を当てなければ勝てはせんぞ」

律「分かってるさ。ようは分かってても避けられない攻撃をすればいい。そしてそれは速さだ」

シジマ「ほぅ……ならばワシは力を持ってそれを制そうか」

言ったシジマがこちらへと手の平を向け

シジマ「見ていろ、これがワシの力じゃ。ニョロボン、気合をためろ!!」

そして律は見た。
ニョロボンの構え。それはさきほどいやな予感がしたあの構え。
ニョロボンが拳を高く振り上げ

シジマ「――気合パンチ!!」

真下へと振り抜いた。
地面を穿った拳が浜辺の湿りを帯びた砂を巻き上げる。
そして穿たれた地面。そこに大きな穴があった。

律「!!」

それは幅としては大きいものではない。
驚くべきは深さにあった。
だいたい大人が二人ははいれてしまいそうなほどの穴だ。
そしてそれはニョロボンの攻撃の威力を表していた。

律「これが波を割った力……」

シジマ「うむ。 そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」

律「律」

シジマ「そうか、律よ。この力を前にしてもさきほどの言葉をいえるか?」

律「……あぁ……だからと言って私がやることは変わらない。その力を制してやるよ」

シジマ「ガハハハ! 面白い!」

律「ところでいいのかよ?」

律がニヤリと笑った

シジマ「なにがだ?」

律「もう30分は過ぎようとしてるぞ」

シジマ「……言いよるわ!!」

シジマもニヤリと笑みを浮かべ返した。


――そして再び場が動き出した



浜を駆ける音が聞こえる。
走り、跳び、踏み込み、そして攻撃する音だ。
そしてその音に交じり合うように声も聞こえる。

律「ストライク、スピードをあげろ!!」

2つの人影と2つのポケモンの影。
その人影の一つから声が上がった。
応じるのはその人影の前にいたポケモンの影。

――

ストライクとニョロボン。
2匹のポケモンがこの砂浜で攻防を繰り広げる。
片方が拳を穿てば、片方はその後ろへと回り込もうと宙へ跳び。
片方がその刃できりつけようと刃を立てれば、片方は体をそらすことでいなし

律「つるぎのまい!!」

シジマ「ほう……速さといいながら、力も上げるか。貪欲な」

だが

シジマ「悪くない」

ストライク「――!!」

シジマはストライクが応え、咆えるのを聞いた。
次の瞬間、ストライクが宙へと飛び上がった。
そして空でその羽で羽音を響かせ、地へと降り、また舞う。
剣の舞――それはまさしく闘いの舞い。己を鼓舞するための舞いだった。

シジマ「ニョロボン、バブルこうせんだ」

距離を取りつつも舞うストライクに対しての攻撃は泡による攻撃だった。
いくつもの泡がストライクへ向かい弾けていく。
大したダメージにはならない。
しかし、その泡の攻撃は舞の最中のストライクの気を散らしていく。

シジマ「ニョロボン、こちらもビルドアップだ!!」

ニョロボン「ニョロ!!」

律「こうそく移動!!」

ストライク「――!!」

ニョロボンの筋肉が膨れ上がり、ストライクが地を駆けスピードを上げていく。
そしてストライクが不意にニョロボンの後ろに現れた。
最初の攻防の時と同じだ。

律「れんぞくぎり!!」

シジマ「みきれ」

やはりその攻撃は最初と同じ結果だった。
ニョロボンが手のひらで刃を受け流す。

シジマ「かわらわり」

すかさずシジマがニョロボンに指示をだす。
ニョロボンが今度は手刀を作ると、刃を地面に振り下ろしたストライクへと向けた。

律「かげぶんしん!!」

シジマ「むだじゃ、こころのめ!!そして穿てばくれつバンチ」

ストライクが先ほどの6体の分身よりもさらに多い分身を作る。
数にして12.先ほどの倍に当たる数だ。
だが、ニョロボンはやはり一直線に本体を見抜き、そこへ向けてこぶしを放った。

律「っく!!」

ストライク「――!!」

その拳の突きに対してストライクが後ろへと退いた。
ニョロボンの手の届かぬ位置。
そこへとバックステップした。

シジマ「む、なかなか速いな。まだ上がるか?」

その質問に律は答えない。
だが、ストライクの行動がそれを示していた。
もう一度、浜を走る。
さきほどよりも速く、そしてするどさを増して――



最高速はまだ遠い
そうストライクは思う

まだ上がる。まだ出せる。主人は自分の速さを誇った。
ならばそれに応えなければいけない

だから


――行った



再び、ストライクの姿がニョロボンの後ろに現れた。

律「れんぞくぎり」

シジマ「なんどやればわかる!!!」

やはりその攻撃もあっさりと受け流される。
そしてさきほどの繰り返しだ。

相手のニョロボンの動きは速いわけではない。
だが、こちらの攻撃が通じない。
何故か? そう律は考える。
そしてそれは
……相手の予想内だからだ。

ストライクの速さはすでに充分速い。だが、足りない。

……もっと

律「ストライク!!」

浜を駆けたストライクが今度は一直線にニョロボンへと向かった。
真正面――そこから刃で斬りかかっていく。
近接戦闘。

ストライクのリーチとニョロボンの近接でのリーチは似たものだ。
わずかにストライクのほうが長いが、それでも状況はかわらない。

刃は拳で受け止められる。
拳は刃で受け止められる。
互いが互いに決定打のないままに近接での攻防をしていた。

……もっと

だが、わずかな間の0距離の戦闘。
はじめに間を取ったのはストライクだった。
攻撃した刃、そのかえす刃とともにストライクがバックステップで距離をとった。
つまりそれは――危機感を感じたのはストライクのほうということだった。

……もっと

距離をとった直後ストライクがニョロボンの周りを再び走り出す。
すでに視界には捉えられないレベルだ。

律「……そうだ、もっと速度を上げろ、ストライク!!」

ストライク「――!!」

音にならない鳴き声が上がる。
ただひたすらに速度を上げ、走り、相手を捉え、回り込み

そして

律「れんぞくぎり!!」

シジマ「すでに見切られるだけではすまんぞ!!」

さきほどの再生にはならなかった。
ストライクが回り込んだ段階で、ニョロボンがストライクの腕をとった。
そしてそのまま地面へとたたきつけてから、自分の体を車輪のように回しストライクを巻き込みながら。

シジマ「じごくぐるま!!」

律の前へと投げた。

律「ストライク!!」

シジマ「ふむ……これでおわりか」

律「いや……まださ」

シジマ「!?」

そう言ったシジマが見たのは再び立ち上がるストライクだった。


シジマ「ガハハハ、いいぞ! まだやれるのか!! いけ、ニョロボン」

今度は距離をつめたのはニョロボンだった。
地面を蹴り、立ち上がったばかりのストライクへと接近する。

シジマ「穿てよ――気合パンチ!!」

ニョロボンがストライクへと近づきながら、こぶしを構えた。

律「なっ、まずい。よけろストライク!!」

ストライク「――!!」

その声にストライクがいち早く反応し、ニョロボンの真上、上空へと跳び上がった。

律「(よしっ……逃れた)」

シジマ「さっきも言ったな。それが隙だと」

その言葉に律がシジマとニョロボンを見た。
シジマがニョロボンと呼応するように拳を作る。

律「(拳!? そんなまだ撃つきか!?)」

その数瞬の攻防、ニョロボンは真上へと跳んだストライクを見ていなかった。
見ていたのは――

律「(――地面!!)」

「まずい!!」


ニョロボンが地面を穿った。
そしてその結果巻き上げられるのが砂だ。
砂は真上へと礫のように舞い上がり、ストライクを射ち落とす

そして

シジマ「これでしまいじゃぁ!!」

ニョロボン「ニョロ!!」

なんとか着地したストライクの真後ろ、そこにすでに拳を作ったニョロボンがいた。

シジマ「気合パンチ!!」

律「あぶない、ストライク!!」



叩き落された。

主人の声が聞こえる。
それは危ないと告げる言葉だ。

後ろにいるのは、ニョロボンだろう。
嫌な予感は背中からする。

速度――結局速さは足りなかった。
最高速だったのだろうか?
どうだろうか?

疑問は自身へと還った。

そして思うのは、まだ最高速ではないということだ。
なぜならまだ足は動く。ならばまだ戦える。

だからこそ反応しろ。
背中だ。背中から嫌な予感がするのならば前へと進め。

一歩、その最速で

――行った。



次にシジマが見たのはニョロボンの拳が空を撃った姿だった。
さきほどまでそこにいたストライクはいない。
なら、どこに? と思いさらに前を見るとそこに

ストライクがいた。

シジマ「移動したのか、あの場所からそこまで!?」



その姿を律だけは見ていた。
ニョロボンの拳から逃れる、その瞬間を
そして今までとの違いを


律「高速移動だ!!」

ストライクがニョロボンの周りを同じように駆け抜ける。
残像を数えてみれば、2桁の数だ。

シジマ「さきほどよりも速いな!!これは……背中の羽せいか!!」

ストライクの背中、さきほどと違う動きがある。
今までストライクの移動は足だけで行われていた。
だが、今は

律「いけ、ストライク!!」

羽ばたきがストライクの一瞬のスピードを爆発的に上げていた。
ストライクのスピードがさらにます。

すでに目視できないレベルだ。

そして

律「――ストライク!!」

シジマ「来るぞ、ニョロボン!!」

律の声に応じるようにストライクが行った。
それも今度は後ろにまわるのではなく――真正面からだ。

ニョロ「――!?」

律「れんぞくぎり!!」

れんぞくぎりの5刀目。それは最速の一撃だ。
その最速の一撃が、不意に目の前に現れ焦るニョロボンを襲う。

一閃。

ニョロボンのうずまき状の模様の見える体へとぶち込んだ。
そして次の瞬間、ニョロボンが後ろへと倒れこんだ。

シジマ「……ガハハハ、ワシの負けか!!」



シジマ「ほれ、これがショックバッチじゃ」

律「ありが……」

シジマ「あぁ、いい。そういう挨拶はいい。それよりもうすぐあれから50分じゃぞ。急がなくていいのか」

律「え? あぁー!!」

シジマ「ほれ急げ急げ」

そういってシジマが慌てながら走っていく律を見送った

シジマ「さてと、ニョロボン。また修行の日々だぞ」

ニョロ「ニョロ!!」

シジマ「ガハハ、それでこそワシのポケモンじゃ」



なりゆきでジム戦を終えた律は、クスリを受け取りまた浜まで出ていた。

律「帰りもやっぱり波乗りだよなぁ……」

そうぼやいた時、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

???「律さーん!!」

聞きなれた声に振り向くとそこには

律「ゴールド!?」




「VS ニョロボン 〆」



最終更新:2011年06月13日 21:10