……
和「……」ペタペタ
唯「んしょんしょ」ペタペタ
和「唯、先に帰ってていいよ?」
唯「やだ、和ちゃんと一緒に帰るー」
和「もう、気にしなくていいのに」
私はよくクラス委員長を任されていたため、放課後に残って作業することがたまにあった。
同じ委員のはずの子はいっつもサボっていたため、基本的に私一人での作業……のはずだったけど。
唯はいつも私を手伝って一緒に残ってくれていた。
唯「ねえ和ちゃん、ここはどうするの~?」
和「ここは……こう。糊で貼り付けちゃっていいから」
唯「りょーかい!」
和「……」ペタペタ
和「……いつもありがとう、唯」
唯「……えへへ、こちらこそありがとう、和ちゃん」
お礼を言ったのに、お礼で返すなんて変な子だ。
手伝わなくていいって言っても聞かないし、やっぱり唯はロクでもない。
……
唯「今日でこの学校ともお別れなんだね……」グスッ
和「そうだね……」
唯「そういえば私たちってずっと同じクラスだったよね?」
和「うん。不思議な縁だね」
唯「私、和ちゃんと一緒にいれてすっごく楽しかったよ!」
和「私もだよ。これからもよろしくね、唯」
唯「うんっ!」
小学校の卒業式。
唯も含めてみんな泣いていたけど、私にはどうして泣くのかよく分からなかった。
みんな同じ中学に行くことになっていたし。
……でも、唯と小学校の色々な思い出を話しているうちに、私も涙を流していた。
唯と一緒にたくさんの時間を過ごした小学校。
そこにはもう行けないんだ、と思ったら何だかジーンとしてきて……。
和「……」グスッ
パシャッ
和「きゃあっ!」
唯「ぐす……あはは、和ちゃんの珍しい写真撮れた~♪」
和「こ、こら唯っ!」
人の泣き顔を写真に収めるなんて、唯は悪趣味でロクでもないヤツだ。
……
和「ん~……」
唯「和ちゃん、どうしたの?」
和「ああ、唯。ちょっと黒板に書いてある文字が見えづらいのよ」
唯「ほえ?もしかして視力悪くなったんじゃない?」
和「う~ん、そうかも……」
唯「コンタクトとかつけたほうが……」
和「コンタクト!?い、嫌よ!」
唯「ええ?何で?」
和「い、嫌なものは嫌なのよ」
中学に入ってから、急に視力が落ちた。
裸眼のままだと授業に差し支えるから、どうにかしないといけないと思っていたけど……。
目に何か入れるなんて恐ろしい行為を勧めてきた唯は、やっぱりロクでもない子だ。
……
唯「和ちゃんは眼鏡も似合うね~♪」
和「そうかしら?私は正直ちょっと……」
眼鏡を使い始めた時、私はあまりそれを気に入ってはいなかった。
『眼鏡をかけている自分』にどうしても違和感を覚えたし、何より目が疲れてしまうことがままあったからだ。
唯「私は好きだよ?眼鏡をかけた和ちゃん」
和「そ、そう?ありがとう」
唯「すっごく格好いいよ~♪」
和「格好いい、ねえ……」
この時唯に褒められたから、私は眼鏡をかけ続けている。
でも女の子の私に「格好いい」と形容するなんて、唯はロクでもない。
……
唯「和ちゃん、ぎゅ~っ!」ギュー
和「きゃっ!?ど、どうしたのよ唯」
唯「えへへ、和ちゃん分が足りなくなったので補給中~♪」
和「何よそれ……」
唯「和ちゃんあったか~い♪」スリスリ
和「も、もう……///」ナデナデ
中学に入っても唯のスキンシップ癖は治らなかった。
いや、むしろひどくなっていってしまったような気もする。
唯「和ちゃ~ん♪」ギュー
和「唯……あまりこういうとこで抱き着いて来るのはやめなさい」ナデナデ
唯「和ちゃん大好き♪
ギュウッ
和「ありがと。私も好きよ」ナデナデ
唯「のどかちゃああああんっ!」ダキッ
和「はいはい」ナデナデ
どんな場所でも唯は抱きついて来るため、最初は恥ずかしかった私も次第に慣れていってしまった。
人から羞恥心を奪ってしまう唯はロクなもんじゃない。
……
唯「む~」ペタペタ
和「何してるのあんた……」
唯「むっ!」ピクッ
和「唯?」
唯「……」ジーッ
和「えと、唯?」
唯「……」ジーッ
和「ど、どうかしたの?ねえ」
唯「……っ!」クワッ!
和「……」
唯「……和ちゃんってさあ」
和「私がどうかしたの?」
唯「……おっぱい、大きいよね?」
和「はえっ!?」
唯「ずるいっ!私なんてずっと小さいままなのに~っ!」
和「そ、そんなこと言われても……。というか唯、あんたもそういうことを気にするのね……」
唯「当たり前だよっ!私だって女の子なんだから!」
和「そ、それもそうよね……。大丈夫よ唯、いつかおっきくなるから」
唯「そういう希望的観測は聞き飽きたんだよ!最近は憂もおっきくなって来てるのに~!おっぱいをよこせーっ!」ガバッ
和「ひゃあああっ!?ち、ちょっと唯……!?///」
胸の大きさなんて気にしなくていいのに、これを境に何度か唯は私を恨めしい目で見てきたことがある。
……唯はそんなことに関係なくすっごく魅力的なのに。
当り前のことに気付かず無いものねだりをする唯は、ロクでもない子だ。
……
和「唯、進路どうするか決めた?」
唯「う~ん……」
中学三年の秋。
私はとっくに受験する高校を決めていたのに、唯はまだ決めあぐねていた。
その時期にクラスで決まっていないのは唯だけ。
和「早く決めちゃわないとダメだよ?」
唯「うん、分かってるけど……」
和「……」
唯「……」
和「ね、ねえ唯。よかったら私と……」
唯「ん?な~に?」
和「……ううん、何でもない」
唯「そう?う~ん……」
和「……」
唯「よし、決めた!私桜が丘を受験するよ!」バンッ!
和「えっ!?ほ、本当?」
唯「うんっ!やっぱり和ちゃんと一緒の学校がいいもん」ニコッ
和「そ、そう……よかった……」
唯「え、今なんて?」
和「何でもない。……唯、本当に受ける気なら今から猛勉強しないと難しいわよ?」
唯「うっ、それなんだよねえ……」
和「しょうがないわね……一緒に勉強しましょうか」
唯「うんっ!ありがとうごぜえます和ちゃんせんせーっ!」
和「ふふっ、何よそれ」
こうして私と唯は桜が丘に入学することになった。
中学校に上がった時と違い、高校は離れる子のほうが多い。
そんな中で唯と同じ高校に進めたこと、何より唯が私と同じ高校に行きたいと行ってくれたのはすごく嬉しかった。
……でも、そんな理由で進路を決めちゃうのはロクでもないことよ?
……
和「あ、もうこんな時間……」
アルバムを眺めていると、あっという間に時間が過ぎていた。
昼過ぎに片付けを始めたはずなのに、今はもう夕日が見える時間帯だ。
和「それにしても……ふふっ、本当に私って唯とずっと一緒だったのね」
中学の頃までだけでこれだ。
さらにこれは思い出のほんの一部。
一つの出来事を思い出すと、そこからまた新たな思い出が呼び起こされ、やがて私の頭の中をいっぱいに満たす。
和「……」
唯の顔、唯の声、唯の行動……。
べったりだった中学時代まで、唯は軽音楽、私は生徒会という打ち込めるものを見つけた高校時代。
私はあのロクでもない幼なじみと共に成長し、そして今の私がここにいる。
和「これは……次のお楽しみにしておきましょうか」
高校時代のアルバムからそっと手を離す。
このアルバムは今までのものより分厚く、今から見ていると間違いなく夜になってしまう。
和「片付け、終わらなかったわね」
和「……」
和「そういえば最近、唯と話してないな……」
前に話したのはいつだったか。
アルバムを見たせいか、無性に唯の声が聞きたくなっていた。
携帯電話を手に取り、電話帳の『唯』にカーソルを合わせる。
和「ふふっ、突然電話したらあの子なんて言うかしら?」
驚きながらも嬉しそうに弾む唯の声を想像する。
その想像だけで何故だか私も楽しい気分になってくる。
しかし。
和「……出ないわね」
何度コールしても唯が出ない。
遊びにでも行っているのか、はたまた長いお昼寝でもしているのか。
和「……ちぇっ」ピッ
和「唯の、ばーか」
携帯を机の上に放り、ベッドの上に倒れ込む。
私がこんなに話したいと思っているのに電話に出ないなんて、やっぱり唯は……。
ピンポーン
和「……お客さん?」
誰だろうか?
いや、こんな微妙な時間にアポもなく訪ねてくるのだ、どうせ勧誘か何かの下らない用件だろう。
ピポピポピポピポピンポーンッ
和「……」イラッ
居留守を決め込もうかと思った直後にこれだ。
誰がやってるのかは知らないが、文句くらいは言ってやる。
ガチャッ
和「はい、どちら様?」
唯「わあっ!和ちゃ~ん、久しぶり~♪」ギュウッ
和「へっ、ゆい?……唯っ!?」
唯「そうだよ~。えへへ、会いに来ちゃいました!」
和「ど、どうしたのよ一体……」
夢でも見ているのだろうか。
長期休暇でもないのに……私の一人暮らしの家に、唯がやって来た。
ついさっき、どうしても声が聞きたくなった本人が目の前にいる。
唯「和ちゃんの匂いだあ……」スンスン
和「やめなさいってば。唯、どうしてここにいるの?」
唯「えっとねえ、休みが重なったおかげで暇が出来たから、和ちゃん分を補給しに来たのです!」フンス!
和「ああそう……」
相変わらず訳が分からない。
でもそんな唯を見て、思わずくすくすと笑ってしまう私がいる。
唯「ねえねえ、上がっていい?」
和「ええ。どうぞ」
唯「わ~い、お邪魔しま~す♪」
和「ちょっと散らかっているけど……」
唯「本当だ、和ちゃんにしては珍しいね~。あっ、アルバム見てたの?私も見る~っ」
和「あっ、こら」
唯「うわ~、懐かしいね。あ、そうだこれお土産。あと何か飲み物貰えないかな?もう暑くって暑くって……」パタパタ
唯「久しぶりに和ちゃんの料理も食べたいなあ。もちろんデザートはアイスで!」ピョンピョン
和「……何だか妙に元気ね。何かいいことでもあった?」
唯「いいこと?うん、あったよ!久しぶりに和ちゃんに会えた!」ニコッ
和「も、もう、あんたって子は……」
唯「えへへ……」
唯が家に来て、一気に騒がしくなった。
まったく……アポなしで来て、チャイム連打なんて非常識なことをして、くるくると室内を動き回って……。
……会いたい、声が聞きたいという願いを叶えてくれて。
本当に私の幼なじみは、ロクでもない子だ。
大好きよ、唯。
おしまい
最終更新:2011年07月05日 20:47