52. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:31:59.02 ID:725PQOqKo
紬「お茶どうぞ」

梓「ありがとうございます」

律「3人だとこの部室も広く感じるな」

梓「はい……」

紬「寂しいわね」

律「……っ」

紬「りっちゃん具合が悪いの?」

律「いや、なんでもない。それよりムギに聞きたいことがあるんだけど」

紬「何かしら?」

律「【眠りの家】について、もっと詳しく教えてくれないか?」

梓「まさか律先輩は唯先輩の夢が【眠りの家】と関係があると思ってるんですか?」

律「ちょっと気になってさ」

梓「あれは単なる都市伝説でしょう?関係があるとは思えません」

紬「そうとも言い切れないわ」

梓「え?」
53. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:33:15.31 ID:725PQOqKo
紬「【眠りの家】の都市伝説ってね、最初は精神医学関係者の間で囁かれていた都市伝説なの」

律「精神医学?一般大衆じゃなくて?」

紬「ええ。話の内容はこないだ話したとおり。同じ夢を見始め、ある日突然失踪する」

梓「で、でも所詮都市伝説ですよね?実際におこったわけじゃ……」

紬「それが事例が何件もあるのよ。主に1980年代の話ね」

律「マジかよ」

紬「ある日を境にぱったりと失踪騒ぎは起こらなくなったけど、実際にあった話よ」

梓「……信じられません」

律「やっぱり関係があるんじゃないか?」

梓「あ、ありえませんよ。非現実的すぎます」

律「実は澪のやつもさ、見てるんだ」

梓「【眠りの家】の夢をですか」

紬「……りっちゃんもじゃない?」

律「はは、ムギは鋭いな」
54. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:34:15.14 ID:725PQOqKo
律「だから妙に気になっちゃったんだ、【眠いの家】のこと」

梓「そうだったんですか」

律「夢ん中で澪を見かけたんだけど、何かを必死に探してるみたいだった」

紬「……」

律「澪のおばさんに聞いた話だと、澪のやつ起きてる時間が短くなってるんだ」

梓「それって……」

律「このままいくと失踪しちまうかもな」

紬「……」

律「安心しろい。私が探し出して無理矢理たたき起こしてやるよ」
55. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:35:04.00 ID:725PQOqKo
梓「でもどうして律先輩まで夢を見るようになったんでしょうか」

律「なんでだろうな。さっぱり分からない」

梓「ムギ先輩、なぜだか分かりませんか?」

紬「……それは」

律「知ってるのか?」

紬「広がっていくらしいの」

梓「……どういう意味でしょう」

紬「眠りに落ちた人が恋人や友人の夢を見ると、その人を眠りに誘ってしまう」

紬「眠りの家の悪夢はね、伝染するのよ……」
64. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:41:33.96 ID:IuePtBKKo
ふと目が覚める。またこの夢

  「夢の中で目が覚めるってのもおかしなもんだよなぁ」

自嘲気味に笑うがここではむなしいだけだな

唯がいたら、そうだねと一緒に笑いあってくれるだろうか

澪が側にいたら……

頭を振る。私は澪を助けにきたんじゃないか。感傷に浸ってる場合じゃない

今助けに行くからな、澪
65. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:44:44.91 ID:IuePtBKKo
壁を背にちょっと一息

どれぐらい歩き周ったろうか。私の体内時計では2時間は歩いた気がする

実際はその半分にも満たないのかもしれないけど

ちくりと、左目が痛んだ

咄嗟に手で覆うがすぐに痛みは引いた

……あんなことがあったのに私もよく頑張るよ

ニヤリと笑ってみる。少しでも恐怖がやわらげればいいなと願いながら

澪を助けたらしっかりと報酬を貰わないとなー。何がいいだろうか

ケーキ、パフェ……とにかく何かしら奢らせてやる!




ゆらり……視界の隅で何かが動いた……
66. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:47:16.37 ID:IuePtBKKo
筋肉が硬直する。身体中に鳥肌がたつ。目の前が真っ暗になる

大声をあげて逃げ出すことができたらどんなに楽だろう

それは、いまだにゆらゆらとはためている。こちらに危害を加える気はないのか?

くだらない根拠もない腑抜けた考えだなと思う

ようやく頭が回り始めたところでそれを正面にとらえた

ゆらりゆらりとはためくそれは儚げで、どこか寂しそうだ

不思議と悪意は感じられない。まぁ私の直感なのだけど

まるで私が落ち着くのを待つように、ゆっくりとそれは舞っている

心細さと寂しさと怖さでつぶされそうな心は、いつの間にか平穏を取り戻していた

側にいてくれることがこんなにも嬉しいなんて

落ち着いたのを確認したのか、それはゆっくりと動き始めた。ついてこいってことか?
67. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:48:34.66 ID:IuePtBKKo
………

紅贄祭……虚……

蝶に導かれて訪れた部屋には、ムギが言っていた儀式について書かれた本が

たくさんあった。儀式は虚という黄泉に通じる穴の前で行わなければいけないこと

二人が一つになるには……×が×を×して……

虚に投げ捨てる……

そして二人は一つになれる

私が律を……

誰かが優しく私の頭を撫でる。そんな気がした

顔をあげてあたりを見回す。誰もいない……

……視線を本に戻す

  「儀式を……」
68. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:49:17.50 ID:IuePtBKKo
  「澪っ!!澪ったら!!」

紅い蝶の後追って、澪を見つけることができたけど

澪は座敷牢の中に閉じ込められていた

机の上に置かれた本をぼんやりと眺めている。声を張り上げても澪の耳には届いていないのか

見向きもしてくれない。おまけに木の格子が澪との接触を阻む

手を伸ばしても、声を出しても届かないなんて……

  「儀式……一つに……」

本を眺めながら何かつぶやいているが、よく聞き取れない

どうして私を見てくれないんだよ、澪

澪がとても遠くに思えた
69. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:49:49.51 ID:IuePtBKKo
パンパンと両手で顔を叩く。らしくない、らしくないよな

梓に約束したじゃないか。澪を助けるって

弱音を吐く暇があったら、ここから澪を出す方法を考えないと

座敷牢の扉には南京錠がかかっている。これがなければ今すぐにでも

扉を開けて、澪のやつを抱きしめてやるのに

とにかく、今はこいつをなんとかしないとな

よく見ると南京錠には蝶の紋様が彫られていた

これと対になる鍵がどこかにあるのだろう

澪を見る

相変らず本に夢中みたいだ。私がこんな近くにいるってのに

今度は振り返らない。私は走り出した
70. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:51:37.15 ID:IuePtBKKo
鍵は思いのほかあっさりと見つかった

南京錠と同じ蝶の紋様が彫られた鍵だ。きっとこれで開くだろう

だけど、こういうキーアイテムはもっと何かしらのイベントを踏んでから見つかるんじゃないのか

と心の中でツッコミを入れる。何かしらのイベント……

例えば幽霊に追われてようやく見つけるとかさ

ゾクリと悪寒が走る。冗談じゃない。そんなものはゲームの中だけで十分だ

鍵探しに夢中で忘れかけていた恐怖がゆっくりと首をもたげる

左目の奥がジンジン熱い

落ち着け!深呼吸して呼吸を整えろ!
71. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:52:43.75 ID:IuePtBKKo
ギシリ──

廊下で床が軋む

ギシリ──

気のせいじゃない。誰かがいるんだ

ギシリ──

近づいてきてる。澪か?

ギシリ──

そんなわけあるか!澪は閉じ込められてるんだぞ!

じゃあ誰が?生者の気配が全くしないこんな屋敷に

ギシリ──

ああ、分かってるんだ。認めたくないから、考えないようにしてその答えから逃げてる

ギシリ──

つまりそれは、……人間じゃない
72. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:54:38.10 ID:IuePtBKKo
足音は私のいる部屋の扉の前でぴたりと止まった

得体の知れないそれが今にも扉を開けて入ってきそうで私の足はガクガク震える

とにかく、とにかく何かしなきゃ。私に対抗する術はない

となると選択肢は逃げる、隠れるの二つにしぼられる

出口はあの扉しかないから逃げるのは無理。となるとあとは隠れやり過ごすしかない

震える足に力を入れて一歩踏み出す。なんとか足は動く

肝心の隠れる場所は……

そうだ、鍵を入っていた大きな箱があるじゃないか!あそこなら人一人入れるスペースがあった

急いで、しかし音をださないよう慎重に箱の蓋を開ける

横になればなんとか大丈夫そうだ
73. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:55:55.01 ID:IuePtBKKo
扉の開く音がしたのは私が蓋を閉めたのとほぼ同時だった

ギシリ──

何かを探すように部屋をぐるぐると回っているようだった

床の軋む音がするたびに、ドクンと私の胸も大きく脈打つ

呼吸が乱れる。激しい動悸が、呼吸が漏れまいと胸に口に手を当てる

ギシリ──

どうか気付かれませんように、どうか、どうか!

バタン──

扉の閉まる音がやけに遠くに聞こえた。それからは一切の物音がしない

……行っちゃたみたいだな

額には嫌な汗がどっと噴出していた。早いとここの薄暗い箱から出たい

蓋を持ち上げる

それと目が合った
74. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 16:56:37.11 ID:IuePtBKKo
目が合ったような気がした。実際に目は長い髪の毛隠れていたし

何よりもその黒く長い黒髪が印象的だった

口は真一文字に結ばれている。それは、その女性は身動きせずにじっと私を見ている

さっきまであんなに熱かったのが嘘のように、背中からお腹から

黒くて何か冷たいものがじわりじわりと押し寄せてくる

それが全身に広がったあたりで、彼女は口を開いた

「やっと……見つけた……」
78. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 18:35:45.98 ID:IuePtBKKo
>>76
最上級の褒め言葉です

>>77
ありがとうございます
長編は性格的にきついのです




配役的には

唯→怜
律→螢
澪→澪

ですね
79. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/11(土) 21:19:43.38 ID:60zRLXVDO
深紅役は誰になるんだ?
一回被害は治まったなら零華さん撃破後?
律を襲ったのは水面ちゃんかな?


>>79
深紅役はいないですね
この話は零華さん撃破後です
律を襲ったのは……
82. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:00:58.00 ID:yttRLiugo
ザアアア──

梓「雨止みませんね」

紬「ええ」

梓「律先輩は今日も?」

紬「お休み」

梓「そうですか……」

紬「昨日お見舞いに行ってお母様に窺ったのだけど、最近はずっと寝たきりだそうよ」

梓「きっと夢の中で澪先輩を探してるんですよ」

紬「……」

梓「それで律先輩まで迷子になっちゃったんです。律先輩らしいです」

紬「そうよね。りっちゃんは今でも夢の中で澪ちゃんを探しているのよね」

梓「はいです。だから律先輩を信じて待ちましょう」
83. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:01:36.18 ID:yttRLiugo
紬「憂ちゃん……唯ちゃんはどう?」

梓「憂も寝たきりです」

紬「きっと目覚めるわよね」

梓「大丈夫ですよ。ムギ先輩も言ってたじゃないですか」

紬「私が?」

梓「眠りの家の被害はある年を境になくなったって。だからきっと……」

紬「そうね、そうだったわ」

梓「だから待ちましょう」

紬「待つことしかできないのってつらいわね」

梓「……」

ザアアア──
84. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:03:12.26 ID:yttRLiugo
身体がやけに冷える。毛布蹴飛ばしちゃったのかな

モゾモゾと毛布を探すが見つからない。おかしいな、ベッドから落ちてしまったのだろうか

ゆっくりと瞼を開ける。……ああ、そういやあの後気絶しちゃったのか

意識を覚醒。辺りを見回す。うん、あの幽霊はいないみたいだ

ムクリと立ち上がってもう一度状況確認。変な音も聞こえないしほんとに大丈夫みたい

箱の中で気絶したはずなのに、私はいつの間にか座敷牢の前にいた

幽霊がここまで運んだのか?まさかな

座敷牢に目を向ける。机の前に座っていた澪の姿が見えない

奥に引っ込んじゃったのかな。澪のことだから怖くて隠れているのかも

その光景がありありと想像できて思わず笑ってしまった

  「澪ー。律王子様が助けにきましたよー」

馬鹿だなと思いながらも努めて明るく言ってのけた

こんなこと言うと澪はいつも私を叩くんだっけ。何気に痛いんだよな、あのゲンコツ
85. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:04:38.68 ID:yttRLiugo
澪はいなかった。座敷牢には隠れる場所もない

いつの間に出て行ったのだろう。第一鍵はしっかり閉まってたんだ

出られるはずがないのに。澪に会えると浮かれた自分が途端にみじめに思えた

……澪は私と会いたくないのかもしれない。心の中の弱気な私がつぶやく

そんなわけないと否定しても、弱気な私は消えてくれなくて何度も同じ言葉を繰り返す

目頭が熱くなる。なに泣いてんだ、私。だけどそれをせき止めることはできなかった

そしてまた、私は蝶を見る

ゆらり揺らめく紅い蝶
86. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:05:29.47 ID:yttRLiugo
ぽちゃんと水がしたたる音がした

蝶がゆらりゆらりはためき暗い洞窟を照らしている

ムギが屋敷には地下洞があるとか言ってたっけ。ここがそうなのだろう

下へ下へと進むたびに頭が変なもので満たされていく気がする

考えがまとまらない。私はここに何をしにきたのか

──儀式を

そうだ、儀式をするんだ。でも誰と?

──私と

澪とだったかな。たしかそうだ

──そして

一つに
87. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:06:45.60 ID:yttRLiugo
階段を下りて、いくつもの鳥居をくぐった先に私が探していた人がいた

後ろ姿だけど、暗くて分かりづらいけど間違えるものか。あれは私の親友

  「やっときてくれた」

ああ、ずいぶん探したよ

  「ねえ、律」

さあ一緒に帰ろうぜ。みんな澪のこと心配してる

  「私はね、律のことが好き。これからもずっとずっと一緒にいたい」

いられるさ。だから……

  「いられないよ。ずっと一緒になんていられない」

シャンシャン──

どこかで錫杖を鳴らす音が聞こえる。それは遠いようでとても近く

  「分かってた。ほんとは分かってたんだ」

また頭がぼーっとしたきた。ぐらりと足元が揺れるような錯覚

シャンシャン──

錫杖の音がより近くに聞こえた
88. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:08:43.80 ID:yttRLiugo
いつからそこにいたのか、顔を隠した宮司たちが錫杖を力強く打ち鳴らす

シャンシャン──

意識が遠のく。頭がおかしくなる

  「ずっと一緒にはいられない。律も気付いてたんだろう」

気付いてたよ。でも、言葉にするのが怖かった

  「でもね、ずっと一緒にいられる方法を見つけたんだ」

本当?澪と一緒にいられるなら私はなんだってする

  「律ならそう言ってくれると思ったよ」

シャンシャン──

澪は私の手を引いて、自身は石棺の上に寝そべる

何をするのだろう?もしかしてここで暮らすのかな?夢の中ならいつまでも一緒にいられるかもしれない

夢の中で澪と同居か。いいな、素敵だな

シャンシャン──

音が大きくなる

そして澪は私の耳元でつぶやいた

  「殺して……」
89. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:09:35.53 ID:yttRLiugo
シャンシャン──

小さい頃からずっと一緒だった。小学校も中学校も

シャンシャン──

同じ高校に入れたときは本当に嬉しかった。照れくさくて、うまく言えなかったけどな

シャンシャン──

笑ってる顔が好き。すねてる顔もかわいくて好き

シャンシャン──

だから苦しそうに顔を歪める澪がかわいそうで……なんだか悲しくて……

首を絞める手に一層力をこめた
90. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:10:57.03 ID:yttRLiugo
澪の顔が安らかなものになる

ああ、よかったと手を離す。強く絞めたためか、首には赤い手のひらのあとがついていた

その形はまるで、羽を広げた……

宮司たちが澪を持ち上げる。何をするのだろう

何を?……私は澪に何をした?

私は今何を?あれ?あれ?あれ?

澪を助けるために今まで頑張ってた

必ず助け出して連れ戻すって梓にも約束したっけ

血の変わりに冷たいものが全身に駆け巡る。ドクンドクンと胸から全身に

宮司たちが澪を目の前に広がる大穴へと投げ入れた

おまえら何してんだよ?私の親友だぞ?

……声が出ない

私何してんだよ?私の親友だぞ?

……胸がぎゅうっと締め付けられる

おまえが……私が殺したのは……大切な、大好きな親友だったんだぞ!!
91. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/12(日) 15:11:44.10 ID:yttRLiugo
ふらりふらり、澪が投げ捨てられた穴に近づく

その穴は何処までも暗くて、底なんて見えやしない

……底できらりと何かが光った

ふわりふわりと登ってくる

それはゆらりゆらりはためく紅い蝶

耳元で懐かしい、一番聞きたかった声がした



  「ありがとう」



  「澪おおおおおおー!!!!!」



96. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:34:33.21 ID:fwxVCCwio
まるで海のようだった。ざぶんざぶんと引いては繰り返す波。地下にこんな場所があるなんて

ようやく見つけた大好きな人の影

長い螺旋階段を下りてここまできたのに、行く手をさえぎられてしまった

よどほ広いのか、向こう岸さえ見えない

彼岸……

そう、向こう岸は黄泉の国なんだろう。あっちに行けばきっと

  「うっ」

頭痛がする。あっちに行けばなんだというのか。私は憂を探していたんじゃなかったか

憂……憂……?

違和感
97. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:36:34.25 ID:fwxVCCwio
憂っていつから病気なんだっけ?そもそも憂の看病ってしたっけかな?

頭が軋む。これ以上考えることを拒むように

心臓が激しく脈打つ。汗がどっと噴出す

身体全体が抗う。嘘で塗り固めたメッキが剥がれ落ちてしまぬために

私が、それに到らぬために

海の上でゆらりと何かが動く。音も立てずゆっくりと、それは彼岸へと移動している

身体の震えが止まる。激しく打ち付けていた心の波は穏やかなものになっていた

間違いない、あれは……

  「憂!!」

叫ぶ

  「探したんだよ憂!一緒に帰ろうよ!」

波の音にかき消されてしまわないよう、もっと大きな声で

……だけど、私を見てはくれない
98. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:37:44.84 ID:fwxVCCwio
いつまでも一緒にいたい。ずっとずっと一緒にいたいよ

だから置いていかないで。一人にしないで。一人は寂しいよ

それなのに、どうしてこっちを見てくれないんだろう?なんで私に気付いてくれないんだろう?

分かってるくせに……

  「……っ!!」

何か叫ぼうとするがうまく声が出せない。涙が止め処なくあふれる。かたかたと身体が震えだす

二度会えないと思っていた私の大好きな人が目の前にいるんだ

もう会えない、その現実から逃げて自分の殻に閉じこもった

自分をだまして作り上げた儚い虚像。そうしないと私が壊れてしまうから

それだけ大好きだったんだ。私は、あの人が……



  「唯お姉ちゃああん!!」



99. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:38:53.13 ID:fwxVCCwio
全身の力が抜け、ぺたりと座りこんでしまった

お姉ちゃんは、あのときの事故で私をかばって死んだ

だから私はお姉ちゃんになった。自分が傷つかないために

お姉ちゃんが身をていしてかばってくれたのにそれを忘れようとした

  「ごめんなさい……ごめんなさい……」

自分が情けなくて、お姉ちゃんが私のために犠牲になったことがつらくて

私の感情が決壊して、水滴となって頬を伝う

  「憂……」

優しい声が私の頭をそっと撫でる

もう聞けないと思っていた、お姉ちゃんの声
100. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:40:43.35 ID:fwxVCCwio
  「ごめんね、憂」

どうしてお姉ちゃんが謝るの?謝らなきゃいけないのは私なのに

  「死んじゃってごめんね」

私こそごめんなさい!お姉ちゃんは私をがばって……!

  「えへへ、あのときは夢中だったから」

私そのことすら忘れてお姉ちゃんのフリをして自分をだましてた!

  「残されたほうがつらいものね……だからいいんだよ……」

おねぇちゃ……おねぇちゃん……

  「憂には見えなくなっちゃうけど、お話できなくなっちゃうけどこれからずっと一緒にいるから」

ほんと?

  「そばにいるよ。だから生きて憂。あなたの人生を、私の分まで」

でも寂しいよ、お姉ちゃん……

  「憂は一人じゃないよ。憂を支えてくれる人がいるじゃない」

梓ちゃん……

  「うん。それにね、私もそばにいるからね……」

待ってお姉ちゃん!やっぱり寂しいよ!お姉ちゃんともう話せないなんて嫌だよ!

おねえ…………!
101. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:41:46.75 ID:fwxVCCwio
紬「こんにちは」

梓「どもです」

紬「憂ちゃんはもういいの?」

梓「ええ、すっかり意識を取り戻したみたいです」

梓「唯先輩が死んだことも思い出しました」

紬「これで良かったのかしら……」

梓「夢の中で唯先輩に言われたんだそうです。私の分まで生きて欲しいと」

紬「そう」

梓「憂はもう大丈夫だと思います。もし何かあっても今度は私が唯先輩の分まで」

紬「うふふ、私もいるわよ?」

梓「はい。一緒に憂を支えてあげましょう」

紬「そうね」

梓「……正直憂がちょっと羨ましいです。私も、もう一度唯先輩に会いたかった」

紬「梓ちゃん……」

梓「急に変なこと言ってごめんなさい」
102. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:43:08.10 ID:fwxVCCwio
梓「ところで律先輩は具合はどうですか?」

紬「体調はいいみたいだけど、目覚めてから部屋に篭ったきりね」

梓「澪先輩も何処へ行ってしまったんでしょう」

紬「りっちゃんが何か知っていそうなのだけど、何も教えてくれないのよ」

梓「どうして分かるんですか?」

紬「澪ちゃんのことを聞くと、首を押さえてひどく怯えるの」

梓「首をですか?」

紬「そういえばりっちゃんの首に赤いあざがでてきていたわ」

紬「聞いても答えてくれないし。何か関係があるんじゃないかと思うのだけど」

梓「……澪先輩、早くみつかるいいですね」

紬「ええ」
103. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:43:34.23 ID:fwxVCCwio
梓「そろそろ帰りましょうか」

紬「そうね。もう暗くなってきたし」

梓「私は帰りに憂の家に寄ってみます」

紬「私はまたりっちゃんの家に行ってみるわ。それじゃ行きましょう」

梓「はいです」

紬「……」

梓「──っ──っ」
104. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:44:03.88 ID:fwxVCCwio
紬「梓ちゃん、今なんて?」

梓「ごめんなさい、今の鼻歌です」

紬「……子守唄のようだったけど」

梓「どこで聞いたのか、このメロディが頭から離れなくて」

梓「気がつくといつの間にか口ずさんでるんです」

紬「それって……」

梓「ねーやさーよー、はーたーてー……ねーやさーよー、はーたーてー……」

──ザアアア
105. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:53:55.45 ID:fwxVCCwio
これにておしまいです。お付き合いありがとうございました
少しでも怖いと思ってくれると嬉しいです

自分で言うのもなんだけど色々とひどいなあ
比喩下手だし、語彙が貧しいから同じような言い回しばかりだし
時系列もとびとびで分かりにくい……
大まかな流れは

眠りの家の話をする→合宿で眠りの家へ→帰りに落盤事故(唯死亡)→

唯が死んだ事実を受け入れず、憂ちゃん唯のフリ→憂、澪が夢を見始める→

律も夢を見始める→そして……

だいたいこんな流れです
原作の零と比較するとおかしな所があったりしますが、気付いても黙っててね!

反省点ばかりですがいい経験になりました
これを糧に精進します
106. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/13(月) 20:56:22.88 ID:fwxVCCwio
ちなみに澪と梓が歌ってた子守唄はこんなメロディになります

http://www.youtube.com/watch?v=GO7eJa379Ic&feature=related

これが頭から離れなくなったり、夢の中で聞こえてきたら気をつけてね!!

おしまい!!



最終更新:2011年06月15日 23:10