唯「こ、こら君~。ここは通っちゃダメなんだよ?」

幼律「え~なんで?」

唯「さっき看板があったでしょ? 通るべからずって」

幼律「べからずってだめってことなんだ」

唯「そうそう! わかったら戻りなさい」

幼律「でも工事もしてないのに通っちゃ行けないなんて……おかしいな~」

唯「そ、それは……」

梓「(唯先輩誤魔化して誤魔化して!」

唯「それは……く、熊が出るんだよ! だから危ないの! わかった!?」

幼律「クマ~? ほんとに~?」

唯「ほんとにほんと! ほら、飴ちゃんもあげるから、ね?
あっちの道行こう」

幼律「まあいいけどさ……こっちの林道から行ってもどうせ遅刻だろうし」

梓「(苦しい言い訳でしたがよくやってくれました唯先輩!)」パチッ

唯「(苦労したよあずにゃん……)」パチパチ


7:40────

律「だらっしゃああああああああああ」キコキコキコ
澪「降りるって言ってるのに」

律「二人でやらなきゃ意味ないんだよっ!」
澪「えっ……」

律「いいから掴まってろ! 後5分ないっ! 更に飛ばすぜ!!!」
澪「うん……」


梓『澪先輩まだですか!?』

澪「もうちょっとかかる!」

梓『もう最終防衛ラインも突破して後は分岐の場所まで一直線ですよ!』

律「間に合わせるって言ってるだろーっ!!!」
澪「だってさ。降りるって言ってるのに聞かないんだ律のやつ」

梓『……律先輩らしいですね。わかりました。やっぱり最後を飾るのは二人以外いませんよね……だってこれは……』

律「見えた!」
澪「ごめん梓! 全部終わったらまた!」

────

梓「二人の思い出を探す旅ですもんね」


7:44────

シャアアアアア────

律「みおおおおおっ!」
澪「わかってる!!!」

澪が筆箱を持ち、姿勢を低くする。
地面スレスレに筆箱を滑空させながら……。
────

梓「もうあの角を曲がったら筆箱が落ちてなきゃいけない場所……」
唯「大丈夫だよ。りっちゃんと澪ちゃんなら必ずやってくれるよ」
紬「そうね。何たって軽音部を作ったのは二人なんだもの」
梓「はい……!」

7:45────

シャアアアアア────

幼律の目の前を何かが猛スピードで過ぎていく。

幼律「~~~っわビックリした。なんだよ危ないな!」

梓「あれって……」

澪『梓、ミッションコンプリートだ』
律『何とか地球滅亡は避けられたか?』

梓「はいっ! やっぱり二人ならやってくれると思ってました!」



幼律「あれ? なんだこれ? 筆箱?」

幼律「どうしよう……まあどうせ遅刻だし交番に届けとくか」

────

交番

幼律「あの~すいませ~ん」

警察官「はいなんすか?」

幼律「これ落ちてたんで届けに来ました~」

警察官「あ~(調書とか教えながら書かすのだり~……)」

警察官「そこ置いといて。持ち主来たら渡すから(ま、こんな筆箱探しに今時来ねぇだろ)」

幼律「は~い」

────

幼律「めちゃくちゃ遅刻しちゃったな……もう一時間目始まっちゃう」

ガラララ──

幼澪「あ……」

幼律「お」

幼律「あれ~? 誰もいない」

幼澪「あ、あの……一時間目移動教室だから」

幼律「ほんと!? ラッキー。こそっと入り込んだら遅刻したってバレないかも」ニシシッ

幼律「で、なんの授業?」

幼澪「図工……」

幼律「あちゃ~……よりにもよって図工かぁ。確か彫刻刀持って来なきゃいけないんだよな~わすれた~」

幼律「わすれたなんて言ったら遅刻のことまでさかのぼって怒られそう~あ~さいあくだ~」

幼澪「あ、あの……良かったら……これ」

幼律「いいの!?」

幼澪「うん……」

幼律「じゃあ二人で使いやすいように一緒にすわろっ! 澪ちゃん!」

幼澪「……うんっ」

────

幼律「澪ちゃん一緒にかえろっ!」

幼澪「うんっ!」

幼律「今日ありがとね! 澪ちゃんがいなかったら先生に怒られてたとこだったよ~」

幼澪「そんなことないよ……」

幼律「ううん! ほんとありがと! お礼にこれあげる!」

幼澪「これ……ブローチ?」

幼律「お母さんが律もそろそろ女の子なんだからこういうのつけなさいってくれたけど、私には似合わないから澪ちゃんにあげる!」

幼澪「そんな……もらえないよこんな大切なもの」

幼律「もらってよ~! じゃないと今日のお礼できないじゃん!」

幼澪「ん~……じゃあ大切にしまっておくね!」

幼律「うんっ!」

────

紬「りっちゃんと澪ちゃんの大切なものってブローチだったのね」

梓「みたいですね」

律「あんなことあったっけ?」

澪「あるわけないだろ? 私達は違う世界の人間なんだから」

律「そっか」

澪「でもこれで間違ってないよ。ううん、私はこっちがいいな……またみんなでこうやって集まれるなら、こっちがいい」

律「はは、私も同じこと考えてたよ」

唯「……これで全部終わったの? あずにゃん」

梓「はい……。これで世界はまた筆箱がない世界に分岐したはずです。その証拠にあの後学校に行ったら私達は居なかったでしょう?」

紬「待って、じゃあ一番最初に私達がここに来たって言う事実、二回目の梓ちゃんがいた事実、今ここにいるという事実はどうなるの?」

梓「その矛盾はどうやっても消せません。だから……正直この先のことはわかりません」

唯「そんなお手上げのポーズしないでよあずにゃん! みんなきっと知りたいはずだよ!」

梓「わからないものはわからないんですからしょうがないです。
ただ多少なりともタイムパラドックスは起きるでしょうね……それがこの矛盾をどう受け止めて、どう処理するのかは任せましょう」

紬「結局今回のことって何だったのかしらね……」

梓「タイムトラベル Look for memories……律先輩と澪先輩の思い出を探す時間旅行って感じですかね」

律「勝手に覗かれたんじゃたまったもんじゃないけどな」

澪「全くだな」

梓「それじゃあそろそろ戻りましょうか。今度こそ私達の世界に」

紬「でも……」

唯「二人はどうなるの?」

澪「私達は元々違う世界から来たから……」

律「戻ることも留まることも出来ない、か」

梓「色々な説がありますけど……多分、大丈夫です」

律「どっから来るんだよその自信は」

梓「だって律先輩はあの世界でも澪先輩のベースを求めてました。全く聴いたことがないベースの音を」

律「それは……」

梓「元々一つだった世界が割れて、二つになって、また戻ったのが今回の事件なんです。だから……大丈夫ですよ、律先輩も澪先輩も」

律「なんだかな~」

澪「まあ未来の可愛い後輩の言うことを信じないわけにはいかないよな」

────

梓「じゃあ、行きますよ……」

紬「うん」

唯「おっけー!」

律「よしこいっ!」

澪「行こう!」


梓「……」

律「何やってんだ、早く押せよ」

梓「その前に一つだけ、いいですか?」

澪「ん?」

────

────

梓「じゃあ改めて行きますよ!」

紬「よしきた~」
唯「やっと帰れるんだね!」

澪「……」
律「大丈夫。どの世界に行っても……もう大丈夫だから。この思い出がある限り、な」

澪「うん……」


梓「……」

律「押せよ、梓」
澪「ああ、未来でまた会おう、絶対」

梓「律先輩……澪先輩……ごめんなさい」

律「気にすんな」
澪「うん」

そう言いながら、二人は優しく頭を撫でてくれた。
もしかしたら私が二人を殺してしまうことになるかもしれないのに……それでも二人は、笑って見送ってくれた。

だから────

カチッ────


白い世界に包まれて行く──

まるでまた世界が生まれ直すような……そんな不思議な景色──

私達だけが止まり、景色は凄い速度で形成されていく──


これが、タイムトラベルなのだろうか。

時間を越えると言うことは、今まで人が積み重ねて来たものを飛び越えたり、壊したりすることと同じだ。

私達は戻れないから、後悔したり、悔やんだりする。

先がわからないから、備えたり、予想したりする。

だから、一回しかない人生が、とても綺麗に見えるんじゃないだろうか。

そろそろ、ゴールが近そうだ。

この続きはいつか、また……私が覚えていたら話しましょう。

では、また……。

────

────

律「は~風邪治った途端進路希望出せ~なんてさわちゃんも酷いよな~」

唯「ね~。……りっちゃんは進路どこにするの?」

律「決めてたら呼び出されんわい」

唯「だよね~」

唯律「はあ~……」

律「ま、先のことなんて誰もわからないんだしさ。なるようになるって」

唯「……うん、そうだね!」

────


部室──

ガチャリ

澪「あ、唯。どうだった?」

唯「さわちゃんの過去がまた1つ明らかになった~」

澪「えっ? 怒られてたんじゃないのか?」

律「いや~なんだか人生色々だね~」

澪「またなんかしでかしたんじゃないだろうな?」

律「違う違う。いろんなことがあって人は強くなって行くってことだよ」

────

────

和「で、進路調査表はあれでよかったの?」

唯「駄目だった~」

紬「将来なりたいものとかないの?」

唯「なりたいものか~……澪ちゃん何がいいと思う?」

澪「自分で決めろ」

唯「うぅ~ん……」

和「小学校の頃は幼稚園の先生って言ってなかった?」

唯「そうだった!」

和「確か……将来の夢ってタイトルで作文を発表した時に……」

─────

────

幼唯「私の将来の夢は幼稚園の先生です!
幼稚園の先生になって……子供達とずっと遊んでいたいです!」

あはははははは

─────


澪「ははは、唯らしいな」

律「作文の発表って言えばさ~澪が優秀賞取った時があってさ~」

澪「う、うわああ~それは言うな~!」

紬「聞きた~い」

唯「聞きた~い」

澪「あ、梓! 練習しよう練習……ってうわっ」

梓「私も聞きたいです! 澪先輩!」

澪「梓まで……」

律「観念するしかないな~澪」

────

────

律「ってことがあってさ~」

唯「そんなことがあったんだ~」

律「まあその作文の発表会を機に仲良くなったんだけどさ。それまでにも色々あったんだよな~」

澪「はいはい。もういいから練習するぞ~」

律「ゴホンゴホン……風邪がぶり返してきたかな?」

澪「嘘つけ」

律「あ、そう言えば澪。昨日体温計探してたらさ……こんなんが出てきた」

澪「こ、これって!」

律「そ、あの時のブローチ」

澪「……ずっと無くしたと思ってた」

律「私の家に忘れてたみたいだな。じゃあ改めて、はいこれ」

澪「……ん、ありがとう……律」

その時、何故かみんなそのやりとりを黙っていていることしか出来ませんでした。
とても、とても大切な事な気がしたから……。

────

澪「さ、練習するぞ」

律「わかったわかった」

唯「せっかくだから和ちゃん聴いてってよ!」

和「唯……進路表は……」

唯「終わったらちゃんと書くよ! 今は凄いみんなで演奏したい気分だから!」

和「そ、わかったわ」

何でだろう、あのブローチの話を聞いた時、どうしてか携帯を見なくちゃいけない気がした。

梓「あれ……こんなのいつ撮ったんだろう?」

待ち受けには五人が写った写真。
みんな今と変わらない笑顔で写り込んでいる。

紬「梓ちゃん早く~」
梓「あ、はい!」

うん、いつ撮ったかなんて、どうでもいいよね。

こうして、今5人でバンドが出来ているんだから。

おしまい









最終更新:2011年06月15日 20:42