ぽちゃんと水がしたたる音がした

蝶がゆらりゆらりはためき暗い洞窟を照らしている

ムギが屋敷には地下洞があるとか言ってたっけ。ここがそうなのだろう

下へ下へと進むたびに頭が変なもので満たされていく気がする

考えがまとまらない。私はここに何をしにきたのか

──儀式を

そうだ、儀式をするんだ。でも誰と?

──私と

澪とだったかな。たしかそうだ

──そして

一つに


階段を下りて、いくつもの鳥居をくぐった先に私が探していた人がいた

後ろ姿だけど、暗くて分かりづらいけど間違えるものか。あれは私の親友

 「やっときてくれた」

ああ、ずいぶん探したよ

 「ねえ、律」

さあ一緒に帰ろうぜ。みんな澪のこと心配してる

 「私はね、律のことが好き。これからもずっとずっと一緒にいたい」

いられるさ。だから……

 「いられないよ。ずっと一緒になんていられない」

シャンシャン──

どこかで錫杖を鳴らす音が聞こえる。それは遠いようでとても近く

 「分かってた。ほんとは分かってたんだ」

また頭がぼーっとしたきた。ぐらりと足元が揺れるような錯覚

シャンシャン──

錫杖の音がより近くに聞こえた

いつからそこにいたのか、顔を隠した宮司たちが錫杖を力強く打ち鳴らす

シャンシャン──

意識が遠のく。頭がおかしくなる

 「ずっと一緒にはいられない。律も気付いてたんだろう」

気付いてたよ。でも、言葉にするのが怖かった

 「でもね、ずっと一緒にいられる方法を見つけたんだ」

本当?澪と一緒にいられるなら私はなんだってする

 「律ならそう言ってくれると思ったよ」

シャンシャン──

澪は私の手を引いて、自身は石棺の上に寝そべる

何をするのだろう?もしかしてここで暮らすのかな?夢の中ならいつまでも一緒にいられるかもしれない

夢の中で澪と同居か。いいな、素敵だな

シャンシャン──

音が大きくなる

そして澪は私の耳元でつぶやいた

 「殺して……」

シャンシャン──

小さい頃からずっと一緒だった。小学校も中学校も

シャンシャン──

同じ高校に入れたときは本当に嬉しかった。照れくさくて、うまく言えなかったけどな

シャンシャン──

笑ってる顔が好き。すねてる顔もかわいくて好き

シャンシャン──

だから苦しそうに顔を歪める澪がかわいそうで……なんだか悲しくて……

首を絞める手に一層力をこめた

澪の顔が安らかなものになる

ああ、よかったと手を離す。強く絞めたためか、首には赤い手のひらのあとがついていた

その形はまるで、羽を広げた……

宮司たちが澪を持ち上げる。何をするのだろう

何を?……私は澪に何をした?

私は今何を?あれ?あれ?あれ?

澪を助けるために今まで頑張ってた

必ず助け出して連れ戻すって梓にも約束したっけ

血の変わりに冷たいものが全身に駆け巡る。ドクンドクンと胸から全身に

宮司たちが澪を目の前に広がる大穴へと投げ入れた

おまえら何してんだよ?私の親友だぞ?

……声が出ない

私何してんだよ?私の親友だぞ?

……胸がぎゅうっと締め付けられる

おまえが……私が殺したのは……大切な、大好きな親友だったんだぞ!!

ふらりふらり、澪が投げ捨てられた穴に近づく

その穴は何処までも暗くて、底なんて見えやしない

……底できらりと何かが光った

ふわりふわりと登ってくる

それはゆらりゆらりはためく紅い蝶

耳元で懐かしい、一番聞きたかった声がした



 「ありがとう」



 「澪おおおおおおー!!!!!」





まるで海のようだった。ざぶんざぶんと引いては繰り返す波。地下にこんな場所があるなんて

ようやく見つけた大好きな人の影

長い螺旋階段を下りてここまできたのに、行く手をさえぎられてしまった

よどほ広いのか、向こう岸さえ見えない

彼岸……

そう、向こう岸は黄泉の国なんだろう。あっちに行けばきっと

 「うっ」

頭痛がする。あっちに行けばなんだというのか。私は憂を探していたんじゃなかったか

憂……憂……?

違和感


憂っていつから病気なんだっけ?そもそも憂の看病ってしたっけかな?

頭が軋む。これ以上考えることを拒むように

心臓が激しく脈打つ。汗がどっと噴出す

身体全体が抗う。嘘で塗り固めたメッキが剥がれ落ちてしまぬために

私が、それに到らぬために

海の上でゆらりと何かが動く。音も立てずゆっくりと、それは彼岸へと移動している

身体の震えが止まる。激しく打ち付けていた心の波は穏やかなものになっていた

間違いない、あれは……

 「憂!!」

叫ぶ

 「探したんだよ憂!一緒に帰ろうよ!」

波の音にかき消されてしまわないよう、もっと大きな声で

……だけど、私を見てはくれない


いつまでも一緒にいたい。ずっとずっと一緒にいたいよ

だから置いていかないで。一人にしないで。一人は寂しいよ

それなのに、どうしてこっちを見てくれないんだろう?なんで私に気付いてくれないんだろう?

分かってるくせに……

 「……っ!!」

何か叫ぼうとするがうまく声が出せない。涙が止め処なくあふれる。かたかたと身体が震えだす

二度会えないと思っていた私の大好きな人が目の前にいるんだ

もう会えない、その現実から逃げて自分の殻に閉じこもった

自分をだまして作り上げた儚い虚像。そうしないと私が壊れてしまうから

それだけ大好きだったんだ。私は、あの人が……



 「唯お姉ちゃああん!!」



全身の力が抜け、ぺたりと座りこんでしまった

お姉ちゃんは、あのときの事故で私をかばって死んだ

だから私はお姉ちゃんになった。自分が傷つかないために

お姉ちゃんが身をていしてかばってくれたのにそれを忘れようとした

 「ごめんなさい……ごめんなさい……」

自分が情けなくて、お姉ちゃんが私のために犠牲になったことがつらくて

私の感情が決壊して、水滴となって頬を伝う

 「憂……」

優しい声が私の頭をそっと撫でる

もう聞けないと思っていた、お姉ちゃんの声

 「ごめんね、憂」

どうしてお姉ちゃんが謝るの?謝らなきゃいけないのは私なのに

 「死んじゃってごめんね」

私こそごめんなさい!お姉ちゃんは私をがばって……!

 「えへへ、あのときは夢中だったから」

私そのことすら忘れてお姉ちゃんのフリをして自分をだましてた!

 「残されたほうがつらいものね……だからいいんだよ……」

おねぇちゃ……おねぇちゃん……

 「憂には見えなくなっちゃうけど、お話できなくなっちゃうけどこれからずっと一緒にいるから」

ほんと?

 「そばにいるよ。だから生きて憂。あなたの人生を、私の分まで」

でも寂しいよ、お姉ちゃん……

 「憂は一人じゃないよ。憂を支えてくれる人がいるじゃない」

梓ちゃん……

 「うん。それにね、私もそばにいるからね……」

待ってお姉ちゃん!やっぱり寂しいよ!お姉ちゃんともう話せないなんて嫌だよ!

おねえ…………!




紬「こんにちは」

梓「どもです」

紬「憂ちゃんはもういいの?」

梓「ええ、すっかり意識を取り戻したみたいです」

梓「唯先輩が死んだことも思い出しました」

紬「これで良かったのかしら……」

梓「夢の中で唯先輩に言われたんだそうです。私の分まで生きて欲しいと」

紬「そう」

梓「憂はもう大丈夫だと思います。もし何かあっても今度は私が唯先輩の分まで」

紬「うふふ、私もいるわよ?」

梓「はい。一緒に憂を支えてあげましょう」

紬「そうね」

梓「……正直憂がちょっと羨ましいです。私も、もう一度唯先輩に会いたかった」

紬「梓ちゃん……」

梓「急に変なこと言ってごめんなさい」

梓「ところで律先輩は具合はどうですか?」

紬「体調はいいみたいだけど、目覚めてから部屋に篭ったきりね」

梓「澪先輩も何処へ行ってしまったんでしょう」

紬「りっちゃんが何か知っていそうなのだけど、何も教えてくれないのよ」

梓「どうして分かるんですか?」

紬「澪ちゃんのことを聞くと、首を押さえてひどく怯えるの」

梓「首をですか?」

紬「そういえばりっちゃんの首に赤いあざがでてきていたわ」

紬「聞いても答えてくれないし。何か関係があるんじゃないかと思うのだけど」

梓「……澪先輩、早くみつかるいいですね」

紬「ええ」

梓「そろそろ帰りましょうか」

紬「そうね。もう暗くなってきたし」

梓「私は帰りに憂の家に寄ってみます」

紬「私はまたりっちゃんの家に行ってみるわ。それじゃ行きましょう」

梓「はいです」

紬「……」

梓「──っ──っ」


紬「梓ちゃん、今なんて?」

梓「ごめんなさい、今の鼻歌です」

紬「……子守唄のようだったけど」

梓「どこで聞いたのか、このメロディが頭から離れなくて」

梓「気がつくといつの間にか口ずさんでるんです」

紬「それって……」

梓「ねーやさーよー、はーたーてー……ねーやさーよー、はーたーてー……」

──ザアアア



これにておしまいです。







最終更新:2011年06月15日 22:50